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58 平和な日々

「なぁ、今日お前を呼んだ理由は分かるか?分かるよな?」


執務室に呼び出したのは公爵令嬢だ。


「お前は夏にはゴブリンが攻めて来るって言ったよな?今は秋だが?」


うつむいたまま何も話さない。


「二カ国の国王へ報告して準備を進めさせた俺の立場はどうなる?帝国軍の動く気配すらないぞ。ガセネタを掴ませたのか?」


「嘘では有りません。お話した事は全て本当です。」


この公爵令嬢からの情報で様々な戦争の準備をしてきたのに平和なままもう一年が経過する。

ドウガーイ王国もカント王国も戦争に向けて緊急の準備をしたのにも関わらず、小競り合いすら発生していない。


「これは俺の責任だ。お前は一度拷問にかけてきっちり調べる必要が有るな。何が建国して子供が欲しいだ、ふざけやがって!もし、次の夏までに来なかったらおまえは処刑だ。」


とは言ったもののそこまで被害がでている訳では無い。俺のメンツが潰れはしたが、他は危機感から様々な問題が早送りで行われたからだ。


公爵令嬢が話している事は嘘は無いだろう。

となると、そもそも偽情報を信じた。

もしくは、計画は有ったが頓挫した。


偽情報であれば平和が続くのでそれならそれで良い。

計画が頓挫した理由は分からないが、こちらの対策が戦争を回避したならやった価値があったのだ。


どちらにしても対策は取っていかなければならないだろう。


「なんでもします。奴隷にでもなります、処刑だけはご容赦下さい。」


「お前、なんにも出来ないらしいじゃないか。本当に貴族なのかよ?読み書きが多少できる以外は計算もダメ、帳簿もつけれない、唯一の仕事が掃除って…平民かよ。」


「うちは公爵家でも辺境の田舎で貧乏だったので私なんかに教師を雇う余裕は無かったんです。人もあまり雇えないので私も掃除は毎日してました。こんな裕福な領地では無いのです。私の生活水準はヘンリル領の村の住民以下ですよ、恐らく。」


なんとまぁ…同情してしまうな。

現実として彼女の部下達の証言からも相当に貧乏らしい。


ここで暮らしたら他では暮らせないから彼女の部下を辞めて、ヘンリル領に仕官したいと全員が言い出した。


日本に住んでたら、アマゾンの秘境では暮らせないのと同じかな。

でも、部下にあっさり捨てられる公爵令嬢ってのも…かわいそうで、話せない。


「うん、大変だったんだな。そうか、これ小遣いやるからなんか食べてこい。今日はもう良いぞ。」


銀貨を一枚渡すと嬉しそうに握りしめて部屋を出て行った。

アホらしくてどうでも良くなったので、もう忘れて他の仕事をする事にした。


執務を終えて夕食を嫁達と食べた後にレッグスを連れてバーに向かっていた。


扉をくぐるとなんとも落ち着く雰囲気だ。

まともな看板もだしていないので一見の客は居ない。むしろ、客自体がそもそもいないのだ。


カウンターに並んで座る。


すぐに出されたお気に入りの酒に口を付ける、相変わらず強くて旨い。


「結局、帝国は攻めてこないなぁ。何も情報はないのか?」


「外交関係では攻めてくる気配はありませんが帝国領にて領主の交代があるようです。新領主が仕掛けてくる可能性は高いですね。まだ噂レベルらしいですが。」


「敵国に潜入されている者からも同じよな情報が入ってます。どうやら現皇帝に近い人物のようです。帝国の密偵がカント王国内に増えているようですが…残念ながら本職ではないので詳しい情報は掴めておりません。」


負傷して退役した軍人で構成しているので訓練も受けていないから、本物に対抗できるわけがない。


「いや十分だ。これからも継続して頼む。戦いになれば圧倒的な戦力で潰せばいい。その準備はどうしても必要だしな。情報が分かっていても戦力がなければどうにもならん。レッグス、今の領内の状況はどうだ?」


「順調です。鉱山は金山もミスリル鉱山も開発が進み、中級モンスターの素材も増えて収益も倍増です。ドウガーイ王国とカント王国からの硬貨の造幣権も獲得しましたので工業分野は急成長してます。軍の武器も急ピッチで製作してます。ドワーフの流入は止まりません。ただ新領都の城の地下でとんでも無いもんを作っている事だけ心配です。モンスターの糸の紡績工場も順調です。規模を拡大しており軍用だけでなく貴族用の衣服として販売も開始されてます。私も最近買いました。城の建設も順調ですし街道整備も順調に進んでいます。」


部下達がしっかりと働いてくれるお陰で領地経営は順調そのものだ。


「そうか、引き続き頼む。軍はどうだ?」


「カント王国に派兵した駐留軍が二万、国境警備に五千、領都とその周辺に一万、薔薇騎士団が四千です。閣下の指示された訓練方法を取り入れ、骸骨兵に毎日訓練されてますので相当に鍛えられています。現在も予備役と開拓兵の訓練をしてますので動員すれば一万はすぐに増やせます。それと目立って強い者を選抜する特殊部隊も指示通りすすめてますが人選に手間取ってます。」


「まだまだ鍛えろ、肉体も精神も。規律はしっかりと教えるようにしておけ。装備もだいぶ良くなっただろう?」


兵の訓練は任せているが装備は俺が主導して整備させた。自慢の品々だ。


「閣下、あれは凄いですよ。見た目もさることながら性能は最高です。でもやりすぎでは?国王直轄の近衛兵団よりもうちの一般兵の方が良いもんを身につけて大丈夫ですか?見た目は近衛兵の方が派手ですが、彼らのフルプレートよりヘンリル軍の軍服の方が防御性能は明らかに高いですよ。特に魔術への抵抗力はかなりのもんです。」


鍛えた兵士を失う事が最大の損失になる。装備を強化するのは将来の損失を軽減するため先行投資なのだ。


「死人やマスターみたいになるやつを少しでも減らしたいのさ。自ら死地に赴くものを、生きて帰えすのが指揮官の役目だろう。もちろん作戦が最優先はされるが、努力だけはしておきたい。」


レッグスもマスターもクスッと笑う。


「閣下は、いやペルセ様は変りませんな。昔からそうだった。部下の装備のために麦飯食って節約してると噂になってますよ。」


「別に節約はしてないぞ、麦飯は好きで食ってるだけだが。なんだその俺が貧乏だ、みたいな噂は。失礼だな。」


「そうではないのですが…部下達は感謝してるという事です。町の住民もです。ペルセ様の変装に誰も気がつかないと思っていましたか?」


「なんで変装のこと知ってんだ?まだ誰にもばれてないぞ。」


「だれもが気が付いていないフリをしてるんですよ。酒場で話をしたり、果物買ったり、子供と公園で遊んだりしてるのは皆が知っています。生活を豊かにして住民を第一に考えてくれる領主様だと。でも、トランプ賭博で金を巻き上げるのと火遊びは程ほどにお願いしますよ。まぁ、もともとこっち側じゃないので気持ちは理解できますが。俺も元ギャングのボスだからな、と気楽に話したいとたまに思います。私なんかを貴族にしてもらったのに申し訳ないと思うのですけどね。」


「まじか…はずかし。たまの息抜きだったのに、これからどうすれば…」


日本じゃ普通のサラリーマンだったから、貴族の堅苦しい生活は息が詰まる時があるのだ。

一般人として普通に町をぶらぶらして観光したり、買い物したり、メシ食って酒飲んで、賭け事して、一晩の相手と遊ぶ。

本物の貴族はそうした事をしたいとすら思わないそうだが俺には無理だ。貴族初心者はすぐに貴族には慣れない。


鬼兵旅団の管理の時間が必要なので外出が多く、営業マン時代の癖か休憩の時間を作ってしまうのだ。

まさかばれていたとは、知らなかった。

誰も領主と気がつかないからばれてないと思っていたが、知らないのは俺だけか。


俺の休みに住民達は付き合ってくれていたんだろうな。


「閣下、私達がやってきた事は無駄じゃなかったんですよ。今、頑張っている者達の努力も無駄にしないためにこれからも頑張りましょう!」


「なにかっこよくしめてんだ。もう帰って寝る。今日はエルのとこに帰る。しばらく引きこもる。」


俺の領主としての仕事なんて書類にサインして、面会者と話をして、芋虫を孵化させて、飯食って寝る。


べつに何日かいなくても問題ないだろう?


どうせ平和なのだからしばらく休養を取ることにしよう。


「止めませんよ。どうなっても私には関係ないですからね、ペルセ様。きちんと報告はさせてもらいます、ライラ様に!」


「お、おまぇ…裏切り者!」


叫びながら店を出る。


数日後の戻ったらライラ様にこってり怒られました。

領主が逃亡するなと!


「次に逃げたら敵前逃亡罪で鞭打ち!」


一部のマニアは悦ぶよ、ライラ!

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