白魔導師、発見する
◇
「やっぱり、ロイドの強化魔法はすごいな……」
「えぇ……いつもの数倍の速さで走れているだけでも驚きなのに、息切れすらしないなんて」
ユイがちらりとこちらを見る。
「そう言われてもな……」
別に特別なことをしている覚えはない。
ただ、強化魔法による身体強化を改良し、無駄な部分の強化を省くことで、走りやすさに特化した強化をしているだけだ。そもそも、魔法の改良なんて別に難しいことではないだろう。
「ねぇ……ロイド。私さ、知り合いに強化魔法を使い続けるのって、かなりの魔力を消費するって聞いたんだけど……」
「私もそう聞きました。なのにロイドさんは、何で平気なんですか?」
ユイとシリカが心配そうな顔で尋ねる。
確かに、ユイやシリカの言うことは間違っていない。
慣れない人や駆け出しの白魔導師ならば、強化魔法を使い続けるのは辛いだろう。
だが、強化魔法はコツをつかめば魔力の消費量を抑えることも出来るし、その仕組みを知れば改良も可能になる。
それにもしコツを掴めなかったとしても、強化魔法を使いまくれば、魔力量だって増えていくわけで、そのうち慣れてくるものだ。
たまたまユイやシリカの知り合いが、まだ慣れていなかっただけで、数年もすれば何とも思わなくなるだろう。
師匠はそれをよく分かっていた。
俺もかつて、師匠に最低限の武器と食料を持たされ一週間ほど、森に放置されたことが何度もあった。
当然、攻撃手段に乏しく、大した火力も出せない白魔導師が一人でモンスターを倒すのは困難を極めるし、強いモンスターの場合は、倒すなんてまず不可能だ。
逃げるので精一杯。
とは言え、ただ逃げるだけじゃ追い付かれてしまう。
だから俺は、様々な強化魔法を駆使して生き残るしかなかった。
強化魔法を何度も使い、改良を試みたり……時にはあらたな強化魔法を作ってみたり……。
とまぁ、そんなことをしているうちに、自然と強化魔法の長時間の持続と、改良が出来るようになったのだ。
今、思えばあれは……。
「いい訓練、いや……地獄だったな……」
うん。
やっぱり地獄には代わりない。
あれだけは美化できる思い出ではなかった。
あの頃のことは、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
「ねぇ、ロイド……いったいどんな訓練をしたの?」
どんな訓練か……。
そう言われても、あれは地獄だった……としか言いようがない。
でも、きっとあれが当たり前なのだろう。
そうだ。修行なんてキツくて当然。
それに、師匠にはいつも「白魔導師がこれくらい出来なくてどうする!」と怒られていたし……。
きっとあれは、白魔導師ならば一度は誰もが通る道なのだろう。
「たぶん、よくある一般的な訓練だと思うが……」
その言葉を聞いたユイとシリカが顔を見合わせる。
「ロイド……たぶん、あなたのしてきた訓練は普通じゃないわよ」
「……そうですね」
ユイとシリカが口を揃えて言う。
そうか、なるほどな……。
ユイやシリカは、その程度の訓練ごとき、普通ですらない。それ以下だと言いたいのだろう。
流石はSランク冒険者。
行っている修行の内容も、それらに対する感覚も、俺なんかとは次元が違う。
だが、このパーティーに入れてもらう以上、俺もついていけるほどの実力がなくてはならない。
「そうだな。確かに俺の訓練はまだまだだった」
そう、反省の意を示す。
「シリカ……たぶんこいつ、また変な意味で解釈したわよ。絶対、言いたいことが伝わっていないわ……」
「えぇ、そうみたいですね」
ユイとシリカが呆れた顔でこちらを見てくる。
「そうか。呆れられるほど俺は……」
「ロイド……もう、その話はいいだろ。そんなことより、この速度だとどのくらいでイシュタルに着くんだ?」
ダッガスが焦りまじりに、俺の言葉を遮るように言う。
確かにそうだ。
今はそんな話をしている場合ではない。
俺は通ってきた時の記憶を便りに、ここからイシュタルまでの距離を推測し、今の移動速度でざっとどれくらいの時間がかかるのかを割り出した。
正確な数は出せないが、おおよそはこのくらいだろう。
「たぶん……少なくとも一日はかかるだろうな」
「一日か……まぁ、それでもかなり短縮出来た方だろうな……」
事実、ここに来るまでダッガス達は数日かかったのだ。
一日で帰れれば上出来だと。
俺はそう思っていたのだが……。
ダッガスの表情には確かな焦りが見える。
ダッガスは……いや、この場の全員が、もっと早く帰れればとそう願っているのだろう。
だが、俺にはこれ以上、ダッガス達の移動速度を上げることは出来ない。
「すまない……俺にはこれが限界なんだ」
「えっ、いや、別に俺はなにも……」
やはり、俺の強化魔法はまだまだだ。
ダッガスの言葉からしても、クルムという人の強化魔法は俺とは比べ物にもならないほど、凄いものだったのだろう。
もっと鍛練をしなければ……。
「おい、ロイド……別に俺はお前を実力不足なんて思ってないからな!」
「あぁ、もっと鍛練をしなければだな……」
「おい、俺の話を……」
◇
結局丸一日、俺たちは睡眠もとらずに森の中を走り続けていた。
イシュタルの危機だ。それくらい、必死にかけた。
その甲斐もあってか、探知魔法の範囲外ではあるがイシュタルにはだいぶ近づいたはず。
あと数時間ほどで到着するだろう。
「ユイ、ダッガス、クロス、シリカ、そろそろ街につくはずだ。すぐ戦えるように武器を返しておく」
収納魔法から武器を取り出し、四人に渡した。
全員が武器を手に取り、いよいよ始まるであろう戦いに備える。
その時だった。
発動しっぱなしだった探知魔法の端に、何かの気配が引っ掛かる。
「これはいったい……」
まぁまぁ離れているため、何がいるのかまでは分からない。
だが、そこに生物らしき気配がいくつか感じれた。
数は多くない。
もしかすると、操られていないモンスターが残っていたのだろうか?
それならば、気にする必要はないのだが……。
ーー何故だろう。
とても嫌な予感がする
特に、あの中の一つから不思議な何かを感じてならない。
どこかで、それもつい最近、感じたことがあるような気配……。
本当はここで足を止めている場合ではないのだろう。今は非常事態、一刻も早くイシュタルに戻るべき局面だ。だというのに、ここで見逃せば後々酷く後悔する気がした。
根拠のない直感が激しく、そう告げていた。
「確認してみるか……」
俺は一人そこへと向かうため、ぴたりと足を止めた。
また、それに気がついたユイ達も足を止める。
「ロイド、どうかしたの?」
「すまない……皆は先に向かっていてくれ」
「えっ、どうして……」
「今、探知魔法に何かがひっかかったんだが……嫌な予感がしてな。確認したらすぐに戻る」
この魔力にこの感じ。
もしかして……。
「なら、私も行くわ!」
「いや、俺一人で……」
「だって、何があるか分からないし……ロイド一人じゃ戦えないでしょ?」
俺を真剣な目で見つめるユイ。
ユイの言う通り、俺一人では戦うことが出来ない。真っ当な意見を前に、反論の言葉は出てこなかった。
それにもし、俺の予想が正しかった場合、戦闘になる可能性は十分にある。
迷惑をかけるが、ここはユイについてきてもらった方がいいだろう。
「……すまない。ついてきてくれないか?」
「えぇ、もちろんよ」
「ダッガス、悪いがユイを借りていく。なるべく早く戻る。だから、先に向かっていてくれ!」
「あぁ……分かった」
その後、俺とユイはダッガス達と別れ、その何かのもとへと走った。




