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塔の魔女  作者: 炯斗
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(208)

その時の私は、勉強が苦手で未来も決められずただだらだらと時間を消費するだけの駄学生だった。同級生が将来雇ってくれると言ったその軽口に期待して、就職も本気で探さなかった。

でも、そんな日々は長く続かなかった。

ある日、塔は崩れ落ちた。

天高く塔を真っ二つに貫いた光を見たという者もいるらしい。物凄い轟音と地響きを体感したものは多数いる。一国に相当する面積、住民、施設が縦に積まれた、かつては世界一の高さを誇った塔の崩壊。近隣地域を巻き込み、歴史上類を見ない規模の被害を出した。塔及び塔下地域は全壊。即座に国から救助隊と調査隊が派遣されたが、助かった者は極僅かで、一年を越える調査も虚しく原因は不明とされた。

ただ、その瓦礫の山の中で。

ターミナルだけは大した損壊もなく平然と佇んでいた。


私はその時、偶々ラベゼリンの神殿に出向いていた。神殿も揺れたし、土煙も届いた。崩れ落ちていく塔の姿も見えていた。


「おい、やめておけ。アレはもう救いようがない。誰も生きてはいないだろうよ」

「いや戻る。先生たちも居るんだから、きっと生きてる! 皆助ける。『成功』させてみせる」

ラベゼリンは舌打ちして、こちらに向けて花を放った。慌ててキャッチすると、何故か驚いた表情をしていた。

「行ってくる!」

「…その花、大切に持っておけ!」

背でその叫び声を聞いた。


直後の混乱に乗じて崩れた瓦礫の上を走った。国からの派遣部隊が本格的に動き始めたら恐らく立ち入り禁止にされてしまう。誰か居ないか。探そうにも、何が何処やらさっぱりだし、土煙もまだ収まりきっていなかった。

「おいテメー」

柄の悪い声に呼び止められた。驚いて振り返ると、随分大柄な人が瓦礫に腰掛けていた。あまり見ないレトロなデザインのローブが目を引いた。

「大丈夫ですか!」

「大丈夫じゃあねーな。もうじき消える」

「えっ!?」

どうみてもピンピンしていたので聞き返したが、彼は構わず自分の座る瓦礫を叩いた。

「この下がターミナルだ。特別にテメーにひとつ教えてやる」

突然何をと戸惑う私に構うことなく、彼は話を続けた。それは驚くべき内容で、一転私は真剣に彼の話を聞き始めた。

「そ、そんなことが…本当に?」

「これは未来と過去に枝根を延ばす世界樹の端末だ。そのくらいは出来んだよ、ムカつくがな」

転送装置は利用法のひとつにすぎない。ターミナルの本当の機能は『存在の記録』。同一個体は同時に存在しないという絶対の設定の下、転送元のターミナルでその存在を記録し実体を消去、転送先のターミナルで転送されたデータを元に再構築する。召喚術による転移とは全く異なったシステムだ。では、同時に存在しなければ。記録したデータを転送する先が、現在と大きく時の異なる…つまり未来や過去であれば?答えは、『複製』が可能となる。更にもしそこにその時代の自分が存在するなら、そのデータを上書き出来る。言い換えれば、記憶を保持して過去に戻れるのだ。

「でもそうすると姿が…?」

「送るデータを記憶に限定する。だが、あくまで複製だ。今此処にいるテメーはこのまま残る。この世界の塔は崩れたまま。テメーが救えるのは並行世界の塔だけだ。観測出来る世界が個人の全てだ。テメーには関係ねーっつったらねーんだが」

でも、複製された自分はその未来が見られるのだろう。ならばやってみよう。

「そりゃ良かった。並行世界とは言え、救えんのはテメーだけだ。断られなくて良かったぜ」

「それで…貴方は?」

「あー。もし次どっかで会っても、おれさまはテメーを覚えてねー。おれさまはこいつとは繋がってねーからな」

そう言いながらまた下の瓦礫を数度叩いた。

つまりまあ、彼も何処かの誰かの複製存在のようなものなのかも知れない。


そうやって、19歳の私は16歳の私を乗っ取った。この3年を何度繰り返しただろうか。原因がターミナルの暴発と知るまでに。それを止める為、ルエイエ先生のお手伝いが出来るほどの力を得るまでに。隠し部屋の開け方を知るまでに。隠し部屋には彼が居て、聖霊の写しだと名乗っていた。記憶転送の事も彼に会った事も誰にも言うなと毎度釘をさされたが、いつもヒントを与えてくれた。

ラベゼリンには全ての世界の記憶があるようで、話相手に丁度良かった。「オレたちは遍在している」とか言っていた。神様って凄い。


そうして漸く、先生と聖霊の写しを会わせる事に成功した。これで先生はターミナルの危険性を知るだろう。安全に研究を続けられるようになる筈だ。もう塔は崩れない。


あちらの私の手元では、ラベゼリンに貰った花は咲いただろうか。そろそろ私の記憶も上書きしてこよう。皆が生きているこの記憶があれば、一人で生きていく私の慰めになる。

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