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恋蜘蛛 and then??

作者: たかむし

『人間になりたい。人間でいたい』


 何故ワタシはそんなことを思ったのだろうか。目の前に一人の女性が横たわっている。カノジョは自らの命をワタシに差し出した。


 人間など、ワタシたちに食べられても当然の愚鈍で醜悪な下等生物でしかない。どれくらいの年数、ワタシは人間を食べ続けただろうか。換算もできないほどの長い年月だ。人間どもを食す度に、その愚かな姿を何度見ただろうか。蔑みながら食べる味は最高だった。お前らは食べられるのにワタシが少し愛したフリをすると喜んで笑った。バカめ、と心の中でワタシも高らかに笑った。

 しかし。

 カノジョは一体何者だったのだろうか。全てにおいて私の想定外でしかなかった。なぜいつものようにすぐに食さなかったのだろうか。そして、今もなぜ、食すことを躊躇しているのだろうか。ワタシも年老いてしまったものだ。カノジョのワタシに対する愛情はワタシの中で妙な違和感を残しながらもたまらなく愛おしかった。愛おしい?

 そういえばカノジョをターゲットにし、それに関して協力者の集めるための発信を行っていたある日、アイツがワタシに面会を要求してきた。協力蜘蛛がこれまでになく多く集まり、これは大した獲物だ、と確信し、震えが止まらなかったワタシにとってアイツの訪問は厄介でしかなかった。

「どうかカノジョだけはやめてください」

 アイツはワタシにそう言って懇願してきたがワタシは相手にしなかった。それでもアイツは何度もワタシに面会を要求し、会う度に、やめてください、の主張を続けた。少々うんざりし始めたワタシはアイツに何故、獲物にしてはいけないのか、と理由を聞いた。

「私はカノジョに助けられたことがあります。そのかわりとして私は家蜘蛛としてカノジョを守っているつもりです。だからどうかカノジョだけはおやめください」

 たった一度助けられただけで何故だ、とワタシはそう思った。だいたいただの気まぐれだったかもしれないじゃないか。バカバカしい。ワタシは一度大きく頷いた。アイツはワタシが承諾したのかと思ったのか、数回体を大きく震わせた。ワタシは躊躇せず、アイツを踏み潰した。どうせ望みなど叶えてやれない。死んでしまっても悔いはなかろう。そしてワタシはカノジョの元に姿を現した。


 ワタシは冷たくなってしまったカノジョの塊に視線を落とした。もう食べる準備はできている。カノジョは「痛いのはやめて」と言っていた。ワタシは言われた通り、カノジョが眠っている間に針を刺し仮死状態にした。ワタシはカノジョのいうことをこの姿になっても守っている。笑える話じゃないか。

 カノジョにワタシは恋をしてしまったのだろうか。このワタシが?バカバカしい。あんな面倒ごとを楽しんで行っている人間どもは気が狂っている、と思った。アイツのワタシに対する呪いなのだろうか。それともカノジョを守るというアイツの魂がワタシに宿ってしまったのだろうか。『クモル』と名付けられたワタシは果たして「ワタシ」なのか、それとも「アイツ」なのだろうか。少し混乱してしまう。

 もう力はあまり残っていなかった。もしかするとカノジョを食している間に力尽きてしまうかもしれない。このままワタシも屍と化してしまったらカノジョは怒るだろうか。どうして、クモル約束したでしょ?と怒るだろうか。怒ったカノジョの顔を想像するだけでとても暖かい気持ちになった。そしてその言葉をもう聞けないことの悲しみが思った以上に大きくワタシを包み込んだ。心が深く沈んだのを感じ、涙がとめどなく溢れた。


 ムカシムカシ アルトコロ二人間二恋ヲシタ一匹ノ蜘蛛ガオリマシタトサトサトサ…

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