78 領都攻略戦
公爵領の半分を占領して領都を包囲したが攻略には大きな問題がいくつもあった。
包囲の指揮をしている貴族を集めて軍議を連日開いていた。
「毎日砲撃をしていますが突入は出来ないのでしょうか?我が師団は準備は整っております。」
と好戦的な貴族は主張するがそんなに簡単な話ではない。
現在公爵領で活動している同盟軍は13師団。
領都を包囲している師団以外は町や村の復興と住民の支援、街道の整備と補給物資の輸送を行っていた。
占領地の実情は進軍の助けになるどころか明らかに足を引っ張っていた。
帝国軍の略奪にあい食糧、金品、魔道具などありとあらゆる物が無かった。
不足しているとといえるレベルではなく、生死に関わる段階まで何も無かった。
多くの建物も破壊されており難民となっていていたのだ。
元々ギリギリの生活が出来るだけしか持たないところから根こそぎ奪ったのだ。
統治機構も機能せず同盟軍が占領するまで無法地帯となっており、住民による窃盗・強盗・殺人・傷害・強姦と犯罪が蔓延っていた。
食糧難で餓死する者や公爵軍に殺された者の死体は放置され、荒れた町や村では異臭が漂い疫病も蔓延して栄養失調から免疫能力が低下して病死する者が続出して、さらに衛生環境が悪化するという悪循環に陥っていた。
現在に至るまでに同盟軍は2万名に近い死傷者を出していたが、住民は死者数だけでもその数倍になっている。そして、その状況は未占領の公爵領も同じだろう。
ドウガーイ王国とカント王国が最大限の支援をしているが物資が追いついていない状況になっている。
公爵領の領都まで伸びた補給路を維持しながら領都を包囲する軍勢10万を冬越えさせることは補給面で不可能であると調査と計算から分かっていた。
すぐに攻略できれば冬越えも可能かもしれないが攻略も難題があった。
それは単純な兵力差が第一の問題だった。
包囲している同盟軍は10師団で領都を防衛している公爵軍は4師団。
師団数では同盟軍が圧倒的に勝っている。
しかし兵数は同盟軍10万と鬼兵旅団の1万の合計11万、対する公爵軍は正規兵4万と奴隷兵3万に徴兵した兵士10万の合計17万。
攻撃側10万対防御側17万の功城戦は通常の攻略は絶望的なまでに難しく、時間も要する。
そして公爵軍の徴兵した兵士10万が第二の問題だった。
強制して徴兵した反帝国の住民が5万と帝国出身若しくは帝国に味方する志願した兵士5万が混在しており監視の為に両者を小集団で組ませて管理していたのだ。
脱走しようとする者は容赦なく殺されるそうだ。
本来であれば保護する対象を攻撃する事への懸念だ。
最後の問題が領都そのものの都市機能と住民を保全しなければいけないことだ。
カノン砲で無差別に攻撃してしまえば攻略自体は容易だ。
数日もあれば領都を廃墟に変えてしまうだろう、町の内部にいる者を全て道連れにして。
しかし、それでは公爵軍を倒したとしても新国家を建国する時に支障が出る。
支障というレベルではなくすぐに運営が破綻するだろう。
それはこれまでの帝国の支配の方法が歪であった事に原因がある。
全てがこの領都に集められる仕組みになっていたのだ。
領都からの帝国に伸びる街道のみがしっかりと整備されていた事が全てを物語っている。
要するにこの地方は帝国のカモでしかなかったのだ。
領内の発展など関係なく、領民の生活環境など無視して集められるだけ税として吸い上げていたのだ。
全て遠く離れた帝国の中枢の為に。
その全ての中心であった領都を破壊してしまうと統治機構の根幹からぶち壊してしまうのだ。
新たに首都を建設する事は可能だがそれでは意味がないのだ。
現代地球であれば全てのデータごとパソコンを破壊してしまうと、新たなパソコンを入手しても意味がないのと同じだ。
地球で花田博の時にスマホが壊れてバックアップが無く非常に困った経験がある。
領都規模の都市を再建してその中身までも復活させる為の時間も資金も人材も情報も知識も無い。
無いものばかりできりがなくなってしまう。
残っている住民が帝国系なのでその取り扱いにも苦慮している。
無理して助ける必要があるのか、無視して巻き込んでも良いのかと貴族の間でも意見が分かれている。
兵力と被害、帝国と反帝国、資金と物資様々な問題が複雑に絡まりあって解決の糸口を見出せないのだ。
「高度に政治的な状況になっている。ただ敵を倒せばいいという単純な問題でもない。もう残された時間が無い。態勢を整えるために一度撤退するならすぐにしなければ間に合わない。」
「ペルセ閣下、もう私達がいくら議論しても結論は出ないでしょう。私は閣下のご判断に従いたいと思います。どのような結果になろうともそれが最善であると信じております。既にこの命は閣下にお預けしておりますのでご自由にお使いください。」
1人の寡黙な貴族が口を開いた。
他の貴族も深く息を吸いながら目を閉じて考えこんでから同意をした。
最終的にはトップが判断しなければならない。
「そうか、分かった。明日の朝再度集まってくれ。そこで今後の方針を伝える。」
正直どうすればいいのか決まっている訳ではないが判断しなければならない。
◆
指揮所からそれぞれの師団に貴族達が戻っていき、残ったのは各師団から来ている連絡役を兼ねた士官とヘンリルの部下にのみになった。
「諸君には現状の再確認をもう一度行ってもらいたい。正確な兵数と兵種に装備と物資をまとめて報告してくれ。それと冬越えに対応出来るのか必要な物資は何がどれだけ必要なのか正直に教えてくれ。最大値から最低値まで予測可能な範囲でな。それと軍の組み替えも必要ならするから遠慮なく相性なんかを教えて欲しい、国軍と言っても所詮は各領主から集めた寄せ集めだから色々と問題も起こるだ?組織した時に考慮はしてくれているだろうけど実際運用していると分かることもあるだろ?」
「ご配慮ありがとうございます。すぐにご報告差し上げます。」
士官達も指揮所から足早に出て行き残る部下達と従卒にも席をはずしてもらい残るは指揮ジェネラルの五体のみになった。
「おまえ達の意見も聞いて良いか?」
指揮ジェネラルが語った内容は意外なものであった。
いや、意外ではなく可能性としてはどれも考えてはいたが選択肢にならなかったことだ。
例えば
少数精鋭で公爵を暗殺
領都を最低限の兵数で包囲しつつ、進行をして占領地を増やして住民の保護をする
敵軍の兵は救うなど諦め容赦なく叩く
物資をホエスラでピストン輸送
大森林でスケルトンによる狩りを行い素材を生産
現実的であり、すっかり忘れていた事を指摘してくれた。
本当に優秀だ。
貴族達からもここぞという時に的確な助言をしてもらったと報告を受けている。
でも容赦なく残酷だ。
士官達が次々に資料を抱えて報告に来る士官達から詳細な自軍を情報を分析していく。
10万を超える規模の集計は想像以上に大変。
ジェネラル達が素早く集計やまとめをしてくれる。まさに万能AI搭載ロボット!
そして最適値を求めてを朝方まで計算と調整を繰り返すことになった。
ゴブリンの大群も大変だったけど、これはこれで大変。




