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塔の魔女  作者: 炯斗
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「先生、覚悟して下さい!」

フィアが術式を組み上げる。

そのタイミングで僕も術式を完成させた。

「こちらの台詞だよ」

「!!」

完成した筈のフィアの術は不発。驚いて動きが止まったフィアにゆっくりと杖を振り下ろす。こつん、と軽く頭に一撃。それでフィアは呆然と崩れ落ち尻餅をついた。

「…負けました」

フィアはパチパチと瞬きを繰り返す。

「『静寂の檻』だよ」

「…並の封術なら弾き飛ばせるのに」

「だろうと思って、思い切り強力にした」

『静寂の檻』は全ての魔術効果を打ち消す結界だ。効果中は術者本人すら一切の魔術が使えなくなる。

わっとあがった歓声に首を巡らすと、いつのまにか多くの観客が集まっていた。

「…おや」

「学長が模擬戦を行われるのは珍しいですし、だいぶ派手に打ち合いましたからね…」

ファズ先生は肩を竦めながら僕らに近寄るとフィアの手を取って立ち上がらせた。

「仲裁に入るのは中々骨が折れそうでしたし、無事に決着して安心しました」

「はいはい、おふたりともケガはないですか? あら。あれだけやり合ってお互い無傷ですか。つまらない」

医療師にざっと診て貰い双方の無事を確認。模擬戦は終了した。

「フィア、とても楽しかった」

素直な感想を告げるとフィアもまた肯いて緩い笑みを浮かべた。

「へへ。次は負けません」

「ああ。次も負けないとも」



思い切り魔術を使う。というのはひとりでも出来なくはない。実際ストレス発散にやってみたりもする…秘密だが。しかし『競い合う』というのは相手がいなくては難しい。僕には得難いものだと思っていた。

……嬉しい。単純に、楽しい。

助けたいと思うのにいつも助けられてしまう。どちらが先生か判ったものじゃない。

ふとさきの夢を思い出す。あの言葉の続きを彼は果たしてくれているなと思ったら。頬が緩むのを止められなかった。


──でもさぁ。偶には先生をお休みして、またこうやって遊ぼうね。疲れ果てて転がるくらい!きっと楽しいよ。




久々に身体を動かしたお陰か昨晩は大変快眠だった。やはり育ち盛りの身体には適度な運動と睡眠が大切だ。

「さて」

昨日後回しにしてしまった思考を呼び起こす。

『スナフ先生のお墨付きです!』

フィアに虚言癖がなく認知能力も正常だと仮定すれば、あの発言は問題だ。意図せず溢されたヒントだろう。先日先生にも確認を入れた。フィアとナナプトナフト先生には面識は無い筈だ。取ってもいない幻術と攻性術を使いこなし、教えと違う術の使い方をする。かと思えば、教え通りの使い方も出来る。

『貴方、本当は幾つ?』

幾つか推測は立ちつつあるが。

『ターミナルを使ったのね』

やはり行き着く先はターミナルだ。

ブラックボックスの解析は滞っている。

「う~ん」

思わず小さすぎる我が身を嘆く。しかしこればかりは仕方ない。今出来る事を考えよう。であれば──情報収集と技術の研磨だ。



「呼び立てて済まないね」

「ルエイエ師のお呼びとあらばいつでも駆け付けますよ、出来る限りは」

ノイチェは今日も誠実だ。

彼は監査局の役人で、前にも説明した通り僕の研究を偶に手伝ってくれている。ワーナー出身の魔術師の中でも彼の名前は特に長いので略称のノイチェで呼ばせて貰う。

「今はどのような具合で?」

研究の進捗をざっと説明する。

「なるほど」

ノイチェは顎を摘まんで暫し逡巡の後

「残念ながらそれに関して有用な情報は提示できません。ルルイエの魔女が隠し部屋が先と言ったのならそこに解析の為のヒントがあるのでしょう」

まあそうだろう。

「何か良い情報を得たら教えてくれ」

「ええ勿論」

コンコン、と。

丁度よいタイミングで控えめなノックの音が響いた。

「おや。ここらで失礼致しましょうか」

「いや、居てくれ。折角だから紹介も兼ねて君を呼んだんだ」

ノックの主に入室を促すと、扉からちょこんと顔を覗かせた。

「ご来客でしたか。出直しましょうか?」

似たような台詞を言うフィアにノイチェの視線が釘付けになる。

「いや。君に彼を紹介したくてね。協力者の──」

「ル、ルエイエ師! なんですかコレは! かわいい! やだかわいい!」

僕の言葉を遮ってノイチェは叫びに近い声を上げた。興奮した様子で身をくねらせている。

「か、かわいい…?」

フィアも引き気味だ。

「そう言われたのは、ふたりめです…」

「ふたりめ!? なんて見る目の無い! ねぇルエイエ師! 君、私のものにならないか」

「えっと」

うん、まあ。彼の好みかなと危惧はしていた。

「そこまでだ。フィア君はあげないよ」

「おっと」

我に返ってくれたようで、ノイチェはさっと姿勢を正した。

「これは失礼。魔術監査局倫理監査官、ノイチェです。お見知り置きを」

「あ、は、はい。ルエイエ先生のお手伝いをしていますフィアです。宜しくお願いしま…す?」

まだ少し混乱しているようだがノイチェが正気に戻ったのなら心配はないだろう。

「暫くしたらファズ先生も来る。ちょっと皆の力を借りたくてね」

フィアが目を丸くする横でノイチェは素早く「光栄です」と礼を取った。

「暫く歓談といこう。それでだ」

一人目が誰かは敢えて聞かないが、僕の意見も伝えておきたい。

「フィアは僕にとって、『カッコいい』だからね」

ぼんっ!と。

フィアは爆発した。

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