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白魔導師、と魔族

すまない! ずっと体調が優れない日が続いて……今日はちょっと短めです(3,000字くらい)。

「ま、狭い部屋だけど、よろしく。すまないね。本当はロイドと同じく、一人部屋を用意してやりたかったんだけど、そんな余裕がなくて」


「いえ、泊めてもらえるだけでも、ありがたいです」


 少し緊張した様子で、感謝を述べるシリカ。勘違いでなければ、どこかぎこちない笑みを浮かべていた。


 それからすぐに、リエはまた、支度を済ませ、どこかへと向かった。

 どうやら、これから家から出ることの出来ない患者らの元を回るそうだ。時間のあるうちに、出来ることはしておきたいと。

 俺も微力ながら、何かできるかもしれないと。同行しようかと提案したが、外に出るとなるとあの不審な格好は避けられない。かえって、患者を怖がらせかねないため、付いてくるなと強めの口調で止められてしまった。

 それに数日ぶりの再会だ。事情も事情なだけあって、リエがいると出来ないような、積もる話もあるだろうと。

 気遣いの言葉と共に、俺とシリカを自室へと残し、出ていった。


 俺はあまりに気にはならなかったが、リエが部屋を出たことで、シリカの緊張はほんの少し解けた気がする。

 やはり、魔族だからだろう。

 それでも、リエ個人の印象は悪くないようで、

 

「本当に、魔族にも色々な方がいるんですね。正直、魔導国に来るまで、もっと野蛮な種族なんじゃないかって、失礼ながらそう思っていました」


 リエが立ち去って、シリカが真っ先に言った言葉がそれだった。

 俺もシリカも、ここに至るまで三大国に踏み入るような、攻撃的な魔族しか見てこなかった。それ以外を、知らなかった。知る機会もなかった。

 そんなシリカにとって、ここでの光景と、そして出会いは、かなり衝撃的なものだったそうだ。


「ここに来るまでも色々、そこまで長い時間ではありませんが、魔族の暮らしを見ました。確かに、王国に比べると少々……荒っぽいとことはありますが、それでも、想像よりはずっと人らしい暮らしというか。考えて見れば、当たり前のことなんですけど」


 時折、時間をかけ、言葉を慎重に選びながら思いを告げる。


「正直、今でも困惑してます。あの場では、自然に振る舞いましたが、今も怖くはあるんです」


 シリカの閉じた拳に、湧き上がる恐怖を閉じ込めんとするかのように、力がこめられる。

 それでも俺の言葉を信じ、リエの部屋に泊まることを決断した。そう思うと、信頼されている嬉しさと、シリカの心中をもっと深く考慮しなかったことへの申し訳なさに襲われる。


「本音を言えば、ロイドさんと同じ部屋の方が、まだ安心できます」


「……あっ、そういう選択肢もあったか」


 自然と選択肢の中から排除していたが、確かに。人によってはまだその方がマシと考えるのも無理ないのか。

 まぁ、それはそれで後々、ユイあたりに面倒な態度を取られかねないリスクがあるか。


「ロイドさんは、怖くないんですか?」


「俺か? そう、だな」


 シリカに問われ、改めて自分の中の魔族に対する印象を探ってみる。

 今はもう、バレる恐怖はあっても、魔族という種族そのものに対する恐怖はない。そもそも、かなり早い段階で、そんな感情は自分の中から抜け落ちてた気がする。


「俺はまぁ……勇者パーティーに入るまで、本当に狭い世界で生きてきて。十六の時、街に来て初めて、師匠やその友人以外との交流を持った。だから、なんだろうな……人間だから身内だ、同類だ、とか。あるいは、獣人だから違う、とか。もちろん、種族的な差はあると思っているが……そこに、あんまし感情が乗ってない、っていうのか」


 思いが言葉として上手く、簡潔に纏まらないまま、それでもダラダラと紡いでいく。


「知識として魔族は危険、と知っているが、案外、嫌悪感や敵対心みたいなものは低いのかも知れない」


「な、なるほど」


「あるいは、ここに来て初めに出会った魔族が、メルっていう女の子で、その子に優しくされた、助けられたからっていう、もっと単純な理由かも知れない」


 初めて出会う魔族次第では、俺の中の種族への印象は大きく変わったに違いない。


「そうかも知れませんね」


 結局、俺自身、まだはっきりとは分からない。

 それでも一つ、確信があった。

 シリカのそんな感情も、リエを、メルを、より深く知れば薄れるだろう。より関わりを増していけば、いつかは消えるだろう。

 だからこそ、リエと共に時間を過ごすことは悪くないかも知れない。

 そう結論づけ、他の選択肢に気が付かなかった事実を、忘れようとする。罪悪感から目を背けようとする。


「リエやメルと、もっと話して見たらどうだ? 時間はあるだろうし」


「そうですね。私、頑張ります!」


 リエにはどこか、ユイに似たところを感じることがある。

 ユイと仲の良いシリカなら、そしてあのリエならば、きっと、上手くできるだろう。


「お世話になる以上、何かしらで恩を返したいんですけど。それこそ、ロイドさんは、色々と手伝っているみたいじゃないですか」


 手伝い、と言うとあの診療所のことだろうか。


「あれは手伝いじゃなくて、ただの取引だ」


「そうなんですか?」


「あぁ、元々、しばらく働くことと引き換えに、しばらくの旅の旅費と、都合の良い人材の紹介をしてもらう予定だったんだ」


 それも今やどうするか、考え直す必要が出てきたが。

 二人が沈黙すると、子供の楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 チラリと、カーテンの隙間から遠くで遊ぶ子供達の姿を捉える。そこでは数名の十歳くらいの男女に、筋トレのやり方を教え、サポートするハイドの姿があった。


「そう言えば、ここは孤児院でしたね」


 魔族とは言え、子供たちが無邪気に遊んでいる光景には和まされる。


「……俺たちは人間だ。今は、見つからないように務める。それが一番なんだろう」


 恩は返せずとも、せめて、仇で返すことにはならないように。


「……ですね」


 子供たちは良くも悪くも素直で、器用な嘘をつける子供は少ない。それは人間も獣人も、おそらく魔族も同じだろう。そんな子供に俺たちの正体が露呈すれば、どこかから情報が漏れるかも知れない。

 そしてそれは、回り回って、孤児院への迷惑に繋がりかねない。

 今はこの部屋を不用意に出ることさえ危険だ。


「そんなわけだ。どうせ出来ることもないし、ここらで作戦……」


 そう提案しつつ、窓の外で遊ぶ子供から視線を戻すと、シリカが瞼を下ろし、静かに寝息を立てているのが目に入った。

 ウトウトと頭を揺らしながら、眠るシリカを見て言葉を止める。


 緊張が解けたからか。溜め込んでいた疲れが、堪えていた睡魔が、どっと押し寄せてきたのだろう。

 もしかすると、シリカはずっと満足に睡眠を取れない状態で、一人、ここまで来たのかもしれない。自分の身の危険を意識し、常に警戒しつつ、安否の分からない仲間への不安も募らせて。それがどれほどの心労かは、当然、俺も理解し、共感できるところだった。ただ、シリカの場合はそれが俺よりも長い間、続いていた。しかも、誰と話すことも出来ない孤独は、良い意味でも悪い意味でも、想像力を高める。俺よりずっと辛く、苦しい環境にいたのは間違いない。


「作戦会議は後回しだな」


 近くにあったクッションを枕代わりにさせてもらい、そっと優しくシリカを横にする。熟練の冒険者がここまでされても起きる様子一つないのだから、その疲れは相当なのだろう。

 スヤスヤと眠るシリカの寝顔を前に、俺は今一度、気合を入れる。


「早く、ユイたちも見つけてやらないとな」 


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

今晩の先行配信で、アニメは12話……最終話です。

アニメ最終話も楽しんで見ていただけると、私としても嬉しいです。

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