白魔導師、治療を成功させる
シルビィーが目をぱっちり開け、クルムを見つめる。
どうやら、意識は戻ったらしい。
魔力も見たところ、安定している。
とりあえず、魔力の暴走を押さえることに成功したと考えていいだろう。
「お姉ちゃん……私」
シルビィーが身体を起こす。
腕がかなり痩せ細っている。
布団で隠れているが、足も似たような感じだろう。
とは言え、こればかりは流石にどうしようもない。一時的に歩けるようにはできるかもしれないが。それだと俺がつきっきりで強化魔法を使わねばならない。
「シルビィー、身体は大丈夫なのか!?」
クルムが心配そうに見つめながら尋ねる。
「うん、力は入らないけど……」
シルビィーが手を軽く動かす。
手はしっかりと動くみたいだ。
腕もわりと持ち上がるらしい。
これなら食事ぐらいは自分で出来そうだ。
それに、痩せ細っているとは言えども、監禁されてた際のクレハほど酷くはない。
クルムの強化魔法を使いながらリハビリをすれば、感覚も筋力もすぐに戻るはずだ。
それから、シルビィーが俺を不思議そうにまじまじと見つめていたため、軽く自己紹介をした。
そして、話を進めていくうちに、シルビィーが俺が手にもつ、赤い魔石に目を向けた。
「ねぇ……それは何なの?」
シルビィーが、俺のもつ赤い魔石を指差しながら尋ねる。
「これのことか? お前の体内から出てきたんだが……見覚えは?」
念のため、シルビィーに尋ねておくが、まぁ見覚えないだろう。
自分の身体に石を埋め込む奴なんていないだろうし……。体内じゃ、お洒落にもならないし。
「わ、私の体内から!?」
シルビィーはそう言うと傷のあった場所に手を当てた。
回復魔法を何度もかけているため、もう傷痕すら残っていないだろうが、自分の身体から魔石が出てきたなんて言われたら、そりゃ驚くだろう。
俺だって自分の身体から魔石が出たらびっくりする。多分気が気じゃないと思う。
本人は魔石に気がついてはいなかったみたいだが、シルビィーも魔力が安定していなかったらしいし、そんな状態で体内からこの、微弱な魔力を放つ魔石を見つけることは不可能だっただろう。
「まぁ……何にせよ、治って良かったな」
「う、うん……」
俺はシルビィーへそう言い、クルムの方を向いた。
それに気がついたクルムが頭を下げる。
「ありがとな。本当に何と言えばいいのか……」
「いいんだ。気にしないでくれ」
「だが……」
クルムとしては、お礼をしたいのだろう。
この後、夕飯でも食べていかないかと誘われた。
時間的にも夕飯時だし、正直、嬉しい誘いではあるが俺は断ることにした。
理由は明日の朝、ここら一帯を治める貴族のもとへといかなければならないからだ。
ここを治める貴族……つまりリナのお父さんなのだが……。
昨晩は宴であまり寝ていないため、今晩は早めに寝ておきたかった。
俺は師匠のように眠らなくてもいい魔法は使えないし、寝坊でもしたら一大事だ。
「……というわけなんだ」
「そうか。お礼をしたかったんだが……」
クルムが少し残念そうな表情を浮かべる。
が、忙しいのは事実なので、仕方があるまい。
「あぁ、そう言うわけだから、すまないな。夕飯の誘いは嬉しかったのだが……」
「いや、いいんだ。また今度、何かの時にお礼をさせてもらうからさ」
「そうだな。また今度、時間があるときに会いに来る」
「約束だからな」
「あぁ……」
俺はクルムとそう約束し、家を後にした。
日はすでに沈んでおり、辺りは暗くなっている。
「もうこんな時間か……早く帰らないと」
俺は急ぎ足で、自分の宿へと足を進めた。