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白魔導師、冒険者ギルドに行く


 

 その後、俺が強引に連れていかれた先は、やはり冒険者ギルドだった。

 引っ張られるがままに、ついて来てしまった。

 いや、抵抗はしたのだが、彼女は想像以上の怪力だったのだ。


「ただいまー!」


 女が勢いよく、冒険者ギルドの扉を開けた。

 その瞬間、中にいた冒険者達の視線が女の元へと集まる。


「おっ、ユイ! ずいぶんと早かったじゃないか」


 俺をここまで連れてきた女冒険者はユイと言うらしい。

 大きな盾を背負った男が、ユイのもとへと近寄ってくる。

 かなり、大きいな……。

 男の身長はかなり高く、おそらく百九十ほどだと思われる。


「やっぱり、フリーの白魔導師なんてこの街にはいなかったろ? 支援職は、どこかに所属していることがほとんどだからな」


 大きな盾を背負う男が呆れた様子でユイに言う。

 それを聞き、ユイはにっこりと満弁笑みを浮かべた。


「ううん、見つかったわ」


「そうだよな、見つかるわけ……って、えっ?」


 男がポカンと口を開ける。


「み、見つかったってのは本当か? 本当にフリーの白魔導師がいたのか?」


「えぇ、だからそう言ってるのよ」


 少し大げさな気もするが……。

 あながち、男の反応は間違ってはいないと言えるだろう。

 理由は簡単だ。

 先ほど少し口にもしていたが、本来、支援職である白魔導師が一人でいるなんてそうそうあり得ないことだからだ。

 白魔導師とは、回復魔法や強化魔法などを得意とする職業であり、攻撃魔法も扱えるが、あまり火力を出すことが出来ない。

 弱いモンスターなら白魔導師でも簡単に倒せるが、ある程度強くなって来ると、倒すことが難しくなってくる。

 倒素ことが不可能な場面も多々あるだろう。

 そのため、大抵の白魔導師はパーティーに入り、サポートに徹する。適材適所、というやつだ。

 職業が白魔導師でも商人や農民になると言う選択肢もあるのだが……。


 まぁ、最もそんな人は昼間っから広場で座り込んでいたりしないだろう。

 無職(ニート)と思われても仕方あるまい。

 事実だし……。


「さ、紹介するわね! さっき、広場で暇そうにしてた……えーと、名前は……」


 ユイが俺の方を振り返る。

 そう言えば、名乗っていなかったな。


「ロイドだ。職業は一応、白魔導師だが……」


 そこまで口にしたあたりで、ふと思う。

 これで本当に大丈夫なのだろうかと。

 とてつもない、不安が胸に込み上げる。

 きっと、この大盾を背負う男はユイのパーティーのメンバーなのだろう。その後ろには、弓を持った金髪の男と杖を持った眼鏡の女もいる。

 彼らもパーティーメンバーだろう。

 三人は呆れた顔をしながらこちらを見ていた。


「あのさ、ユイ。気持ちは分かるが、やっぱり今回の依頼は断ろうぜ」


 弓を持つ男が前に出てくる。


「なっ、どうしてよ! 白魔導師なら見つけて来たじゃない!」


「いや、だけどよ……さすがに難易度Aの依頼を、あいつ無しで受けるのは無理だろ」


 弓を持つ金髪の男の言うことは正しい。

 慣れないメンバーでの活動は命取りになる。パーティーでは個々の力は勿論、連携が重要な要素となる。強い歴戦の戦士たちでさえ、連携が取れなかったが故に、死ぬ何たこともあるし、逆に実力は足りてなくても、足並みの揃った連携で生き残ることもある。

 俺という、部外者の加入が彼女らの命取りになることもあるだろう。

 やはり、俺はパーティーに加わるべきではない。


 と言うかそもそもの話、何故、加わると言う方向で話が進んでいるんだろうか?

 俺はパーティーに入るなんて一言も言っていないはずだ。


「おい、俺は入るなんて一言も……」


「でも、私達が依頼を放棄したら、依頼主はどうするの! このままじゃ畑の作物が全部やられてしまうのよ!」


 ユイが必死に三人に問いかける。

 いや、あの、俺の話は?


「だがな、ユイ。あいつがいないと……」


「そうだぞ。それに、この男がクルムの代わりになるとはお世辞にも思えない」


 もう仕分けそうにしながらも、きっぱりと言いきる大盾の男。

 ごもっともな意見だ。

 普通、昼間っから広場のベンチで黄昏ている、明らか無職の男をパーティーに勧誘はしない。


「私もそう思います。ユイ……その気持ちは分かるけど、今回の依頼はやめておいた方が……」


 そう言った杖を持つ女の手には、力が込められていた。他の二人も悔しそうな顔をしている。

 きっと三人も、依頼主のことを助けたいと心から思っているのだろう。 


 だが、それが出来ない理由があった。

 依頼は失敗した回数が増えればその分、難易度が上がってしまう。死者が出たともなれば、ほぼ確実に上がってしまうだろう。

 そして難易度が上がれば、依頼主の払わなければならない報酬の額も上がってしまい、最悪、依頼主は依頼そのものを取り下げなくてはならなくなる。

 そうなれば、冒険者達は依頼を受けること自体が出来なくなり、依頼主のことは救うことが出来なくなってしまう。

 下手に感情で動くことは、かえって依頼主を苦しめることになってしまうのだ。

 きっと彼らはそのことを理解している。

 だから、安易に受けようとは言えないのだ。


「なぁ、それなら他のパーティーに譲ればいいんじゃないのか?」


 俺は自身の考えをユイ達に提案してみる。


「それは、出来ないんです……」


 杖を持つ女が、暗い表情で答える。


「どうしてなんだ?」


「この依頼の難易度はA。そして、この冒険者ギルドには、私達以外にこれを受けられる冒険者はいません。勝手に自分のランクよりも高い難易度の依頼を受けると、ギルドから重い罰を下されるので……」


「そう、なのか……」


 それで罰則を受けない、つまり冒険者ではないフリーの白魔導師を探していたのか。俺が勝手に協力しようと、罰せられない。

 たまたま偶然居合わせた人が白魔導師で、状況的にやむを得ず協力することになった、と。


 この会話を聞いていた他の冒険者達の表情も暗くなる。

 なんと言うか、物凄く気不味い状況になってしまったな。

 何故、こんな事態になってしまったのだろうか。


 勿論、俺だって力になれるならなってやりたい。

 だが、俺にはその力がない。会話の内容から察するにユイ達は高ランクの冒険者なのだろう。冒険者はランクで分けられ、ランクにより受けれる依頼が決まる。

 難易度がAということは彼女らのランク最低でもAランク冒険者。

 上から二番目のランクだ。

 どう考えても、俺なんかには荷が重すぎる。

 そう、一言伝えて、この場から立ち去ろう。そして、この気まずい場所からおさらばしよう。俺がどれだけ悩み、悔やもうと、そもそも答えられる実力がないのだから。

 そう思い、口を開こうとした。


 ーーその時だ。


「ねぇ、つまりクルムと同じレベルの魔法を使えればいいのよね?」


 ユイが三人に問いかける。

 その途端、俺はものすごく嫌な予感を感じとる。


「まぁ、それなら依頼を達成出来るかもしれないが……」


「ユイ、それは無理だ。この街にクルムに並ぶ実力の白魔導師なんて聞いたことがない」


 聞いてる感じ、そのクルムと言うのはよほど優れた白魔導師なのだろう。パーティーメンバーの情報を今日一日で頭に叩き込んだとしても、実力的にそんな人の代わりが俺に勤まるはずがない。

 それにだ。

 そもそも俺は代わりを勤めるなんて一言も言っていない。


「やはり、俺なんかではその人の代わりには.....」


「あぁ、もう……分かったわよ!」


 ユイが俺の言葉を遮り、叫んだ。

 ようやくユイも諦め……


「ロイドがクルムと同じレベルの魔法を使えればいいんでしょ! さぁロイド。あんたの魔法、ダッガス達に見せつけてやるわよ!」


 そう言うとユイは俺の腕を力が強く掴んだ。


「へぇ?」


 突然のことに驚いた俺はつい、変な声を上げてしまう。


「ほら、ダッガス達も! 急いで行くわよ」


「「「は、はい?」」」


 ダッガス達三人が、まるで鳩が豆鉄砲を食らったような表情になり、返事をしていた。

 俺はというと、いうまでもなく彼ら以上に事態に困惑し、呆然と立ち尽くしていた。


 ◇


 その後、俺はユイに強引に腕を引かれながら、近くの森へと向かって足を進めた。

 そこで俺の腕を試すつもりらしい。

 もっとも、俺はやるなどとは一言も言っていないのだが……

 流れに流され、結局来てしまった。

 最初は他のパーティーメンバーが止めてくれるだろうと思っていたのだが「まぁ、これでユイが諦めてくれるなら……」と呟きながら、俺とユイの後を着いてきていた。


 なるほど。

 どうやらこいつらは人の話を聞かないらしい。

 

 

 

 

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