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2-8 失敗作

おれはシスに促され、ベスとシスの対面の椅子に腰掛ける。


「お主も、もしかしたらどこかで話を聞いているかもしれないし、何かしら感じるところはあったと思うが、実はお主の前に一人、アデロン共和国で召喚した人物がおったのじゃ。 その名をイシス、と言う。」


 そう語り出したシスは、ぽつり、ぽつりと、辛い過去の記憶をたどるように話し始める。話によると、イシスは女性で、おれのようにいきなりこの国の言葉を話せるわけでもなかったようだ。そのため、おれと同じように圧倒的な魔力は保持しているが、コミュニケーションが苦手な人物となってしまい、元々の気質もあってか周りから避けられるようになってしまった。そんな中、イシスが気を許した数少ないメンバーがワーギャン、ベス、シスだったのだ。


「当時も戦時中だったのじゃ。 そして、不幸は敵国と大戦中に起きたのじゃ」


 イシスにとっては初めての戦争だった。その中で敵国の兵士を蹂躙することで、これまで抑圧された感情の爆発で我を忘れ、味方まで含めて攻撃し尽くし、最終的にはその快感に溺れ、魔力枯渇によってそのまま戦地で殉職したのである。


「本当に不器用な子じゃった…… 繊細で、傷つきやすくて、でも一途で、誰よりも平和を愛し、争いを嫌っていた……」


「あぁ、本当に…… 言葉もわからないから不気味がられ、一方で圧倒的な力を持って。 だからこそ兵士の多くから避けられ、嫌われ、そしてあの悲劇を生んだのじゃ」


 突然訳もわからない世界に召喚されるところまではおれと同じ。でも、根本的に違うのは言葉がわかるかどうか、コミュニケーションがしっかりととれるかどうか、である。おそらく、あるときは身振り手振りで伝え、またあるときは手を取って伝えたのだろう。そんな状態で愛国心なんて育つわけもないし、なぜアデロン共和国のために戦争利用されなければいけないのだろうと思ってしまうだろう。そう考えるとおれは幸せだし、彼女は不幸だったのかもしれない。


「そのいきさつがあったから、わしらはワーギャン様の指示で召喚術式を変更し、お主の首の痣のような制御をつけざるをえなくなったのじゃ……」


「あぁ、ワーギャン様もイシスの殉死のときにはひどく落ち込まれていたからな……」


(殺さないために首を絞める、か……)


 おれはストール越しに首を撫でると、いろんな人の思いがつまってこの痣があるのだなと感じる。


「この話は王国内でもタブーじゃ。だが、当然一部の兵士の中には事実を知っている人間も残っておる。 だから、お主のことを怖がったり、忌み嫌ったりする者もおるかもしれんが、それはそういったいきさつがあったからだということを覚えておいてほしいのじゃ」


 おれはこくりと頷くことしかできなかった。同じ召喚された人間として、イシスには同情することしかできないし、やはり召喚だなんて自分の都合で人の人生をコントロールすることに憤りも感じたりもする。一方で、今のおれ自身の環境自体はそこまで悪くない、というより楽しんでいる、とも感じる。そんな様々な思いがおれの中で堂々巡りを続けていた。


 そんな中でシスはパンっと手を叩き、立ち上がる。


「まぁこんな辛気くさい話をしてもお主のやることが変わるわけでもないのじゃ! さぁさぁ、お主の魔導銃の試し打ちに行くのじゃ!」


「あぁあぁ、そうじゃな! お主はただそういう事実があったことだけを頭の片隅に入れておけばよいのじゃ! お主はお主、アルトなのじゃからな!」


(そう、だな…… 過去のことだし、おれにはどうすることもできない。 おれは、おれのできることをやろう)


 やはり長い時間生き抜いている人の経験は尊いなぁと改めて実感し、おれは二人と一緒にバレルを持って演習場へ向かった。


 演習場に着き、改めてベスから受け取ったバレルを眺める。


(長いな……)


 肘先程度の長さがあるバレルは、魔導銃と同じ金属でできていた。魔導銃の先端にバレルをはめるとカチッと音がして魔導銃とバレルが一体化する。


「外すときはここを押すと外れるのじゃ」


 ベスはバレルと魔導銃の接続部にあるボッチを押し込み、バレルを引き抜くと元の二つに分かれる。


「持ち運ぶときは流石にこのままでは持ちにくいじゃろうからな」


「さぁ御託はよいのじゃ。 早速打ってみるのじゃ!」


 ベスは目の前のおもちゃで早く遊びたい子供のように、おれへ早く打つようにせがむ。


「打つ場所は、あそこの魔導板の少し色が変わったところがあるじゃろう? あそこを狙って欲しいのじゃ」


 おれは指を指された方向を見ると、魔導板の一部が回りのシルバー色と異なり、少し黄みがかった金属の部分が見える。


「あそこの魔導板は少し特殊な素材を使用しておってな、魔力の衝突速度に応じて硬さが変わる素材で、いわゆる魔導的粘弾性を考慮した素材なのじゃ。 お主も、水に手を打ち付けたときにものすごく早く水を叩くと手が痛むじゃろ? あれと同じ考え方を応用していて、その調合には……」


 ベスは自分で早く打てと言っておきながら、相も変わらず自分が設計した開発品のことになると何やらよくわからないことを熱く語り出す。呆れたシスはベスのことを横目に見ながら呟く。


「まぁ、とにかく打ってみるのじゃ……」


 おれはシスの言葉に従い、そして片手でトリガーをつかみ、もう片手でバレルの途中を持って魔導銃を構え、少し色の変わった魔導板に向ける。


「では、行きます!」


 二人に一声かけて、おれは魔導銃のトリガーを引くと、全身を快感が駆け抜ける。


(前回から、どれくらい成長しているのか……!?)


 すると、そう思っているうちにバレルを着ける前と比べて、細く、長くなった青白い光の筋が魔導銃から解き放たれる。ものすごい反動に、おれはたたらを踏む。


キィィィィィィィィィィィィィィィィン


 空気が高速で振動し、切り裂かれる音が響き渡ったかと思うと、次の瞬間には魔導板にあたり、青白い火花を周囲にまき散らす。


ガギギギギギギギギギギギギギギギィィィン


 まるで金属同士がぶつかり合うかのような音が演習場全体に響き渡ったかと思うと、その音で周囲の兵士が必然的にこちらに向く。ベスはさっきまで自分の作った魔導板の仕組みを熱弁していたが、魔導銃から光が放たれると同時に、今度は完全に研究者として事実を確認する鋭い目つきに変わっていた。


 音が鳴り止み、青白い光が消えるとそこは、大きくくぼんだ魔導板が見える。


「計算上は大丈夫なように設計したが、よもやあれほどの魔力量を抑え込むとは……改めて目のあたりにするとこれはすごいのじゃ……」


 シスが感嘆の声を上げているとベスは当たり前じゃ、とか言っているがなんだかんだ少し嬉しそうだ。


「それと同じくらいすごいのが、お主の放出スピードじゃ。 まさかここまでのタイムラグの小ささで放出できるとは思ってもおらんかったのじゃ」


(たしかに、めちゃくちゃ早くなっている……)


 前回はもう、このまま日が暮れてしまうのではないかと思うほど時間がかかったが、それがほぼトリガーを引くと同時くらいまで早くなったのだから、その進歩は目まぐるしい。


「もう一度試してみてよいですか?」


 おれは興奮が冷めきらず、おかわりを要求するがベスが注意する。


「良いが、同じところには打たないで欲しいのじゃ。 時間が経たないと多分あそこは抜けてしまうのじゃ」


 なんでも、今回魔導的粘弾性素材を採用したのは自己回復機能を持たせたかったからだそうだ。今回の素材は時間が経つと魔力を受けて変形する前の状態に自然と戻ろうとするらしい。だが、その復元機能は目で追えるほど早い速度で戻るわけではないのだそうだ。


「わかりました」


 おれはベスに向かって頷くと、一歩横にずれて再度トリガーを引く。


 すると先ほどと全く同じ光景が見事に再現し、おれはまぐれではないことを確認する。


「わしらはとんでもない力を手にいれてしまったかもしれんのじゃ」


 シスの言葉にベスは頷く。


(これで、準備は全て整った、ということか)


 おれは改めて自分の力を再認識し、いよいよ差し迫る出発の日が少しだけ待ち遠しくなった。


明らかになる過去の出来事と戦争への準備が整ってきました。

いよいよ、ですね。

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