第二章 知恵の書と女神
僕は、こんな悲惨な状況だったし、友達も当然いなかったので、休み時間はいつも図書室に逃げ込んでいた。
今は、昼休み。
そそくさと図書室へ行き、やっと一息つけると安心した。
図書室にばかりいるせいか、本だけはかなり読んでいた。
だから、この学校の図書室にある本は、全部は読んでいないが、どんな本があるかは大体把握しているくらいの本の虫であった。
「今日もロクでもない日だな。いつまでこんな生活が続くんだろう。」
知らず知らず愚痴がこぼれた。
「きっと、この世に神様なんていやしないんだ。何にも悪いことしていない僕がこんなに苦しまなきゃならなくて、悪いことをしているやつらは楽しんでいる。そんな世界なんてもう要らないよ。」
ぼんやり本棚にある本の背表紙を見ながら、涙がツーっと頬を流れた。
「綺麗な流れ星ですね」
誰かの声がした。しかも大人の女性の声らしかった。
「え?流れ星?」
僕は正体不明の声が怖かったが、聞き返していた。
「はい、貴方の頬にある悲しい水滴のことですよ。」
謎の声が言った。
「男の子だから泣くなって言うの?、それに貴女誰?」
「まぁまぁ、お気になさらず。男の子だって泣いたっていいでしょう?男の子だから女の子だからっていうのは、古い価値観で…。そんなことは置いておいて、流れ星に願いを込めたら、願いが叶うって聞いたことありません?」
僕は突然の不思議な出来事で頭が混乱していたが、一応答えることにした。
「流れ星が消える前に、願い事を何回か唱えるっていうあれでしょ?そんなインチキくさい方法で願いが叶うわけないじゃん。」
「『信じるものは救われる』と昔から言われるように、信じる力というものは物凄いパワーを持っているものです。それはともかく、もし『今の環境から抜け出したい』という願望があるのでしたら、そこの本棚にある『知恵の書』をお開きください。きっとお役に立ちますよ。」
本棚を見たら、見慣れない文字の薄っすら光っている本が確かにある。何語で書かれているのだろうか。よくわからないけど、これが「知恵の書」…?
思わずその「知恵の書」を手に取ってみた。変えたい。変わりたい。そう強く思ったのだろう。藁にもすがる思いだった。
すると、目の前に、女神の姿が現れた。周囲がキラキラ光っていて、髪も黄金色、目は青空みたいに透き通っていて、白衣に包まれた、いかにも西洋人っぽいスレンダーな女性だった。綺麗でもあったし、神々しかった。
「申し遅れました。私は、知恵の神、メーティスと申します。知の国、アテナイから貴方を招待するためにここにやってきました。貴方は、知の国から選ばれし者なのです。こんなところにいるべき人間ではないのですよ。」
正直、このメーティスと名乗る女神の話は、簡単には信じられないというのもあったが、僕には話の内容自体がそもそも理解ができなかった。でも、なぜか惹かれるものがあった。それに、僕をこんな真っ直ぐに褒めてくれる、認めてくれる存在に初めて会ったのが衝撃的だった。
「知の国?何それ?しかも選ばれたってわけわかんないや。でも、今の状況が変わるのなら、なんだっていい。神様なんでしょ?変えてください!お願いします!」