覗きはダメって言ってたでしょ?
この時期になると、学校行事の如くやらされる退屈なスポーツが始まる。
体育館が空いているならバスケでいいだろ、バレーボールでいいじゃん。
何故、マラソン……?
「学校外を走るのは退屈ですわね」
「そーそー」
「ま、いいっしょ。先生が常に監視してるわけじゃないし、コンビニとか行かない?」
茅場高校に在籍する、阿波野、一二三、斎藤の女子3名も今日の授業はマラソン。
「ジャージでコンビニに行けば、地域の方々にバレて、色々言われる事ですわ」
「それがまたいいんじゃん。どーした、それで?怒られる事を恐れるなー!」
「どM?」
「ちげぇよ、一二三……そんな事を気にして、コンビニに行けるかー!の話!菓子買ってこよーよ」
ジャージの着方からして、その育ちにお上品さのない斎藤。行き当たりばったりと、そーいうしょーもないスリルがいいのだって感じで
「事前に菓子は買っておきなさい」
「あと、食べ過ぎなのよ。授業中でも節制して食べなさい」
「あんた達、キツイ事言うわー」
言葉にするが、阿波野と一二三は真面目である。真面目故、斎藤の行動に対しても尊重してあげている。
「太らない?」
「言・う・な……」
「お財布が太れば、お昼も沢山食べられるのにね」
「言・う・な……」
まったく、良い奴等なのか。悪い奴等なのか。
そんなこんなでマラソンをするのだが、外でやっているせいと集団行動が常となっている事で感じている異常。数人の生徒達は気付くし、その割合が女子に多いこと。
「なーんか、覗かれてない?ガン見されてる気配すんだけど」
「あのマンションの706号室を見なさい。40代っぽい見た目で頭がハゲているおじさんが双眼鏡で熱心に私達を視ているわ」
「生々しく言うな!!阿波野!!」
「あの親父は、夏のプールの時にも覗いていたな」
「マジで!?っていうか、一二三と阿波野ビンカン過ぎ!!」
イケメンに見られるならともかく、いい歳したおっさんがやっているから寒気どころじゃない。あー、マラソンに適した気温でも、それどころじゃない気分だ。
「大方、顔を見て喜んでいるんでしょう」
「胸のサイズを測っているのかもな。夏の頃より大きくなっているだろう」
「わ、私はそこまでデカくなってない。強いて言えば、お腹のつまみがね……って言わせるな!」
あとで警察に言っても、注意程度に終わるだろうし。どーのこーのの言い訳もできる。困ったもんだ。
「覗きはホントにダメだっつーの。やる奴の気持ち分かりたくない」
「大丈夫、斎藤は可愛くないから」
「お腹周りが気になる女を、好んで覗いたりはしないだろう?」
「酷いこと言うな―!!」
◇ ◇
次の時間。
科学の小テスト中、
【阿波野!阿波野!!】
斎藤は隣の席にいる阿波野にジェスチャーを送った。
【カンニングさせて!教えて!全然、分からない!】
気付いた阿波野はペンを置き、両手の人差し指を交差させ
【ダメ、覗きはダメって言ってたでしょ?】
【そんな~~~!!】
ポカンッ
カンニングの失敗。
集中力不足と勉強不足が露呈。
見回っている先生から軽いチョップが斎藤に繰り出された。
覗きができなかったから、散々過ぎる結果だった。