2.崩れ始める日常
「おい!テメェーら!」
「「「「「「へい!」」」」」」
「返事!!」
「「「「「「押ッ忍!!」」」」」」
「テメェーらわかってるな!」
「「「「「「押ッ忍!!」」」」」」
「クソどもを!」
「「「「「「ぶち倒せ!」」」」」」
「理不尽なルールを?」
「「「「「「ぶち壊せ!」」」」」」
「全てを」
「「「「「「俺たちの手に!」」」」」」
「いくぞお前ら!」
「「「「「「押忍」」」」」」
「ラジオ第8体操!」
「いや、体操だけに変なコールアンドレスポンス作んな!!」
2
今日も特に何か大きなことが起きることなく学校が終わった
「陽建」
「緋乃……待ってなくてもいいのに」
「いいの、私がしたいから……陽建は、いや?」
「嫌だったら一緒に学校に行ってないし朝も学校の近くで別れたりなんかしないよ」
「そう……」
そういうと少し嬉しそうな顔をして俺の隣を歩き一緒に校門を出る
ちなみに今学校にいる人は少ない
俺は部活をしていないため授業が終わればすぐに帰れることは帰れるのだが
俺は基本授業が終わった後にまず屋上の清掃をした後に教室に戻り教室を清掃する
教室に戻る頃にはクラスメイトは部活をしている者は部活に
部活をしていない者は少しだべった後に出ていくため誰もいない
そうなった時を見計らうのだ
清掃する理由は早く家に帰らないため
俺はじいちゃんから早く帰ってくるなと言われる
じいちゃんが俺を嫌いだからというわけではない(と思う)
単純に仕事の方で俺が危ないことを危惧しているからだ
俺は戦いに参加できない
力がないからだ
「緋乃は何してたんだ?」
「ん? ちょっと夏帆の部活を手伝ってたの」
夏帆というのは緋乃のクラスでの友達、高校の体育で緋乃がバスケで勝ったことで絡まれそれから仲良くなったらしい
「部活の手伝いとは?」
「軽い1on1」
「絶対に軽くないやつじゃん」
1度遠くから見たが結構ガチじゃんと思っていた後に聞くとその時も「軽い1on1」と言っていた
絶対に違うのだろう
「そう?」
そう首を傾げながら言い、歩いて駅に足を進めた
◇◇◇◇◇
駅に向かう途中でいつもと違うことに気づいた
もちろん緋乃が髪型を変えたとか匂いが変わってるとかじゃない
そんなことならすぐに気づくし
いつもより駅が遠く感じる
今日も今日とていつも通りの動きしかしていない
疲れはあるが道が長く感じるほど疲れてなどいない
「ひ――」
「静かに」
いつも……いや、今までずっと一緒にいたのにこんな顔をした緋乃を初めてみた
まっすぐ前を見て眉間にシワを作って警戒していた
「なんで……何故ここに門が……?」
門!?
なぜ緋乃がその言葉を知っている!?
「陽乃……なんでその言葉を」
「……今は……それどころじゃない……かも」
緋乃はスカートのポケットから俺にとって馴染みのある紙を出した
俺の家の者以外が持つことはまず無い物だ
「陽建、後で話すね。来るよ」
遠くに黒い点が浮かんだと思うと一気に俺たちの周りが住宅街から廃れた廃墟街に変わった
世界渡り
俺たちがいる世界の主を人間と勝手に位置付けるならばこちらの世界の主は妖
「……俺らの街に引っ張られるんじゃ……」
「例外……もう家には伝わってるはず、虎さん家に朝いた?」
「あ、あぁ」
声が上擦ってしまったが緋乃から虎さんと言う言葉が
緋乃と虎は会ったことがないはず
ということはもしかして緋乃が部活をしない理由って
『ケケケケケケケケケケケケ』
甲高い不快音の連続が廃墟街に響いた
「出てきて、『ミュー』」
笑い声に興味を示すことなく緋乃は自分の式獣を呼んだ
薄青色の小さな龍が紙から出てきた
『ケケケケ、ここまで離れたところに妖祓師か、想定外だなぁ……ケケケケ』
「なぜここに出たの? いや、出れたの?」
『そんなことを馬鹿正直に言うわぁけがないだろぉ? その頭は飾りかぁ? 中身がないのかぁ? ケケケケ』
「………ミュー」
緋乃がまた違う紙を持ち式獣を呼び腕の周りをぐるぐると廻ると紙が鎌の形に変わり始めた
『ケケケケ……いやはや……使役できているとは驚き驚き、ケケケケ』
軽くバカにした口調のまま目の前に現れた
頭の中心は禿げながらその周辺から長い髪が地面に付くほど垂れている。髪は少し湿っているように見える
今の体勢は低いが前傾姿勢で胸の近くに膝が曲がった状態である、脚は必然的に長くそれに対応するように腕も長い、肘から地面に付いている
「風渦剛羅、鼬奏累鎌」
目の前から緋乃が消えたと思うと目の前の妖に接近していて目を開けたままのはずなのに動きが断片的で3回鎌を振り抜いているように見えた
切り終えて緋乃が俺と妖との直線上に戻ってきた
妖を見ると緋乃に斬られたと思っていたがかすり傷がついた程度しか見れなかった
「硬い……装備が足りない……」
『ケケケケ、弱いな~やはりここに出るのは正解か、ケケケケ』
そう笑った後に腕を引いている
『次は儂の攻撃なりな?』
パッッと音がすると俺の横を何かが通ったと思った後に風が吹き壁を壊す音が何回も聞こえた
「ぐっ…………」
遠くで緋乃の苦しむ声が聞こえた
『さて、さてさて、あの娘は置いておいても動けまい。先に何も持たぬ人間を頂くとしよう。その後ゆっくりと楽しみながらあの娘を……ブフフフ……クァケケケケケ』
◇◇◇◇◇
妖が人を狙うのは簡単な理由だ
エネルギー摂取の為
生きる物は全て生命力は を持っている
それは人も、獣も、妖も、変わらない
生命力、今ではそう呼ばれるが前は妖気と呼んでいたまぁ今でも妖は妖気と呼ぶが
妖気は空気中にもあり、普通に呼吸をしていれば回復するし呼吸しなくとも皮膚からも吸収している
妖気を多く持つことはその分強さに直結する
では多く摂取するには?
持っているやつから貰えばいい
ただ妖気とは生命力、普通に貸すだのあげるだの言えるものでは無い
だから奪う
命と
共に
それから、そんな恐怖から人を守っているのが俺の家の自警団であり妖祓師だ
全国に同じ活動をする組織があり、それを取りまとめる本部が京にある
名前は妖祓荘
うちの自警団もその組織の一部になる
妖を倒すために妖気を使い人々を守る
そんなことをしている
俺は、小さい頃からじいちゃんがやっていることを誇りに思っていた
もちろん誰かに言うことはなかったが
あんなじいちゃん達を見たらヒーローにしか見えない
そしてじいちゃん達のやっていることを継ぐために俺もと思い修行を積むために稽古をつけてもらった
そして壁を知った
護獣と言う
式獣は護獣の力の一部だ
俺にはそれがいなかった
力を見るための儀式で長く粘っても出てくることはなかった
儀式が終わったあとも修行を頑張った、虎もじいちゃんも何も言わなかった
諦めずに修行してもダメでダメで……いつしか辞めた……いや諦めた
……諦めた
よく見える
長い手が伸びて俺を掴もうとしてきている
ああ……終わる
色んな物を諦めて
あれは届かない
これもダメだ
俺には無理だ
あれを羨ましく思っては……ダメだ
最後に、辛いのは分かっている
何もかも諦めて自分でできることをして積み上げれば幸せになれる。幸せを掴める
我慢を
辛抱を
届かないなら手を伸ばさない
それで良い…………
…………巫山戯るなッ!