裏切りの始まり
ボクの名は、ルティ。
ボクは今……。
「はぁはぁっ…ごめん、皆ごめんっ!」
ボクは今、死の恐怖に負けて逃げていた。
生死共にした仲間達を囮にして。
『死にたくない』……そう思って逃げ出した。
◆
今から一時間前の話
ボク達は冒険者ギルドの依頼を受け、カノン大森林の奥にある湿地帯に沈んだ魔法王国フィルシャーナの遺跡周辺で魔物狩りをしていた。
遺跡の名は『湖岸都市フールーン』。
フールーンは魔法王国時代、湖に浮かぶ水上都市だったらしい。
王国の滅亡と共に機能を失い、今では遺跡の大部分を湿地帯に飲み込まれ、沼の底に沈んでいた。
そしてクエスト中に突然……
あまりにも突然……
…………………………仲間の一人の頭が消えた。
「え??」
ボクは一瞬理解ができなかった。
でもすぐに分かった。
…………喰われたんだ。音もなく背後から襲ってきた魔物に。
仲間の死はあっけなかった。
千切れた首からピンク色の肉が見えた。
と、同時に肉から深紅の血が吹き出した。
ここで初めて気づいた。
ボク達が、魔獣の大群に囲まれていることを…
仲間は、すぐに武器を手に取って応戦した。
(み、皆の援護をしなきゃ!)
そう思い、ボクは魔術を行使しようとした……が、次の瞬間、ボクの心は黒く塗りつぶされた。
……そう、真っ黒に。
……心が……………………恐怖に塗りつぶされた。
気づいたら…………ボクは……ボクは逃げ出していた。
死への恐怖に負けて………仲間達を置いて…………
逃げ続けたボクは、大森林の外縁部まで来たところて足を止めた。
心臓が口から飛び出そうな程疲れはて、その場に倒れ込んだ。
「ご、ごめんよアレン、コーク………………エリー……」
ボクは懺悔した。
置き去りにした仲間達の名を口にして。
そして、慰めるかのように両手で自分の体を包み込んだ
ただ、震えていた。震えるしかでかなかった。
「村に戻らなきゃ。た、助けを……」
ボクは震える体を叱咤し、最後の力を振り絞り立ち上がった。
この時入口の方から何かの気配を感じた。
(魔物か!?)
ボクは息を潜るように隠れて様子をうかがった。
気配はだんだん近づいてきた。
良く見るとそれは…
(ん?あれは…人?冒険者だ!!)
入口から来たのは男女4人の冒険者パーティだった。
ボクは走りだし、先頭のリーダーらしき赤髪の男の助けを求めた。
「すみません!助けて下さい!!」
リーダーらしき男は、突然現れたボクに驚きつつも応えた。
「うぉっ!?」
「こ、ここを真っ直ぐ行った所で仲間が襲われてるんです!」
ボクは神にすがる想いで冒険者達に訴えた。
「何だと?!見たとこお前は新米だな?ってことは仲間も似たり寄ったりの経験しかないガキ共か!」
「はい…お願いします!どうか!」
赤髪の男は、迷うことなく言い放った。
「クソガキがっ!調子に乗るからだ!!アスリナ、ガキの傷を癒してやれ。俺とガルシア、ホランは先行して救出に行くぞ!!」
そう言って赤髪の男と仲間の2人は、恐ろしい速度で走り出した。
言われて気づいたが、ボクの体は傷だらけであった。
よくもこの傷でここまで逃げてこれたものだ。
残ったエルフの女性が、アスリナと呼ばれた人だろう。
女性は白金の髪に細身の体。とても美しい女性であった。
「安心して、私達は黄金級冒険者パーティよ
必ず仲間は助ける」
ハーフエルフは女神のような微笑みをボクに向けてくれた。
その笑顔をみて緊張の糸が切れたのか、ボクの意識は急激に落ちて行った。
………………まるで沼に沈む湖岸都市の様に。
当方の作品を呼んでくださりありがとうございます。
ご意見、ご感想お待ちしております。