60 公爵
公爵領の領都はかつて存在した亡国の王都であり、かつての王城が現在の公爵の居城になっている。
亡国の王城は長い年月により刻まれた風格を持った古城であった。
王都に到着したのは当初の予定よりも遅くなってしまった。
少々寄り道をしすぎてしまった。
領都に到着すると城門前にいた門番に止められた。
街中に警備上の問題で他国の兵士を500名規模で入れるわけにはいかないといわれてしまったのだ。
おいおい、500名まで歓迎してくれるんじゃないのか?
と思い抗議をすると、500名まで歓迎しますは決まり文句の社交辞令だそうだ。
帝国流は知らないよ。
公爵直轄の上級役人が駆けつけたが現実問題として500名の兵の受け入れは可能だが、150匹を超える従魔は街中で面倒を見る事が出来ないとのことで町の外にある従魔牧場に併設する形で仮設の宿営地を造ることになった。
当然費用は公爵持ちだが丁重に謝罪とお詫びを受ける事となった。
対応はきわめて迅速で丁寧だった。
戦争を仕掛けてくるような雰囲気は一切感じられない、それどころかとても感じがよい。
宿営地は騎兵を中心に200名が交代で待機して、町の中には300名が同行する事になった。
ちなみに一般の貴族は平均で100名ほどの従者を連れてきているそうだ。
ドウガーイの第3王子でさえ300名だそうだ。
人数が増えれば費用も時間も大幅に増えてしまうので500名で来たのは魔車と騎獣を沢山保有する俺のみだった。
「結構に綺麗な町だな。城のすぐ側のこんなに立派な屋敷を滞在用に貸してくれるし、至れり尽せりの歓迎だな。大きいといってもこの屋敷に300名も入れるのか?」
「部屋が足りないので薔薇騎士団以外の一部は庭で野営してもらいます。使用人も用意されましたが丁重にお断りしておきました。現在は屋敷の内外の安全確認をしております。避難経路の確認が済み次第ご報告させていただきます。昼夜問わず警備は厳重に行います、閣下もご協力よろしくお願いします。お1人で出歩く事は無いと信じております。外出の際はお申し出下さい。」
相変わらず兵達は厳しいな。自由が全くない。
仮想敵国のど真ん中なのでしょうがない事なのだが。
「分かった。ライラの警備は厳重にしてくれ。それと王子や他の貴族の護衛や救出も想定して準備を頼む。それと町の地理や人の動きなども徹底して調べていざという時にすぐに対応できるようにな。」
「かしこまりました。早急に行います。」
式典は三日後だが、それまでも終わってからも食事会やら舞踏会など様々な催しがある。
もちろん個別の会談なども用意されている。
俺のところにも式典の前に来るそうだ。
一体どのような話になることやら。
「公爵様がお見えになられました。」
「すぐに行く。」
公爵は呼ぶつけるのではなく向こうから出向いて来た。
爵位で考えれば異例の対応だ。
公爵を案内した貴賓室にむかった。
そこには鋭い目つきをしているがとても美しいエルフが待っていた。
「お待たせしました。ペルセ・アース・ヘンリルと申します。この度はお招きいただきありがとうございます。辺境ではありますが、ご就任お祝い申し上げます。今後は宜しくお願い致します。」
「ありがとうございます、ヘンリル辺境伯。新たにバンプ公爵領と成りましたこちらの領主を務めるエメラルダ・レークと申します。これから宜しくお願い致しますわ。お忙しいのに無理を言ってお越しいただき、心より感謝しておりますの。」
公爵が女だとは思わなかったわ。
ドウガーイにもカントにも領地持ちの女貴族は存在しない。
キャリアウーマン風の美人さんだ。
タイトスーツを着せたらメチャクチャ似合うだろうな…
「それで本日の御用向きは単なる挨拶や世間話という訳ではないのではないでしょうか、公爵閣下?」
ただ挨拶にわざわざ公爵が来るはずがない。
「勿論で御座いますわ。この式典を機に帝国とドウガーイ王国が良き隣人になれましたらと考えております。そして、その隣人にはヘンリル辺境伯にお願い出来ないかとも考えております。私の配下としてではご不満かもしれませんがいかがでしょうか?」
おわぁ~!
とんでもない話をしだしたよ!
カント王国は滅ぼして帝国領で、ドウガーイ王国は部下にした俺に乗っ取らせて属国化するって事だろ?
ないわ~、いかにもキャリア志向のできる女!
「随分と高い評価を頂いているようですが、少々勘違いされているようです。私のような新米領主には大きすぎるお話です。大変に興味深いですけれど。」
国を裏切って帝国に付いた方が安泰かもしれないが、俺なんかに付いてきてくれる部下達は裏切りたくない。
俺に将来を預けて死んで行った奴らが大勢いるのだ。そいつ等の命分は約束を果たす義務が有るのだから。
「直ぐにお返事を頂かなくても結構ですわ。考えていただく時間は御座いますのでよくお考えになって下さいませ。ただし、他言無用でお願いいたします。」
「承知いたしました。一つお伺いしますが、就任早々になぜそのように征服を急がれるのですか?」
領主になったばかりでは戦争なんて出来ないだろうに…訳ありでなければ。
戦争なんて準備段階で概ねの勝敗など決まってしまう。特にこの衰退している辺境ではなおさらだろうに…秘策があるのか?
「理由は色々御座いますが帝国民の為で御座いますわ。勿論、新たに帝国民になられる予定の方々も含めてですわよ。平和と発展がより良い暮らしをもたらすと確信しております。それには多少の犠牲は必要ですが些細な事ですわ。より良くするために少しでも早く行うのが私の責務ですの。」
多少の犠牲?些細な事だと?
もっともらしい事を言っているがとんでもない野心家だ。
被害など無視したふざけた計画をぶち上げるのだろ!
「公爵閣下にはかないませんな。前向きに検討させていただきましょう。より良き国のために。」
その後もあれこれと話をしたがこの女は自分以外を道具としてしか考えていないことが確信できた。
本日は有益な話が出来ましたわ、オホホホ!って笑って帰って行ったが、目が笑ってないんだよ!
帝国の力で脅してビビらせて、属国の王座という飴で確実に釣れると思っている目だ。
安く見られたものだ…なめやがって!
一発かましてやりたいが…
「また戦争か…気が重くなるわ」
公爵は帰ったがとんでもない爆弾を置いて行きやがった。
溜め息をついているとアイリーンが部屋に入ってきた。
「あまり良い話しではなかったようですね。お聞かせ下さいますか?」
「また戦争だよ。また大勢の部下達が死んでいく…やってられないな。」




