表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

三賢者2

 そんな訳で、俺、ヴァンダード、ナサフの3人はウルヴァの巫女となる娘が生まれたという辺境の村に向かっている。向かっていると言うか、向かわされていると言うか。馬に乗っても十日ほどかかるかかるという。なぜにそんな辺境の地に生まれたんだ娘…。城下町でいいだろうに。


 普段から仕事で馬に乗り慣れているヴァンダードはともかく、何故魔術士のナサフまで巧みに馬を操っているのか不思議でならない。魔術士なんて運動神経いらない職業じゃないのか。そのせいで、三人(三馬?)の歩みが遅いのが俺のせいなのがまるわかりじゃないか。


 そもそも神官の仕事で馬に乗ることなんてない。乗馬なんてアカデミアに居た頃にちょっとやったくらいで、運動神経がそれほど良くなかった俺は酷い有様だった。もう馬になんて乗るものかと思っていたが、そうは問屋が卸してくれないらしい。


 苦戦しつつも歩みを進めてると、俺に合わせてゆっくりと進んでいたヴァンダードとナサフの話し声が微かに聞こえてきた。


「ところで、ナサフ。あれはどういうことだ」、そうヴァンダードが問いかける。


「あれって何のこと?」


「『祝福ではない』と言ってただろう」


「ああ、そのことか…」


その話なら、俺も聞きたい。何とか二人に近づくと、会話の続きが聞こえてきた。


「神官やってるミスダスはウルヴァの巫女について知ってると思うけど、ヴァンダードはどこまで知ってんの?」


ナサフは話を進める代わりに、質問で返してきた。


「俺か?あの部屋で聞くまで知らなかった。そもそも何なんだ、そのウルヴァの巫女ってのは」


ヴァンダードの答えに、ナサフは盛大にため息を漏らす。ナサフは首を回して後方を向くと、今度は俺に聞いてきた。


「で、ミスダスはどの程度まで知ってるの?」


 どの程度?あの書物に書かれてる以上のことがあるのか、それともナサフコイツは書物に書かれてることの一部しか知らないのか?


「どの程度って、ラリス神とキルヴァ神専属の巫女だろ?」


 俺が当たり障りない程度に答えると、これまた盛大なため息がナサフから漏れた。何なんだ、この失礼な奴は。ついでに言えば年上に対する口の利き方もなってないだろ。呼び捨てとか何なんだ!当たり前のようにタメ口だし!


「表向きはそうだね。まあ、裏を返してもその通りだろうけど」


ナサフは一度言葉を区切ると、次を続けた。


「可愛い娘が生まれたってのに、『十年後にはあんたらの娘は神殿連れてくぜ、その後は二度と戻ってこないぞ』なんて先制打たれるんなんて、まっとうな親なら喜ばないだろ…」


「あっ…」


ナサフに言われて、俺は初めてそのことに気が付いた。


 神官生活もそれなりの長さになってきたので、まず神殿ありきの考えに偏ってたことにナサフの言葉を聞いて思い知らされた。『普通の感覚』というものと少しズレて来てしまっていた。考えればすぐに分かることだろうに、俺はそこまで考えず、「巫女が生まれたのか、めでたい」くらいにしか思っていなかった。


「その先制を打ちに行くお役目が、俺らに降りかかて来たんだ」


うんざりした表情でナサフが最後を括った。


「成程。確かにまっとうな親からしたら、悪魔の使いのようにしか見えんな、俺たちは」


言われてヴァンダードも納得している。が、ヴァンダードはさらに次を続ける。


「しかし、まっとうな親ばかりとも限らないだろう」


酷いこと言う男がここに居るよ…。


「だといいけどねー」


半ばやけっぱち気味にナサフが答えた。




「ところで、俺やナサフはいいとして、何故その役目にミスダスこいつも居るんだ?」


さも不思議だと言わんばかりの口調でヴァンダードが言いながら目で俺を指す。


「俺としては楽でいいが、神殿は人材不足なのか?」


いくら旧友とは言え、酷い言い様だ。


「なんなの?ヴァンダード。俺じゃ役不足だって言いたいの?」


「まあ、そんなところだ」


ハッキリ言うな、ハッキリ! いくら旧友とは言え、言って良いことと言っちゃマズいことがあるだろ、お前。


「それ言うなら、そもそもこの人選自体が何なの?って気もするけど」


そう答えたのはナサフだった。


「どういう事だ?」


ヴァンダードが問うと、ナサフが自身の考えを披露した。


「神殿から神官が行って祝福を挙げる、魔術士が特殊結界を作る、その二人の警護に騎士団が付くってのは分かる。魔術士側から言わせてもらえば、今回おこなってくる特殊結界が作れるヤツは何人かいるから、俺でなくてもいいワケよ。なのに、辺境に隠居してる俺をわざわざ呼びつけて、首都挟んでさらに辺境の村に行かせるとか、何考えてるんだろうねーと」


「特殊結界?」


聞きなれない言葉に、ヴァンダードが繰り返す。


「そ。ちょっと特殊な結界。そりゃラリス神とキルヴァ神の大事な巫女ですから、そこら辺の変な輩に手ぇ出されたら困るでしょ。

 それと、騎士団で若手の中でも出世株のヴァンダードがつくのは妥当だとして、何でミスダス? やっぱ神殿って人材不足なの?」


ナサフまで失礼なこと言いやがる。ってか、ヴァンダードって出世株だったのか?そんな話、俺は聞いてないぞ!


「お前ら、ちょっと待て! この人選は、アフィル様自ら行ったものだ。文句があるならアフィル様に言え!」


「アフィル殿が?」


訝しがるようにヴァンダードが俺に聞き返す。一方のナサフは相変わらず納得いかなそうな顔をしている。


「ふーん。あの長老神官かぁ。」


ナサフはそれから何やら考えていたようだったが、それを口にすることはなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ