勇者パーティーの崩壊①
◇
イシュタルの街外れにある洞窟の奥深く。
そこには、アレン率いる勇者パーティーがいた。
ロイドを追放してから数時間後、アレン達は国からの依頼を受け洞窟へと来ていたのだ。国からの依頼と言っても、難易度はそこまでではない。普段であれば、数時間で終わる依頼。
アレンはロイドのことを嫌っていた。
理由は様々だが、とにかく鬱陶しく、邪魔な存在には違いなかった。最前線、つまり最も危険な場所で剣を振るうアレンと、比較的安全である後方からの支援が主なロイド。嫌いだ。
ロイドの嫌いなところを問われれば、十はすぐに言える自信がアレンにはある。
そんなロイドから金を取り、パーティーから追い出せたことがよほど嬉しかったのかもしれない。
今夜は大金も手に入ったし、依頼をさっさと終わらせて飲みに行こうと、アレンはそう思っていた。
どうせいつも通り、すぐに終わると……
だが、そうはいかなかった。
「……っ、どうなってんだよ! 何でこいつら、こんなに強くなってんだ!?」
アレンが、目の前に立ち塞がるゴーレムに切りかかる。ごつごつとした岩のような肌。二、三メートルの岩石のような、二足の足に二つの腕を持つモンスターで全体的に頑丈で、攻撃を通しにくいが、そこまで強敵ではない。
しかしアレンは未だ、ゴーレムに致命的な一撃を決めることが出来ないでいた。カンッと言う音と共にアレンの剣は弾かれてしまう。
普段であれば、すんなりと刃が通るはずなのに、剣を握る腕にジンとした痛みと振動が響くのみ、
「し、知らないわよ! ってか硬すぎ……矢が弾かれちゃうんだけど」
パーティーの弓使いであるルルが離れた位置から矢を放つが、それはゴーレムの身体にほんの少し傷をつけるだけで、刺さることはない。
焦りのあまり、手元が狂い始める。
「ん……ゴーレム、こんなに強くなかった。何かおかしい……」
ミイヤがルルの横で得意な火属性の魔法を放つ。
杖から放たれる炎がゴーレムを包み込む。
しかし、これも同じく効果があるようには見えない。
「不味い……このままでは」
リナがミイヤとルルの前に立ち、その大きな盾でゴーレムの攻撃を弾いていく。
ゴーレムの攻撃は初動は遅いが一撃一撃が重く、拳が盾とぶつかる度に、リナに衝撃が走る。
盾も少しずつ壊れ始めている。
「くそっ……どうして」
勇者パーティー全員がボロボロな状態で、満身創痍になりながら戦っていた。
本来ならば逃げるべきだろう。
だが、勇者パーティーがゴーレムごときに負けるなどあってはならない。
ゴーレムはCランクの冒険者パーティーでも倒せるようなモンスターなのだから。
「勇者がゴーレムなんかに、負けるわけがねぇんだよ!」
アレンが思い切り、剣を振り下ろしながら叫ぶ。
その時だ。
ゴーレムの背後から目を赤色に光らせる灰色の何かが出現した。
「ウルフだと!?」
ゴーレムの後ろに隠れていたのだろう。
それに気がついたアレンはとっさに飛び退き、防御の構えを取る。
ウルフはそこまで強くはない。灰色の毛並みに紅い瞳の、小型の犬のようなモンスター。
アレン達、勇者パーティーにとっては別に脅威ではない。
そう思っていた。
しかし、ここで予想外のことが起こる。
ウルフがアレンの横を通りすぎていったのだ。
「……っ、しまった!」
ウルフはその上位とも言われるハイウルフに比べ弱いが、小さく、小回りは聞く。それもあり、アレンは仕留め損ねてしまった。
ウルフはアレンの後ろ、ボロボロになりながらも盾で攻撃を弾いているリナのもとへとゴーレムの間をすり抜けながら走っていく。
そのまま、ウルフはリナの喉元へと噛みつこうとした。
いくらウルフがそこまで強くないとは言えども、無防備な状態で急所に噛みつかれれば死ぬ可能性がある。
「リナ、避けろ!」
アレンが叫ぶ。
それを聞き、初めてウルフの存在に気がついたリナは咄嗟に守りの体勢をとろうとする。
「……っ」
盾はゴーレムの攻撃を防ぐのに使用しているため使えない。
だが、防げなければ死ぬ。
即死だけはなんとしても避けなければならない。
最悪、大きな怪我をしても生きている限り、シーナに治してもらうことが出来る。
そう考えたリナは左腕でウルフの牙を受け止めた。
しかし、ここでもう一つ予想外の事態が起こった。
そこまで強くないはずのウルフが、リナの左手を噛みちぎったのだ。
「うわぁぁぁ!」
リナの左手首から大量の血が吹き出る。
ウルフはそれで満足したのか、そのまま洞窟の奥へと走り去っていった。
「くそ! 邪魔だ、どけ!」
アレンがゴーレムの攻撃を避けながら、リナのもとへと向かう。
そしてリナを持ち上げると、そのままシーナのもとへと走った。
「おい、シーナ頼む!」
「分かりました」
シーナが急いで回復魔法をかける。
シーナの使う回復魔法は、一般的な回復魔法であるヒールの何倍もの効果のあるものだ。
その効果は絶大で、失った部位すらも回復、いや、再生させることが出来る……
はずだった。
「ど、どうして!?」
シーナが驚き、震える声を漏らす。
確かにシーナの回復魔法で、リナの左手の出血は止まった。
だが、失った左手は再生しなかった。
それを見たアレン達がごくりと唾を飲む。
今までなら、どんな大怪我を負っても回復することが出来た。回復系の最上位、聖女の回復魔法はそれほど規格外な力がある。実際、かつてはあった。
だからこそ、多少の無茶も出来たのだ。
今だってそうだ。
しかし、それは思い違いだった。
理由はともあれ、シーナの回復魔法の力は大きく弱体化している。
大怪我を負ったらシーナの回復魔法では治らないとなった以上、無茶が出来なくなる。
一度腕を失えば、戻ってくることはない。
「アレン……撤退しましょう」
「くっ……仕方ねぇ。撤退するぞ! リナ、立てるか?」
「あぁ、シーナのお陰で何とか……」
持ち前の精神力で、グッと堪え、立ち上がるリナ。腕を無くした恐怖を抑える。
リナが動けることを確認したアレン達は持っていた荷物を全て投げ捨て、身を軽くし洞窟の出口へと走った。
「くそ、なんでこうなるんだよ……」
アレンが走りながら、ぽつりと呟く。
ゴーレムがいつもより、強かったのは事実だ。
だが、敗因はそれだけではない。
身体がいつものように動かなかった……
他のメンバーもいつもと比べ、動きが遅かったり、威力が下がっていたり……
シーナの回復魔法の効果も弱まっていた。
理由は分からない。
でも、いつもと違った。
それだけは確かだ。
そのせいでリナは左手を失い、アレン達は依頼にも失敗した。
あれではもう、勇者パーティーの壁職としてはやっていけないだろう。
「くそ……どうして」
数日後、アレン達勇者パーティーが依頼を失敗し、ボロボロで逃げ帰ってきたことは街中に……いや、商人などを通して国中に伝わった。




