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第6話 真意、勇者の杞憂

 エンデュミオンが住む家は、ガリオン王国立魔術学院から程近い、小高い丘の上にある。


 魔導師だったエンデュミオンの父は、エルフとの婚姻という禁忌を犯し、エルフ族との後難を恐れた村人から村を追放された。

 その後、流行り病で父が死に、一人となってからは住居を転々としていたが、魔王討伐の功を受けてからは郊外にぽつんとあるこの家を購入したのだった。


 その家を眺めながら、騎士団長 パラドンはふぅ、と短い溜め息をつく。


 それは、安堵の意味を込めた溜め息だ。


「えーと、起動式は何つったっけ。ああ、そうだ『水晶起動、接続。セフィロ』」


 パラドンが手に持った拳大の水晶にそう語り掛けると、空中に光で出来た男の顔が映った。


「よお、セフィ。俺が忘れねえ内に報告をさせて貰いてえんだが、今大丈夫か?」


『ん……ああ、パラドン。すまない、通信が悪いな。地下にいるせいだろう、少し待っていてくれ』


 遠隔通信式水晶はとてつもなく高価な魔法道具で、対になった水晶を持つ相手ならば、どんなに遠隔地でも会話ができる優れものだ。


 国軍の上層部にしか配備されないような代物だが、世界を救った勇者と騎士団長ともなれば手に入れるのは難しくない。


『よっと、これでいいかな。ご苦労様、パラドン。悪いな、嫌な役回りをさせた』


 通信の相手、かつての勇者セフィロは本当に申し訳なさそうな顔でそう謝る。


「へっ、水臭せえこと言うなよ、相棒。結論から言うが、エンデュミオンの奴はシロだな。ただ、魔王の証を引き継いだ様子はないが、いつもの卑屈に磨きがかかってたぜ」


『そうか! いや、自分から頼んでおいて信用して貰えないかも知れないけど、心の底から安心してるよ』


 

 魔王の証。

 人の頭ほどの大きさの深紅の宝玉に浮かぶその紋章は、魔王となるべき存在を感知すると、その者の体の何処かに出現し、歴代魔王の力と叡知を授けると言われる。


 そして勇者セフィロは、エンデュミオンが次代の魔王として選ばれる可能性を疑っていた。

 いや、疑わざるを得なかった。


「気に病むな、とは言えんが、結果シロだったんだ。あんまり悩むと、その若さでハゲるぞ」


『仲間を疑った挙げ句、その密偵を仲間にさせたんだ。そりゃ悩みもするよ。ただ、落ち込みはしても、後悔はしないけどな』


 魔王の証を受け継ぐ者は、常に心に深い闇を巣食わせている。

 世を憎み、人を憎み、やがては自分すらも憎む。

 抑えきれない憎悪は破壊と絶望を伴って、誰かがそれを止めるまで世界を蝕み続けるのだ。


『エンデュミオンは、世界でも突出した魔法の才能がある。ただ、その根底にあるのは、俺やパルドン、グラニカみたいな"希望"じゃない……そう俺に教えてくれたんだ。リュノスケが』


「はは、あいつは人をみる目があったよな。確かに、俺も昔から薄々は感じてた。エンデュミオン、奴は誰かを助けたいとか、悪を許せないとか、そういう……幼稚、じゃねえが。純粋な気持ちで動く人間じゃない、そういうこったろ?」


 エンデュミオンの憎悪は、旅の後半になるほど、救世の大魔導師という仮面の中から溢れ落ちていた。


魔王軍に滅ぼされた人間の村で。

魔王の支配により奴隷となったエルフ達の前で。


 エンデュミオンの瞳は、むしろ煌々と怪しい輝きを放っていたのだ。おそらく、それは本人すらも気付かぬ内に。


「ただ、そりゃ奴の過去からすりゃおかしな話じゃねえ。俺が奴なら、舐めたことを言ってきた奴ら全員をぶっちめて、謝るまで許さないだろうぜ」


『確かにな。だが、あれ程の憎悪を魔王の証が知らないはずはない。ま、杞憂で何よりだったけどね』


「俺もひと安心だぜ。昔馴染みと殺し会うなんて、それこそ死んでもごめん被りてえ」


二人は揃ってうんうんと頷き合う。

そろそろ、水晶の魔力が尽きる頃合いだった。


『それじゃあ、また俺の方でも解ったことがあれば連絡するよ。あと、くれぐれもその水晶を壊すなよ、あとどっかに置いてくるなよ! いいな、騎士団長!』


「へーいへい、もっとバカでけえと失くさなくて助かるんだがな。んじゃ、またなセフィ」


通信を切り、水晶を伸長に布袋にしまい込む。

 昔から粗っぽいと言われるパラドンだったが、さすがに立場を得てからは気を付けるようにしていた。


「こいつは聖教会からの借り物だし、壊すとセフィより、嫁さんのファーリアがおっかねぇからな……」


 ただ、気になるのは消失した魔王の証。

 未だにその行方が掴めない以上、勇者達は警戒せざるを得ない。


 傷心のエンデュミオンは対象から外れたとは言え、まだ見ぬ魔王候補を想い、パラドンは晴れ渡った空を睨み付けるのだった。

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