2-10 特級戦力
激しい雄叫びの中、セントリアの城壁に向かって突き進むアデロン共和国兵達。すると、今さっきまでは影も形も見えなかった城壁の上からぬくっと無数の兵士が現れ、魔導銃を構えている。そして、進行するアデロン共和国の兵士に無差別に打ちまくる。
アデロン共和国の前方に構えた壁役の兵士は、自身の体と同じくらいの大きな魔導板でできた盾で後方にいる仲間を守る。壁役1、魔導剣を構えた近距離1、魔導銃を構えた遠距離2の5人一組で城壁に向かって次々と突き進む。その後、どうするのかと見ていると魔導銃を持った兵士が城壁の上にいる相手国の兵士を攻撃する。盾の隙間から攻撃しているとはいえ、高低差の分圧倒的にこちら側が不利だったが、城壁の正門から向かって右側を集中的に攻撃すると相手国の兵士を一人、また一人と打ち落としていく。
さらにその後方から先端に鉤爪のついた長い脚立を何人かの兵士が担いで城壁へ走り込む。そう、その脚立で城壁の上側に昇るのだ。
(数で押し込むってことか……)
おれも先発部隊からは少し遅れて高台から降りながら、雪崩のように怒濤に攻め込むアデロン共和国の兵士を見ていると、ワーギャンから声がかかる。
「おまえはあの正門を撃て」
ワーギャンは誰も人がいない城壁の正門を指さす。
(なるほどね)
おそらく、あの正門は魔導板でできているのであろう。だから、普通は打ち抜けない。だが、おれならもしかすると……。
意図を汲み取り頷くと、魔導銃とバレルを組み立て、遠くに小さく見える正門に向かってその銃口を向ける。
「よし、撃て」
ワーギャンの合図と同時におれはトリガーを引くと、まもなくして快感とともにそこから青白い光の針が解き放たれる。
キュュュュュュン
銃口から放たれた光が空気を引き裂く音がしたかと思うと、正門に当たる。
キュィィィィィィィィィィン
ここからでは様子はわからないが、おそらく突き破る前に消滅したのであろう。おれは内心舌打ちしたが、ワーギャンにとっては想定通りなのか、無表情でこう告げた。
「やめろと言うまで撃ち続けろ」
□□
一方その頃敵国布陣では、まるで子供の相手をする大人のようにアデロン共和国をあしらっていた。
「消耗戦で勝てるとでも思っているのか、アデロン共和国よ」
セントリアの城壁の上側にいる兵士は倒されているものの、被害者数で考えれば圧倒的にアデロン共和国の方が多かった。それに、アデロン共和国が準備した兵士の数は事前の調査でセントリア兵の約半分で、セントリアの勝利は揺るぎないものだと、セントリア兵の誰もが思っていた。
しかし、セントリア兵には一つ弱点があった。それは愛国心のなさ、である。これまでも度々戦地となってきたセントリアは、所属する国はバルト帝国であったが、自分が死ななければどちらの国に所属していようが関係ないというのが本心だった。そのため、戦争に対する覇気はアデロン兵に比べ大きく劣っていた。そんな中、アルトの放った一発目の魔導銃の魔力が正門に衝突する。
「何やっているんだ? 魔導銃ごときで正門が打ち破られるわけがないだろう」
全くアデロン兵が来なかった、正門から向かって左側の兵士達はアルトの放った魔力の光を見て鼻で笑っていた。
「だいたい、あんな遠方からの射撃、そんなに何発も撃てるわけがない」
しかしその予想を裏切り、アルトからの射撃はそれこそ普通の魔導銃を撃つかのような感覚で打ち続ける。定期的に聞こえる魔力の空気を切る音と、魔力板に打ち付ける音が次第に兵士達に恐怖を植え付ける。
「ちょ、ちょっと待て。 これ、やばいんじゃないか?」
そして次の瞬間、これまで何度も続いていた風切り音と、魔力と魔導板がこすれるかん高い音がした矢先。
ズゴォォォォン
何かが崩れる音がする。それと同時に、セントリア内で慌てふためく声が聞こえる。
「抜かれた! 正門が抜かれたぞ!」
「うろたえるな、たかだか一発撃ち抜かれただけで何ができる!?」
「近接部隊、正門脇に待機だ!」
「誰だよ、この戦争は余裕だとか言ってたやつ」
あちこちで、指示や罵声が飛び交う中、しばらくすると再び魔力が貫通し、城壁内を破壊した。
□□
少し時を遡ったアデロン共和国陣営。
「何度も撃つことはできますが、全く同じところに撃つのは無理ですよ?」
おれはワーギャンに向かって話をすると、ワーギャンはつまらなそうに答える。
「そんなことはわかっている。 言われたことをやれ」
(へいへい……)
おれは言われたまま、多少のブレを許容しながら正門に多数の傷をつける。そして、その中にはたまたま同じところにあたるものもあったのだろう。何回か撃ち続けていたら、同じところにあたり、その部分は貫通したようだ。
おれは魔力放出により高まる高揚感の中、何発目か貫通したところで、ワーギャンから声がかかる。
「一度止まれ」
おれは指示通りに撃つのをやめてしばらくするとこれまで城壁に群がっていたアデロン兵の一部が正門に向かい始める。
もちろん、その動きを見てセントリア兵も警戒を強め、動いた兵士を狙い撃つが、そうは簡単に動きを止めることはできない。そして、正門にたどり着いた兵士の中で近接兵が魔導剣を使っておれがあけた穴に自分の剣を突き刺す。するとどうであろうか。しっかりと魔導剣は突き刺さり、そのまま剣でゆっくりとバターを切るかの如く、穴を拡げる。
その様子を見て慌てふためくセントリア兵は、すぐさま手に持っていた赤色の緊急信号を空に打ち上げる。
「やばい! 正門を抜かれるぞ!」
様子を見ていたセントリア兵の一人が、城壁内に待機していた兵士に伝えると、伝えられた兵士はすぐさま城壁中にある塔に向かって走り出す。
アデロン兵が集まる正門側は代わる代わる近接兵が自分の持つ魔導剣でおれの開けた穴を拡げる作業に取りかかる。どうやら、切っている間は相当な魔力が奪われるようで、元々の魔力量が少ない近接兵には少し辛いようだ。
「急げ! 急ぐのだ! 正門にセントリア兵が集まり始める前にここを抜かないと!!」
ようやく人の頭ほどの大きさが空いた正門から正門の内側を覗くと、そこには一本の木板で鍵がかけられているだけだった。そして、正門からセントリア内に続く道を見ると、そこには既に大量のセントリア兵が駆けつけ始めていた。
「早く、早くここを撃ち抜いてくれ! もうセントリア兵がきている!」
中の様子を確認した近接兵はすぐさま魔導銃を持った遠距離兵に変わり、その銃で木材を焼き切る。当然、その様子を黙ってみているセントリア兵ではなく、何発か正門に向かって魔導銃から放たれた魔力弾があたっては吸収される。
「よし、鍵は壊した! 開けるぞ!」
その声と同時に、正門の近くにいたアデロン兵が束になり、正門を押し始める。
「ウォォォォォォ!」
少しずつ、両に分かれた正門の隙間が開き、セントリア内の様子が露わになるのが少し離れたおれからもみえる。しかし、黙ってみてはいないセントリア兵はその開きかけた扉を閉じようと、もうまもなく駆けつけようとしていた。
それを見ていたワーギャンは、おれに向かって指示をする。
「あの正門の隙間を打ち抜け。 多少外れて味方が犠牲になっても構わん」
「え、でも……」
おれはワーギャンの言葉に一瞬戸惑うが、その戸惑いが許されることはなかった。
「いいからやれ!」
おれはその勢いに押され、しっかりと扉の隙間に狙いを定め、そしてトリガーを引く。
キィィィィィン
空気を切り裂く青白い光は、見事に扉の隙間を通り抜け、そしてそのままセントリア兵の何名かを貫通する。突然の相手からの攻撃に、セントリア兵は一瞬足が止まる。
「続けろ」
もうおれはここまできたら高揚感が勝りどうでもよくなっていた。再び放たれた魔力は、先ほどよりさらに広くなった正門の隙間に吸い込まれ、そしてセントリア兵を再び貫通する。
そして正門にいたアデロン兵が正門を壁に押しきると、おれたちに向かって右手を挙げる。その様子を見たワーギャンは、後ろに構える、セリーヌがいる第二陣に向かって叫ぶ。
「正門は開かれた! 第二陣、出撃だ!」
それを聞いた第二陣の兵士達は、第一陣の雄志を讃え、そして自分たちを鼓舞するかのように呼応する。
「ウォォォォォォォォォ!」
そして、アデロンとセントリア両軍の本格的な衝突が始まった。
いよいよ本領発揮です!
アルトさん、とんでもないことをやっているようです…




