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55 従魔

夏になりスケルトンの強化も領内の内政も商売も順調に進んでいた。


魔車を増やすためにランタートルの孵化をさせて、ついでにスライムの卵に魔力を与えていた。


保有魔力に余裕が出来てきたし、次の旅団拡大は魔力が10億も必要になるのでしばらくは気にする意味もない。


暇な時に魔力を卵に与えていたら少しずつでは有るが大きくなってきた。


「ノーエルは動物や従魔とか好きか?ペットといって可愛い動物を家の中で飼ったりはしないのか?」


「家の中で愛玩動物を飼育するというのはあまり聞いたことは無いです。あくまでも何かに利用するために飼育してますので。ただ、小鳥とかは好きです。家の中で育てるのは空がなくて可哀想ですけどね。その卵も孵化するのですか?」


屋敷の自室に置いてある卵は現在バスケットボールサイズにまで成長していた。


「あぁ、強力な従魔になるかもしれないからな。複雑な気分か?」


ノーエルはこの卵の入手の経緯をよく知っている。自分の実家を壊滅させかけたモンスターの卵なのだから…


「またあのモンスターが私の家族を苦しめるのではないかと思うと不安で…。孵化させるのがペルセ様なので大丈夫だと信じていますが、万が一にも手に負えないようなモンスターだったらと考えてしまって。」


確かにその可能性は否定できない。

もしもの場合は孵化したてをすぐに殺すつもりでいる。


右手を卵に添えて魔力を与えている時は常に左手の親指は刀の鍔にかかっていた。


「その時はすぐに殺すから安心しろ。それにしても夫婦なのに様は必要か?嫁同士も様をつけているのが少し違和感があってな。」


普通に呼び捨てで呼んで欲しいと言っても笑顔でやんわり拒否されるのだ。


「貴族のマナーみたいなものですから。ある程度の距離感が円満な関係の維持には必要なのですよ。結婚しても実家の力関係は引き継ぎますからね。」


「そんなもんかね~?別に俺はレスサス伯爵家が没落してもノーエルと変わらず夫婦でいるけどな。」


「そういってもらえると嬉しいのですが、潰れる前に助けてくれるともっとうれしいですね。」


「それはそうだな。当然助けるから潰れる事はないか。」


嬉しそうな笑顔で俺の肩に頭を預けてくる彼女の肩に後ろから回した手をかける。

ほっそりとした首筋から見える白い肌はなんともそそられる。


つい最近まで生娘だったのに大人の色気を纏い、いい声で楽しむようになった。


翌朝、メイドにソファーを汚して怒られたのはご愛嬌だ。



もう孵化させる事が目的ではなく魔力を与えるのが暇潰しの癖になってきた頃、突如として卵が振るえだしヒビが入った。


「アルファーをすぐに呼べ!全員城の中に避難しろ!モンスターの卵が孵化するから城外にだす。衛兵は万が一の際に住民の避難が出来る体制をとれ!」


すぐに孵化してモンスターが産まれる。

大声で指示を出しながら、卵を抱えて部屋を飛び出して城外の広場を目指して走る。


廊下を走りながらすぐに避難をするように叫ぶ。走る俺をアルファーが戦闘ジェネラルを引き連れて追いかけてきた。


「城の外で孵化させる。もし制御できなければすぐに殺す。スペクターも呼べ。弱点は火の魔術の可能性が高い!」


「ギョイ」


卵のヒビが全体を広がり、一部が剥がれ落ち始めたがなんとか広場にたどり着いた。

中央に卵を置き、俺と鬼兵旅団で取り囲む。


ペキッ


パキッ、パキパキ


音を立てながら卵の殻が剥がれていき、ついにモンスターが誕生した。


卵の内部から飛び出した水色の球体が空中に浮かんだ。


「ヤバい!空を飛べるのか!スペクター、魔術の用意をしろ!」


水色の球体は空中でブルッと動くと勢いよく広がった。

まるで丸めた本が戻るような動きだった。


そして空中に浮かぶ物体は魚になった。


「なんだこれ?敵意は無いよな?全員警戒を解くなよ!」


目の前に現れたのはスライムだ。

でも、以前に倒したスライムとは形が違っていた。


カツオサイズのザトウクジラのようなフォルムをしていて、空中を泳いでいるのだ。

透明でハワイアンブルーをした空飛ぶクジラ型スライムだ。


「また、奇抜な奴が現れたな。とりあえずこっちに来て着地しろ。」


試しに命令してみたらユラユラとこちらにやって来て足元の地面に降りた。


何だか割と可愛い。


「これは成功か?」


そっと触ってみるとみるとプルンとしたスライムだった。今のところは暴走はしない。


「命令を聞くから町の外まで連れ出す。町の外の警戒をしておけ。暫く帰れないかもしれないが頼むぞ。」


そう周りに言い残してクジラ型スライムを連れて兵器研究所に向けて飛び立った。

モンスターの専門家に判断してもらわなければ対処方法が判らない。


多数のスペクターとクジラ型スライムを引き連れて兵器研究所に降り立った。


「おい、すぐにこのモンスターの鑑定をしてくれ。上位クラスの魔石を保有していた突然変異種の残した卵から孵化した従魔だ。従魔化できているか教えてくれ?」


すぐにモンスターの研究者が近寄って色々と調べていく。

研究者は額にふき出した大粒の汗を服の袖で拭いながら鑑定していく。

その様子を他の研究者達も見ていたが魔術師がそっと声を掛けてきた。


「閣下、あの水中生物系モンスターはなんなのですか?保有魔力が半端じゃないですよ。周りを取り囲んでいる黒いのも相当な魔力ですがあれは別格です。魔力が強すぎて私達では立っているのが精一杯です。」


「俺にもわからない。分からないからここにきた。従魔なのだと思うが…暴れだしたら何も考えず全員逃げろ。俺も無視していい。ヘンリル領の為に開発を頼む。いいな!」


「承知いたしました。」


何も起こらない事を祈りながら固唾を呑んで見守った。


「閣下、従魔化は出来ています。ひとまず危険は無いかと思います。水中生物系モンスターの新種だと思われますがそれ以上は不明です。ソードフィッシュなどと生態は近くて空中を生息圏としているのだと。特殊な能力や戦闘力、攻撃手段は不明です。おそらく魔力を含むものを餌とした雑食ではないかと思いますが…。まだ幼体ですのでこれからある程度まで成長もするのではないかと思いますがどうされますか?育成するのなら餌を試してみますが?」


俺が許可しすると研究者は魔力を含んだ金属、土、モンスターの肉、木材など様々なものを用意した。

俺が好きなものを食べろと命令すると肉・木・土・金属といった順番ですべてを食べてしまった。


「こいつは何でも食うんだな。命令も聞くし大丈夫そうだな。」


やっと臨戦態勢を解除する事が出来た。刀を握っていた手が強く握りすぎて固まっていた。

わずかに開いた手は汗でびっしょりだった。


従魔に名前をつけるとより絆が強くなり命令を聞きやすくなり能力も上がるとの事だった。

名前を付けたもの以外の命令を今後聞かなくなるが、今回はそうしておいた方がいいだろうと言われて名前を決める事にした。


「クジラじゃひねり無しだし、クジラスライムじゃ長いし、クジスラもしっくりこないよな。ホエールでもいいけど…ホエスラにしておくか。分かりやすいし。よしお前はホエスラだ。」


そういいって頭に手を載せた瞬間に…いきなり直径10メートル程に膨れ上がった。


そして次の瞬間に


バチィィイッン!!!


伸びていたゴムが縮むような感じで一気に収縮して元の姿に戻った。


戻った身体はサフャイヤのような濃い青色で光沢が有り、なにもなかった表面に模様が刻まれていた。

一回り小さくなったホエスラは柔らかさだけでなくしっかりした硬さもあった。


いきなりの出来事で俺でも尻餅をついて驚いてしまった。心臓が一気に縮みキュッと痛くなった。

研究者達も同じような格好だが半分は気絶して倒れていた。

放置しておけないのでスケルトンに部屋に運ばせた。


モンスターは何があるか分からない。

ホエスラは安全確認のためにもしばらくは兵器研究所で調教と育成をしてもらう事にした。

じっくり見るとかっこよさと可愛さを併せ持つなかなかなペットだった。


どんな風に成長するのか楽しみだ。

もうビックリさせられるのは御免だけどな…

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