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三賢者1

 ミスダスはアフィルの私室へと向かっていた。中央神殿は私室以外は基本的に中央神殿にいる神官だったら何処へでも出入り自由である。"基本的に" というのは、一部、何人たりとも出入り出来ない区域があるためだ。なので、込み入った話などは、各神官の私室で話される。アフィルが自分を私室へ呼んだのは、そういった込み入った話があるのだろう。ミスダスは呼び出された理由を、そう見当つけた。アフィルは上級神官のため、自分のような中堅神官を呼びつける理由が他に見当たらないのだが…。


 ミスダスはアフィルの私室前まで来ると、ドアを数度ノックした。中からアフィルの声で返事が聞こえたので、ミスダスはドアを開けて室内へと入った。すると、そこには意外な先客が居た。アフィルと同じく上級神官であるミルハとクナキヴァ。その二人はいいとして、何故かヴァンダードとナサフまで居た。ヴァンダードとミスダスは同い年で、共にアカデミアで学んだ仲である。確か彼は騎士団に行ったハズだが。何故あの筋肉バカが神殿の、しかもアフィルの私室に居るのだろう。それにナサフも。彼はミスダスの二つ下で、ミスダスがアカデミアに居た頃、『すごい"力" を持ったヤツが入ってきた!』と学内で騒がれたものだ。彼が神殿に進めばゆくゆくは上級神官になるだろうと噂されたものだ。しかし、彼は生粋の魔術士で、アカデミア卒業後は魔術省に魔術士登録をして、首都のネルハから出て行ったと風の噂に聞いていた。ミスダスがナサフと会うのは、ミスダスがアカデミアを卒業して以来だ。


 ミスダスがもの問いた気にアフィルに目を向けると、老神官はいつもの優しい笑みを湛えて、ミスダスに空いている席に座るよう促した。


 7人いる上級神官のうち3人が同席してるとは、ただ事ではない事態なのだろうか。しかも、部外者のヴァンダードやナサフまで居るとは。ミスダスがそう思案していると、この場で最年長でこの部屋の主であるアフィルが口を開いた。


「皆、忙しいなか集まってくれて礼を言う」


アフィルは一旦言葉を区切り、一同を見渡した。


「今日、皆に集まってもらったのは、ラリス神の神託を伝えるためだ」


そうアフィルが言い終わると、皆が息を飲むのが分かった・・・。


 ラリス神と言えば、この世界をキルヴァ神と共に創ったとされるひかりの大神。ミスダスの感覚では、居るんだか居ないんだかよく分からないが、こうしてそこそこ平和に暮らせてるのは、ラリス神のご加護なのだろうという程度の認識だったりする。ミスダスの率直な感想は、「ラリス神って、ほんとに居たんだ!」という神官の風上にも置けないような感想だった。


 そもそも、ミスダスは神官を目指していたわけではない。自分が頭が良い方だと自覚があったので、アカデミアに進んだだけだ。かと言って、役人に向いてる性格でもないし、魔術士にも向いていない。騎士団のような筋肉バカが集まる所など論外だ。結局、"力"もあるので、消去法で神官になったまでだ。もちろん神官すべてがそんな考えを持っているわけではなく、多くの神官は目の前の老神官たちのように敬虔な人たちだ。ミスダスとて、神官になりたての頃はそれなりに努力はした。が、神官の仕事も蓋を開けてみれば、すでに決まりごととなっている神事を恙無つつがなく行うことで、そこに"力"のあるなしは関係なかった。熱心に祈りを捧げてみても、神託などは一度もやってこなかった。やはり自分の信心が足りなかったのだろうかなどと、ミスダスの思考が沈みかけていたところで、再び老神官が口を開いた。


「ウルヴァの巫女がお生まれになられた」


 その言葉への皆の反応は三者三様だった。ミルハ、クナキヴァ、ミスダスの三神官は驚きに目を見開いたが、ヴァンダードは不思議そうな顔をしており、ナサフは眉間に皺を寄せている。それもそのはずである。ウルヴァの巫女という名称は、中央神殿でも一部の人間しか知らない。知ろうと思えば知ることが出来る事柄だが、それは言い換えれば知る気がなければ知ることはない名称だ。上級神官ともなれば、万一に備えて中央神殿で執り行う事柄全てをおよそであっても知っている。そのためミルハとクナキヴァはすぐに事の重要さが理解できた。ミスダスも中堅神官ではあるが、中央神殿に入って最初に神殿での仕事を教えてくれた指導役がアフィルだった為にその名称を知っていた。アフィルは中央神殿で最年長の神官であるし、神事にまつわる書物には全て目を通し熟知していた。世界の歴史や神話にしてもまた然り。「分からない事があったときは、アフィルに聞く」というのが神官たちの暗黙の了解になっているくらいだ。アフィルは休憩時や就寝前に、ミスダスにこの世界の歴史や神話、神事についてはときに自分の意見を織り交ぜ、いろいろと語り聞かせていた。


 アフィルはミスダスにとって良き指導者であった。それは今も変わらないが。アフィルはミスダスによく言った。書物に書かれていることを鵜呑みにするなと。まずは、何故なのか自分で考える癖をつけるようにと。自身の考えと書物を常に照らし合わせろとも。盲信せず、一度は自分で考える癖をつけるようにしてくれた。


 熱心に神官になりたかった訳でもないミスダスにとって、アフィルのような考え方を説いてくれる人が身近にいたおかげで、現在もまかりなりにも神官が務まっているようなものだ。他の上級神官のような「神の御言葉がすべて」とか「御言葉・命!」みたいな人たちだったら、早々に神官の職を辞してたことだろう。今ここに居るミルハやクナキヴァは、上級神官の中でも比較的アフィルの考え方に違い人たちではある。


 件の巫女につては、ミスダスはアフィルから教えられていた。というより、アフィルに後学の為に読むんでおくとよいと勧められた古典に記されていた。


 ウルヴァの巫女は数百年に一度、この世に現れる。と言っても、普通に人の子として生まれるのだが。もちろん巫女自身もその親も普通の人の子である。彼女が生まれるタイミングがどのような時なのかまったく記載がなかったが、その子は十の歳になったら神殿で身元を預かり、18になったらラリス神とキルヴァ神専属の巫女になる。そもそも何のための巫女なのかもまったく記載がなかったので、不思議に思ったのをミスダスは覚えている。



「おぉ、ではこの若者たちが祝福を?」


とある種の感極まった声でクナキヴァが言うと、間を置かずにナサフが


「それって、祝福なわけ?違うだろ?」


と不機嫌を隠そうともせずに口を開いた。


 ん?あれ?なんでナサフこいつが祝福のこと知ってるんだ? そもそもウルヴァの巫女のことだって、神殿内で知ってる者すら少ないのに。俺がそう思ってると、ミルハも不審に思ったのか眉間に皺を寄せている。しかし、神殿の長老的ポジションのアフィルがいる前で口を挟むようなことはしなかった。

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