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1-6いざ、集魔炉へ!

ひょんなきっかけからアーシャが部屋に来ることになってしまった。


 すぐに向かいますので先に部屋に戻っていてください、とアーシャに言われ、部屋でそわそわしながら待つおれ。もちろん、やましいことは何もないのだが、自分の部屋に女の子が入るって言うのはどうも緊張してしまう。椅子も一脚しかないし、どこに座っていたらよいのかとうろうろしたが、結局ベッドに腰掛けることにした。


 しばらくすると、コンコン、と扉を叩く音がする。


「はい」


 返事をして扉をあけるとそこにはエプロンを外した昨日見たアーシャの姿が。


「早かったですね、待ってました」


 おれは何食わぬ顔でアーシャを手で導くが、心臓はもうバクバクである。手が微妙に震えている。


(落ち着け、落ち着くのだ、おれ。 ただ話をするだけではないか)


「せっかくなのでそこの椅子に座ってくださいね」


 と、おれが椅子を勧めると、アーシャは少し慌てた様子でパタパタと手を振る。


「そ、そんな。 私がアルト様の前で腰掛けるなんてできません」


 なるほど、そういうことか。


「大丈夫ですよ、僕はこっちに座るから。 それに、アーシャさんに立たれたままだと話しにくいですし、できれば座ってほしいです」


「で、でも……」


「そんなに気を遣って頂かなくても大丈夫ですよ、アーシャさん? 何より、僕はお話をお伺いさせていただく身ですから」


 なんだかアーシャが椅子に座らないってだけで、緊張が少し溶けてきた。


「で、では……」


 アーシャは失礼します、と小さく声をかけてようやく椅子に腰掛ける。それをみたおれも、ベッドに改めて座り直す。


「それで、集魔炉の話なのですが……」


 とおれは話を切り出すと、マーシャはこくりと頷き説明を始める。集魔炉は人から魔力を回収する大がかりな装置であること、大きな都市にはだいたい集魔炉がいくつか存在していること、一つの集魔炉あたり、男女関係なく数百人規模で1日中誰かが働いていること、働き口がない人が集まっていること、など、基本的なことを教えてくれるが、この内容だけであれば特にあの場所で話をできない内容ではないと思うのだが……


「でも、さっきの食堂でそれを言わなかったのには何か理由があるのですよね?」


 おれが確認すると、アーシャは少し顔を赤らめ頷く。


「実は、集魔炉で魔力を回収する際に……」


「回収する際に……?」


 アーシャは間を置き、少し口ごもったと思ったらぼそりとつぶやく。


「性的な快感を伴うのですよ……」


 アーシャからの発言に思わず思った言葉が口に出る。


「それだけ!?」


 アーシャはぱっと顔を上げ、おれを見るとさらに顔が赤面する。


「え、それだけってどういうことですか!? 女の子にこんなこと言わせて、アルト様ひどいです!」


「あ、いや、そんなつもりではなかったのですが…… すみませんでした……」


 アーシャの突然の激昂におれは思わずたじろいでしまうと、アーシャも我に返ったようだ。


「いえ、こちらこそ、取り乱して大変失礼しました……」


 でも、アーシャの落ち着いていて、何でもできる雰囲気の中で、こういった話が苦手なウブな感じが逆に好感触である。


「あと、もう一つお伝えしておいた方がよいことがあります」


 おれは急に真顔に戻ったアーシャの方に首をかしげる。


「その快感にとりつかれて、ある一定の割合の人が中毒者になり、命を落とします」


 おれはアーシャのその言葉に思わず背筋がぞくりとした。


「人の命と魔力は一蓮托生です。 魔力が無くなれば人は息絶えます。 そして、魔力が多少なりとも残っていれば一定時間で回復しますが、一度枯渇した魔力は二度とその人の体に戻ることはありません」


(これがイーガルさんやアーシャが集魔炉に行くことに少し懸念を持った原因か。たしかに、性的な快楽の前には無力だからな。おれ、大丈夫なのか?)


 そんな疑問が頭の中をよぎる。すると、ゴンゴンと、少し乱暴に扉を叩く音が聞こえる。慌ててアーシャは椅子から立ち上がり、思わずよろけているのがまた可愛い。


「はい」


 おれはアーシャに目配せをすると、どうぞ、と手で扉の方へ促す。そして、扉を開けるとそこには幸せなひとときをぶち壊す人物が立っていた。


「集魔炉に行くぞ」


 扉をあけると同時に開口一番がこれである。そう、ワーギャンさんである。


「おはようございます。 承知しました」


 おれの答えも聞かず、どうやら中にアーシャがいるのに気がついたらしい。


「アーシャから集魔炉の話は聞いたか?」


「はい、おおよそは」


 どうやらその答えで満足だったらしい。ワーギャンはくるりと踵を返し、廊下を進む。


「行くぞ。 付いてこい」


 ワーギャンはそれだけ言うと、スタスタと前を歩き始める。


(なんて自分勝手な……)


 そう思いながらも、文句を言っても仕方が無い。


「じゃあ、アーシャさん、ありがとうございました。 ちょっと行ってきますね」


 おれは簡単に礼を告げると、アーシャは少し心配そうな顔で、お気をつけて、と頭を下げる。おれはそれを確認し、慌てて先を歩くワーギャンを追いかけた。


□□


 おれは先行くワーギャンを追いかけ、追いつくと何も言わずに斜め後ろについて歩く。話が好きでない人に、無理に話しかけるほどおれは社交的でもない。ワーギャンもどうやらおれが付いてきたのがわかったようで、歩くスピードを速める。


 しばらく歩くと、どうやら城の外に向かっているようだ。大きな正門を抜けると、城の前に拡がる広間の端に、人が次々と入っていく小屋のような場所を見つける。


「あそこだ」


 ワーギャンはおれが聞いているのか聞いていないのかわからないが、それもどうでもよい様子で小屋を指で示す。


 小屋の大きさから考えると、どこにそんなに人が入るのだろう、と思っていたら、その中は地下への階段になっているようだ。小屋の中に入ろうとすると、見張りの兵士が礼をしているから、やっぱりワーギャンはある程度の位の人物なのだろう。


 人が数人程度は横並びできるような石畳でできた階段を進むと、何人かとすれ違う。その全ての人が、小さな布の小包を大切そうに抱えながら、少し疲れた顔をしている。そして、階段を下り、しばらく一本道を歩くとその先には少し広いスペースが目の前には拡がっていた。


「おぉ、これは……」


 思わず感嘆の声を上げてしまう。


 学校の体育館をもう少し大きくした程度の空間の中央には、天井にパイプで繋がる巨大な四角錐の装置が陣取っていた。こちらから見た正面にある装置の入り口へ、沢山の人が出入りしている。


 おれの感動もほぼスルーしたワーギャンは装置の入り口近くにいる兵士に声をかける。


「今日からこいつもここで働かせる」


 そう言っておれの方を指し示すと、言われた兵士はおれの方を見て何かに気がついたようで、すぐに装置の中に入って代わりの兵士を連れてくる。


「はじめまして、ワーギャン様。 ステンと申します。 新規の集魔員をお連れいただいたと……」


 少しワーギャンのことを恐れているような様子を見せる兵士のステン。うん、その気持ち、よくわかるよ、ステン君。しかし、そんなこともどこ吹く風、ワーギャンは目的を伝える。


「あぁ。 最初の接続の部分だけ簡単に説明してやってくれ」


「承知しました。 では、こちらへ」


 装置の中に入ると、大人の背の高さより少し高い天井に繋がるパイプに接続された、ちょうどおれが検査を受けたような椅子が無数に並んでいる。そして、その部屋の中央には上に上がる階段が見えた。


「まずは出力チェックのための確認をします。 このあたりの集魔器に座ってみてください」


ステンは入り口から少し入った集魔器と呼ばれた椅子を指さすと、おれへ座るように促す。おれは言われるがまま、マッサージチェアのように頭の上まで完全に覆うような椅子にすっぽりと埋まる。


「この部分をしっかりと握ってみてください」


 ステンは、座った両手の先にあるグリップを手で示し、おれは指示に従う。すると、そのグリップを握った次の瞬間、背中がゾクゾクするような快感がおれの中を突き抜ける。


「こ、これは!?」


 おれは思わず興奮で声がでてしまう。ワーギャンと兵士はその様子を見慣れた様子で、椅子の横に備え付けられたモニターに表示された数値と一緒に眺める。


「はい、確認できたので手を離してください」


 しかしおれは今まで感じたことのない快感に思わず首を横に振り、そのまま手を離さずにいた。


「まずは説明をさせてください!」


 少し強い口調でステンが言うが、それでもおれはその言葉を無視してグリップを握り続ける。そして、ステンが見るに見かねて無理矢理おれの手をグリップから離そうとしたところ。ワーギャンが呟く。


「絞まれ」


 すると、おれの首の薄い線が淡く青白く光り、おれの首元を締め付ける。おれは何が起きたのか訳もわからず、咄嗟に締め付けられた首元に手を当て、抗おうとするが、そこには何もなく、ただ首が絞まるのみだった。おれはあまりの苦しさに暴れ、集魔器から転げ落ちると、ようやく苦しさから解放される。おれは息を整え、見上げると、冷たく見下ろすワーギャンの顔がそこにあった。


謎の首の痣はやはり怪しい香りがぷんぷんしますね。。

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