66 撤退戦5
城塞都市と野営地の前に広がる平地で両軍がにらみ合う。
国境の警備をしている公爵軍が12000名と対する我が撤退軍3000名。
戦力差4倍とはこうも大きいものかと目の前の光景を眺める。
「ペルセ様、昨晩いった何をされてきたのですか?敵の殺気がここまで伝わってきますよ。」
「王子、申し訳ありません。少し盛り上がって暴れてしまいました。」
「立場もあるのですからあまり危険な事をされてを困りますよ。ペルセ様に死なれたら2つの国が滅ぶ事を憶えておいて頂きたい。」
王子のお叱りもはごもっともだ。
2人の王子と狼に跨り昨晩の出来事を話しながら、開戦前の最終勧告を行う為に歩き出す。
◆
夜になり城門を破壊するために単独で出撃する。
「ペルセ、いきまーす。」
某アニメ風に言ってみたが誰も反応してくれない、当たり前だけど。
漆黒のローブを纏い、闇夜に紛れて町に向って走り出す。
今回の任務は敵を引きずり出すために城門を破壊する事だ。
全部で4つある城門を破壊すればすぐには修復する事が出来ないから篭城がしにくくなるだろうと判断したからだ。
城門まで静かに駆け寄り、門に背を張り付つけて一息ついてから刀を引き抜く。
両手で握り一気に中央部分を袈裟斬りで切り裂きそのまま数太刀でバラバラに鉄製の格子戸をばらしていく。
その奥にある金属で補強された両開きの大きな門も切り捨てる。
音を立てて崩れていく扉のせいで見張りの兵士達が集まってきたので、扉の残骸を全力でフリスビーのように投げつけた。
「うわっ、エグ!この重さを全力で投げたらああなるんだった。とりあえずどんどん集まってくるから有るだけ投げておくか。」
刀で豆腐を切るように扉の残骸をちょうどいいサイズに切り分けて投げまくった。
兵士達は次々に頭を潰されたり、腹部を突き抜けて内蔵をぶちまけたり、足を無くしたりしていく。
あらかた投げ終わる頃には悲惨な死体の山ができており、的を外れた破片が倒れた死体に当たりさらに酷い状況になっていた。
敵がどんどん集まってくるのでそろそろ対処できなくなってきたし、矢がバンバン放たれるので撤退だ。
刀を両手に持ち正面に向って走り出す。
撤退といってもこの場からの撤退で、まだ残りの門を破壊しなければならない。
敵をすれ違いざまに刀で斬っていく。特に力も入れずに撫でる様に刀を身体に当ててやるだけで滑るように切れていく。
瞬く間に20名程の兵士を斬り倒し裏路地に入り、建物の壁を蹴り屋根まで駆け上がる。
この身体でオリンピックに出場したら一体いくつの金メダルを取れるだろうか、などと考えながら屋根から屋根へと飛ぶように走る。
反対側の門まで着くと城門にいた兵士を先に始末して門を破壊した。
門の近くには軍の施設があり、城壁の上から騒ぎを聞いて出てくる奴に向って使い手のいなくなった武器を投げつけた。
投げ終わるとすぐに屋根伝いに兵舎に向った。一番立派な建物を窓から中を見ると士官用兵舎だったようだ。
騒ぎが起きていても多くの仕官が娼婦とお楽しみ中だった。
最上階の一番隅にある部屋の窓をぶち破って部屋に侵入する。
「お楽しみのところ悪いね。ってもう死んでるか。」
ベッドでは背中から胸に刀を突き刺され即死しているエルフが声を出す間も無く口から血を流している。
座り込んだ状態から刀を引き抜くと、後ろに倒れた。
「客を殺してしまって申し訳ない。恐い思いをさせたね。ここにあるお金は全て持っていっていいから。それじゃあ失礼するね。って君…聞いてる?おーい?」
目の前で殺しが行われるなど異常で、恐ろしい思いをしたせいか反応が返ってこない。
顔の前で手を数回振ると弱弱しい手で俺の手首を握った。
「私は娼婦じゃない、奴隷。お願いです私も殺してください。」
娼婦じゃなくて奴隷だったのか、なんとなく察しはつくが一応話を聞いてみた。
多くは語らないが国が滅んでから数百年を軍人の慰み者の奴隷として生きてきたそうだ。
寿命が長いと過酷な状況になった場合に人間では想像も出来ない生き地獄を味わう事になる。
もうまともな思考も出来ないようだ。完全に心と感情を肉体から切り離しているようで開放しても自殺をするそうだ。
「君の願いは聞き届けよう。最後になにか希望はあるかい?酒か食事を用意しようか?何か言い残すことはないか?」
「ありがとう。何も要らない。貴方は優しいから抱きしめながら逝かせて。」
彼女に脱がされた服の上着を羽織らせてそっと抱きしめる。
「これでいいんだね?」
「うん。ありがとう。あったかい…」
右手に持った短剣で背中から一突きで心臓まで貫き、苦しむ事の無いようにする。
眠るように息を引き取った彼女をベッドに寝かせた。
その後も宿舎の仕官を全員殺して、最後に魔術で火をつけて燃やした。
奴隷になっていた女性は全員エルフで最初の彼女と同じ境遇だったようだ。
全員が開放より死を選択した。
日本ではどんな事情があっても嘱託殺人となり刑事罰に処せられるがこの世界では関係ない。
個人的な考えだが無責任な正義の方が余程罪だと思う。
彼女達を本当の意味で救う事など誰にも出来ないのだ。
自己満足な正義で生き残らせるのはエゴだろう。
胸糞悪いので適当に兵を力任せに殴り殺し、斬り、魔術を放ち火達磨にする。
同じ敷地にあった全ての建物に火を放ち全て燃やした。
彼女達への手向けに成ればよい…死んだら終わりだけどね。
その後、酒場に寄って強めの酒を3杯程飲んで残りの城門を破壊して仲間の元へ戻った。
何人かの女性が”帝国を滅ぼして”と言っていたがそこまでは俺には出来ない。せめて多くの道連れを共に逝かせてやろう。
◆
「…とまぁそんな感じで一暴れしてきたわけです。同じような事を自分もしているのに自分勝手なもので…自己嫌悪してます。」
「そうでしたか。でもペルセ様は多くの者を幸せにしています。女神様もきちんと見てくれているはずですよ。民の為にもこの戦争に勝ちましょう。そうすればまた多くの者を幸せに出来ます。全員を幸せに出来るほど私達は完璧ではありませんからあまり思い悩まぬ方がいいと思います。」
「そうですね、出来る事をやるだけですね。では最終勧告をしましょう。」
敵の大将も部下を引き連れて戦場の中央まで騎獣に乗ってやってきた。
「高いところから失礼します。抵抗せずに投降すれば生命の保証はしますので投降してください。」
「そんなちっぽけな軍で我らを倒せると?あそこまでの事を仕出かしてただで済むと思うなよ。王子も貴族も大勢いるし閣下へのいい手土産が出来たわ。お前らこそ投降したらどうだ?そのワーロック以外は丁重に扱ってやる。ワーロックの貴様はただでは済まさんからな。」
「交渉は決裂だな。存分に後悔するがいい。王子、参りましょう。」
こうしてお互い自軍へと戻っていく。
撤退戦で最初で最後の野戦の始まりだ。




