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2-11 後悔、そして

正門が開かれてから、両軍の衝突は激化していた。第二陣が開かれた正門を通じて中に入ろうとすると、中から出撃してきたセントリア兵と正面衝突する形になったのである。それ以外にも、第一陣で攻撃を進めていた城壁の上にいる兵士との小競り合いも、周りの熱気に加熱される形で激化していた。


「アルト、おまえは城壁の上の兵士を狙え。 城壁の上にたどり着ければ、城壁の上から第二陣を支援できる」


 おれはすっかり正門開通から戦争の高揚感に飲まれ、ワーギャンに言われるがまま、城壁の上にいるセントリア兵をまるでホラーゲームでもしているかのような感覚で撃ち続けていた。すると、少しずつ均衡が崩れ、遂に準備していた脚立らしきものが城壁にかけることができた。


「よし、あのはしごを守れ! あそこを昇ることができれば、戦局が一気に変わるぞ!」


 いつになく興奮気味のワーギャンだったが、そんなことはおれにとって最早微塵も気にならなくなるくらい、おれ自身も興奮していた。


 ジリジリと戦線が敵の本陣に近づいていく中で、おれはワーギャンの代わりにソーンと一緒に遂に城壁の上にとたどり着くことができた。


「その魔導銃は流石に半端ないな」


 ソーンははしごを登りながらぽつりとおれに声をかける。


「その魔導銃だけで戦局が大きく変わってやがる」


 もちろんおれはこれまでの戦争がどのような状態かわからないからどのように違うのかはわからないが、おそらく、大きな変化なのだろう。


「城壁を昇ってしまえば守りやすいぜ。 ここからはちょっとおれも暴れさせてもらうぜ」


 はしごが架けられたのは城壁の端の部分。そのため、片側を守れば基本的に網一方から攻められることはない位置なのだ。城壁を昇り切るとソーンはそう言って、自らの腰に着けた魔導剣を手に取ると魔力を流す。すると、その魔導剣からは赤い炎をまとった刀身が現れる。


「あれ、ソーンさんの魔導剣は炎が出るのですね」


 おれはソーンの手に取った剣を見ながら訪ねると、得意げに答える。


「あぁ、おれの場合は魔導剣が特殊なんじゃなくて、特殊な体質なんだ。 この体質のお陰でおれはここまで位をあげることができた」


 そんなもんなのだな、と思っていると、敵兵が城壁の上に増援を送り込んだようだ。わんさかやってくる。


「と、おしゃべりはここまでだ。 おれたちはこの区画をなんとか死守するから、おまえはワーギャンさんの指示通り、下の部隊の援護を頼むぜ」


 ソーンはおれにそう声をかけると、そのまま自軍の兵を連れて、敵軍に突入していった。その魔導剣から振るわれる炎は触れる物を燃やし、焼き切る。単純に斬るだけではなく、相手を燃やすこともできるため、攻撃力が半端ない。それに加えて素人目にもわかるソーン自体の軽い身のこなし。流石副騎士団長を預かるだけのことはあるなと感心していた。


(と、人の戦い方に感心している場合ではないな)


 おれは自分の仕事である、正門から突入した第二陣のサポートのために、味方への誤射の可能性が低い敵陣の後方へただひたすら魔導銃を撃ち続けた。


□□


 その日は、アデロン共和国が戦線を大きく押し上げる形で日没となり最前線の防衛ラインだけ残して陣営に戻っていた。戦局は上々。むしろ出来過ぎなくらいだった。当初の予定では夜の前に正門突破、城壁の上を確保する予定だったが、今は城壁の上の四分の一は占拠できているし、正面突破についてもセントリア兵の本拠地である塔の足下まではきている。


 夜は士気を高めるために軽い宴が設けられ、その場でもおれは大いに賞賛された。お酒と、先ほどまでの興奮とが入り交じり、おれの気分も最高潮に達していた。この国のためにおれの魔力を最大限捧げる!なんて宣言までしてしまって本当に調子に乗っていたと思う。


 そのツケは一人になったときにやってきた。ふと夜中に目を覚まし、冷静になると今日一日の自分がやったことの非道さがフラッシュバックのようによみがえる。最初は人を殺めることに対してとてつもない抵抗感があったのに、正門を抜いてからというもの、その感覚は完全に麻痺していたかもしれない。もちろん、やらないとやられるし、そのためにおれは召喚されたのだからやるべきことをやった。ただ、頭では理解できていてもなかなか心の整理がつかなかった。


(ちょっと夜風にあたろう)


 そう思い、テントの外にでると目の前を白い猫が通り過ぎる。


(あれ、なんだかテンによく似た猫だな)


 元々実家で飼っていた猫のテンも真っ白いオッドアイの猫だった。白猫なんてどこにでもいるかもしれないが、今通り過ぎた猫も野生にしては妙に綺麗な白猫だった。おれは特に深い意味もないがその白猫の後をゆっくりとした足取りで追いかける。


 すると向こうも特に走るでも、止まるでもなく、まるでこちらを誘っているかのような足取りで歩みを進めると、大きなテントの裏側に回り込んだ。


(ちょっとちょっと、一撫でくらいしたっていいでしょ?)


 おれはそのテントの裏側を覗き込むと底には白猫の姿は既に無かった。


(ちぇっ、逃げられちゃったか)


 少し愕然とするが、ふと目の前のテントを改めてみるとワーギャンのテントだった。そして、何やら話し声が聞こえる。


「あぁ、今日は最高の日だ! 待ちに待った日がようやくすぐそこまできている!」


「あ、あぁ、ワーギャン様……」


 その声は紛れもない、ワーギャンと、そしてアーシャの声だった。


 時折聞こえる歓楽の声と中から漂うオスとメスが交わる香りにおれは自体を理解し、怒りと困惑とに思わず目眩を覚える。しかし、しばらくして少し様子がおかしいことに気がつく。


「ワーギャン様、もう、これ以上は……」


「あぁイシス、もうすぐだぞ、イシス!」


 アーシャがワーギャンを拒む声が聞こえる一方で、アーシャの声をまるで聞こえないかのように、激しく手のひらで肌を打ち付ける音が響き渡る。次の瞬間、おれはいても立ってもいられずテントの中に入りワーギャンに向かって叫ぶ。


「ワーギャンさん、それ以上はやめてください!」


 突然の望まぬ来訪者に、生まれたままの姿になった二人は思わず目を見開きこちらを向く。アーシャは驚いていたが、その目には涙が溢れていた。


「せっかく盛り上がっていたのにおまえのせいで台無しだな」


 ワーギャンは冷たくおれに向かって言い放つとアーシャから身を離す。


「それとも、おまえも交じるか? 今日の戦果の立役者だ。 それくらい許そう。 おれが育てたアーシャの体、なかなか良かっただろ?」


 ワーギャンの言葉を聞いたおれはハッとアーシャの方を向くとアーシャは申し訳なさそうにおれから目線を外す。


(そういうことか……)


 おれはいてもたってもいられなくなり、その場から走り出そうとするとワーギャンの声が無情に響く。


「絞まれ」


 その声と同時におれの首の痣は首を縛りつける。おれは思わずその衝撃に膝をつく。しかしおれはそのまま這いつくばりながらもなんとか手足を動かす。


「ワーギャン様、おやめください!」


 アーシャがその細い腕でしっかりとワーギャンの二の腕にしがみつき懇願すると、ようやくワーギャンはおれの首の痣を締め付けるのをやめる。


「アーシャに感謝するのだな」


 ワーギャンの声に振り返ってキッと睨み付けるが、おれはそのままその場から逃げ出すように行くあてもなく走り出した。


世の中知らない方が幸せってことが結構ありますよね…

明日で第2章フィナーレです!

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