第一章 苦痛の日々
その日は、風が強かった。
空は、どんより曇っていて何だか妙な天気だった。
はぁ、また嫌な一日が始まる。
さて、そろそろ学校に行くか。
登校中、歩いている僕に風が吹き付ける。
木々の枝葉が擦れ合う音がする。
ふと、立ち止まった。
何故だろう、一人きりでこうやってぼんやり樹木を眺めているときだけ、自分は生きているんだって感じる。
心が、「僕は、ここにいるんだ」って叫んでいる。
でも、その声は誰にも届いていないようだった。
学校に着くと、いつものように僕にとっては最悪な三人組が校門の前に立っていた。
胃がむかつきだし、吐き気を催すほど気分が悪くなってきていた。
待ち伏せされている場所が場所だけに、見つかる確率は百パーセントだ。
どっか行くのを待つという選択肢もあるが、奴らが立ち去るのは学校に間に合うギリギリの時間。
それまで待っていると遅刻してしまう。
最近先生は、受験が近いのでピリピリしているから、遅刻はしたくない。
よし、ここは強行突破しかない。
しかし、もたついている間に、奴らは僕に気づいてしまった。
「ん?誰かと思えば、葉山君じゃあないか?」と三人組の一人、井上要一が言った。
この井上が三人組のリーダー格で、他はひょろくてずる賢い木下康太と、図体ばかりがデカい富田剛という組み合わせだ。
足がすくんで動けなかった。
そうこうするうちに、奴らは僕の目の前まで来てしまった。
「今日も俺たちのために、ちゃんと金は用意したんだろうなぁ?」
木下は、いやらしい笑みを浮かべて言い放った。
にやにやとしているところがこの上なく憎い。
「持ってない」
「ん?聞こえねぇなぁ?」と木下。
クソッ、こいつら…。
「『お前らにやる金はない』と言っているんだ」
僕は、精一杯の声を振り絞って言った。
しかし、奴らはただニタニタ笑っているだけだった。
「まだよくわかってないらしいぜ、要一。もうちょっと強く痛みつけた方がいいんじゃねぇか?」
木下が得意げにチラリと井上の方を見た。
「あぁ、そうだな。」と井上。
「やっちまいな、剛。」
富田は、その合図を聞くと、指をボキボキ鳴らした。
「ふっ、ストレス解消に最適だな」
そう言うと、富田はカバンを下して急接近してきた。
僕は、とっさに逃げようとしたが、後ろにもやつらの一味がいて、行こうにも行けなかった。
こぶしが飛んでくる。
かわそうとするけれども、間に合わない。
何が何だかわからないうちに、僕は倒れていた。
凄まじい痛み。
必死に立ち上がって逃げようとするが、他の二人に押さえつけられた。
またこぶしが飛んでくる。
蹴られる。
袋叩きだ。
全身がどこもかしこも痛む。
しばらくの暴行のあと、気が済んだのか、
「ははは~、あぁ~楽しかった~。これに懲りたら次からはちゃんと金、持って来いよ。じゃあな~」
と捨て台詞を残して奴らは去っていった。
「必ず復讐してやる」と、三人の後ろ姿を見ながら心の中で誓った。
結局、学校へは遅刻した。
ケガしたところもあったが、先生や周りは見て見ぬ振りだ。
周りで見ているだけのやつらも、憎かった。
でも、何より憎いのは、あの三人組だ。
授業中でも、僕の心の中は、憎しみと悔しさでいっぱいだった。