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白魔導師、戦略を立てる



 探知魔法を発動しているため、モンスターの群れが徐々にこちらへと近づいてきているのが分かる。迫りくる絶望的な状況がリアルタイムに観察できた。

 また、モンスターの群れが近づくにつれ、そのモンスターの種類も分かるようになってきた。

 群れには、スライムやゴブリンと言った弱いモンスターもいれば、コカトリスのような魔法を扱う類の厄介なモンスターもいる。


「随分と不思議な組み合わせだな……」


 本来ならあり得ないような組み合わせを前に、自然とそんな言葉が出る。


「ねぇ、どうするの?」


 ユイが不安そうな表情で見つめてくる。

 幸いにも群れの中に特別強いモンスターがいる様子はない。

 いや、強いモンスターは使役出来なかったと考えるべきだろうか。群れにいるモンスターはどれも、Sランク冒険者なら難なく倒せるようなモンスターばかりだ。

 だが、これだけの数となるとそう簡単にはいかないだろう。


「そうだな……何とかして倒したいが、流石にこの数は難しいな」


「えぇ、いったいどうれば」


 ダッガスとユイは、俺から聞いた情報を元に対策を考えている。


「一応考えはあるんだが……」


 大体の作戦は立ててある。

 この作戦でキーとなるのは、攻撃系の魔法職であるシリカだ。シリカの使える魔法の属性によって、作戦の内容が変わってくる。


「なぁ、シリカはどの属性の魔法が使えるんだ?」


「……基本の四属性は使えます」


「そうか。基本の四属性か……」


 基本の四属性とは、火、水、土、風のことだ。これらは、使える人が多い属性なため、基本四属性と呼ばれている。四つ全ては相当稀有だが。

 他にも魔法の属性には、氷や雷と言ったものもあるが、今回は必要ないため使えなくても問題はない。


「クロス、残りの矢は?」


「そうだな……ロイドに預けている分も考えるとあと百本くらいはあるはずだ。今回はロイドの収納魔法のお陰でいつもより多く持ってくることが出来たからな」


 残りの矢は百本程度あるそうだ。

 よし……これだけあれば、俺の考えた作戦を実行することが出来る。


「ユイ、ダッガス、シリカ、クロス……俺に考えがあるんたが、聞いてくれないか?」


 俺がそう言うと、ユイ達はこくりと頷いた。




 ◇



 あれから数十分が経過した。

 俺達が来た方向から大量のモンスターが迫ってくるのが見える。探知魔法で観察していた時から凄かったが、あの数に迫られると言うのは、創造以上の恐怖を感じるな……

 木々の隙間をびっしりとモンスターが埋め尽くし、行進している。

 また、地上ほどではないものの、空にもかなりの数のモンスターが飛んでいた。


「す、凄い数ね……いったい何匹いるのかしら」


 少し高くなっている場所から、モンスターの群れを眺めていたユイが呟く。

 物凄い勢いでモンスターの群れががこちらへと迫って来ている。

 よし……そろそろいいだろう。


「シリカ、今だ!」


「は、はい」


 俺の合図と共に、シリカが杖を構える。


「ファイヤーストーム!」


 シリカが呪文を叫びながら杖をモンスターの群れへと向けた。

 すると森の中に、巨大な炎のドームが現れる。

 炎のドームはモンスターと木々を飲み込んでいく。


「凄い……」


 ユイが炎のドームを見ながら呟く。


「ねぇ、ロイド。シリカに何をしたの? 何かいつもより、凄いことになってるんだけど……」

 

「俺はただ、シリカに魔法威力上昇と魔力消費量軽減の二つの強化魔法をかけただけだ」


「だけって……」


 ユイが呆れた表情でこちらを見てくる。

 やはり、俺の支援魔法は、まだまだと言うことだろう。強化魔法を重ねがけすれば、もう少し威力を底上げできるが、ここで大量の魔力を消費するわけにはいかない。


「シリカ、まだいけるな?」


「はい。あと五発は打てます……」


 シリカがファイヤーストームを使用出来るのは残り五回。あの分を考えると残り三発と言ったところだろう。


「あと三発打ったら、風魔法で火を強めてくれ。魔法は風を起こせればなんでもいい」


「わ、分かりました」


 俺はシリカへそう言うと、次のステップへと移るためにクロスのもとへと向かった。

 ユイやシリカのいる場所よりも高い場所で待機しているクロスのもとへと到着した後、収納魔法でしまっていた残りの矢を全て取り出す。


 そして一本ずつ、強化魔法をかけていった。

 本当ならば、一気に強化魔法をかけたいところだが、少しでも魔力の消費量を減らすために、一本ずつ強化魔法をかけていく。

 そのため、時間がかかってしまうが……

 問題ない。

 これも想定の内だ。


「そろそろか……」


 持ってきた矢、全てに強化魔法をかけ終えた俺は、森の方へと視線を向けた。

 もう、ファイヤーストームは打ち終わったらしく、風を起こし火を強める作業へと入っていた。

 広範囲にわたって、森が煙を上げながら燃えている。

 これで、空を飛ぶモンスターの視界はかなり悪くなるだろう。そうでなくとも、かなり気にはなるはずだ。視界が悪く、注意力の下がった彼らは、格好の的だ。


「クロス、いくぞ」


「おう、頼むぜ」


 クロスの頭に右手を近づけ、思考共有を発動し、探知魔法で得たモンスターの位置情報をそのまま伝える。

 これで姿が見えなくえも、煙の中にいるモンスターの位置をとらえることが出来るはずだ。


「これでどうだ?」


 あの量のモンスターを一匹ずつ操るのは不可能だ。おそらく、あの群れのモンスター達は簡単な命令のようなもので動いているのだろう。


「そろそろ頃合いか……」


 もう、地上にいるモンスターの多くは倒せたはずだ。まだ、生き残りもいるようだが、それは別に構わない。

 俺は風魔法で炎を強めているシリカのもとへと向かった。

 

「シリカ、もう風魔法は十分だ。次の段階に移るぞ」


「はい。ですが、もう魔力がほとんど」


「あぁ……分かっている。だから、今から俺の魔力を渡す。使ってくれ」


 魔力譲渡で俺の残りの魔力の九割をシリカへと渡す。


「っ……」


 突如、倦怠感に襲われ尻餅をつく。

 ここまで魔力を消費したのは久しぶりだ。

 流石に辛い。

 こんなことになるなら、飲むことで魔力を回復できるマナポーションを買っておくべきだったな。

 

「だ、大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫だ。それよりも、早くやってくれ」


「はい……」


 シリカはそう言うと再び、森の方へと杖を構え、大きく深呼吸をした。

 そしてゆっくりと口を開く。


「アクアウェーブ!」


 杖の先端から大量の水が流れでていき、森についている火を一気に鎮火していく。

 また、それにより発生した蒸気が、空を飛ぶモンスターを包み込んでいき、モンスターの視界をさらに悪化させる。

 これで、一方的にクロスが攻撃をすることが出来るようになった。

 それに地上のモンスターも、アクアウェーブの水圧で相当仕留められたはずだ。


「も、もうダメです……」


 シリカの身体がふらつき、地面へと倒れそうになる。

 それをダッガスが両手で受け止める。


「あとは任せてくれ」


「えぇ……シリカは休んでてね。残りの奴等をちゃちゃっと片付けてくるから!」


「あまり無茶しないでくださいね……」


「いや、シリカ。あんたに言われてもね……」


 ダッガスが静かにシリカを地面へと寝かせる。


「それにしても、本当に凄いわね。こんな戦略をこの土壇場で思い付くなんて」


「たいしたことはしていない。俺はただ、パーティーの支援職として当然のことをしたまでだ」


「あんた、まだそれを言い続けるのね……」


 ユイが大きなため息をつく。

 何故だろう。俺は当たり前のことをしただけであり、特別何かをした覚えはない。


「まぁいいわ。ロイドも私達に任せて、ゆっくりと休んでなさい」


「あぁ、そうさせてもらう」


 残りの魔力でユイとダッガスに強化魔法をかける。

 探知魔法で確認してみるが、ここらにはもう十数匹のモンスターしかいない。

 生き残りのほとんどが、あれらの攻撃を凌いだ、つまりある程度強いモンスターだが、ユイ達なら問題ないはずだ。


「はぁ……この程度で疲れるなんて、俺はまだまだだな」


 その後、俺はユイ達がモンスターらを圧倒していく様を、座りながら見守った。


  

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