量産機好きによる量産機による量産機の為の賛歌
読者諸兄、俺は量産機が好きだ。
読者諸兄、俺は量産機が大好きだ。
読者諸兄、俺は量産機が超大好きだ。
Oクが好きだ。
ジOが好きだ。
リーOーが好きだ。
ティOレンが好きだ。
ソOティックが好きだ。
スOープドッグが好きだ。
ドラOーンが好きだ。
サOージが好きだ。
ディOファムが好きだ。
デOザードが好きだ。
エOテバリスが好きだ。
バルOリーはA型が好きだ。
宇宙で、コロニーで、
月で、火星で、
地上で、水中で、
凍土で、砂漠で
海上で、空中で
この世に存在する ありとあらゆる量産機が大好きだ
しかし、神よ。
ああ、神よ。
何故、この世界には、量産機が無くなってしまったのですか?
3Dプリンタが進化した少し先の未来、素材と設計図さえあれば、個人でも飛行機とかロボットとか、アホみたいに複雑なモノでも容易に生み出し、手に入れられる時代。
修理や維持整備も、適切なエネルギーと素材を与えれば、自己修復するので不要な時代。
軍用兵器ですら、個人に合わせた専用機化が当たり前となり、基本となる素体機はあれど、それを「そのまま」使う奴なんて誰も居ないから、量産機と呼ばれる事は無い。
ありとあらゆるものが、個人に特化したフルオーダーメイドが当たり前となり、一見そっくりに見える制服に至っても、全く同一の既製品なんてものは一つも無く、自分以外の他人が使う事をこれっぽっちも考えていない道具に囲まれている豊かな時代。
VRゲーとかはもう古く、ロボット対戦と言えば、好きな素体の設計図を購入し、カスタム屋に専用機化してもらった機体を、素材を使って実体化させ、それに実際に乗って戦う時代となっている。
もちろん、ゲームで死人を出すのはアホらしいので、実際に搭乗するのは、素材で作った代義体に、意識を量子コピーした奴だ。
怪我もすれば、血も出るが、潰れて死んでも、その時点までの全記憶を量子サーバーに残すので、それを本物の自分と統合してやれば、経験も含めて引継ぎできる、誰も死なない戦争の出来上がり、である。
俺は、大断絶以前の、古い遺跡から発掘される娯楽作品の大ファンである。
ご同類がそうした作品のメカを素体用の設計図として再構築して販売しており、俺はそうしたメカの中でも、量産機と呼ばれる機体を好んで使う変人として、そこそこに有名なロボ対戦プレイヤーで、ランキングも中級上位。
プロとして食うには少し足りないが、アマチュアとしては自慢できる辺りに居る。
今日は、同作品ファンの集まりの対戦なのだが、ギャンズム各種纏めて1個中隊に追われるザコIIという、元作品からすると、「逆だろ!!」みたいな戦いが繰り広げられている。
原色だらけのギャンズム打撃自由カスタム改プラスが、ハリネズミの様に装備した自由電子レーザー砲をこちらに向け、乱射して来るのを、廃都市の地形を最大限に利用しながら躱しつつ、一旦スかせて、後ろから120mmザコマシンガンを叩き込む。
火力過多のしわ寄せで、装甲が薄めのアップルシード版ギャンズム系列は、実のところ、ロボとしてはカッコイイだけで弱い。
原作の様に、特殊で硬い装甲があれば強いのかもしれないが、現代技術で生み出せるロボの性能は、大体掛けた費用に比例し、趣味に走れば走るだけ下がる、と言う当たり前の結果に落ち着くようになっている。
だから、娯楽作品由来のロボを使う奴は、基本的に趣味人であり、同好の士が集まって対戦を楽しむ、と言うのが一般的なのだが、誰だって「俺が主人公だ」と思っている。
結果として、やられ役の量産機に好き好んで乗るロボ対戦プレイヤーは希少であり、大抵は、主催者が金を払って、やられ役を集める事になる。
そんな中で、量産機に乗る中級上位の腕を持つ俺は、ボーナスキャラにはうってつけであり、こうしたイベントでは、積極的にお声が掛かるようになっているのだ。
『僕のギャンズム打撃自由カスタム改プラスがぁぁぁぁぁ』
オープンチャンネルに響く、情けない叫び声をBGMにして、
「キラキラ様を名乗るには、100年早かったようだな…」
と返してやると、観客からどっと笑い声が上がる。
次に現れたのは、初代ギャンズムの陸戦型現地改修機だった。
娯楽作品由来のロボとしては、珍しい位に手堅い実弾優先で外連味の無い機体構成は、ランキング戦でもソコソコ上位に食い込めるほどの名機と呼ばれ、「お前量産機かよ!!」と言いたくなる位、同形機体が存在するのがご愛嬌である。
盾を外して地面に突き立て、長大な180mmキャノンを両手持ちして、ガンガン叩きこんでくる。
くっ、カッコイイ!
遮蔽物に逃げようとすれば、すかさず牽制射撃を撃ち込んでくるあたり、中級下位の腕前がありそうだ。
ぐずぐずしていれば、援軍が来てジリ貧になるだろう。
少し焦りを感じて、腰の収束榴弾に手を伸ばしたとき、
『ザコとは違うのだよ、ザコとわははははははー』
と、オバサンの雌叫びと共に、友軍の青いゴッフ・カスタムがビルの上に現れる。
ゴッフ・カスタムは75mmガトリンクを内蔵したシールドをギャンズム陸戦型へ向け、雨あられと弾丸を降り注ぎ、隙を作った。
「助かったぜ、ららぁ大佐ァ!」
色々と混ざって、原作準拠とは言い難いものの、俺と同様に量産機であるゴッフを愛する名物ロボ対戦プレイヤーららぁ大佐は、トレードマークのビンディを光らせると、ビルから地上へと降りながら、器用に牽制射撃でギャンズム陸戦型を釘付けにする。
『陸ギャンが相手なら、ゴッフじゃないとねぇ!!』
右腕からワイヤーアンカーを繰り出して、陸戦ギャンズムの左腕を絡め獲ると、1体1の体勢になり、巨大な実体剣を抜き放った。
陸戦ギャンズムも、レーザーソード抜き放って応戦する。
ランキング戦なら、横殴りも多対一も当たり前だが、作品ファンによる対戦の場合、見所を邪魔するのは野暮と言う話だ。
原作再現、とも言える殴り合いに、観客は盛り上がっている。
俺は、邪魔をしないように他の敵を探すべく、ジャンプ移動を開始した。
すると、珍しく対戦後半まで生き残っていた、接待用のザコIIが合流してくる。
『すみませーん、主戦場ってどの辺りっスか?』
低コスト最優先、見た目だけ原作準拠という接待用ロボは、搭載レーダーも最低ランクである為、広域妨害装置を搭載した電子戦機が混じるだけで、主催者からの通信指揮も出来ず、はぐれる事がある。
はて、電子戦が得意なギャンズムが混じってたっけ?と、参加機体の一覧を眺めた瞬間、一瞬だけ画面にノイズが走った。
即座にジャンプキャンセルからの回避機動を決めて、廃墟の陰に隠れる。
すると、いきなり何もない所から真っ黒い悪魔のような羽根を広げ、巨大な死神の鎌を装備したギャンズムが出現し、接待用のザコIIを両断した。
派手な爆発を背景に逆光で陰になった姿は、正に死神…。
ギャンズム死神煉獄・劇場版重装型カスタムであった。
そこ、ズッコケないで欲しい。
主人公メカだからと言って、原作準拠なロボの方が少ないのだ。
悪魔の羽根を模した可動装甲に光学迷彩を組み込み、レーダーを欺瞞する電子戦装備を詰め込んだロボには、殆どまともな戦闘力など無い。
主武装に見える巨大な死神の鎌だって、実体剣の一種だから、接待用ロボの紙装甲なら斬れても、ランキング戦用に相応の装甲を使っている俺のザコIIなら、直撃しても一度や二度なら耐えられるし、盾を使えば逆に鎌がへし折れることだってあり得る。
そんな彼らの主武装が、内蔵型の小型ミサイルである。
使い捨ての上、コストも高めだが、積めば積んだ分の火力があるし、何と言ってもミサイルの一斉発射は「派手でカッコイイ」。
その為、派生ギャンズムで誕生した弾庫艦のようにミサイルを大量に内蔵した重装型カスタムは、人気の改造なのだ。
ギャンズム死神煉獄は、明らかに熟練の回避機動を決めたザコIIを警戒しており、隠れた廃墟ビルに向けて、全弾発射を敢行した。
弾薬の1発ですら惜しむランキング戦ではなく、魅せる事が目的の対戦なので、発射された2桁に及ぶマイクロミサイルは、無用不要な高機動を発揮しながら、廃墟ビルを破壊していく。
しかし、派手な爆光が上がった時には、俺のザコIIはビルを迂回して、ギャンズム死神煉獄の後ろへ向けて移動しており、ハッキリ言って無駄弾であった。
『くっくっく、死ぬぜ。俺の姿を見た奴はみんな死ぬぜぇ!』
残弾が怪しい120mmザコマシンガンを盾の裏にマウントすると、後腰に装備していた200mm無反動砲…ザコバズーカを抜き放ち、爆発の余韻に浸るギャンズム死神煉獄を後から撃った。
趣味構成過ぎで脆弱な機体は、一撃で爆発四散である。
「任務、完了!」
もちろん、ギャラリーは大爆笑。
次なる敵を求めて、ジャンプ移動を再開すると、主催者からの指示リストが更新される。
試作ギャンズム1号機を指定方法で撃墜せよ…ああ、あの名物ロボ対戦プレイヤーが俺を指名したのか。
俺は、指定されたポイントに移動しつつ、弾切れとなったザコバズーカを捨て、120mmザコマシンガンの弾倉を交換して装備した。
ギャンズムは数多くの派生作品が作られたが、試作ギャンズム1号機は、初代ギャンズムと二代目ギャンズムとの間を繋ぐ派生作品で登場するロボである。
マニアの間では有名な話であるのだが、前半が発掘されてから、完結編である後半が発掘されるまでに、かなりの長い時間が掛かって、ファンをやきもきさせた作品であると同時に、ヒロインに対する評価が後半で大きく落ちた事でも有名な作品であった。
この名物ロボ対戦プレイヤーは、後半が発掘されるまでは、ニンジン嫌いなだけの、普通のロボ対戦プレイヤーだったのだが、後半を視聴してから、ロボ対戦プレイヤーネームを紫豚と変えた。
そして、戦域内にザコIIまたはゲルゴグが居る場合、とあるロールプレイをするようになったのだ。
ジャンプ移動でほどなく、指定されたポイントが見えてくる。
そこには、試作ギャンズム1号機が棒立ちしていた。
指定されている撃破方法は、まず120mmザコマシンガンで頭を吹き飛ばす。
すると、紫豚さんは
『きゃあああああ、あたしのギャンズムがぁぁぁ』
と野太い声で叫ぶので、ギャラリーがここで声を合わせて
『ボォォォォォォブ、そいつ踏めやぁ!!』
と合いの手を入れるので、すかさず操縦席をザコIIのキックで踏みつぶして撃破する、と言う流れになっている。
気持ちは分からなくも無いのだが、この為だけに毎回イベントに参加し、試作ギャンズム1号機を破壊されるロールプレイをするって、どんだけ憎いんだよ、と思う。
まあ、指示報酬がそれなりに貰えるので、毎回真面目に付き合っているのだが。
ピピピピピ……
タイマーが残りの戦闘時間が10分を切った事を教えてくれる。
この対戦に於いて、ボーナスキャラである俺を撃墜できれば、後の打ち上げで、主催者から表彰されるが、撃墜できなければ、賞金は次回の対戦に繰り越されるルールになっている。
主催者からは、3回に1回ぐらいのペースで負けるよう指示されており、前回華を持たせたので、今回は勝ち残るのが順当だ。
ラスト10分は、こちらの索敵欺瞞装置が解除され、参加全員のレーダーに居場所が暴露されるルールになっているから、生き残った全ての敵が、俺に目がけて殺到して来るだろう。
俺は、舐めプ用に80%の出力制限していたリミッターをカットし、腰マウントからヒートホークを抜いて、右手にマシンガン、左手にヒートホークという、いつもの両手装備のスタイルになると、レーダーに映る10機の光点を睨みつけた。
「さて、量産機を、無礼るなよ…」
遠くに見えるは10機の主人公機達、どいつもこいつも派手だし、カッコイイ。
しかし、俺は思うのだ。
みんな同じく主人公機に乗っていたら、つまらないんじゃないか、と。
主人公がカッコよさは、敵役が凄いからこそ際立つのではないか、と。
だから、俺は量産機が好きだ。大好きだ。超大好きだ!!
ディストピアタグが付いているのは、実はこの世界の人間は、全部データ人間で、ロボに乗る時にわざわざ代義体を使うのは、そうしないと物理的に干渉できないから。
つまり、潰れて死んでいるのは、やっぱり本人で、元のデータに死の瞬間がフィードバックされていないから気にしてないけど、死の記憶をフィードバックしたら狂う。
たまに、死に損ねて野生化した代義体が、別の自分として生きていたりする。
2018/08/27 戦闘を少し追加しました。