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勇者パーティーの崩壊④




「俺の考えた作戦はこうだ。まず、魔法が使える奴等が、各々の最強の魔法を放つ。ドカーンとデカイ奴をな。そして俺と騎士、攻撃系の冒険者で、魔法が使える奴等が再び使えるようになるまでの時間を稼ぐ……モンスターの群れはこれで十分だろ」


「「はぁ?」」


 アレンの話を聞いていた冒険者や騎士、また勇者パーティーのメンバーさえもが、ポカンと口を開けた。

 思っていたものとは違う反応が返ってきたことに、アレンが首をかしげる。


「あの、私は魔法使いですが、そこまで強い魔法は放てません……」


「ぼ、僕もです」


 冒険者達から不安の声が上がる。

 当然だろう。

 彼らは冒険者ではあるが全員がBランク以下。なんなら半数は、Cランクにも及ばない。

 アレンの思っているような魔法を使えるような者などいるはずがない。

 そんな中、意外な人物も声をあげた。


「ん……私も自信ない」


 アレンの背後に立っていた不安そうな表情でミイヤが言う。

 この一言を言い出すことが、どれだけ難しかったか。

 それでも、この場で言わなくてはいけないと、そう考えるには訳があった。


 ミイヤだが、実はあの前回の依頼の失敗の後で一人森へと向かい、何度か魔法を試し打ちしていたのだ。

 試行錯誤をし、何度も何度も、魔力が無くなるまで魔法を打ち続けた。

 しかし、今までのような魔法を放つことは一度も出来なかった。

 ミイヤは知っていたのだ。

 これは不調なんかじゃないことを。

 もう、あのころのような魔法が使用出来ないことを……


「おい、まだ気にしてんのかよ。あん時がたまたま威力が下がっていただけだ。別に気にすることは……」


 何も知らないアレンが、ミイヤを励まそうとする。

 しかし、ミイヤは首を横に振った。


「ううん……私、あのあと何度も試した。何度も何度も打った。でも、今までみたいな魔法、一度も使えなかった」


 自信無さそうな顔で、下をうつむく。


「ミイヤ、お前どうしたんだよ……なぁ、ルルもシーナも何か言ってやれよ」


 アレンが二人にもミイヤを励ますように促す。

 アレンに言われ、ルルとシーナが慌てた様子で励まそうと言葉を投げ掛ける。


「そうよ。アレンのいう通り、たまたまだよ。気にすることはないわ」


「えぇ、そうです。たった一度の失敗で、そんなにも気を落とさないでください」


 二人が励ませば何とかなると思っていたのだろうか。

 アレンがミイヤの肩に手を置き、説得を試みる。


「な? 二人もそういってるし、俺だってついてるんだ。俺さえいればモンスターなんて……」


「でも、アレン……結構前から、訓練してない。依頼を失敗した後だって、自分は大丈夫なんだって言うだけで、訓練しようとしなかった」


 ミイヤの言葉を聞いた騎士や冒険者達が、一斉にアレンの方を振り返る。


「いや、その……」


 かなり痛いところをつかれたのか……

 アレンがあたふたしながら、必死に言い訳を考えている。

 依頼を失敗したのにもかかわらず、訓練をしていないというのは、知られたくなかったのだろう。それを知られれば、士気や信頼に影響があることくらいはわかっていた。


「そ、それはあれだ……ほら、忙しかったんだよ。新しいメンバーの補充とかさ。なぁ、分かるだろ?」


 苦し紛れの言い訳をするが、ミイヤはそれを聞こうとすらしない。

 それどころか、ミイヤの表情はどんどん暗くなっていく。

 また、冒険者や王国騎士も呆れた顔をし、大きなため息をついていた。


「ん……私もう無理。あの頃のアレンはもっと頑張っていてキラキラしてた。でも、今のアレン違う。私の好きだったアレンじゃない!」


 ミイヤはそう言うとアレンの手を振り払い、杖を放り投げ、冒険者ギルドを飛び出していった。


「お、おい。待てよ!」

 

 手を伸ばすが、伸ばした手はミイヤを掴むことが出来ず、空を切る。

 

「なぁミイヤ! 話を……」


 アレンがミイヤを追いかけようとする。

 説得できるか否かを考える間もなく、反射的に踏み出した足は、しかし、王国騎士の一人に止められてしまう。


「てめぇ、何のつもりだ! ミイヤを追わねぇと……」


「貴様こそ、何のつもりだ?」


「はぁ?」


 騎士の放った予想外の言葉にアレンが首をかしげた。


「てめぇ何を言って……」


「勇者とか、勇者じゃないとか……それ以前に、仲間がやられたら普通、次はそうならないようにと訓練くらいするんじゃないのか!?」


「はぁ? 俺は勇者なんだぞ。訓練なんて……」


「黙れ……」


 騎士の男は呆れた表情でアレンを見ている。


「仲間を失って尚、なにもしないとはな……貴様などもはや勇者ではない。例え職業が勇者だとしても、貴様に勇者を名乗る資格はない!」

 

 騎士はそう言い、アレンを力強く突き飛ばした。

 アレンが勢いよく、冒険者ギルドの壁にぶつかる。


「っ……痛てぇな、何すんだ」


 打ちつけた後頭部を押さえながら騎士の男を睨むも、男は怯まない。


「勇者とは思えない弱さだな。貴様など必要ない。ここを出ていってくれ」

 

「はぁ? 何言ってんだよ……俺がいなきゃお前ら何も」


「ねぇ、アレン。ここを出ようよ」


 ルルがアレンの前に立つ。


「あぁ?どうして……」


 ルルがアレンに何かを訴えるように周囲を見渡す。

 アレンもルルの思いを察し、周りを見た。


「な、なんだよ……」


 王国騎士や冒険者たちが、鋭い目でアレンを睨んでいる。

 中には、まるで汚物でも見るかのような目をしている者もいた。

 もはや冒険者ギルド内に、アレンの居場所はなかった。


「っ……なんなんだよ」


 舌打ちをしながら、アレンが立ち上がる。

「帰れ」と言わんばかりの鋭く、痛い視線が、アレンに刺さる。


「て、てめぇらがどうなろうと、俺は知らねぇからな!」


「ふん。貴様なんぞ、いてもいなくても大差はない。むしろ邪魔だ」


「あぁ、そうかよ。ルル、シーナ、この街を出ていくぞ。こんな奴等になんて構ってられるか!」


 そう言うとアレンは、ルルとシーナを連れ、逃げるように冒険者ギルドを去っていった。

 



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