81 領都攻略戦4
「瓦礫をどかして通れるようにしろ!負傷者を先に運び出せ!補充部隊はすぐに前線に向かえ!」
あちこちから指揮官の命令がとぶ。
防壁の瓦礫を除去する作業の傍らを兵士が次々に走って領都に入っていく。
「閣下、魔術戦が始まりました。魔力障壁で抵抗させていますが守っているだけでは不利ですので、こちら反撃しております。閣下のモンスターも投入していただけませんか?魔術はどうしても帝国が有利ですので。」
帝国の魔術師は個人の技能が高く装備も充実している上に総数も同盟軍よりも断然多い。
魔術師は大勢いるが戦闘用の魔術を行使出来る者は意外に少ない。
ゲームやアニメの中の魔術と言えば戦うためもものだが、現実には有事にしか利用しないし安全保障の観点からもあまり普及している訳ではない。
育成したり維持するのには莫大な資金が必要となり国家の大きな負担になるために大人数を必要とされてない。
魔術師の大半が生活の中で使われる魔術を学び、その魔術で生計をたてているのだ。
強いだけではメシは食えない。
ファンタジー世界も世知辛い。
軍人やハンターにならない限り無用の長物であり、国の軍事力の大小は魔術師の数の差とも言えるだろう。
「スペクター、出撃しろ。魔術師の始末と前線の援護をして来い。シロはいるか?」
「ありがとうございます。従魔は外におります。」
指揮所を出てシロを呼ぶ。
「シロ、仲間を連れて敵の排除を手伝ってくれるか?町の中は狭いからやりにくいと思うけど頼むな。」
「ウォン!ウォン!」
多分やってくれるんだろう…何を言っているのかは分からないが。
狼の姿をしているが基本的な大きさが巨大なので市街地での戦闘はやりにくいだろう。
大きなモンスターが生活するように設計されてはいないし、城壁に囲まれているのでそもそも土地が不足しているため過密に建物が建てられている。
機動力と連携を十分に発揮することは難しいだろうが中級モンスターの底力を見せてくれるだろう。
指揮所に戻り地図を眺めながら砲撃の担当者達を呼んだ。
「ここと、ここ、それとここを砲撃して進入路を作れ。南門に砲撃する用意もしておいてくれ。市街地戦に加わっていない師団の師団長はいるか?」
「はい、こちらに。」
「装備を整えて南門の正面に隊列を組んでくれ。内部へ突入をする準備だ!前面を重装兵で防御を厚くして、その後ろに長弓隊を配置しておいてくれ。突撃は俺が直接号令をかけるからそれまでは絶対に動くな。城門までの距離は1000m以上離しておいてくれ。」
「もう突撃ですか?承知しました、直ぐに準備いたします!」
様々な部隊の指揮官や担当者がひっきりなしに出入りしている指揮所で次々ともたらされる報告を受け取る。
間も無くスラム横にある住宅街の1地区を確保できそうなところまで来ているのに、戦闘はさらな激化していた。激しい攻防が繰り返され死傷者が爆発的に増えている。
負傷者の治療は現場では対応しきれないので領都防壁外に救護所を設置して対応しているが間に合わなくなってきた。
帝国軍は奴隷と徴兵された兵士が中心となり白兵戦を行っているので死傷者は同盟軍とは比べらないほど多い。まともな装備も無ければ戦い方も知らない素人が殆どなのだから当然の結果だ。
戦場に溢れる帝国軍兵士の死体は邪魔になるので少しずつ回収しては防壁の側に掘られた大穴へ次々と投げ入れられていた。埋めて数日経過すれば跡形も無くなる。
同盟軍は負傷者は多いが死者は少なく済んでいる。無理をしすぎて兵数を減らさないように徹底している。
カノン砲の一点集中の砲撃がすぐさま3ヶ所で開始された。
成果はすぐに出て瓦礫の上からなら侵入できる状態になったので、穴から近い防壁上部を砲撃して警備兵を潰す作業に移っていた。
少しでも侵入しやすい場所を部下達に検証させた場所だ。
帝国軍が展開しにくく攻め入るのに適した場所など限られていたが、領都内で活動しているレジスタンスからの情報提供で候補を選ぶ事が出来た。
現在侵攻している地区の状況を確認していると南門を攻略する為に隊列を組ませさせていた師団から準備完了の伝令が到着した。
「ご苦労。何があっても俺が行って命令を下すまでいかなる場合もその場を動くな。今から門の破壊の為に砲撃を開始する。下手に動けば味方の攻撃に巻き込まれて死人が出るから必ず伝えろ。」
「現状にてヘンリル閣下の命あるまで待機を承知いたしました。」
伝令が戻っていくのと同時に南門の砲撃部隊に門の破壊命令を出した。
指揮所の外に出て砲撃を見守ると正確に門に着弾して5発で破壊して町の内部に破片を吹き飛ばしていた。
走って砲撃を行っている砲台に向う。
城門の様子は変化がない。
「正確な砲撃ご苦労だった。同じ場所に砲撃をしてもらうかもしれない、すぐに発射できるように用意してくれ。砲弾の残数は問題ないな?」
「お褒めありがとうございます。毎日繰り返しておりますので運用方法が習熟してきました。再度の砲撃はすぐに出来ます。砲弾も十分にあります。失礼ながらお聞きしますが、師団を餌に防衛に出てきた敵兵を砲撃で一網打尽にするおつもりでは無いですか?」
「そうだ。流石は現場の指揮官だな。予想して準備も万端とは逞しい。彼らには申し訳ないが手柄はここで立ててもらう。任せても大丈夫そうだな?誤射だけには気を付けてくれ。」
「恐縮です。砲撃はお任せください。」
敵兵への砲撃を任せて指揮所に戻る。
しかし、門の内側で破壊直後に警戒に当たっていた部隊に数発の砲撃を行ったのみ終わってしまったと報告を受けた。
敵も大砲の威力や攻撃方法を見抜き無意味な行動には出なかった。
待ちぼうけをくらった師団には予定通りであったが
、作戦のミスと謝罪して夕方には解散させた。
攻撃ができずがっかりといった感情半分に、死ぬ事がなかった安堵が半分混ざった微妙な表情をしていた。
兵士達は長時間寒い中で待たされ、ひたすらその場で待機していたので下着を汚しただけになってしまった。
領都の内部では終わる事のない戦闘が続き帝国軍に無理やり戦わされていら哀れな名も知らぬ兵士の遺体と負傷者だけが量産され続けた。
「あと2地区押さえれば防壁の上部につながる階段を確保できるな。なんとかそこまで進めないとな。」
市街戦は昼夜を問わずに繰り返された。
寒さが厳しくなり降り積もる雪は赤黒く染まっていく。
パソコン不調と年末年始は多忙の為に更新が遅くなります。




