68 前線基地
カント王国と帝国の国境に近い要塞都市を占領して2週間が経過した。
町には大勢のドウガーイ王国軍とカント王国軍、そして我がヘンリル領軍が駐留していた。
町に収まりきらないので町の外にも仮設の野営地を建設している最中である。
多くの商人や職人も押しかけてきて人口はこれまでの倍近い人数になっていた。
帝国軍が使用していた軍の基地に司令部を開設して戦争の指揮を一元管理する体制が整いつつあった。
軍事面と平行して占領地の内政面を受け持つ部署を町の役所に設けて、将来領地をもらう事が決まっている10人の大貴族の手配した文官が協力して作業に当たっている。
領地の配分は戦後に成果によって決めるとしているので偏る事無く協力して作業に当たっている。
お互い功績を上げる為に足の引っ張り合いが起こらない様に俺の部下にも参加させている。
意見や議論をしたり単純なライバル関係はよいが、行き過ぎて内部崩壊されてはかなわないと思っていた。
しかし、強大な敵に不利な状況で立ち向かわなければならないのので今のところ仲間内のトラブルは起こっていない。
両国の国王が貴族達に国の存亡がかかっているから協力しなければならないと直接要請してくれた事も大きいかもしれない。
司令部のおかれている部屋に入ると壁に部署ごとの状況報告や地図に様々な情報が記されていた。
「閣下、軍議の準備は整いました。」
「ご苦労。まずは現在の国境付近の詳細情報を報告してくれ。」
帝国との国境には大きな街道が5つあり、そのうちのひとつが現在司令部がおかれているこの城塞都市である。
その他の街道にも3つの砦と1つの城塞都市がある。
国境の最も海側に貿易の中心地である城塞都市があり、その他の街道は砦によって守られている。
各砦には1師団が駐留しており城塞都市には2個師団が配置されている。
それ以外の街道には警備の兵は配置されていないようだ。
「小さな街道の警備を強化してから整備をして物資の輸送路を確保して欲しい。砦と城砦都市にはカント王国軍とドウガーイ王国軍の各1師団の合計2師団で対応してくれ。砦など落としにくいところは篭城をしてくるだろうから兵糧攻めにする。この城塞都市から左右に進軍して国境の守りを孤立させて支援を寸断する。時間稼ぎをしながら敵兵を疲弊させてくれ。しばらく待ってもらえれば新型兵器を持って俺の骸骨軍が到着する。うまくいけば待つこともなく落とせるだろう。」
強固な守りのところを無理に潰すよりも倒しやすい場所から潰していき、孤立させてからじっくりと攻めればいい。
「この司令部には侵攻軍としてヘンリル領軍2師団にカント王国軍6師団にドウガーイ王国軍2師団としばらくすれば追加で2師団の合計10師団が集まる。ここに集まった10貴族はそれぞれ自領の軍と合わせて国軍を1師団指揮してもらう。カントの貴族はそのまま5師団を到着次第指揮下においてくれ。カント王国軍の余った1師団は都市防衛に当たってくれ。申し訳ないが指揮官はドウガーイの貴族にお願いしたい。ドウガーイの貴族も到着したら同じようにしてくれ。」
少し無茶な配置だが異論なく全員が支持してくれた。
これから同じ国の貴族としてやっていくので出身国の違いでもめる事がないようにお願いしたし、そもそもそれができる人選をしてもらったのだ。
カント王国軍5師団が海側へ侵攻してドウガーイ王国軍が大森林側へと侵攻していく手はずとなった。
そしてヘンリル領軍は前進と遊撃だ。
正面へ支配地を増やしながら中心となる敵軍を潰していく最前線を受け持つ事にした。
これが一番確実だ。
鬼兵旅団は再編して今回の戦争には第2旅団の総勢1万を全て動員することとした。それ以外にも伝令や偵察のためにスペクターやゴーストも動員している。
ホエスラ君の口で運べるスケルトン達も遊撃部隊として活動してくれる。
たぶんではあるが最速最強の部隊だと思う。ホエスラ君だけで侯爵軍を壊滅できるのではないかと真剣に議論されたぐらいだ。
デルタ・エコー・フォックス・ゴルフ・ホテルの指揮ジェネラルに2000のスケルトンや新兵器の大砲を配備している。
スケルトンの3割は戦闘ジェネラルなので1師団に匹敵する強さだろう。
新型の大砲は1式カノン砲と命名した。
性能は射程約3000mあり単純な砲弾を打ち出すだけだが威力は城壁をえぐる事が出来るだけはある。
後部から砲弾を装填する方式になっており牽引するための台車を地面に固定して発射する。
連続砲撃は10発が限界で掃除と冷却をしなければならないが仰角や旋回角も調整できるように工夫されている。
見た目は地球にあるものとは少し違うが機能性とデザイン性を兼ね合わせている素晴らしい出来映えだ。
運用は目のよいエルフと器用なドワーフと力の強いビーストで編成された砲撃兵が行う。
最高機密なので運用時は塹壕を造り、スケルトンが警備する中で行う。
砲撃兵は全員奴隷化されており機密保持に細心の注意を払っている。
スケルトン達が扱えれば良かったが何故か操作する事が出来なかった。
疑問ではあるがこの世界にない物はスケルトンは対応できないようだ。
各部隊に30門を配備しており、本隊である俺のところには50門配備する予定になっている。
砲弾も十分とはいえないまでもかなりの数用意してもらった。
最強の新兵器ではあるのだが重量が非常に重たい事が弱点だった。
1門運ぶのに砲弾も合わせて魔車一台を必要とするし、行軍速度も異常に遅くなってしまう。
狼達も各貴族に20匹ずつ預けたので王国軍の助けになってくれることだろう。
薔薇騎士団も動員するのだがアイリーンは領都に戻る事になった。
占領した城塞都市で性奴隷として捕らえられていた者たちを開放したのだが、本人達の希望をアイリーンは拒否してケアをしたいと申し出たのだ。
確かに殺してしまうのは忍びないが、楽にしてやるのも優しさだと俺は思うが彼女はそうではなかった。
ヘンリル領で責任を持って面倒を見ることを条件に全員を預ける事に同意した。
わざわざ他人の十字架まで背負う事はないのではないかと思ったが、開放した者が一部でも生きていてよかったと思ってくれるのであれば十分に意味のある行為だろう。
密かにアリーシャに手助けをしてやって欲しいと頼む手紙を出しておいた。
全く環境は違うが、似た様な人生を送ってきた彼女なら力になってくれるだろうと期待をして。
「現地の住民を帝国から解放する事が今回の戦争の目的だ。軍規を徹底させてくれ。違反した者は厳しく処分するように。将来の国民だ、誠意を持って対応するように。人数で我々は不利なのだから住民やレジスタンスの協力は不可欠だ。各自知恵を絞って行動して欲しい。詳細な侵攻計画を立案して提出してくれ。準備ができ次第行動開始する。司令部で戦況の把握と指示を出すから報告はきちんと頼む。それと、撤退は恥ではないからな無駄な損害を出さないようにして早めに撤退か救援要請をしてくれ。ホエスラか俺が駆けつける。以上だが皆良いか?」
全員が同意して軍議は終わり、数日後には作戦が決まり準備の整った師団から順次出撃していく。
ヘンリル軍も最前線に向うとしよう。
公爵軍が奪われた城塞都市を奪還しようとせずに2つ先の町で大軍で待ち構えてくれているのだから。




