表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

元魔王と元お助けキャラのお話

魔王を助けるために勇者を麻痺させました。

作者: 瀬田 冬夏


 俺はなんのために生まれてきたのだろう。

 俺は、皆に疎まれて、憎まれる為に生まれてきたのか……。

 俺は、死ぬためだけの運命のために生まれてきたのか。

 俺は……。ただ………………。




『魔王セラフィース! お前の悪事もここまでだ!』


 勇者ラスティスが剣を構えてセラスに声を張り上げる。

 因みに次のセリフはセラス、魔王セラフィースから、『勇者の力、どれほどの物か、確かめさせて貰おう』である。


『勇者の力、どれほどの物か、確かめさせて貰おう』


 そう口にして、魔王セラフィースは邪神刀を抜く。それは一気に二メートルとかいう長さになる。

 十五センチから二メートルまでって幅広いよねー。


 ガラスが砕けるような音がなり、BGMが魔王のテーマになった所で私は魔法を放つ。


「パラライズ」

『『な!?』』


 二人の驚きの声が上がり、私の魔法を受けて麻痺った体が地面に横たわる。


『『な、何故?』』


 と、同時に質問してくる二人。

 魔王は茫然と、勇者は睨みつけて。


 魔王セラフィースが使ってくる状態異常に麻痺はない。

 だからか、勇者ラスティスは麻痺耐性は無い。

 で、私は勇者を麻痺させるために職業及び装備一式それに合わせて変えてある。


「ごめんねー。もう、今日以外こんな風に私だけが魔王戦に参加できる日って、早々ないだろうからさー」


 テクテクテクとなんの気負いもなく魔王に向かって歩く。


 復活の魔王


 それがこのクエストのタイトル。

 勇者ラスティスは仲間プレイヤーと共に魔王セラフィースを倒すというクエストスタートから最短でも三時間はかかるという長いクエストだ。

 ちなみに魔王との戦闘は時間が決まっていて、部屋の最大数12人に足りないと同じサーバーの別の部屋から強制徴収という、独りで戦いたくても簡単には戦えない仕様となっている。

 これについては運営に対してクレームもあったようだけど、結局の所そのまんまだ。



 ちなみに今日は、『日頃の感謝を形に。超×3レアドロアップ感謝祭』なるイベントを泣く泣く諦めてここにきた。

 おかげで独りだよ。

 今まで散々ガンバって、気づけば、勇者ラスティスとお助けエンチャンター小夏、なんて言われるくらい、ここにいるからね。

 あ、小夏はキャラ名です。



「あ、そんなに警戒しないでください。聞きたい事があるだけで、攻撃とかはしないから」


 今日は死に戻りも覚悟の上です。むしろ死に戻りする気まんまんです。


『ほう? お前は俺が憎いからここに居るのではないのか?』

「違うよ。貴方と話がしたくて来たの」

『……お前の顔はよく覚えている。何度もいるのからてっきり俺が憎いのだと思っていたが?』

「いやいやいや、セラスと話したくて頑張ってただけよ? 他のユーザーの手前補助とかはしてたけど、それしか、しなかったっしょ」

『セラス?』

「あ、ごめん。セラフィースって言いにくいから勝手に略してた」

『なるほど。好きにしろ』


 あっさりと彼は了承した。

 思った通り、彼の人工知能は高いように思う。

 ラスティスもそうだ。

 クエスト中も、戦闘終了後にも話してみると分かる。彼らの人工知能は高い。幾つか、お決まりに返ってくる返事はあるが、割と幅広い。

 それもそのハズだ。

 クエストはスタートとラストは決まっているが合間合間のミニイベントはユーザーが好きに並べ替え出来る。

 それによって手に入るアイテムがあったり、スキルがあったりと変わってくる。

 全てのアイテムを取るためには三回はこのクエストに参加しないといけないと言われる程だ。

 見てたり見てなかったりするイベントに対応するためにもラスティスの人工知能は高い。

 魔王は逆に出てくるストーリーはそう多くないが、表情の機微は、とあるお姉さま方に絶賛され、勇者と魔王の薄い本が多く出ている。

 魔王は勇者に殺されたがっている。

 プレイヤー側からしか見えない表情や、そうとしか読み取れない行動を、彼は見せる。

 私もそう思った。

 その表情にキュンともきたし、薄い本も手にした。

 私も初めは普通にゲームとしてみていた。でも三回プラス、友達の付き合いでクエをしてるうちにふと、違う考えが浮かんできた。

 勇者がどうのではなくて、魔王自身がただ単に死にたがっているのでは? 救われたいと思っているのでは? と。

 彼は勇者が居なくても時折悲しげな顔を見せるシーンがあるからだ。

 もっともそれはNPCと言われるゲームのキャラ達にとってはあざ笑っているように見えるらしいのだけど。

 だから、私はもしかしたら、勇者に倒されても死なないエンディングがあるのではないだろうか。と考え始めた。

 飛躍してるかもしれないけど、これだけ豊富な分岐を作ったのだ。エンディングが一つというのも可笑しいのでは無いか、と思っても仕方がないと思う。

 私以外にも何人か同じような事を思った人は居たらしく、試したけど、見つからないっていう情報がほとんどだったけど。

 それでも、さ。諦めきれなかったのだ。

 だからシナリオパターンを何度も変えて、戦いが終わった後にラティスに同じ質問する事にした。


 もっと魔王が救われる最後はなかったのかな。と。


 気分は何かしらヒントをください。である。

 それ以外にも色々質問するんだけどね。

 シナリオ毎に、同じ質問でも答えが代わることがあるからだ。

 だから形骸化した質問でもあった。

 そんなある日彼は言ったのだ。


『何度同じ質問をされても、俺にはそれは分からないとしか答えられない。俺は、彼の中にある邪神の力を浄化するしか能が無い』


 そう答えたのだ。

 何度も『同じ』質問はしていない。このセリフは魔王セラフィースを倒した時にする質問なのだから、このシナリオ分岐では、初めて聞く質問内容のはずだったのだ。

 衝撃だった。

 驚愕だった。

 驚いて目を見開いて、ラスティスをまじまじと見た。

 彼はいつものやり遂げた満足感の笑顔をまた私に向けて、「ありがとう君のおかげだ」とか言っている。


 なぜ、このクエストは時間が決まっており、なぜ、他のチームと無理矢理組んでまで魔王戦をさせられるのか。

 もしかしたらそれが最後の必要な鍵なのではないのだろうか。

 一対一での会話。

 もしかしたらそれが彼を救うための最後の条件なのでは?


 と、考えたので、一応、死に戻りを考えて余計なアイテムは一切持たずに挑んだ。

 結果。こうやって魔王セラフィースと会話が出来ている。


『それで? 人類の希望である勇者を麻痺させてまで俺に聞きたい事とはなんだ?』

「貴方を救う方法を教えてください」

『…………』

「いや、頑張ったんだけど、全然駄目で! 色々ネットとかでも調べたんだけど見つからなくて……」

『……勇者が魔王を殺せばそれで終わりだ』

「……世界はそれで救われるかもしれないけど、セラフィースは違うでしょ?」

『それ以外に方法は無い』

「……本当に? 全然? これっぽっちも!?」

『無い。神ですら無理だったのだ。お前に何ができる』


 う……。運営~!!

 作っておけよ! 別のエンディングー!!


「……じゃあ……、魔王にならない方法とか……」


 言いつつ言葉が小さくなっていく。

 このクエストはもともと魔王が復活した四年後からスタートする。

 魔王にならないなんて土台無理な話だ。


「……邪神……。邪神を浄化する方法って本当に勇者に倒される以外ないの?」

『無い。それが出来ているのなら神々がそれを行うだろう。無いから邪神は俺の魂に封印され、そして、肉体を持ち、破壊される時のエネルギーを使い、穢れを一気に祓うのだ』

「……本当に……無いの?」

『無い』

「……」

『……邪神自身、自分の身に付いた汚れを祓う方法は他に無いと知っている』


 淡々と告げるセラス。私は受け入れたくない現実を受け入れつつあった。ゲームだから現実じゃないけどさ……。

 ないけど……。

 本当に無いんだって思ったら、両目から涙が零れ出てきた。

 もちろんこれもプログラムで作られた涙だ。

 でも、泣き出したい程の想いがあるからこの体は涙をこぼす。


『……名は?』

「水月……あ、キャラ名前は小夏」

『ミヅキ……。【ありがとう……】』


 そうお礼を言って、彼は私を通り過ぎる。

 ゆっくり振り返ると、ラスティスの左腕を掴み、彼を立ち上がらせていた。


「あぶない!」


 叫んだのはセラスのためだ。

 ラスティスの右手にある剣が彼に迫っていたのだ。

 避けられる。

 魔王セラフィースの身体能力はよく知っている。

 魔王になる前、救国の英雄、セラフィエルの方が実は魔王セラフィースよりも強いんじゃないかって言われているが、それでも、セラフィースはそんな鈍い攻撃を受ける訳がない。何の力もこもってなさそうな、勢いだけがなんとかある攻撃なんて防がれて反撃されるのが落ちだ。

 それなのに、聖剣は、深々と魔王セラフィースの体に突き刺さっていた。


 どうして。


 そう思うが、そんなの理由は分かりきっている。それを彼が望んだからだ。


 そして、聖剣から眩い光が放たれ、彼の体がその光に溶けるように消えていく。


 私は崩れ落ちた。

 ぺたりと座り込んで、ちりちりと舞い上がる魔力の残滓を見上げてるしかない。

 魔力の残滓とは別に丸い光が緩やかな円を描きながら二つ、私の手元に落ちてくる。


[救国の英雄セラフィエルの魂魄をゲットしました。

 星神ラフィースの魂魄をゲットしました]


 二つを手にした瞬間そんなシステムログが現れ、音声の案内が入った。

 最悪だ……。こんなの最悪ではないか。

 これが私の見たかったハッピーエンドだとでも言うのか?


【そんな事を言わないで。あの子……二人を救ったのは事実よ】


 柔らかな女性の声が耳に入り顔を向けるとラスティスが立っていた。ただし女性の姿がダブって見える。


【それはあの子達の心と魂。大事にしてあげて】


 勇者ラスティスを導く女神だと思われるその女性がそういうと、ログ画面に新しいメッセージと音声が現れる。


[クエスト:復活の魔王 をコンプリートしました。

 コンプリート報酬として、全てのアイテムと全てのスキルを取得します。

 邪神刀をゲットしました。

 邪黒竜の心をゲットしました。

 邪----]


 どんどん入る音声に、私は二つの魂魄を大事なものに仕舞い直すとそのままログアウトした。

 聞いてられなかった。

 コンプリートしたという。

 なら、もう、本当に…………。

 セラスを救うエンディングなどないという事なのだ。


 現実に戻ると私はただ泣き出した。

 バカみたいだって自分でも思うけど。

 ゲームになにそこまで感情移入してるんだって笑われるだろうけど。

 でも、でも……。

 私は胸の痛みにずっと泣き続けるしかなかった。



 ただ、まぁ、……。それで、このゲーム、本格的VRMMO『フロスフェーム・ファンタジア』を辞めることはなかったけど……。

 リア友と遊んでいるわけだし。ただあれから、復活の魔王のクエストはしなくなったけど。

 ただ私は淡々とレベル上げをし、職業のランクを上げ、お金を貯めつつ、程良さそうなクエストを受けるだけである。


 私は今日もログインして、最近買ったばかりの『ホーム』に現れる。

 ログハウス風の家は一階はみんなで遊ぶための場所。二階はアイテム倉庫と宿泊施設となっている。

 ここで眠ると状態異常やらHPMPやらが回復する。現実時間でいえば十五分くらい。眠る事となる。

 私は部屋に入ると中央にあるテーブルに向かう。

 そこには二つの水晶玉がクッションに抱かれておかれていた。


 セラフィエルの魂魄とラフィースの魂魄である。

 イスに座り、テーブルにあごをつけて、その二つをじっと眺め、ナデナデナデナデと指で二つをなで始める。

 柔らかく明滅する光は触れるとその光を強めてくれる。

 暖かな光なので、きっと嫌がってない。と私は信じてる。

 

 ちなみに家に置くのとプレイヤーの大事な物として持っておくのとどっちが安全だろうか。って考えた場合、どっちもどっちだったので家に置いた。というのもサブキャラをもっているせいだ。

 ユーザーアカウントで家は管理されているので、家は共有となっている。

 なので、サブキャラで愛でる場合はお家に置いておくしかないのだ。

 で、今日はサブである。

 とある諸事情により、最近一人でやる時以外、メインは使えない。

 というのも、あのクエストを達成して得たであろう称号達のためだ。

 星神ラフィースは、神々の中の末っ子だった。

 姉や兄の神々からとてもかわいがられていた神である。

 あのラストでも、ラフィースを救った事になるのだろう。

 邪神ラフィースの加護。星神ラフィースの加護だけではなく……。

 兄と姉の神々全てからの加護を受けていた。

 それにより、キャラ名小夏はレアドロ率は阿呆なようにアップしてるし、レベルも職業もスキルもどんどん上がる。

 他にもどんなに強力な魔法を使っても消費MP1とか。しかも術後硬直なしとか、連続詠唱可能とか。

 とあるクエの、「なるべく15人以上で挑んでね」って公式が明記してるようなボスも、魔法の連打撃ちであっさりと一人で倒した。

 ちなみに。小夏は本来魔法戦士職である。

 戦士職でいっても結果は余り変わらなかった。

 むしろ一撃必殺な技が本当に一撃必殺になってたので、ちょっとうん。目立つどころじゃない。

 なので、最近は友達と一緒の時はサブで頑張っている。

 みんなは『お助けキャラ小夏』が定着しちゃったもんね~と理由を誤解してくれている。

 ので、悪いと思いながら理由をそれにして、サブで活動中である。

 メインは一人の時にちょこっとやっても十分に育つしね。

 そうやってメインとサブ両方を育て、年月を過ごすこと七年。

 社会人となり給料ということで自由のお金が増えたので、私は課金者となり、相変わらずのフロスフェームでの世界を楽しんでいる。

 まあ、社会人といってものんびり職場ののんびり事務員なので、精神年齢はほぼ高校の時と変わらない。

 社会人の自覚どころか成人の自覚もあまりないが。

 お給料が貰える日だけは否が応でも社会人の自覚が出てくる。

 光熱費に幾らだして、とかどれとどれはそろそろ買わなきゃ行けないだとか。フロスフェームにいくらつぎ込もうかとか。

 そんな事を考えるのはちっとも社会人の自覚じゃ無いと怒られそうな事を考える私の目の前でケンカが起こった。

 男子高校生だろうか。階段の上でとはなんと危険な。

 みんな避けていく。私だって避けるつもりだった。

 その男子高校生が持っていた鞄がすっぽ抜けて、女の人、それもお腹の大きい、妊婦さんだとすぐに分かる人の頭に当たって彼女がバランスを崩さなければ、彼女の足が両方とも階段から離れていなければ、私だってそそくさと階段を上りきっていただろう。


 危ないととっさにその人の体を、階下側ではなく、階段側へと押し出して。

 ずるりと足が滑ったのをヤバいなって思った。



 走馬燈というのがある。

 私の中でそれは機能を発揮しなかったのか、驚いて、青ざめていく男子高校生二人と、 階段に手を付けて、座り込みつつも片手でお腹を守ろうとしている妊婦さん。そのあとすぐに私の方を見て真っ青になってたけど。

 その他の人々の顔が見えただけで、過去の記憶がよみがえるという事はなかった。

 大丈夫、受け身を取れば助かるよ。

 そう伝える事も出来ずに、下の階に着くよりも先に私の頭に衝撃が走り、私はよく分からぬまま全身を打ち付けて意識が遠のいていくのを感じていた。




「目が覚めた?」


 柔らかな声で、私は目を開けた。

 目の前に居るのは、女神フロス?


「ええ、そうよ」


 女神はにこりと笑って、それから小さく頭を横に振った。


「もっと遅くても良かったのに。貴方のご家族は泣いているわよ?」

「……死んだんですか?」


 ふと、なんとなく、そう質問してみる。


「ええ。手すりで頭を打って、階段を転げ回って……。病院に搬送されたわ」

「……妊婦さんは?」

「精神的ショックはあったけど、大丈夫。子供も母親も無事よ」

「そう。良かった」


 ほっとすると女神はごめんなさい。と謝ってきた。


「加護を付けたのが徒になったわ」

「へ?」

「貴方の状態五分五分だったのよ」

「はぁ」

「加護をつけたせいで、半分抜けかかった魂がこちらにひっぱられてしまって……」

「それで死んじゃった、と」

「ええ。ごめんなさい」

「……はぁ。まぁ……仕方が無いのでいいです」

「……仕方が無いで終わってしまったら貴方のご両親が可哀想よ?」

「う……。でも、死んじゃったのは仕方が無かったですし……。とっさに動いたとはいえ、あのまま無視なんてしたら、それこそ、一生引きずってしまいそうだし。あー……でも、あの妊婦さん気に病まないと良いんだけど……」

「ふぅ……まったく、貴女は……。まぁ、良いわ。どうせあと数年の話だったのだし」


 ん? あと数年したら私、どっちにしても死んでたって事?


 そう思っていると女神さまが両手を突き出してくる。そこに光が集まり、私の姿が変わっていく。


「って、これフロスフェーム・ファンタジアの衣装?」

「ええ。サブも含めて貴方が持っている衣装やアイテムもスキルなども全部移行したわ」

「移行?」


 移し変えたって事? 何に? どこに?

 とクエスチョンマークを浮かべていたが、はっとした。


「セラスの魂魄!」


 慌てて私はメニューを開いて確認しようとしたが、それをする前に二つの水晶が私の目の前に現れる。

 明滅する明かり。それがやがて水晶の固さを溶かすようになくなり、清らかな明るい、そうまさに魂といった形で私の手のひらに収まる。


「あの子を……。あなたの『セラス』を救ってあげて」


 女神フロスはそう言って微笑んだ。

 もともと真っ白だった世界が、さらにぼやけてきて、突然色彩がはっきりとしたと思ったら爆音と怒声が後ろから聞こえた。

 慌てて振り返ると、もう二度と見たくない光景が広がっていた。


 勇者ラスティスが魔王セラフィースにトドメを刺すシーンだ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁあああああぁ!!」


 悲鳴を上げる。

 だって、だって、血が……。

 ポリゴンのキラキラ光る赤い血じゃない!

 真っ赤な綺麗な赤い液体が聖剣を伝い、体を伝い、地面にシミをつくっているのだ。


「だれ!?」

「まだ魔族がいたのか!?」


 見たことのない神官の少女と戦士が私の前に立ちふさがる。


「どけ!! 『パラライズ』」


 怒鳴ると同時に私は麻痺の魔法を発動していた。

 目の前の二人にも、その奥に居た勇者にも。

 どうやらこちらも麻痺耐性もってないんですね!

 内心ざまーみろとか思いながらセラスに駆け寄り、絶句する。

 体が消えかかってる。なにこれ。


「せ、セラス!? こ、コレ抜けば大丈夫!?」


 聖剣の柄に触ってもいいのか分からず、戸惑いながら尋ねる。


「……なに……も……だ?」


 途切れ途切れに声を発するセラス。

 何者だと問うたのだろう。


「あ、あなたの知らない世界で貴方を救おうと頑張ってた者その1です」


 私以外にも、他のエンディングがないだろうかって頑張ってた方々もいたので、割といっぱいいたので、その1と言ったら彼は小さく笑った。


「な……んだ、そ、れ」

「ホント、ホントだよ? セラフィース……」


 なんで、なんでよりにもよってこのシーンなのか……。

 忘れていたはずの、ううん。押し込めていたはずのあの頃の感情が爆発して、涙が零れ落ちる。

 もはや体の半分は消えて聖剣が支えを失い、床に落ちた。

 私は慌てて、回復を試みたが、その魔法も、どのアイテムも効かなかった。

 いやだ。私はまた、彼を見送るのか?

 なんでこんなシーンに送りつけた?

 なにか、私が悪い事をしたの!?


「ぅ、うう、うぐ、ひっく」

「…………」

「ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。助けられなくて、ごめんなさい」


 謝ってどうするというのか。

 謝るよりも何か出来るはずだと思うのに、何をしても何を試しても、効果はない。

 なんのためにアイテムを移行したの! 女神!!


「……運命だ……。気にするな」

「気にするよバカァ!」


 嫌だ、消えないで! 止めて! もう一度喪いたくない!


「あり…………う」


 言葉と一つ。小さな笑みを一つ。


 そして彼は消えた。


 真っ白な魂が一つ、現れて上に登ると共に二つに分かれ、そして、私の中からも二つの魂が抜け出て、クルクルと舞い上がり、やがて、四つは一つとなって、私の胸元に滑り落ちてくる。

 私はそれを両手でそっと抱え込む。



「驚きましたわ……。まさか、まだ魔族に生き残りが居たとは」


 高圧的な声がかかり、私は振り返る。

 目の前にあったのは腹部だったので、体を追って見上げると、まあまあな美少女神官が一人私を見下ろしていた。


 イツツと言いながら、もう一人の戦士も立ち上がり、ラスティスも立ち上がる。

 その傍には見たことない魔法使いみたいな女の子も居た。

 あー。彼女には気づいてなかったから、麻痺の有効範囲外だったんだな。彼女が回復アイテムつかったのか。そうか。


 私は立ち上がる。

 

 ……残念ながら身長は少女よりも低いらしい。

 くっ。思いっきり見下ろしたかった!


「ラスティス」


 声をかけると、どこかぼーっとしていた彼は、はっとして、私を見て、それからまた何かに驚いて、戸惑ったように私を見ていた。


「……満足?」

「え?」

「魔王を倒した。邪神も……ううん、邪神の邪気も祓って、彼は星神ラフィースに戻った。満足?」

「……それは、まぁ」

「そう。良かったね。これで君も救世主だ」

「えっと、そう……かな?」

 

 戸惑いながらも答えてくれる。


「……君もセラスのようにならないようにね」


 セラスは救国の英雄だった。彼の絶大な力は、その魂に封じ込められた星神の力も大きかったのだろう。

 それがほんの少し、邪神として漏れ出ただけで、彼は魔王と扱われた。

 誰もセラスを信じなかった。みんながセラスを恐れた。

 誰一人「びびってゴメン」とは言わなかった。

 一人でも居れば良かったのだ。きっとたぶんそれだけでセラスの心は落ち着いた。

 でも誰もそれをしなかった。剣を振るって魔法を放ってくるぐらいだ。

 救国の英雄。その力を恐れていた。妬んでいたのだ。

 だからね、ラスティス。君もそうなる可能性は大いにある。

 散々顔を突き合わせて、散々ある意味実りが無いんじゃ無いかっていう問答に付き合わせたお礼としての忠告だ。


 彼はしばらく私を見た後、小さく頷いた。


「ちょっと、見つめ合わないでください! さては貴方! 勇者様に魅了をかけるつもりですね! しかし残念ですね! 勇者様に魅了は効きません!」

「知ってる」


 ラスティスに効くのは麻痺くらいだ。


 どうでもいいとばかりに答えると少女はカチンと来たようだ。


「気にくわない女ですわね。ああ、魔族ですから気にくわないのは当然ですわね。さあ、その魂を渡しなさい」

「嫌よ。ふざけてるの?」

「ふざけてなんていません! 魔王と邪神を完全に消し去らなくてはいけないんです!」

「待ってくれ! あの魂はもう邪神じゃない! 聖剣の力で浄化されて星神に戻っている!」

「そうなのですか!?」

「そうだ!」

「……分かりました。でも、それを魔族の女に渡しておくわけにはいきません。さあ、それをこちらへと差し出しなさい」


 私はそれを無視して歩き出すと、戦士が剣を抜いて私の前に飛び出してくる。


「……」

「悪いが、俺もアンタの事を信用してないんでな。悪いがその魂こちらによこして貰おうか」


 そんな言葉にさてどうしようかと考えていると、彼らが薄くなっていく。

 霧?


「まて! 逃げるな!!」

「待ちなさい!!」


 二人の慌てる声に私の方がどこかに消えるつもりだと理解した。

 二人が私を捕まえる前に、私の見ていた景色が一変した。

 真っ黒である。

 思わずびくっとするくらいに驚いた。

 今も心臓がどきどきしている。

 それを落ち着けというように、セラスの魂が明滅してくれるので、ここが明かりの無い室内だと気づいた。


 明かりの魔法を付ける。


 ……どこかの神殿?

明かりの下に照らされたのは、広くて、柱などに模様が刻まれていた。


『邪神・ラフィースの迷宮神殿』


 周りをよく観察していたらそんな文字が出てきた。

 ゲームだとよくある現在地を示すやつだ。


 迷宮ですか。ってことはモンスターが出てくるんですかね?


 そう思っていると手のひらにすっぽりと収まっていた魂がふわりと抜け出て、どこかへとゆらゆらと進んでいく。私はその後を追う。

 それが止まったのは、星神ラフィースの像の前。その前にある台座かな? に止まる。

 そこから動こうともせず、明滅を繰り返していた光が、消えるのを止めてずっと光り続けている。

 何かの変化だって思って見守っていたらその光はやがて這うように大きくなり、……人型になった。


 思わず息を呑む。

 心臓が煩いほど高鳴る。だって、まさか、ねぇ? でも、もしそうならありがたい。ううん。嬉しい。とっても嬉しい。

 そう言葉に出来ないほどの期待を込めて見守っていると光が徐々に消えていき、それは、セラスの体になったっっっって!!


 まっぱだったーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!


 思わず顔をそむける。

 心臓ばくばく言っているが、とりあえず、後ろまで振り返って誰もいないのを確認する。

 顔。うん、セラスだ。

 首。肌色。肩周り。肌色。胸周り。うん、洋服無し。

 視線をまたセラスの顔に固定する。

 

 うん……。どうしよう……。


 みなさん予想しているかもしれませんが、彼氏居ない歴=年齢の私です。

 さてどうしよう……。


 ちょっと本当に困った。



 追記。

 このままでは風邪を引いてしまう。

 そんな理由で私は持っていたアイテムの中で一番大きな布を彼の体にかけた。

 その時、私の視線がどう動いたかは皆様の想像にお任せするとしよう。

 うん。私は墓まで持ってくよ。絶対。うん。




***



 化け物。

 俺が影でそう呼ばれているのは知っていた。

 それでも俺に優しくしてくれる人も居たし、俺自身、俺の力はちょっとアレだなって思うからそう言われるのは仕方が無いって思っていた。

 でも、俺の力の正体が邪神だと分かった途端、優しかった人達も手のひらを返した。


 見ろ。あいつらは私達を騙している!


 邪神の言葉が胸に突き刺さる。

 彼自身も愛していた女に裏切られた。

 人間はなんて酷いのだと。


 俺は、目覚めたばかりで、その時の辛い記憶の蓋を開け、酷く悲しんでいる邪神の感情に飲まれ、力の暴走を許した。

 許してしまった。

 瓦礫と化した街並。

 俺を見上げる目には恐怖と憎悪。

 

 止めろ。そんな目で俺を見るな。


 そう思ってもみんなの目は変わらなかった。

 共に魔物達と戦ったみんなの目はもっと酷いものだった。


 人間など滅んでしまえばいいのだ!


 その言葉を俺は強く否定出来なかった。

 俺はその時に身も心も魔王になったのだろう。



「セラフィースさーん。お話しませんかー!?」

『魔王め! 中々やるな!』

『ふん! この程度か! 勇者!』

「駄目だー! ラスティスがすっごい邪魔~!!」

「頑張れ! こなっちゃーん!」


 ……これは、なんの記憶だ?


「魔王を辞める方法って無いんですかねえ?」

『魔王め! 中々やるな!』

『ふん! この程度か! 勇者!』

「頑張るなー」

「あの人何してんの?」

「このクエの別エンディングがないか頑張ってる人の一人」

「へー」


「セーラースー……」

『魔王め! 中々やるな!』

『ふん! この程度か! 勇者!』

「今何回目?」

「さあ、もう数えてないな」

「すご……」

「飽きない?」

「もはや意地?」


 これは……。ああ……そうか。

 あの少女が、言っていた、別の世界で救おうと頑張った記憶か……。


『いや、彼女はお前よりも年上だぞ、もう』


 別の所からそんな声がかかった。


『初めは年下だったがな』

【ゲームの中の俺達とは違い、彼女は時間が流れていたからな】


 俺であり、俺でない。そんな存在。

 勇者ラスティスは確かに邪気を払えたが、払いきることは出来なかった。

 だからと言って……。

 随分と無茶をしたものだ。


【それについては同意する。兄上も姉上も、悪化する可能性を考えなかったのか……】

『ラスティスに倒され続ける事で邪気を払いたかったのか、それとも……、お前が恨んでいる女と似たようなやつが現れて、それを倒すことによってすっきりする効果を狙ったのか』

【それでその女に倒されたらどうしてたんだか】

『流石にその女が現れた時は俺も力を貸していたかもしれない』

【なるほど……ならば可能性は……】


 で? 俺は……俺達はどうすればいいんだ?


【どうもせん】

『俺達の記憶と想いを受け取ってくれればそれでいい』


 そうか。なら。貰おう。


『【水月の事を頼む】』


 二人の記憶や感情が俺達の中に溶け込んでくる。そして、俺達もまた一つになる。

 セラス。彼女がそう呼ぶ存在になるために。


***


「う……」

「あ、目覚めた!?」


 ゆっくりと動く瞼。ぼうっとした様子で私を見上げてくる。

……今更だけど、「誰だ?」って言われたらどうしよう。

 いや、どうもしないか。

 これから知り合っていけばいいだけだし。


「……水月?」

「う、うん!!」


 名前を呼ばれて私は飛び上がらんばかりに喜んだ。


「どこか痛いところとかない? ヒールも使えるからヒール使うよ?」

「いや、問題ない」


 体を起こして、自分の姿に気づいたらしい。


「あ、これ、使って。男性服。たぶんサイズは自動で調整出来ると思う」


 私は慌てて、準備した洋服を渡して背中を向ける。


 見た? とか聞かれたら私はまともに答えられるか分からないので。

 いやぁ、ガチャガチャの男性服。いつか高くなった頃に売ろうと思って残しておいて良かった。


「これはフロスフェーム・ファンタジアの衣装か?」

「うん。そうだよ……って、セラスはどのくらいそれの記憶があるの? っていうか、あ、セラスって呼んで大丈夫?」

「問題ない。そう呼んでくれ。記憶に関しては、異世界の仮想現実という場所のゲームキャラクターとして暴れていた事くらいか?」

「……私の記憶は?」

「……ある程度は。すまないが最初の頃の小夏のはほぼ覚えていない。小夏が色々試行錯誤してからなら、覚えている」

「そう」


 うーん。その場合のある程度ってどの程度なんだろう。


「着替えた」


 そんな音と共に台座から降りた音がして、振り返る。


 おっほー! 眼福!

 カッコイイ! 素敵です!!

 流石、お姉様達の心ががっちり掴んだ御尊顔!


 そして黒なんですね。

 軍服は黒・青・白があったんだけど、やっぱり黒か。かっこいいから白とかでも似合うとは思うけど。


「洋服は全部セラスにあげる……って、言われても困るかな?」

「いや、俺にもゲームシステムがいくつか生きてるから問題ない」


 その言葉と共に渡した洋服が全て消える。


「この収納に関しては便利だな」

「便利だよねー。あとコレ」


 そう言って差し出したのは魔剣・邪黒竜。


「……こんなのあったのか?」


 いささかセラスは驚いたようだ。


「あー、復活の魔王の後に出たクエストの、とある敵のレアアイテムなんだけどね。心をセットするとそれに合わせて魔剣が変化するっていうやつで……。能力は良いんだけど」

『む? むむむ! おおおぉお!! これは主様! 主様ではございませぬかー!』

「すっごく煩いんだー……」

「……なるほど」


 セラスの目が「そんなもの渡すなよ」って目になっている。


「私が持つとね、そいつ否定しかしないんだ。やれ、振り方が甘いだの、技術がなってないだの。自分を振って良いのは主さまだけだの」

『当然だ! 私は主様に身も心も捧げた身! おヌシなどに振られるいわれは』

「少し黙れ」

『はっ!』


 うっわ! セラスの一言で黙りやがったコンチクショウ。

 あの剣、私が黙っててって言っても全然黙らないだよー。これが、本物の持ち主と仮の差か。って、あ、セラス、剣もしまっちゃった。

 まぁ、煩いもんね。気持ちはよく分かるよ!


「さて……。……水月は、小夏よりも少し背が低いか?」

「ん? うん。……んーっと、私今、どういう姿?」

「なに?」

「いや、女神フロスさまのところでこの衣装にされたんだけど、自分の顔とか見てないんだよね。アバターの顔?」

「……いや、違う。たぶん、水月の顔ではないか? 顔は小夏でも陸でもないぞ」

「え? まじ!? てっきり、小夏の顔なんだと思ってたんだけど……」


 言いつつセラスに近づく。

 高いなぁ。ずっと見上げなきゃいけないから首がコリそうだ。


「うーん。たぶん。小夏で見上げた時よりもさらに見上げているからたぶん、うん。本当の身長じゃないかな」


 小夏さんは160ありましたからな。本人はそこまでありませんでしたからね。


「そうか」


 頷いて、セラスは私の手を握るとすたすたとどこかに歩き出す。


「それで、どうしてこの世界に?」

「えーっと、事故に巻き込まれた?」


 と、でも言えば良いかな?

 ありのまま言うのもなんだかなぁ。男子高校生達にはぜひとも責任を取れといいたい所だが、かばった妊婦さんは悪くないしな。


「死んじゃったから、こっちに呼び寄せてくれたみたい」

「死んだ?」


 ピタリと足が止まり、振り返る。

 私はもう一度告げて、頷いた。


「で、女神フロスさまがデータを移行してこっちに連れてきてくれたと、認識しています。詳しい話はちょっと聞いてない。でも、セラスを救ってあげてって、あの場面に飛ばされたの」

「……そうか。家族や恋人は?」

「家族については、うん。ごめんなさいっていう気持ちだけど。あと、コイビトはイナイデス」


 っていうか、居たらあんなにゲームやれてないよ。


「そうか。じゃあ、俺が立候補しても問題はないな?」

「え? ……えーっと……はい」


 えっと、マジ? ホントに? 凄くない?

 だって、セラスですよ!? 救国の英雄! セラフィエルさんですよ!?

 お姉様方に大人気なセラフィースさんですよ!?

 私、勇者ラスティスじゃないけどいいのかな!?


「では、改めてよろしく頼む、水月」


 そう微笑むと、彼は、ぎゅっっと、ぎゅぅっっとハグしてきた。

 もちろん私の頭の中は大パニックだったけど、でも、セラスの温もりに気づいたら、涙が出てきた。


 生きてる。

 生きてる!

 彼は生きてる!!


「……せ、セラスは救われ……た?」

「ああ、お前が救ってくれた」

「……う、よ、かった……」


 私も抱き返して泣いてしまった。

 今ならはっきりと言える。

 喩え痛いヤツだと言われても、私は魔王セラフィースの事を好きになったのだと。

 本気で好きになったからこそ、あの結末が嫌で、変えたくて、……変えられなくて……。苦しくて悲しかった事を。

 その想いが今も強くずっと残っていた。

 好きだという想いと共に。


 泣きじゃくる私をセラスは抱きしめて頭を撫でてくれた。

 その手が余りにも優しくて泣き止むのにちょっと時間がかかってしまった。


「ごめん……」

「いや。問題ない。が、そんなに泣かれると、喜べばいいのか、それとも、困ったと笑えばいいのか……」


 また手を繋ぎ歩き出すセラス。私はただついていくだけ。


「どっちだろうね。私も最初はセラスが救われて嬉しいって涙だったけど、後半はセラスと付き合える事になって嬉しいだったし」

「そうなのか?」

「うん。だからごめんね」


 心配してくれてたのに、そんな理由で。


「そうか。なら喜ぶ事にしよう」


 そう言って笑うとまた振り返って私を抱き上げた。


「ひゃう!?」

「すまん。跳ぶ」


 とぶ!? とぶってなに!? ジャンプ!? それともワープ!?


 声が出せないでいるとセラスは何故か壁に向かってジャンプした。

 思わず体を縮こまらせると何かを抜けた感覚がし、広い空間に出た。


「ここ……は?」

「星神ラフィースの武器がご神体代わりに設置されている場所だ」


 セラスがあごで示す場所を見ると錫杖があった。

 私を下ろしてセラスはその錫杖を握る。

 すると錫杖から黒い霧のようなものがあふれ出て、消えていく。

 一気に浄化されたみたいだ。


 それと同時に建物の空気が変わったのが分かる。


 改めて周りを見渡すと、『星神ラフィースの神殿』となっていた。

 迷宮じゃなくなったのかな? 迷宮に挑んでる人がいたらどうなったのかな? そこがちょっと心配だけど入り口にでも飛ばされてるといいな。


「水月。コレを使え」

「え? いいの?」

「俺はあの剣があるしな。お前、魔法職だろ?」

「あー……一応どっちでも大丈夫だよ。邪神ラフィースの加護が職業及びレベルの経験値獲得UP(極大)で、星神ラフィースの加護が必要経験値減少(特大)だったからね。ぶっちゃけて、小夏さんはフルカンストでした」

「……まぁ、それぐらいはするだろうな。レベルが上がれば死ににくくなるし」

「うん。そうだねぇ」

「まぁ、お守り代わりに持ってろ」

「……ではありがたく」


 受け取って、ぎゅっと抱きしめた後、私はお気に入りの刀を出す。


「これ、返した方がいい?」


 差し出したのは星神刀。ちなみにすぐに邪神刀にも切り替わる聖魔を取り込んだ刀である。


「あー……。流石に、それを振り回すと、バレそうだな……」


 有ると便利だけどバレると不味い。って感じか。じゃあ、私が持っとく。代わりに別の刀、夜桜月刀を渡す。刀を振ると桜の花びらが舞う。

 ゲーム中だと綺麗だな。で済むけど実際にってなったらどうなんだろうね。


 それから二人で元通りになった神殿をくまなく探し、使えそうなものは持って行くことにした。

 ゲームではキャラの衣装替えをして楽しむ人も多かったので、防具にはステルス機能があったんだよね。

 私の今の装備してるローブはけっこうお気に入りのローブだったからそのまんまだったけど、侍職の時は鎧は消して、着流しとかしてた。

 で、先ほどの神殿探索で見つけた聖騎士の鎧は、もちろん、ステルス機能をonにしてもらってセラスさまに着て貰っています。

 せっかく軍服姿がかっこいいんだから! ださい鎧は嫌です!

 カッコイイ鎧ならもちろんOKです!


「さて、行くか」

「おー! ってどこに?」

「一応の目的地としてはラフィースの神殿だな。他の場所も迷宮化しているはずだし」

「なるほど」

「ラフィース本人が星神に戻ったから放っておいても浄化されていくとは思うんだが、直接行った方が早いし、水月の装備が強化されるのならその方がいいし」

「いや、ご自身の防具を強化してくださいよ。一応私がいま着ているの、ゲーム内では最高ランクの防具なんだし」

「ああ、それは見て分かる。だからあまり急いでいない」

「……ああ、そう……」


 あれ? もしかして、防具が弱かったら速攻で神殿巡りして防御面固められたのかな?

 ……おや? 意外に過保護? いや嬉しいけど。


「ただ当面の目的は街を探すところだろうな」

「え?」

「ラフィースの記憶で自分の神殿がどこにあるかは分かるが、結構な年月が経ってるし、たぶん、同じ場所に街はないだろうな」

「ふーん」


 セラフィースの時の記憶でもないのか。あったら分かるだろうし。

 まぁ、急ぎの旅でもないし。魔物なんて、たぶん目じゃないし。

 どうにでもなるでしょう。


「当面はそれでいいとして、他に何か目的とか行きたいところとかってないの?」

「ないな。水月はあるのか?」

「無茶言わないでよ。分かんないよ。セラスと一緒ならどこでもいいよ」

「……そうか、なら気ままに旅でもするか」

「うん。綺麗な景色見て、美味しい物いっっぱい食べようよ」

「そうだな」


 そんな気楽な感じで私達は神殿から出た。


 新しく生まれ変わった私と。同じく新しく生まれ変わったセラスの冒険はこうして始まったのである。



 なんてね。


これをベースに何か書きたいな。と思いつつ、シリーズをいっぱいつくってもな。って思ったので、短編でとりあえず投稿。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ