63 撤退戦2
森の奥にある村で野営しているのだが日が暮れて間も無く、何体ものスペクターが密書を持って来た。
密書を王子と一緒に開封していく。
ドウガーイ王国は宣戦布告について承認して、正式な外交ルートで帝国に侵略に対する抗議と宣戦布告を改めて通知した。そして国内の軍の編成と駐留軍の即時出撃を命じていた。
駐留していた6師団6万の兵はすぐに前線に向けて移動を開始するとの事だ。
カント王国も帝国に対して同様な対応を取っていた。そしてドウガーイ王国とカント王国は同盟を正式に締結する事になった。
カント王国は国境に10師団10万の軍を集結させるとの事であった。
ヘンリル領は2万の駐留軍の出撃を命じて、鬼兵旅団も出撃を開始させた。
うまくいけば撤退が完了した頃には大半の軍が国境に揃う事だろう。
補給はヘンリル領だけではなく両国共に準備を進めているそうだ。
アース商会も全力で支援するようにライラにお願いしたのでうまくやってくれるだろう。
カント王国内でもクローニに任せた商会が再建中ではあるが頑張ってくれるだろう。
クローニなら戦争特需を逃すはずも無くたっぷりと稼いでくれるだろう。
軍は補給に困る事は無く、商人は儲かり、生産者も消費が増えて収入も増える。
戦争とは一種の経済政策なのだろう。
帝国が戦争を続けなれれば成らないのもこれが理由かもしれない。
大きくなりすぎて止める事が出来ないのだろう。
「王子、全貴族が揃われましたね?では今後の撤退に関する軍議を始めます。まずは本国の動きについて王子であるお二人からご説明ください。」
二人の王子は隠す事無く両国の貴族に自国の方針や対応を説明していく。
「全部で20師団20万名の兵で同盟軍が発足する。補給は王国と貴族だけでなく商会も協力してくれます。皆さんはは全員無事に撤退して下さい。私は途中で陥落させる前線基地にするの町に残りますので承知ください。」
「ペルセ様、その前線基地にここにいる我が国の貴族を一緒に残してもらえませんか?新たな国家の樹立時に爵位と領地を拝命できると聞いておりますので彼らを推挙したい。建国時には何人ほど爵位をいただけますか?」
公国を建国したら両国から平等に貴族を叙勲することにしたな…何人がいいかな?
はっきり言えばそこまで考えてなかった。
「そうですね各国5名の全部で10名としましょう。公爵位が最高位になるので侯爵位を5名に伯爵位を5名にして後は領地内に部下をおいてもらうというのはどうでしょうか。あくまでも個人的な現時点の考えですので変わるかもしれませんが。」
「妥当な人数じゃないでしょうか。そこまでの面積は確保できませんし、維持はさらに困難に成るでしょうからね。その5名は王国に決めさせていただいても?」
「候補を選んでいただくのは王国ですが、決定は公国がするのが宜しいかと。」
「もちろん最終決定は公爵がされる事ですので。それでは候補を選ばせていただきます。」
戦勝後に意識がいっている様だが、現状の戦力では同盟軍は不利である。
帝国軍は同数の20万の正規軍を保有しており、傭兵や住民の召集をすれば更に集まるだろう。
その上、ゴブリンを数万の規模で用意してくるだろう。
状況が劣勢になれば帝国軍の援軍が来るはずだ。帝国の辺境討伐軍は4軍あるから倍に増える可能性まである。
「まずは無事に撤退して本隊と合流する事が先決です。明日、森を突っ切った先に町があります。時間的に野営地はその付近になると思うのですが、こちらと同数程度の軍がいます。本日偵察したところ戦闘の準備をしていました。戦闘は避けられないかと思いますのでこちらも準備をお願いします。」
まさか遠く離れた町に敵が現れるとは想定していないだろう。カント王国を攻め為の準備をしているのであろうがこちらを発見すれば即時戦闘もあり得る。
「分かりました、部下達には準備させておきます。」
相手の出方次第でここが初戦となるかもしれないな。
負けるわけにはいかないから俺も準備をしておこう。
◆
「村長、世話になったな。兵達もゆっくり休めたし感謝している。いずれまた来るからそれまではおとなしくしておけよ。変な意地張っらずに俺達に脅されたなり適当に悪者にしておけば良いからな。」
「ご配慮痛み入ります。ご無事の帰還と戦勝をお祈しております。どうかご健勝でまたお越しください。お待ちしておりますので。」
人の良さそうな爺さんだ。
こういう住民が幸せに暮らせる場所を増やしたいもんだ。
「日も明けたし出発だ。」
森の山道に次々に進んでいくが魔車一台がやっと通れるような道幅なので時間がかかる。
全ての魔車が出発したのを確認して村人達にお礼を言って飛び立つ。
下を見ると俺の飛行ルートに沿って森の中を狼達が駆け抜けている。
「あいつらは凄いな。木があんなにあるのに普通に走るのと変わらないスピードじゃないか。やっぱりもっと増やすべきだったかな。頭もいいし、強いし戦力としたら下手に兵士を増やすよりいいな。帰ったらたくさん増やすかな…。」
森を突っ切り平野にでたところで狼達に森で待機するように命令して、上空から町を偵察する。
貧相な町だが人口は多いようだ。
兵士もそれなりにいる。戦闘の準備はしているようだが、まだ出撃はしていない。
「昨日と同じたな。さて、どうやって攻略したもんか…。もう、俺の面は割れてるだろうから誰かを使ってだまし討ちするか。だめもとで一回やってみるか。」
行軍している隊列に近寄り降下していく。
「誰か騎兵1人貸してくれ。話の巧いやつを頼む。」
騎兵部隊なかから軽騎兵のエルフが1人近寄ってきた。
「危険な任務だが引き受けてくれるか?次の町に伝令として走って欲しい。味方だと思わせて食事や野営の準備をさせるように試して欲しいんだ。行ってくれるか?」
「了解しました。すぐに向かいます。話はこちらで決めてしまってもよろしいですか?」
「任せる。対応できる範囲でな。ダメそうならすぐに逃げてくれ。こんなとこで無駄死にはするなよ。」
「承知しております。では、行って参ります。」
颯爽と走り去っていく騎兵。
この世界では根本的に紋章や旗印で敵味方を識別しているだけで、正確に所属を見分けることは出来ない。
人種や言語の違いなど一切ない。
どこの国でも、地域でも訛りさえない。
味方だと言えば信じてしまう。
合い言葉や符合などを用意しないといけないかもしれないな。
しばらく自分の魔車でアイリーンと話をしていると扉がノックされた。
「閣下、うまくいきました。あっさり追撃部隊だと信じてくれました。人数が多いので町の外に野営地を設営して、指揮官には町の宿を用意するそうです。装備は逃げ出した我々が残した物を使っているといっておきましたのでそのままでいけると思います。」
「ご苦労だった。いくつか帝国の貴族の旗印をこっそり貰ってきたからそれを付けるように隊長に指示してくれ。それと歩兵隊の隊長を呼んでくれ。」
夕方近く町の側までやってきた。
「隊長、おまえ達が指揮官とその警備として町の宿に行ってくれ。もしも夜襲をするならスペクターを向かわせる。手練ればかりだから大丈夫だとは思うが無理せずに鎮圧をしてくれ。静かにやっても暴れても構わない。何もなければゆっくり休んでくれ。」
「承知しました。久しぶりの夜襲ですよね。」
おいおい、楽しそうな顔してんなおまえ達。
実戦も経験して、厳しい訓練も受けた猛者達は暴れたくて仕方なさそうだ。
「むちゃはするなよ。むちゃは!」
「分かっていますよ、閣下」
いや、ふりじゃねーし。
大丈夫かこいつら?
単なる戦闘狂ばかりじゃないよなうちの軍は?
「閣下、宜しいでしょうか?是非とも薔薇騎士団のメンバーも入れて下さい。私たちも出来ます。」
また戦闘狂だ。
「いや、今回は男じゃないとおかしいから。君たちはここで貴族のお世話をする仕事が有るからそちらを優先してくれ。」
「指揮官の世話役も必要なのでは無いでしょうか?剣の腕なら自信があります。先陣は私達にやらせて下さい。」
あぁ、完全に戦闘モードになってるよ。
正面からぶつからないように作戦立ててるのに、なんて脳筋な奴らばかりなんだ…
「今回は夜襲をするんだぞ、全力でぶつかってどうするよ。もう決定!反論却下!潜伏部隊もくれぐれも目的を間違えるなよ。作戦を復唱してみろ?」
「指揮官として宿に潜伏後、スペクターでの指示を待ち状況に合わせて行動して敵を鎮圧します。」
「理解できてるなら大丈夫だな。薔薇騎士団も戦闘にはなるだろうから持ち場で待機するように!アイリーンもいいね?君が行ったら見た目ですぐにばれるからね!拗ねても駄目だからな!」
「私なら出来るのに…ふん!」
王女でしょ?お姫様だよね?
何で斬り合いしたがるのよ?
「はぁ疲れるわ…」
どっと疲れた体で夕食を食べる。
アイリーンはいつも横で食べるのに今日はいない。
薔薇騎士団のメンバーと愚痴でも話しているのだろう。
関わらないのが賢い選択だ!




