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12/24

1-12終わりの始まり

 S層での魔力抽出を初めて行う日の朝、おれはどことなく緊張していた。


(大丈夫だろうか)


 すると、その様子を察知したのか、食堂で朝食を摂っているとアーシャが声をかけてくれる。


「アルト様、大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが……」


 アーシャが出してくれたお茶を口に含む。


「今日、初めてS層で魔力抽出をするので、ちょっと不安でして……」


 おれの声のトーンがいつにもまして暗いため、アーシャもそれにつられて暗くなる。


「そうなのですね…… それはたしかに不安ですね……」


 これまでも、アーシャには層を上がるタイミングで話をしていたが、今回の不安はアーシャの目にもいつもに増して不安に映ったようだ。


「そうだ! では、今日はちょっと豪華な夕食を準備させていただきます!だから、その夕食を楽しみに今日一日を幸せな気分で過ごせませんか?」


 アーシャさんよ、それ、完全にフラグ立つやつだからやめてくれ、と内心思ったが、折角の厚意を無碍にするわけにもいけない。


「そう、ですね。 まぁこれまでもなんとかなってきたし、それに今日はワーギャンさんも一緒なので、多分なんとかなると思います」


(まぁ、何を隠そうこのワーギャンと一緒っていうのがおれを不安にさせる大きな要因の一つなのだけどね……)


 しかし、アーシャの反応はちょっと違ったようだ。


「ワーギャン様と一緒であればなおさら大丈夫ですね! では腕によりをかけて、お食事準備させていただくので楽しみにしていてください!」


 おれは少し予想と異なるアーシャの反応に生返事になってしまう。どうやらアーシャの中でワーギャンは信用に足る人物のようだ。まぁ人の捉え方は人それぞれだからなぁ、あまり気にしても仕方が無い。


「ありがとうございます。 話ができて、少しだけ不安が落ち着いた気がします。 夜ご飯、楽しみにしていますね!」


 こうして、おれは少しの希望と、多くの不安を抱えながら集魔炉へと向かうのであった。


□□


 そして、不安はやはり現実の元となる。


「絞まれ」


 ワーギャンの冷徹な声が、集魔器から発せられるビープ音の中、聞こえる。すると、前回同様、ストールの下でおれの首の痣が締め付けられるのを感じるが、今回は前例があったため驚くこともなく、むしろこの快感のまま自分の人生が事切れるのであればそれはそれでよい、と思ってしまう。ようするに、それくらい気持ちイイのである。この日は結局空腹も感じず、ただただ、快感のままにグリップを握り続けたまま夕刻になっていたほどである。


 快感と酸素欠乏により次第に思考が働かなくなるのを感じる中、ワーギャンはよくわからない言葉を近くにいる兵士に伝えている。


「アーシャをつれてこい」


思考が適切に働かない中、理由を探していたが、その後まもなく、おれの意識はなくなっていた。


□□


 唇に暖かい何かがあたる感触とともに、何かが流れ込んでくる。そして、おれを遠くで呼ぶ声が聞こえる。


「……ルト様、アルト様!?」


「んっ……」


 おれがうっすらと目を開けると、そこは焦り、怒り、悲しみなど、様々な感情が入り交じったアーシャの顔が目の前にあった。


「あれ、アーシャさん……?」


 おれは一瞬ここがどこだかわからなくなる。背中には固い床の感覚があるから、どうやら横になっているようだ。それにしても、なんでアーシャがここにいるのだろう?集魔炉で、気持ちよすぎてワーギャンに案の定首を絞められて……そこまでは覚えていたが、その先、どうやら気を失ってしまったのだろう。良く覚えていない。しかし、目の前のアーシャを見ると、そんなことを悠長に思い出している余裕はなさそうだった。


「もう、なんでこんな無茶なことするのですか!? あと一歩……あと一歩間違っていたら、本当に危なかったですよ!!」


 珍しくアーシャが怒っている。でも、同時に目に涙を浮かべていた。


 おれは覚醒し始める意識と同時に周りを見渡すと、そこはまだ集魔炉の中のようだ。さっきまで座っていたS層に5器しかない集魔器が見える。おれが体を起こそうとすると、再びアーシャに怒られる。


「まだ起きないでください!」


 そう言ってアーシャはおれの肩を床に押さえつけ、そしてあろうことか、アーシャはおれの唇をあてる。


「ん……!?」


 あまりの唐突な行動におれは戸惑うが、この感触をさっきも味わっていたことに気がつく。そして、先ほど同様、何かが口を通して流れ込んでくる。


(これは…… そういうことか)


 おれのこの世界でのファーストキッスが……という思いも一瞬浮かんだが、アーシャがやっていたのは、魔力の移行だということに気がつく。少しずつ、頭痛が遠のいていくのがわかる。思わずそのままアーシャを抱きしめたくなる衝動に駆られるが、おれの理性はしっかりと復帰していたようだ。ちゃんと我慢して、アーシャの肩をつかみ、体を起こす。


「もう、大丈夫です…… なんか、すみません……」


 アーシャを自分から離し、アーシャに言うと、アーシャは少し落ち着きを取り戻す。


「心配しました、本当に……」


アーシャの心配そうな顔を見ると、なんだかとても自分がやったことが利己的だったか反省させられる。アーシャを見ると、少し顔色が悪く見えたため尚更だ。すみません、と一言謝り、ふと改めて周りを見ると、アーシャ以外に誰もいないことに気がつく。


「あれ、ワーギャンさんは?」


(首を絞められたのは嫌だけど、でもそうでもしない限りやめなかっただろうし、アーシャさんのことを考えてもワーギャンの今回の判断は正しかっただろう)


 しかし、おれのこの気持ちはすぐに覆される。


「はい、私が来ると、もう大丈夫だろう、といってお城にお戻りになりました」


 この時ばかりは、今朝ワーギャンに対して肯定的だったアーシャも苦笑いをしていた。


「ま、忙しそうですものね、ワーギャンさん」


 おれの全く気持ちが入らない棒読みのフォローは、逆にいたたまれない空気を作り出してしまった。しばらく無言になってしまうが、ふとおれは大切なことを思い出す。


「あ、そういえば今日は戻ったら美味しいご飯が待っているのですよね! さ、ご飯食べに戻りましょう!」


 静寂を破るおれの言葉にアーシャも力強く頷き、そして集魔炉を後にした。


□□


 あまりにもお腹が空いていたおれは、ワーギャンに今日の記録を渡しに行く前にアーシャが準備してくれた食事を済ました。流石に事前にハードルをあげただけあって、今日のご飯はとても素敵ご飯だった。別にアーシャが作ってくれているわけではないが、気を遣ってくれたのはアーシャなのである。


 ようやく空腹が満たされたおれは、助けてもらった恩と、首を絞められた憎しみが入り交じった複雑な心境でワーギャンの元へ行く。


「今日はすみませんでした。 これ、今日の結果です」


 おれは平謝りしながらワーギャンに魔力抽出の記録を渡すと、いつも通り数値だけ確認して、そのままおれに差し返す。


「2万、か」


 そう、今日の抽出した魔力である。しかも、S層は魔力量かける1.5倍のお金がもらえるため、3万ギルである。残念ながら、B層に上がった時点でニコニコ現金払いから、指定口座への振り込みという便利なシステムに変わってしまったため、現金を手にする喜びはないが、それでもおれの預金はバブリーな感じになっている。ちなみに、この2万という数値はアデロン共和国では過去最高らしい。ステンをはじめとした兵士たちが、もうおれのことを人としてみるのをやめていた。


「明日、20日後の戦争開戦に向けた軍事会議を開く。 明日は朝からまずその会議に出席してくれ」


 ついにこのときが来てしまったか、という思いがおれの胸を埋め尽くす。だが、そうはいっても仕方が無い。おれは返事だけして、ワーギャンの部屋を後にする。


(いよいよ、か……)


 いつかくると思っていた日が、まさかこんなに早くくるとは思っていなかった。これまでトントン拍子で成長し、少し浮ついた気分だったが、今日一日で急に現実に引き戻された。


(ま、でもやるしかないよな。 おれもこの国の一員だ)


 こうしておれは、戦争への参戦の覚悟を少しずつ決めていくのであった。

いよいよ戦争が始まります。


そしてここまでで投稿を予定していた2章のうち、半分の1章目が終わりました!

是非皆様からのブクマやご評価、お待ちしておりますねー!

明日からは第2章です!

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