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裏切りの『死霊魔術師』  作者: いもフライ
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目覚め

 ここは、グランフォード王国の外れにあるカノン村。

 ボクはルティ。ただのルティ。

 名字はない。

 何故ならボクは孤児だからだ。

 

 両親の名前も顔も分からない。親に関する唯一の手掛かりは、物心ついた時には持っていた首飾りくらいだ。

 ボクを赤ん坊の時から育ててくれた人によると、ボクの『両親の形見』らしい。首飾りを良く見ると、薄く光ってるから、魔法の品であることは間違いない。きっとお金に困ったら売れって意味で残してくれたんだろう。

 ただボクは、何故か積極的に親のことを知ろうとは思わなかった……


 ……『今日まで』は。


 ◆


 チュンチュン…


「ルティ、もう朝だよ。」


「…う、うぅ…ん。」

「今日は《神理(しんり)()》だよ。寝過ごす気?」


《神理の儀》…この言葉を聞いてボクの頭は少しだけ覚醒した。

 神理の儀とは、グランフォード王国の子供が13歳なったら受ける、職業やスキル発現のための儀式のこと。

 王国では13歳になったら必ず神理の儀を受ける決まりになっている。


 理由は単純、戦力増強のため。


 王国は、外にも内にも戦争の火種があり、周辺には魔物や魔獣がはびこっているからだ。

 そして何より、18年前に…六体の『魔神王(まじんおう)』のうちの一体、『暗牙(あんが)のグラジール』が突如として王都周辺に顕現し、王都を恐怖の渦に巻き込んだからだ。


 当時、一流の冒険者パーティが死闘の末に討伐したらしく、奇跡的に市民への被害は最小限度だった。

 だけど万が一、討伐失敗していたら王国の町や村のいくつかは滅んでいたと言われている。


 ちなみに『魔神王』は、約700年前にも顕現している。その時顕現した魔神王は、『悲哀(ひあい)のリゼロッタ』。

 彼女は、当時世界を支配していた王国を滅ぼしたって伝説もある。

 リゼロッタは王国を滅ぼした後、悲しみのあまり、永遠の眠りに就いたって話だけと、本当かどうかは疑わしい。


 18年前の事件以来、儀式を受けない者には罰則も設けられた。

 と言っても、儀式によるデメリットはほとんどなく、受けない理由もないから、この罰則が実際に適用された話は聞いたことがない。

 この儀式で有能な職業やレアなスキルがは発現すれば、無償で王都にある王立騎士団養成学校へ入学できたり、冒険者ギルドでいきなり有名パーティに入れてもらえたりと至れり尽くせりだ。

 勿論、良いことばかりじゃない。

 無能な職業やスキルしか発現しなかったら…


 いや、朝から悪い考えは捨てよう……


 ただ、ボクは村一番の臆病者だから、冒険者なんて無理だ。

 できれば馬鹿にされない程度の職業やらスキルだったらいいなぁとしか考えていない。


 ここでようやくボクは、重たい瞼を無理やりこじ開けた。

 するとそこには大きな乳袋……じゃなかった、幼なじみの姿があった。   


 彼女の名はエリオノール・スタンバート。愛称はエリー

 白金の髪に金色の瞳。括れた腰に13歳とは思えない……巨乳。そのうえ村一番の美人さんだ。


 ボクとエリーはおとなりさん同士でしかも同い年。

 エリーとその家族は、孤児だったボクを昔から気にかけてくれていた。


 どうやらエリーは、寝坊したボクをお越しに来てくれたみたいだ。


「エリー…もう少しだけ……眠らせ…」

「もう!中央広場に王都の役人さん来てるよ!

 皆、儀式受けなきゃならないんだから、寝過ごしたら大変だよ? 

 せっかく、お越しに来てあげたのに!!」


 エリーは巨乳をプルンップルンッ揺らしなが、眉間にシワを寄せて怒った。

「も、もう少しだけ…(巨乳を見てよう)」

 エリーはボクの視線に気づき、額に青筋を浮かべながら

「どこ見てんのよっ!!どスケベッ!!!」

と怒鳴りながら右の拳でボクのみぞおちをなぐッた!


「ぐぇっ!」


 はい、目が覚めました。ごめんなさい。


「外で待ってるから、急いで着替えて来て!」

 エリーは怒りながら出ていった。


「そっか、本当にこの日が来ちゃッたか…」

 ボクの気持ちは憂鬱だった。

(はぁ…ボクは平和に生きたいな……)


 急いで着替えて外に出ると、エリーがいた。

 さっきまでの怒った顔とは違い、どことなく緊張している様子だ。 


 ボク達は並んで中央広場に向かって歩き出した。

 歩きながらエリーは、

「ねぇルティ。」 

「ん?」

「あなた、やっぱり『魔法師(ウィザード)』が希望なの?」

 ボクは昔、エリーや他の幼なじみと神理の儀でどんな職業が発現したらいいか話し合ったことがある。

 そこでボクは、『魔法師』と応えた。


 理由は、魔術師としてある程度魔法が使えれば、冒険者以外の仕事に就けるからだ。

 生産系の職業が理想なんだけと、あれはほとんどが親からの遺伝らしいかね。

 ボクは魔法を教える私塾でも開きたいと考えていた。


(正直、危険な仕事以外だったら何でもいいんだけどね。)

 孤児だったボクは、村の人の善意で空き家を貸してもらえたり、食べ物を分けてもらってたりしてた。

 さすがにいつまでもと皆の脛をかじってる訳にはいかないから、安定した仕事に就きたいってのが本音だけど。


「ターナーさん、あんたに魔法の才能あるって言ってたもんね」

 ターナーさんは、ボクが小さい時から面倒を看てくれてた人だ。

 昔は『大賢者(だいけんじゃ)ターナー』って呼ばれた凄い人らしい。

 魔法使ってるの見たことないから疑わしいけどね。

「うん、もし魔法職だったらターナーさんがタダで訓練してくれるって

 ターナーさんから簡単な魔法でも習ったら、王都で私塾でも開くよ

 貴族の子弟達が習いに来てくれるだろうから、きっと食いっぱぐれないよ」

「ホントあんたは打算的ね。

 男なら冒険者になって英雄になりたい!っとか思わないわけ?」

「そんなの無理だよ。

 ボクが臆病だってのはエリーだって知ってるでしょ?」

 エリーは呆れていた。


「私はやっぱり《戦士(せんし)》がいいわ。

 剣でバッタバッタと敵を倒すわ!」

 エリーは言いながら右手を右に左に振り回し、剣術の真似事をやってみせた。


 その様子は案外様になっていた。

 それもそのはず。

 エリーは、有名な冒険者で実の父親でもあるハインさんから剣術の指南を受けていた。

 少し前までは親子で森へ行ってゴブリンやコボルトといった低級の魔物を倒している。


 ちなみにボクもエリーと一緒にハインさんから剣術の指南を受けていた。

 ハインさん曰く、ボクには剣術の才能があるらしい。


 ま、いらないけどね。

 

 そうこうしてるうちに広場に着いた。

 広場には今年、神理の儀を受ける子供達とそれを見守る親。そして儀式を管理する王都の役人達で賑わっていた。


 こうしてボクの運命という歯車が動き出した。



 当方の作品を呼んでくださりありがとうございます。

 皆様のご意見、ご感想お待ちしております。

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