59 帝国旅行
ゆっくりと流れていく雲を見ながら田舎道をのんびりと歩く。
右を見ても左を見ても自然豊かな原風景だ。
左手の少し先にコバルトブルーの湖がある。山の谷間にまで広がっている大きな湖だ。
少し寄り道してのんびりと風景を見ながら休憩がてら、ランチを食べるのもいいな。
「少し早いけど昼食にするか…まだ肌寒いし温かいスープがいいな。それとホットドッグもいいよな。」
そう言って適当な倒木に腰をかけて待っていると希望のランチが食べられる。
メイドの持ってきたプレートを受け取り、熱々のソーセージを挟んだホットドッグにかぶりつく。口いっぱいに頬張って豪快に食べるのが旨いんだよな。しかも大自然スパイスで美味さ5割り増しだ。
「ペルセ様、ご機嫌ですね。私もこういうのは大好きですけど貴族だという事をお忘れなく。ライラ様から任されてますから。」
文句を言われながらも旅行を満喫しているが、そもそもここはどこなのか?
それは帝国領だ!
◆
冬が終わり国王陛下に新年の挨拶のために王都に来ていた。
国王陛下との新年の謁見は国内の貴族の大切な政務の一つなのだ。
下級貴族はまとめて謁見するが、辺境伯の俺はライラを嫁にもらい王族の一員でもあるので単独で行われる。
陛下も久しぶりのライラとの再会で喜んでいるようだった。
陛下との謁見後には第三王子の屋敷を訪ねる事になっていた。
屋敷では王子一家が盛大に歓迎してくれた。
お互いの妻を紹介したり、王子の子供達に質問責めにされたりと賑やかなパーティーだった。
「ペルセ様、帝国領の領主の交代はご存じかと思うのですが就任式典は知っていますか?」
「あぁ、夏のはじめあたりらしいですね。王国にも招待状が?」
「王国にも…?にもってことは…ペルセ様にも直接招待が来たのですか?」
そう。突如として情報を探っていた帝国の新領主から就任の式典をするので来て欲しいと使いが来たのだ。
「ここに来る直前に使いが来ましたよ。丁寧なご招待だけど簡単に言えば挨拶に来いって上から目線の命令の様なものなんで、丁重にお断りしましたよ。挨拶ならいつでも来て下さいって。」
新しく来たくせに呼びつけるなんて何様のつもりなんだ!
使いの首を斬らなかった自分を褒めてやりたい…って凶悪な殺人鬼じゃねーか。
人間を物理的にやめて転生して、殺しにも慣れきてしまったな。
「お断りになるとは流石ですね。帝国の公爵家の招待を断るなど王家でも出来ませんよ。ましてや一貴族が断るなど。今回はドウガーイ王国とカント王国の名だたる貴族が招かれて、その多くが当主自ら訪問すると思います。」
「そうなんですか…まずかったかな。でも俺がもし公爵でこれから戦争を仕掛けるなら集めた客を皆殺しにするか人質にする、もしくは服従させるかな。そんな事にはならないでしょうけどね。」
ふと思った本音をポロリとこぼしてしまった。
「なっ、本当ですか?でもありえるのか?でもそな卑怯な事をしたら評判は最悪だけど、滅ぼしてしまえば関係ないのか…万が一現実に起こったら。全てが終わりだ。戦う前に国がつぶれてしまう。」
「もしかしたらの話ですよ。本気にしないで下さい。」
いや、でもあり得るよな?
支配者の貴族を皆殺しにするって俺自身もやったよな?
管理するもののいなくなった土地ほど攻めやすいものは無いからな。
「でも、ペルセ様もし本当にその様な事態になったらどうするのですか?」
どうすることも出来んよな…俺は逃げるけど。
「殺れる前に殺るしかないのじゃないですか?公爵をその場で殺害すれば万事解決です。」
「そんな事貴方にしか出来ませんよ。ついて来てくれませんか?」
一回断ったのにどの面下げて行くのですか王子よ!
「断ってしまったので…ちょっと今回は、お力になれずすいません。」
「そんなぁ~!わが国はどうすれば良いのですか?教えて下さい!」
「陛下にお聞き下さい!」
とまぁこんな感じで帝国の新公爵の就任式典対策が協議されたらしい。
俺は速やかに領地に戻りました。
今回の件は関係有りませんというスタンスだったのに、しつこい訪問販売がまたやってきた。
「ヘンリル辺境伯閣下、前回は大変失礼いたしました。主人は閣下とは新しい世代の領主同士で親交をどうしても深めたいと言っております。お忙しい閣下にご迷惑をお掛けするのでとこちらの土産を主人より預かっております。お納めください。また、当家にお越しいただければこの様につまらない物ではなく素晴らしい物を用意しています、と主人より言付かっております。何卒お越しいただけないでしょうか。」
なんだかとてつもなく怪しいな。
いくつもの木箱に詰まった金銀財宝である。
王子の件もあるし受けておくか、また来ても嫌だし。
「この様にお気遣い頂き感謝する。熱き思いが伝わりました、喜んでお邪魔させていただくと公爵閣下にお伝え頂きたい。」
「おおぉ、主人もお喜びになられることでしょう。道中お気を付けていらしてくださいませ。最高のもてないしをさせていて頂きます。お供の方も500名様まででしたお世話させていただきますのでご安心してお越しください。」
こうして出席する事になったが連れて行ける兵は500名のみか。鬼兵旅団のスケルトンは連れて行けないからかなり厳しい戦力だ。
それなりの距離があるのであまり準備の時間もないので早急に始めるとしよう。
今回の帝国公爵領への随伴は式典の出席に妻の同伴は必要だとの事からアイリーンが同行することになった。
真っ白な軍服に身を包み腰には二本のレイピアを後ろでクロスさせるように装備している。
見た目も飛びぬけて綺麗なのだが、武術を毎日のように鍛練してきたお陰で素の状態の俺よりも強いかもしれないといったレベルに到達していた。
簡単に言えば剣の達人になっていたのだ。
アイリーンの率いる薔薇騎士団から見た目・実力が優れた女性兵士が100名選ばれ身の回りの世話を含めて同行する。30名は従魔に騎乗している。
そして従来の騎兵と新たなバイソン型従魔の重騎兵を50名ずつ。
これも訓練を積んだ強者ばかりの精鋭だ。
そして、アイリーンと同じような達人レベルの兵士10名と高位魔術師20名を合わせた一般兵が300名同行する事になった。
女性は真っ白に統一され、男性は黒で統一しているのだが集団コスプレ大会だ。
この世界はそれほどデザインが進んでいるとは思わなかったが中世の豪華な衣装だ。
いやちょっと違うな、アニメの世界だな。
芋虫モンスターの糸から作られた軍服をベースに細かい兵種によって装備が異なっている。
部分的にミスリル製や中級魔獣の革製のアーマーを身につけている。
ミスリル製の武具には綺麗で細かな彫金装飾が施されている。一種の芸術品であるが装着性も重視された実用品だ。
革製のアーマーも豪華な刺繍を施されていた。これは軍服もそうだ。
全員がつけているマントも温度調整機能も付いた魔道具で軽くて強いモンスター革製のようだ。
背中にはヘンリル領の紋章が刺繍され胸には旗印も入っていた。
ここまで凝った装備を誰が作ったのか不思議だが素晴らしいできだ。
でも全員がこんなではないよな?資金使いすぎたか?
帰ってきたら一度チェックしようと心に決めた。
武器も総ミスリル製で中級モンスターの素材を使ってた弓やボーガンもある。
俺は黒魔竜刀とオリハルコン製の刀を装備している。
以前使っていたアダマンタイト製の剣は刃こぼれが酷くなり、アイリーンの二本のレイピアに作り変えたのだ。
騎獣も綺麗な装飾の入った鞍などの道具をつけられていた。
30台の魔車も金属やモンスターの革や骨を使い軽量化と防御性を格段に高めた軍用であった。
堂々と何本もの旗をはためかせる姿は勇壮である。
一際目立つのは重厚な造りで繊細な彫刻や装飾をされたた領主様の箱魔車だ。
中も広く屋敷の一室となんら変らない。強度も高くて中級モンスターの攻撃でも壊れないし、魔術もはじき返すそうだ。
そして、俺の騎獣はとても大きくて銀色に輝く毛を纏って、2本の立派な尻尾を振っている狼。
名前はシロ君です。
とても賢くてふわふわで人懐っこいので最初はビビッていたが今はお気に入りなのだ。
乗り心地もいいし、早くて強い。
ちなみに誰も乗せていないが20匹程連れて行く。
集団での狩りで本当の強さを発揮するのだ。
「みんな準備はいいかな?せっかくの帝国領だから楽しんで行こう。現地では戦闘になる可能性もあるけど、それまではのんびりしてくれ。」
とは言ったが全員きちんと整列して全く隙がない。相当な訓練をしたようで、見た目の良さも相まって儀仗隊を務めることも出来そうな一団だ。
ヘンリル領を出て、カント王国を通過して、帝国領に入ったが行軍速度が早すぎた。
その上、変化の乏しい風景にも飽きた。
通過する町はどこもしょぼくて泊まれる宿が有る方が少ない始末だ。
自前の魔車の方が余程くつろげる。
のんびりシロと散歩したり、ひとりでぶらぶら歩いたりぐらいしかやることがない。
アイリーンは兵士達と訓練をしていたりしたが俺はたまに参加する程度だった。
旅行ってこんなに退屈だったんだと初めて知ることになった。
「閣下、この町から領都までは魔車で2日で到着するそうです。少々早く着いてしまいますがいかがしましょう?」
「ここにいてもする事無いから早めに領都に行くしかないだろ。なんか楽しめるもんがあるのかこの辺に?」
「実はとても綺麗な湖が山あいに有るそうですよ。しかも、珍しい魚がとれるようです。細長くてヌルヌルした真っ黒い魚だそうで、意外に美味しいそうです。行かれますか?」
「麦飯と漁の用意をすぐにして出発だ。」
間違いない!ウナギ発見だ!
是非とも食べたい!
蒲焼きは出来ないが白焼きで十分だ!
こうして寄り道をしながら公爵の居城へ向かった。




