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2-1 戦力の要

目を覚ますと、今朝はしとしとと雨が降っていた。アデロン共和国界隈には季節があるそうで、暦としてはこれから秋に向かっていくのだろう。戦争開戦を告げられたおれの心にぴったりの空模様である。


 おれはいつも通り朝食のために食堂へ向かうと、普段は顔を見せるアーシャの顔が見えない。代わりに、いつも目にしていた代わりの従者さんが対応してくれる。


「アーシャさんは今日お休みなのですね」


 おれが食事を運んでくれた従者さんに話しかけると、どうやら体調不良で休みのようだ。


(もしかして、昨日の影響で……?)


 アーシャとの昨日の出来事を改めて思い返してみると、昨日は目まぐるしく変わる状況ですっかり見落としていたが、アーシャはなぜあの状況で魔力を移せたのだろう?普段からやっていることなのだろうか?どこの従者でもできることなのだろうか?そして何より、アーシャが大丈夫なのか気になる。


 おれは従者さんにアーシャの家を聞くことも考えたが、体調が悪いところに異性が来られても甚だ迷惑だろう。心配だがどうすることもできない。


(ダメ元で、今日一通り終わったらアーシャに果物でも渡してもらえるよう買ってこよう)


 そんなことを考えながら食べる料理は、いつもアーシャが運んでくれる料理より少し寂しく感じた。


 食事を済まし、おれは昨夜ワーギャンに伝えられた軍事会議へ参加するため、イーガルの部屋の近くにある大会議室へ向かう。すると向かう途中に、しばらく見なかったベスとシスの曲がった腰が見える。


「ベスさん、シスさん」


 おれが後ろからゆっくりと歩く二人に声をかけると、こちらを振り返る。


「おぉ、アリト。 元気にしておったか?」


 アリトってなんだ、アリとキリギリスか?とおれは内心ツッコむが、相変わらずシスはしっかりしていた。


「ベスよ、アストではなくアルトじゃ」


 ベスは、あぁそうじゃったそうじゃった、とバシバシと自分の膝を打つ。相変わらず愉快なばーちゃんである。


「アルトよ、話は耳にしておるのじゃ。 早速S層まであがって、しかも魔力上限が2万ルーン近くだそうじゃな」


 昨日の今日の話なのに、よく聞いているな。ま、ちょうど今日軍事会議が開催されるから、会議招集を伝えるタイミングで伝わったのかもしれない。ベスは横で頷いている。


「2万ルーンもあれば、相当いろんなことができるわい。 後は、速度が間に合うか、じゃな」


 ベスの言葉にシスも頷く。


「あぁ。 だが、その点もおそらくは問題ないじゃろう。 現時点でもこちらに来た当時では考えられないほどの放出速度じゃ。 実戦までにさらに早くじゃろうからな。 あ、そうじゃ、少し確認したいことがあるから、時間があるときに少し部屋によっていって欲しいのじゃ」


 確認したいことってなんだろうか?少し気になるが、そろそろ時間だし、行けばわかるだろう。おれは返事をすると軽く会釈をして先に会議室へ向かう。


 会議室に入ると、そこには、既に数十人の人が集まっていた。おれはできるだけ後ろの方の空いている席に座り、あたりを見渡す。ぱっと見た感じ、どちらかというと兵士の中でも位が高そうな、立派な人が多い印象だった。兵士だけではなく、鎧をまとっていない、軽装の人もいるからきっとこの人は魔導具で戦う人なのだろうか。


 しばらくすると、ようやくベスとシスが入ってくる。すると、するすると人が二人に道を空け、頭を下げる様子がみえる。もしやと思っていたが、あの二人はかなり高位な人なのかもしれない。まぁそりゃ召喚ができる人が国にゴロゴロいたら、もっと同じような召喚者がいてもいいはずだよな。ちょっとあの二人に対する態度を改めよう。ベスとシスは、前の方に別列で準備された、2脚の少し大きめの椅子に腰をかける。


 そして、開始時刻になり、兵士が全員席に着くと、会議室に3人が並んで入ってくる。一人は、よく知るなんちゃってミュージシャン風のワーギャン。後の二人は見知らぬ顔だったが、身なりを見るとワーギャンと同格の人物なのだろう。後ろの二人は藍色の短髪に、切れ長目をした中肉中背の男と、桃色の髪色をポニーテールにしたちょっときつめな印象を受ける女性だった。


 3人が入ってくると、会議室の様子が一変し、そこにいる全員が固唾を飲んでいる雰囲気が伝わる。会議室の中央に準備された演台にワーギャンがたどり着くと、一同の視線が集まる。


「諸君、今日はよく集まってくれた。 既にここにいる部隊長以上のメンバーには事前に伝えたが、いよいよバルト帝国との戦争を再開する」


 ワーギャンの言葉に、少しだけ会場がざわめく。事前に聞いていたとはいえ、いよいよ始まるのか、と期待と動揺が入り交じっているような雰囲気だった。


「知っての通り、我らがアデロン共和国は、絶対王政からの独立を求め、30年以上前に一部のメンバーを集めてバルト帝国から独立した。 時は流れ、アデロン共和国は大きく、そして力をつけた。 だが、30年以上前の独立時から、独立契約上に謳われている国民数に応じた国土拡大は、一向に実行される様子がない。 再三の申し入れをしているにも関わらず、だ。 これまでは、小競り合いをしてきただけだった。 しかし、これからは違う。 徹底的に武力を以てアデロン共和国の正しさを突きつけるのだ。 これは、略奪や侵略のための戦争ではない。 我らが同胞を、家族を守るための、権利を主張するための戦争なのだ!」


 ワーギャンは、大きく拳を突き上げると、部屋の中からパラパラと拍手が聞こえ始め、その音は次第に激しくなる。


(普段は無口なのに、こういうときだけペラペラとよくしゃべることで。)


 おれはワーギャンのあまりもの豹変ぶりに呆れていると、拍手の音が一段落して、ワーギャンは再び口を開く。


「今日から20日後までにアデロン共和国の要求を飲まなかった場合、武力行使を始めることをバルト帝国には連絡する予定だ。 その20日後に向けて、準備を進める。 騎士団長は私、ワーギャンが、副騎士団長をここにいるセリーヌとソーンの二人に任せる」


 ワーギャンの言葉に、セリーヌとソーンが頭を下げる。


「それと、今回の開戦の決定打となったのは、我らに新たな戦力が加わったからだ。 アルト、その場で立て」


 半分他人事のように聞いていた中で、突然のご指名におれは思わずびくっとなる。こういうことは事前に言っておいて欲しいのである。おれはその場で立ち上がると、必然的におれに視線が集まる。うぅ、視線が痛い……しかしそんなことはどこ吹く風、ワーギャンは説明を続ける。


「改めて紹介しよう。 一月ほど前に、シス様、ベス様が召喚に成功したアルトだ」


 召喚という言葉に会場がざわつく中、おれはワーギャンの紹介に一礼する。この様子を見ると、過去に召喚したときに何かあったのかもしれない。しかし、それを気にする様子もなく、ワーギャンは続ける。


「現在集魔炉で鍛錬を積んでいるが、その魔力総量は2万ルーン近くだ」


 2万ルーンという数字に、明らかに室内が騒がしくなる。あちこちで、「2万は盛りすぎだろ」とか、「え、本当に人間なの?」とか、「大丈夫なのか」とか、いろんな声がちゃんとおれの耳にはそれとなく伝わっている。元々、常人の100倍近い数字だと言うことは聞いていたが、ここまで反響があるとは思わなかった。


「静粛に」


 ワーギャンの一言に、改めて水を打ったようにその場は静まりかえる。こう見ると、ワーギャンの統制力はすさまじい。


「いろいろと思うところはあるかもしれないが、必ずや戦力になることをこの私が保証する。 そして、アルトを最大限活用するためにも、騎士団長直轄の少数部隊を作成し、セリーヌ、ソーンの両部隊の後方支援にあたるつもりだ」


 おぉ、と感嘆の声があがる。どうやら、騎士団長直轄部隊というのはこれまで置かれることはなかったようだ。おれが言うことを聞かなかったら、きっといつものあれでぎゅぅっとやられるんだよなぁ。そう思うと、ワーギャンから見たおれは人ではなく、最早道具と同じ扱いなのだろうな。


「それでは、最後になったがセリーヌ、ソーン、一言ずつ何かあれば」


 ワーギャンは二人に話を振ると、まずは青髪のソーンが壇上にあがる。


「こういう堅苦しい場は苦手なのはわかっているだろ? まぁ、しっかりやって、みんなで生きて帰ってこようぜ」


 これまでのワーギャンとは対照的な非常に軽いソーンの挨拶だったが、この場にいるおれ以外の誰もが想定の範囲内だったのだろう。そのままセリーヌが挨拶に上がる。


「戦争の大義名分は我らにありますわ。 この戦争は、あの暴虐なバルト帝国を正常な国家として機能させるためにも、必要な聖戦ですの。 皆様、その覚悟でよろしくおねがいしますわ」


 ソーンと違ってセリーヌはきつめな印象にぴったりな、お高くとまった話し方をするから、やはり人の見た目と話し方はある程度一致するのだなと実感した。セリーヌの挨拶が終わるとワーギャンが再び定位置に戻る。


「では諸君、以上で今日の会合は終了だ。 これ以降、別途私か、各副団長が招集の指示を出すからそれに従うように。 では、解散」


 ワーギャンの一言で、会議室からちらほらと人が出て行き、これでようやく終わりか、と思っていたらそんなことはなかった。


「アルトはこの場に残れ」


(うぅ、面倒くさい)


 おれの名を呼ぶワーギャンの声を聞いて、ついて出た大きなため息は、なんとか人混みに紛れて消えたようだったが、おれの胸のモヤモヤはしばらく消えることはなかった。


遂に始まる戦争。そして本人が思っている以上にアルトの戦争に対する外部からの期待は大きそうです。

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