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56 招かれざる客

執務が終わり自室でくつろいでいるとライラが入ってきた。

今日はライラとの添い寝の日だったようだ。


嫁と領都に居る愛人がローテーションで俺の部屋にやってくる。1人で寝ることもたまには許されるが謎のローテーションには要望も拒否も許されていない。女の事情になんて関わらないのが一番と諦めている。最初はのりのりだったがすぐに毎日はきつくなった。

求められ過ぎると冷めてしまう、なんて贅沢な悩みだろうか。悦びを教えた責任は果たすつもりだが。


「ライラはまた勉強をしたいのか?」


ライラと過ごす時間は経済や色々な政策を討論する事が多かった。


「はい。今後の領民の増加対策について教えて下さい。私なりの案はこちらにまとめたのですが一つずつだといいのに、政策と政策がうまく繋がらなくて。」


相変わらず見た目は中学一年生のようなのに難しい事を考える。リストを見るとよく考えられた案ばかりだがやりたいことが多すぎる感じた。


「ライラに欠けていることが何か分かったよ。教えて欲しいかい?」


「はい。是非とも教えて下さい。」


不安と期待に満ちた目で見つめてくる。


「休憩と子供らしさだな。トランプして遊ぼうか。ほらおいで。」


「へ?バカにしないて下さい!」


ほっぺを膨らませてソファーを叩きながら怒っている。なんとまぁ~可愛らしいことだこと。


「バカにしているんじゃない。全て良い案だよ。でもこれは戦術クラスの案なんだ。俺達が考えて、決断して、実行しなければいけないのはもっと全体的な戦略クラスの事なんだ。これは必要なところで必要なタイミングでやればいい。それをやるのは部下達だ。下のものを信頼して任せることも大事だよ。自分ひとりで何でもやろうとしても、全部は出来ないんだから。だから、たまにはのんびり楽しむ事が大切なんだよ。」


「むぅぅ!そうかもしれないですけど子供って言わないで下さい。第一婦人なんですから。」


少し拗ねちゃったかな…だがしかし敢えてここはからかう。


「そっか、大人なライラなら今からベッドで楽しませてくれるんだ。赤ちゃんが楽しみだなぁ~。」


「もうっ!またバカにする。大人になったら後悔させてやりますからね、私の身体で!」


「それは楽しみだ。でも今はトランプで楽しませて下さい。」


頭を下げる。

腹部にダイビングハグをぶちかまされて、そのまま顔をぐりぐりとすり付けてくる。

俺も頭を抱きしめるように撫でてやる。


二人で楽しくトランプをしていると背後に気配を感じた。微かな魔力が動いた。

刀に手を伸ばしたところでゴーストが姿を表した。


テーブルに一枚のメモ用紙を置いてすぐに消えていく。メモ用紙を見るとバーのマスターの文字だ。


帝国の貴族らしき一団有り

ハンターの護衛を求めて領内に侵入

エルフ男5 女3

ビースト男7

商人に偽装

調査と監視継続中

領都に向かう可能性大


くそ忙しい時に問題ばかり押し寄せてくる。

ホエスラの一件からまだ数日だぞ、いい加減にしてくれよ。


「何の知らせですか?」


「大したことじゃない、訪問客の知らせだ。もうそろそろ寝ようか。」


「はい、私の勝ち越しですしね。」


トランプで俺より多く勝てたことでご機嫌になりながら布団にはいる。

腕枕で抱きつかれながらの就寝にももうなれた。むしろ愛おしくてしょうがないのだ、決して父性愛だとは言えないが。



「マスター、例の一団の様子は?」


「はい、お知らせしたように3日前に領都に入りました。現在は宿屋で過ごして情報探っているようです。閣下と戦力を探っています。すでに対策はしてあるので重要な情報は手に入れられないでしょう。ギルドの協力でハンターとの連携も取れています。」


「そうか…それで目的は?」


「エルフの女が主で貴族です。帝国の元公爵家の8女です。」


「モト?と言うことは…あれか。」


「おそらくは。匿って欲しいのでしょう。あわよくば家の復興が目的でしょうな。どうも何かしらの技術を開発したが皇帝に家ごと取られたようです。帝国の情報はなかなか難しく難航しております。申し訳有りません。」


「いや、十分だ。もし接触してきたらその時だ。うまく使えるようなら利用するだけだ。そいつ等の進退は俺次第さ。引き続き頼んだ。」


グラスの酒を飲み干して店を出る。



面会のリストを確認してから午後の来訪者と会っていく。

全部で3名の予定なのだが1名は知らない名だった。

当社の面会は多かったが重要な相手以外は部下に任せるようになった。


最後に面会をする者が部屋に入ってきた。

ソファーに腰を掛けエルフの男性を社交の挨拶を交わす。

随伴は護衛の男性エルフが1名にメイドの女性エルフが1名だ。


「このように急な面会にもかかわらずお時間をいただきましてありがとうございます。」


「領地の運営では商人の意見はきわめて重要だから当然である。さて時間は有限だ、用件を聞こうか。」


「はい、実は私の商会の関係でとある貴族の方のお世話をさせていただいております。もし宜しければご紹介させていただき、ヘンリル領での滞在もご許可いただければと思いまして。」


「そうか。しかしいかなる理由で我が領にお越しになりたいと?」


「閣下の行われている領地運営は遠くまで響き渡るほどの評判になっております。その政策や領地を直接見て勉強をさせて貰いたいと希望されておりまして、お許しをいただけないかと思いまして。」


「もちろん構わない、ドウガーイ王国の貴族も良くお越しになり意見交換などさせていただいているからな。皆さん領地運営には苦労されていますから。ところでお聞きするが、あくまでも一般論なのだが領地を持たない貴族が勉強される事に意味はあるのでしょうかな?」


メイドの女性エルフの顔が一瞬険しくなる。


「個人差はあるかもしれませんか見識を広めるためには必要な事かと思います。」


「そうかもな。ところで我が領のハンターギルドはどうであった?なかなかに利用しやすかったのではないか?能力も優秀であったであろう?道に迷う事も無く、武装も戦闘技術もしっかりと身につけている。当然ながら教養もあったであろう?」


「はい…とても助かりましたが…」


「ところで聞くがなぜ主が立っていて、座って部下が話をしている?」


三人の顔に明らかなに慌てた表情が見える。


「何を慌てている?元侯爵家の8女であろう君は。もう貴族ではないと思うがね。まさか何も知らずに面会したとでも?お前らは俺をなめているのか?」


2人の男性エルフが主を守るように身構える。

背後を壁にして主を囲むように軽く手を広げてけん制するが、無手で何ができるのやら。


「お前らが領内に入ってから常に監視しているぞ。優秀なハンターがすぐに紹介されて護衛してくれると思ったか?いい加減な内容で身元もハッキリしない集団に?面会を求めて領主がすぐに応じると思うか?領都に入って5日も探りを入れたのに情報が集まらないのはなぜか?本当に何も気がつかなっかのかな?」


「全て知っていたのか。姫をどうするつもりだ?」


「どうしようと俺の勝手だな。忙しいのに人の領地に問題を持ち込むなよバカ女!家族と一緒に死んどけば良かっただろう。全く、ここに来て何がしたかったんだ?俺はなぁ、帝国と揉めるのはごめんだからお前の部下は全員殺して、お前は帝国に突き出す。」


「お待ちください。お怒りは分かります。しかし、お助けいただくための情報を持っております。今後のドウガーイ王国とカント王国の存亡に関わる重要情報です。情報を閣下に提供しますので公爵領の奪還にご協力いただけませんか?」


国家レベルの情報か…新技術の件も有るし聞いてみるか。


「分かった、話してみろ聞いてやるから。」


「ご助力のお約束を先にいただけませんか!」


「情報の価値を決めるのは俺だ。交渉はそう後だ嫌なら別にいいぞ。部下を皆殺しにしてから、お前を拷問にかけるだけだ。裸で汚水に浸かりながら毎日虫や排泄物を食べさせられてひたすら殴られたか?それとも寝る間も無く数百人の相手をさせようか?」


「貴様、姫に何たる口を   」


ぼと


刀で一閃。商人を名乗った男の首が地面に落ちる。身体は首の切り口から血を噴出してゆっくりと倒れる。

この部屋にいる入り口の見張り2人に俺の秘書官2名と待機している4名のメイドは事態に反応する事無く無表情で直立不動である。


そもそもこの部屋は血で汚れても掃除しやすい造りになっているのだ。俺が割りと頻繁に殺傷事件を起こすのでこの部屋が作れらた。室内にいる者は全て訓練された戦闘能力を持った兵士でもあるのだ。


男性エルフに刀の剣先を向けながら公爵令嬢の前に近づく。


「お前も動くと頭がおさらばだぞ。姫さんよ、部下ぐらいちゃんとしつけとけ。領主への虚偽と暴言、領地を危険にさらす計略を持ちこんだ犯罪者として処刑した。お前の他の部下は既にハンター達が全員拘束して軍に引き渡された。お前はどうする?さっさと話すか?」


顎を包むように右手で姫の顔を掴むとシャーと水音がしてきた。お姫様は失禁してしまった。

思いのほか量が多いので手を離して2歩下がる。


「泣いてないでさっさと話せ。ここで話さなければ拷問だぞ!」


「拷問はやめてください、話します、お話します。グジュ。帝国はカント王国に攻め込みます。我が領で完成させたゴブリンの従魔化と繁殖の技術を使い数万のゴブリンを使って攻める予定なのです。やっと完成させた技術なのに戦争の道具にされました。お父様は開墾や農作業などの労働力として考えていたので、戦争利用のための情報開示はしないと拒否したら反逆だと…反逆罪で皆殺しです。部下のお陰で私だけ逃げれたのです。我が家は何も間違った事はしていません、領民のために頑張っていたのに。辺境の貧乏公爵家なのに…悔しくて。帝国に、皇帝に復讐をしたいのです。どうか力をお貸しください。」


そう言う事か…帝国もやる事がえげつないな。


「秘書官どう思う?」


とりあえず部下に聞いてみよう。参考までに。


「たいした価値はありませんな。10万やそこらのゴブリンなどヘンリル軍を動かす事もなく閣下の第2軍で半日で終わりではないですか?ゴブリンなど使えても意味もない。帝国との戦争がそのようにぬるいならこちらから攻め込んでも良いぐらいですな。この小娘にもたいした価値は無いですな。帝国に送って貸しを作っておいて攻められた時に嫌味を言うのに使うぐらいですかな。」


「そうだな。でもゴブリン程度の戦力でどうにかなると思っているのかな?こいつもどうすうるかな?公爵家だし旗印に使えんかな?…攻められたら殲滅して帝国の領土を少々奪うか。そこをこの姫をトップにおいて公爵家を復活させて公国として独立させるとか。可能か?」


「血筋の正当性なら可能かと。ただヘンリル領でそこまでの統治する人的余裕はありません。閣下の事ですからまた広大な占領地を獲得されるでしょうから是非ともおやめください。部下が戦場以上に死にます。」


それもそうだよ、現状でも目に隈の無い役人がいないような惨状だからな。

どうしたもんかな?


「お前処女か?国は運営できるか?部下とか当てはあるのか?」


「嫁入り前なので処女です。国どころか村の運営も出来ません。部下は連れてきてくれたものだけです。すみません。」


あぁ~本当に無能だ。


「どうするこれ?とりあえず死体と小便を片付けてそいつをまともな格好に着替えさせろ、臭くてかなわん。ライラを呼んでくれ。」


今更恥ずかしがってももう遅いぞと思いつつ、今後を思案してみる。

人的余裕はない。資金は小麦相場次第であるが成功すれば無理ではない。

統治システムさえ構築できれば何とかなりそうだな。


ライラの連れてきたレッグスと共に今後の検討をしてみたが迎撃が精一杯ではないかと意見だが、それでは得られるものがない。試合には勝てるが勝負には負けてしまう。戦争とは金が莫大にかかるのだから。


「いっそのことスケルトンジェネラルに丸投げしてみるのはどうだ?スケルトンだけで統治できないか?」


スケルトンの中でも指揮能力を持つジェネラルなら占領地支配の能力が備わっている。会計スキルを補助につければかなりの事がこなせる。元公爵家の娘を公爵にして建国すれば何とかなるかもしれない。

カント王国の先には昔は小国がいくつかあり帝国によって滅ばされた歴史があるようだ。帝国の領土ではあるが住民から根強い反発があり発展も遅れており、辺境のためカント王国を思うように攻めれないのだそうだ。


逆に帝国からの開放を古代の皇帝の血筋のものが間違いを正すと大義名分を掲げればうまくいくかもしれないな。


近年は国境の小競り合いがある程度で大きな戦争はなく、カント国内の混乱と戦力を低下させる計略がメインだったのだろう。戦力はドウガーイ王国との戦争で低下しており、王弟も処分された事で計略も途絶えたので侵攻作戦の開始といったところだろう。


公爵令嬢の話では早ければ来年の夏にも攻めてくるのではないかとの情報が帝国内にはあるようだ。


「ライラ、ヘンリル領の生産力は計画通りに進めば数年後には現在の市場では供給過剰になるのではないか?戦争も終わり両国共にさまざまな産業の生産も増えているからな。うちの開発する新市場はあったほうがいいんじゃないか?」


「確かにその通りです。しかし、問題はカント王国が認めるかどうかですね。当然、わが国の国王陛下もすぐに許可とはいかないのではないでしょうか?これ以上ペルセ様が力をつけることを嫌がるかもしれません。」


そりゃそうだわな。当然嫌がられるだろうな。


「どの道戦争は避けられない。俺が建国することは出来ないから公爵令嬢を使って建国しよう。領地は両国の貴族の優秀な子息に領地を与えるというのはどうだ?貴族は嫌という程余っているだろう。」


「それで公爵令嬢の夫はどうしますか?ペルセ様では建国するも同じなので誰を持ってきますか?子供を持ってくるにしても誰の子をという話になりますね。」


ライラの指摘も当然だがある程度血を入れておかないと支配も出来なくなってしまうから無関係の奴を仕立てる事も出来ないし。


「お姫様よ、お前は今の話でいいか?何か希望があれば聞くだけ聞こう。」


着替えをして貴族らいい格好になった公爵令嬢は部屋の隅で俯きながら立って話を聞いていた。


「私に選択肢はありませんよね?叶う事ならペルセ様のお子を授かり帝国を打倒できるような強き国をおつくりいただきたいです。現在の帝国は貴族同士が皇帝の座を争い、領土を争い、手柄を争い内乱と粛清の繰り返し。その所為で国内は荒廃して民には貧困が蔓延して日々飢えとの闘いです。一度帝国は破壊されなければなりません」


おいおい、いきなり壮大な話になってきたぞ。


「それは無理だな、なんたって貴族歴二年だからな。俺のポケットはもういっぱいだ。嫁達や部下達が何とか支えてくれてるからの辺境伯って貴族が居るんだよ。まぁそもそも建国できたらの話しだ。」


そう、これ以上は荷が勝ちすぎる。

そろそら限界をわきまえなければならない時期だ。このヘンリル領の整備すらままならないのだから。


「レッグスは公爵令嬢を秘密裏に保護して部下含めて情報を取れ。それと情報収集と作戦を作成しておけ。ライラは情報と今後の計画を両国国王にすぐに報告して協議に移ってくれ。それとアース商会の方も頼むぞ。」


「「承知しました。」」


こうして公爵令嬢の話からまた戦争の準備に追われる日々になってしまった。


平和とは本当に戦争の準備期間だ…


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