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62 撤退戦

白銀の毛を赤黒く血で染めた狼達が戻ってきた。


全部で30頭の中級モンスターに襲撃されたのだから相当の被害だった事が想像できる。


「ご苦労様。汚れてしまったから川があったら綺麗にしよう。」


クウーン!


なんともカワユイやつらだ。

でも、血まみれですりよってくるなよ。


「それでペルセ様、今後はどうされるのでしょう?このまま素直に帰してもらえるとは思えないのですが…」


「間違いなく追撃や妨害は有るでしょう。この行軍速度では騎兵部隊なら追いついて来るでしょうから。あれだけやられてそのまま帰すほど優しい性格はしていないでしょうから。」


20名以上の貴族とその従者で合わせて3000名を超える大集団なのだ。

魔車が足りない訳ではないが警備のためや休憩など様々な理由で行軍速度は格段に遅くなっていた。



「このままの速度ではカント王国にたどり着くのに10日。町を避けたり、敵との遭遇を考えると更に時間がかかりますな。食糧はどれぐらい持ちそうですか?」


「余裕はないです…撤退を優先しましたので。節約をしても三日もつかどうかといった量です。途中で補給をしなければなりませんが既に知らせは届いているでしょうから通常の手段では困難でしょう。」


飛行系従魔で各町に連絡はすぐに送られるだろう。


「通常が駄目なら別の手段で、と言うわけですね?」


「まぁ、そうなりますね。ほとんどが兵士なので戦力としては申し分ないですが、貴族の皆さんの安全が問題ですね。」


「それなら問題ないでしょう。全員が武芸に覚えのある者ばかりですし、従軍経験と指揮の取り方も心得ております。今回はペルセ様のご忠告を参考に人選をしましたので。わが国の貴族は全員ペルセ様の指揮下に入ります。この撤退軍を宜しくお願いします。」


「わがカント王国の貴族も同じである。ここは両国が一致団結してペルセ様に国まで指揮をお任せしたい。そもそも、この撤退戦や今後の戦争についてもカント王国は全面的にペルセ様の作戦を支持させてもらいます。戦後の新国家の樹立も承認する用意は出来ております。それにしても夜中に突然の連絡には驚きましたよ。」


女公爵の訪問後にすぐに密かに連れてきていたスペクターを遣いにだして王子達や貴族に連絡をしてした。


宣戦布告から爆破、撤退の仕方まで式典の始まる前から決まっていた。

スペクターなら監視網には引っかからないから全く気が付かれる事はなかった。


「あまり時間が有りませんでしたから。私の部下や新型魔道具の件は可能な限り秘密でお願いします。これからの行軍は少々乱暴なやり方で行いますのでご容赦下さい。それとカント王国への入国予定地を少し変更したいと思います。最短で行ける砦ではなく、その隣の砦に向かいます。行軍途中での待ち伏せを避けるためでもあるのですが、中央部分の町を占拠して攻略の足がかりにしたいのです。この兵力があれば問題ありません。」


ただ帰るだけでは時間を無駄にしてしまう。

前線基地を確保して俺はそのまま残り増援を待ち、東西の攻略を進めて最終的には女公爵の野望を領地ごと潰してやる。


「承知しました。それでは急ぎましょう。宜しくお願いします。本国への連絡は既にしておりますので早急に援軍も来るでしょうし、国境の警備も厳重になるでしょう。カント王国内にドウガーイ王国軍が駐留していてくれたお陰で両国軍が同時に動けます。ここまで読んでおられたとは流石です。」


こうしてカント王国領を目指して行軍が始まった。


公爵領の領都から最初の町に近づくと町の門は堅く閉ざされていた。

門の上には見張りの衛兵が数十人確認できる。


「まだ食料はあるからここはそのままやり過ごしましょう。追撃されても困るので私が門だけ閉鎖してきますので無視して全速力で駆け抜けてください。」


俺は魔車から飛び降り魔闘気を発動して全速力で町に走っていく。

放たれる矢を避けながら門まで近づき魔術で壁を作り封鎖していく。

俺が魔術を発動している間に隊列は町を迂回しながら街道を全速力で進んでいく。


撤退を見守りながら町にある3つの門を封鎖して隊列に戻る。


「日が暮れるまでもうすぐなので少しでも距離をかせいでおきたいですね。今晩は夜間行軍をする必要がありますね。食事の大休止を長めにして、夜間は魔車に交代で搭乗するなどさせて休憩を取らせるようにしましょう。指揮官である貴族の皆さんも交代で休息をとってください。」


最初の町を過ぎてしばらく走ったところで地平線に日が落ちていく。

街道を逸れて小高い丘の上に停止して休憩と食事の時間となる。


狼達に森で動物を捕ってくるように命令して、火を焚き鍋に具を放り込んでいく。

小麦粉を水でこねただけの生地を同じく鍋で焼いて主食を作る。


食事の準備をしていると狼達が様々な動物を捕まえてきてくれたので、捌いて焼いて兵士に配った。


2時間ほどで食事は終わり行軍が再開された。

翌朝に備えた簡易な朝食も用意できた。数台の魔車では魔術を使い料理をする事にした。

腹が減っては戦は出来ないからね。


現実問題として兵士の士気は空腹に大きく左右される。

温かい食事だけでも士気は上がる。


深夜の夜間行軍も魔術や魔道具のお陰で離脱者を出す事も無く朝を迎える事が出来た。

途中の小休止で交代をしていたので兵士達の疲労も大きくは無かった。


「いくら疲労は少ないといっても今晩もぶっ通しは厳しいだろうな。従魔もそろそろ休ませないといけないから今晩はどこかで野営が必要だな。」


朝日を眺めながら魔車の屋根の上に腰掛けて全体を見渡していた。

今のところ行軍に乱れは少ないから各貴族がきちんと指揮してくれているのだろう。


「アイリーン、起きているか?」


「はい、おはようございます。私はぐっすりと休めましたが、ペルセ様は一睡もされていないのではないですか?お体に触りますよ。しばらくお休みください。」


「2,3日なら問題ないよ。ところで夜のうちに偵察してきたのだがこの先で街道から右に細い道があるからそこに向かうように指示を出しておいてくれ。向いたい方向に抜ける事が出来るし、途中に村があるからそこで休息をとろうと思う。俺は今から行って交渉をしてくるから頼んだよ。街道から分かれるところに目印に槍を一本刺しておくから回収しておいてくれ。」


「承知しました。他は宜しいですか?」


「今のところ追撃も見当たらないから大丈夫だろう。王子達によろしく伝えてくれ。そろそろ伝令に出したスペクター共が戻ってくれるだろうから本国との意見を確認しておいてくれ。」


「分かりました。お気をつけて。」


槍と貨幣を持て空に飛び立ち、後方を探索して追撃の接近がない事を確認して村に向って飛び立った。



「そこの村人、この村の村長はいるか?」


畑仕事をしていたビーストのおっさんに話しかける。


「貴族様ですか?村長は村の中心にある大きな家だと思うのですが、ご案内しましょうか?」


「仕事中で悪いが頼めるか?それにしても静かな村だな。農作物の出来はどうだ?」


村長の家に向かいながら話をする。


「今年はまだましだが最近はかなり厳しいですな。この辺りの土地はもともと痩せているし森にはモンスターも現れるので農地も広げられないのです。街道から外れていて不便だし、町まで遠いから若い者たちは皆が村を出ていって帰ってこないです。領主様からも忘れられたかもしれないぐらいの村です。」


「そうか、それは大変だな。備蓄は無いか?」


「多少はあるとは思いますがたくさんは無いと思います。貧乏しかない村ですから。」


と話をしていると村長の家に着いた。

大きめなボロボロな小屋だ。


「村長さん、お客様だ。貴族様がおみえだよ。」


すぐに扉が開き中からドワーフの爺さんが出てきた。


「これは貴族様とは珍しい。はじめましてこの村の村長を務めております。中にどうぞ。」


「失礼する。」


古いテーブルに案内されて腰を掛ける。


「村長、早速に要件を話して悪いのだがいいか?しばらくすると私の軍がここに来る。食料の提供と寝床に広い土地を使わせて貰いたい。従魔も沢山いるからその餌も頼みたいのだが。きちんと謝礼は払うから協力頼めないだろうか。」


貨幣の入った袋をテーブルに置いた。


「どれほどの人数がおみえになるのでしょうか?多少ならお分けできますが小さな村ですので。」


「3000名ほどになる。厳しいか?」


「到底無理です。蓄えどころか年貢用の小麦を全部使ってしまいます。」


そうだだろうな。数百人規模の小さな村なのだから。


「金を渡すから年貢用の麦を分けてくれ。年貢は現金で払えばいい。それに書状も添えておこう。」


敵国の貴族では書状を書いたところで本来は効果はないだろうが、逆に脅しなら通じるだろう。


“この村に手を出せば一族郎党に死より恐ろしい地獄をこの世で味合わせる”


これでばっちりだ。悪名で名高い殺戮伯だからね。


「それならばお分けさせていただきます。場所は村はずれの空き地で宜しいですか?」


「ああ、それで構わないよ。これで少しは村の足しにしてくれ。部下達が来るまでに困った事があったら教えてくれ。いずれ俺の支配地になるかもしれないから、力になろう。ここは街道と街道をつなぐいい位置だと思うからな。」


ここは大きな森を東西に貫通する細い街道があり整備すれば有益な交通網を作る事が出来るのだ。

資金不足で開発がされなかったのだろう。


「そのような事ははじめて言われました。もともと帝国のエルフから迫害され逃げて来た者の村ですので。森の奥深くにあり東西のどちらの街道からも遠いと放置されている村ですよ。本当にその様なことをしてもらえるのですか?」


「その辺の無能な奴と俺を一緒にされては困るな。いずれその時が来るだろう。それまでは戦争で厳しい状況になる。今のうちに備えておけ。ちなみに俺はドウガーイ王国のヘンリル辺境伯という。我侭な女公爵に宣戦布告をぶちかましてきた帰りでな。巻き込んでしまって悪いな。」


「帝国と…それなら協力は惜しみませんぞ。先祖よりの恨みを晴らしていただきたい。この辺の小さな村は殆どが迫害されて帝国を恨んでいるものばかりじゃからな。協力するものも多いと思います。」


「それは助かる。俺はエルフもドワーフもビーストも平等に扱う。俺はワーロックだからな。新たな夜明けを楽しみにしていてくれ。とりあえず飯の支度をしてくれ。」


「承知しました。村の者に早速やらせます。辺境伯様はどうされますか?」


「おれは周囲を偵察してくるからよろしく頼む。」


こうして二日目の夕刻に到着した撤退軍はつかの間の休息をとる事が出来た。

通った街道は村長の了承を得て何箇所か木を切り倒して道を塞いだ。


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