2-3 自分仕様
「ベスさん、シスさん、お待たせしました」
おれはいつものベスとシスの部屋に行くと、二人は少し早いティータイムを楽しんでいた。この人たち、本当に自由でなんだか楽しそうだなぁ。
「おぉ、カルタ、待っておったぞ」
(もう「ル」しかあってないじゃん)
もうそろそろこのやりとりも飽きてきたな、と思っていたらシスも同感だったようだ。
「ベス、もうその辺にしておいた方がよいのじゃ。 アルトのわしらへの目線がどんどん厳しくなってきとる……」
「あはは、冗談じゃ。 流石にこれだけ顔を合わせておれば名前くらい覚えるわい」
本当かな?とおれは少し疑問に思ったが最早そんなことはどうでも良い。本題に入ろう。
「僕に用があると仰ってましたが、どのようなご用件ですか?」
自分の話したいことより、まずは相手からの要望を優先。これ営業の鉄則です。
「他でもない、戦争で使うお主の魔導銃についてじゃ」
ほらきた、こちらの要件と一緒だ。であれば相手から切り出してもらった方が相手には気分良く話しをしてもらえるのである。
「先ほどセリーヌさんと話をしていて、まさにお二人から魔道銃を受け取ってくるように言われていたところでした」
「なるほどな、そういうことか。 であれば、まずは現状のお主の放出速度を測らせて欲しいのじゃ」
ベスの言葉にシスは頷くと、いつもの検査用の椅子に腰をかけ、測定の準備をする。
「それじゃ、始めるぞい」
シスはボタンを押すと、早速魔力が体を巡る。
「おぉ、順調にとんでもないスピードで成長しとるな」
(順調にとんでもないって、どういうことだよ……)
しかし、数値をベスも同じ印象のようだ。
「あぁ、読み通りじゃな。 相変わらず恐ろしいのう。 でも、話によると魔力上限が見えてきたから、ここからは少し成長が鈍るかもしれんのう」
「であれば、充填量を抑えて、放出範囲を狭めた方がよさそうじゃな」
「でもそうすると、方向制御機構と干渉するから……」
おれの数値を見た後に、二人は熱く語り初めてしまったが、何やら面白そうなのでおれも話にいれてもらいたい。
「すみません、せっかくなので僕にも教えてもらえませんか?」
「あぁ、すまなかったのじゃ」
「この手の話はついつい熱が入ってしまう……」
二人は簡単に内容を説明してくれる。この魔導銃、トリガーを引いてから魔力の充填が始まり、事前に設定した許容値を超えると放出される仕組みになっているそうだ。これまでも何度か話に出てきていたが、魔力自体をロス無く貯蔵することは難しいため、ロスによる消費を如何に上回る速度で魔力を放出・充填するかが魔導銃を扱う上で重要なポイント。魔力は蓄積されている全体量に対する比率に応じたロスが発生するため、放出のトリガーとなる最大蓄積量が多くなればなるほど、魔力を注入する速度も速くなければならず、結果として使用者を選ぶことになるというわけだ。だから今のおれの魔力放出速度と、そこから見える戦争時までの成長度合いを加味して、最大出力で、発射までの時間があまり長くならない魔力許容値を設定することが重要なのである。
そして、魔力許容値を設定すると、後はその魔力をどのように放出するかが大切なのだそうだ。簡単に言うと、拡散性が強いのか、直進性が強いのか、ということで、イメージはレーザーガンにするのか、ショットガンにするのか、のような感じである。殺傷性能で言えばもちろんショットガンの方が高いのだが、戦争は人を殺すことが目的ではない。如何に効率よく、相手を再起不能にするかが大切なのである。その点で言えば貫通性が高い直進性が高い魔導銃にするのがよく、今回はそのような方向性になるそうだ。
持ってきた魔導銃をベスがちょいちょいといじる様子を見ながら、おれは話を聞いていたが、その様子はプラモデルを楽しむ子供のように、目をキラキラさせて楽しそうだ。本当にこの仕事が好きなのだろうなと、少し羨ましくもあった。
「よし、とりあえず本体はこんなところじゃ」
「え、本体?」
ベスから差し出された魔導銃は、おれが先ほど演習場で使った魔導銃より一回りも二回りも大きいもので、筐体自体がごつく、長い。そして何より、ずっしりと重い。だが、魔導銃はこれ以外にも部品がつくようだ。
「もちろん、その本体部だけでも使用できるのじゃが、お主の魔導銃は少し特殊じゃ。 本体部に、バレルを取り付けることで、直進性、貫通性を高めるのじゃ」
そう言って見せてくれたのは、片腕ほどの長さの真っ直ぐな筒に取っ手が付いた部品。これもまたそこそこな重さである。バレルの片側は本体と接続できるよう溝が切ってある。ベスはおれから本体とバレルを改めて受け取ると、カチッと接続する。最早銃というより砲に近いかもしれない。
「実際に使用するときはこんなイメージじゃ。 お主は戦地のど真ん中にいくというよりも、完全に後方支援からの参戦を予定しているから、そのつもりで設計をしているのじゃ」
(こんなもの、簡単に取り回しできるような代物じゃないな)
おれは改めてセットになった魔導砲を受け取ると、そのずっしりとした重さに驚く。
「とりあえず、バレルの設計はちょっと変更しないといけないからしばらく預からせて欲しいのじゃ。 その代わり、この本体部だけでしばらく演習場での訓練は続けてくれ」
そう言うと、ベスはバレルと本体を取り外し、おれに本体だけを渡す。
「20日後のお主の成長したときにあわせて調整したから、今現時点ではトリガーを引いてから発射まで少し時間がかかるか、むしろ発射できないかもしれんのじゃ。 それも含めて鍛錬じゃな」
ベスはニカっと口角を上げて何やらとても楽しそうだ。その顔を見ていると、なんだかおれまで嬉しくなる。
「はい、ありがとうございます! なんとかこいつを使いこなせるようになってみます!」
おれの返事に、シスも頷く。
「うむ、まぁあまり無理をせずとも、これまで通りやっておれば十分間に合うじゃろう。 あまり気負わず、やれることをやればよいのじゃ」
おれは頷き、改めて二人に礼をいうとその場を後にした。
ベス、シス二人の部屋を後にすると、おれ一人でそのまま集魔炉に向かう。昨日は一日中集魔炉に同行したワーギャンは、職務の忙しさを気遣ったように見せて、魔力欠乏のアラートがなり始めた場合に呼ぶことにした。昨日の感じであれば、アラームがなってからも少しは余裕がありそうだから多分大丈夫であろう。そもそも、昨日ほどの時間もない。おそらくアラームがなることはないだろう。
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そして、時が経つこと数刻。結局この日はアラーム音を聞くことなく、昨日の失敗の経験もあって夕方頃には自主的に集魔器のグリップを離した。何より、おれは集魔器に来た時点で昨日のアーシャの涙を思い出し、あんなことは二度とならないよう注意しようと思ったのと、今日夜市でアーシャにお詫びに何か買っていこうと思っていたため、安易な欲望に流されることはなかった部分も大きいかもしれない。
集魔炉を出て、夜市に向かう中でおれは何をアーシャに渡そうか思いを巡らす。
(物として残らない食べ物とかの方がよいのだろうか、それとも、定番だけど何かアクセサリーとか……?)
召喚前でもあまり女性経験が無かったから、こういうことにはめっぽう疎い。夜市をうろうろしながら、いくつか考えてみるがなかなか良い案が浮かばない。しかし、そうこうして物色を続けること小一時間。
(なかなか難しいものだよなぁ……と、待てよ?)
おれは、どうしたものかと諦めかけていたが、なぜかピンときたお店を見つける。特に何か理由があったわけではないし、そのお店を選んだのは本当になんとなくであった。しかし、少しお店の中を見せてもらうと、アーシャにはこれだ!というものを見つける。やはり買い物は偶然の出会いがあるものなのだなと実感する。おれは商品を手に取って店主に渡すと、ちょびひげの店主はおれを冷やかす。
「プレゼントかい?」
「まぁそんなところです」
「よし、んじゃ上手くいくよう、ちょっとおまけしておいてやるよ」
そういうと、店主はおれが選んだモノに合うモノを一緒に包んでくれる。
「え、いいのですか? そんな」
すると店主はニカっと人が良さそうな笑みを浮かべる。
「いいってことよ! これで上手くいったら、お得意さんになってくれるかもしれないだろ?」
(なるほど、そういうことか。 でも、嬉しい気遣いだな)
おれはお礼をしながら、少しその気持ちをお金に乗せて店主に払い、アーシャがいるかもしれない夕食の食堂へ向かった。
着々と準備は進みます。
そして、アーシャとの関係は良い感じですが、この先どうなっていくのでしょうか…?




