第二番隊と事件 1
「セラヴィー、セラヴィーはいるかい?」
ある若い男が軍の第二番隊隊長室に入ってくる。
中には一人、書類を見ながら難しい顔をした女性が座っていた。
彼女は肩甲骨あたりまであるであろう茶色の髪を、編み込まれた青い髪紐で無造作に結びその整った顔を覗かせている。
歳は20代後半から30代前半で瞳は透き通った青色でどこか異国を思わせるが、そんな彼女はほとんど化粧をしておらず軍服をきっちりと着込んでいた。
体もきちんと見ればしなやかな筋肉がついている事がわかり、男性に引けを取らない貫録を醸し出していた。
彼女―――――……セラヴィー・アノマニフは嫌そうな顔を崩そうともせず、入ってきた男性を睨みつけた。
「ユフィスト、入るときはノックをしろと何度言わせるつもりだ。しかも私は隊長でお前は副隊長だ。軍務中は敬語を使え。」
入ってきた男、ユフィスト・ケリーはもともと糸目な目を更に細めて笑う。
ユフィストは青い髪に耳にかかる程度の長さで、身長は180はあるだろう。
軍にいる割にはあまり強そうには見えず、とても細い印象を受けるが、それでも副隊長として認められているのは、ひとえに彼の人望の厚さと技術力の高さによるものだろう。
彼は人との距離を測るのが上手く、さりげない気配りもできるため、女性からの支持は多い。
また、彼はこう見えて体術が人よりもでき、無駄のない動きから繰り出される技は普段の彼からは想像出来ないほどだ。
そのため新人で入ってきた軍人に制裁をお見舞いするのがここ最近の軍の名物となりつつある。
自分にも他人にも厳しいが誰よりも仕事に真摯なセラヴィーと、それを補うように支え隊全体を把握しているユフィストによって、このメイレス王国軍第二番隊は運営されていた。
ユフィストはセラヴィーに近づきながら話を進める。
「大丈夫、きちんと周りは見ているよ。それに僕らは同期だろう?これくらい大目に見てくれよ。」
「ぬかせ。お前が二番隊隊舎で敬語を使ったところなど見たことがない。これでは部隊の者に示しがつかないから改めろと言っているんだ。」
しかし、きつく言われている本人は「まぁまぁ、固いこと言わずにさ。」と反省の色が見えないため、セラヴィーはため息をついた。
そのため、そのまま「用件はなんだ。」と問うと、先ほどのふざけていた雰囲気は仕舞、ユフィストは真剣な顔で話始めた。