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67 撤退戦6

撤退軍の布陣は右翼をドウガーイ王国軍、左翼をカント王国軍、中央部分をヘンリル領軍と王子の近衛兵が守る形で鶴翼の陣を敷いていた。

城塞都市から広がる平地で僅かに高くなっている位置の為に敵軍との距離は遠い。


前列には盾を装備した重装歩兵、その後ろに弓隊と魔術師が控えており歩兵が後方になっている。騎兵は陣の最も外側で突撃の待機をさせている。

全体的に通常よりも密集形態をとらせて防御力を優先した。



対する公爵軍は前方に4つの騎兵大隊が全軍を牽引するかのように配置され、本体は全部で6連隊が横一直線に配置されている。

各連隊は槍兵を前列に配置してその後ろに剣歩兵と弓兵で構成されている。防御よりも攻撃に主体においた装備と配置になっている。


こちらの人数にも近い数の騎兵の突撃で蹴散らしてから数で殲滅して終わりだと考えているのだろう。


「圧倒的な数の差ですね。どうされるのですか?いくら精鋭揃いと言ってもあの騎兵だけで壊滅させられてしまいます。魔術師と弓兵では到底とめることはできませんよ。狼達がいても少なすぎます。」


「敵が平地に出てきた時点で我が軍の勝ちです。私の指示があるまでは持ち場を一歩も動かないように兵に再度指示を徹底させてください。」


自陣に戻り敵を眺めながら王子に指示を出す。

それと同時に敵陣からは太鼓の音が鳴り響き全軍がゆっくりと前進を開始した。


敵の騎兵隊は本隊からの距離を保ち進んでくる。

こちらとの距離がある程度縮まったら一気に突撃を開始するだろう。


大きな音を発しながら悠然と進んでくる敵に対してこちらは静寂に包まれていた。

強靭な兵士といっても戦力差のあまり萎縮している。


「ペルセ様、薔薇騎士団はアイリーン様をお逃がしするために最後列なのでしょか?」


こっそりと近づいてきた薔薇騎士団の仕官が尋ねてきた。


「その必要は無いが準備だけはしておいてくれ。彼女には内緒でね。」


小さく頷いて女仕官は自分の持ち場に戻っていった。

多くの者が敗北を予見しているようだ。


「王子、今日はいいお天気ですね。」


ドウガーイ王国の王子に声を掛けながら真っ青に晴れ渡った空を見上げる。


「もう開戦しているのに暢気ですね…私は胃が痛くなってきたというのに。」


敵の騎兵がそろそろ中央部分に差し掛かり突撃の体制に入ろうとしていた。

待っていたタイミングがやっときた。


右手をすっと掲げてそのまま敵に向って振り下ろす。


指揮官や兵士が何かの指示なのだろうかと、周りをきょろきょろと見ながら困惑している。


「王子、戦闘開始ですので良く見ていてください。」


「は?戦闘開始ってどうするのですか?詳しい指示をお願いします。」


俺はもう一度、空を見上げる。


しばらくすると雲ひとつ無い晴天なのに敵軍に薄っすらと大きな影ができる。

徐々に影は濃くなってくると同時に上空から風音がしてきた。


ゴォーーーーー!


徐々に大きくなる音に敵も味方も関係なく空を見上げる。

空の一部だけが点の様に濃い青色をしている。


音と空の異変に敵の進軍が止まった瞬間、空から巨大な物体が敵の真上に落ちてきた。


ドゴォーン!!!


地震のような振動と共に土煙の衝撃波が顔を襲った。

空から降ってきた落下物の落下地点からは距離があるにも関わらずよろめく様な勢いだった。


土煙で敵軍の状況はよく分からないが、土煙の中を青色の木の幹の太さはある物体が縦横無尽に振り回されているようだった。


「ペルセ様!一体なにをされたのですかー?」


王子が大きな声で聞いてくる。


「しばらくすれば分かります。兵を落ち着かせてその場で待機を!狼達とスペクターは出撃しろ。」


俺の指示を受けて騎乗している狼が遠吠えすると、近くの林から狼達の群れと真黒の煙のように密集した状態のスペクターが飛び出していく。


舞い上がっていた土煙が薄れていくとそこに現れたのは青色の巨大クジラと血の池だった。


上空から落下してきたのは俺の従魔のホエスラ君なのだ。


成長したホエスラは全長が150mを超えておりクジラの規格ではなく巨大船サイズになっていた。

スライムの特性で物理攻撃はほぼ効かないので上空から全力で地面に体当たりをしたのだ。


大重量のホエスラの体当たりで下敷きになった敵兵は一瞬で跡形も無く潰された。

地面を数十センチほど陥没したためそこに血がたまっていた。


ホエスラは土煙が立ち込める中で、口の内部に入れて運んできた戦闘ジェネラル200体を外に出してから胸びれや尾ひれで敵を叩き潰していった。


そして身体の一部を触手のように伸ばして敵をなぎ払っていく。


飛び跳ねるだけで凶悪な攻撃だ。

動くだけで死者が量産されていく。


運ばれてきた完全武装のジェネラルも混乱する敵を容赦なく殺して行く。


剣で切り裂き、槍で貫き、上段蹴りで首を折るやつまでいる。


「ペルセ様、もう一度お聞きしますがあれは一体なんなのですか?」


「あれはホエスラといって新種のモンスターの従魔です。かつてアレスト領を滅ぼしかけた上級モンスターの残した卵を孵化させて従魔にしました。じきに敵の殲滅も終わります。巻き込まれるのでここで待機しておいてください。」


目の前では敵兵がホエスラに潰され、なぎ払われ、狼に喰いちぎられ、爪で引き裂かれ、スペクターの魔術で焼き払われ、土の槍で貫かれ、ジェネラルに斬られ刺されていく。


「カント王国では大森林の中級モンスターのエリアより先には関わってはいけないと決められていますが今納得いたしました。どんなに強力な軍を持っていても全く太刀打ち出来きないのですね。我らは単なる餌という事でも致し方ない。」


「単体の上級モンスターでしたが倒すのに苦労しました。もう2度とやりたくないでよ。それでも上級モンスターの中では弱い部類だったと思います。あのホエスラもぎりぎり上級といったところではないでしょうか。」


ホエスラが戦場に投入されてから1時間もしないうちに我が軍が勝った。


敵の軍は全滅した。


本当に生存者が皆無の全滅だった。


逃げるものも狼やスペクターに全員狩られた。


「王子、我々の勝ちです。町に制圧に向いましょう。それが終われば撤退完了です。」


「勝ったのか負けたのか分からない気分です。これを本当に勝利といって良いのでしょうか…」


確かにあの光景を見ていたのだあればそういいたくなるだろう。

エルフ・ビースト・ドワーフが束になっても上級のモンスターには全く歯が立たない事実を確信してしまったのだから。


町に入ると残っていた兵は抵抗する事もなく投降した。

あの惨状を見たのなら抵抗する気力は無いだろう。


撤退軍と戦闘ジェネラルを引き連れて城塞都市を占拠する。


市民からの抵抗はなく、レジスタンスの協力もあり円滑に占領は進んだ。


戦場の後始末は全てホエスラが行った。

死体を地面ごと丸呑みにして使える物だけ吐き出してくれるので短時間で終了していた。


ここからカント王国領までは半日もかからないが全員が休息を取り、翌日には王子など半数の貴族と兵士が自国への帰路に就いた。


「ペルセ様、私達のみ撤退して申し訳ありません。この戦争も宜しくお願いします。御武運をお祈りしております。」


やっと一段落したかと思ったがこれからが始まりだった。


「早期に終わるように尽力させてもらいます。陛下に宜しくお伝え下さい。」



こうして撤退戦は終了した。



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