54 兵器開発
領都からさほど遠くは無い大森林の袂にある元廃村はスケルトンにより整備されていた。
この周囲に住む者はおらず、近づく事も無い場所であった。
この村に繋がる街道はなく、隠された獣道が有るだけで村の存在自体が既に忘れ去られていた。
村の周囲は厚い壁で覆われており、その外側を樹木でカモフラージュしていた。
この村に集められたのは魔道具職人、鍛冶屋、魔術師、モンスターと大森林の研究者だ。
全員が優秀で稀有な才能を持っていると思うが世間では変人・犯罪者扱いされている者ばかりだ。
ヘンリル領では多分野の研究を進めており、研究者を好待遇で招致していた。将来的には研究と同時に学校で教育もしてもらう予定だ。
そうして集めた人材の中で兵器開発をさせるメンバーを選抜したのだ。
天才というか奇抜な発想や研究をする変人達をあえて選んだ。
「ここの設備はどうだ?これから兵器開発を中心に新技術や新たな理論を研究してもらう。必要なものは全てそろえるし資金はいくらでも使ってもらって構わない。ただし、結果は残してもらう。いいか?」
「承知しております、閣下。それで兵器の開発とはどのようなものをお考えですか?」
「簡単だ。1人で1万を一瞬で殺せる魔術、もしくは魔道具が欲しい。それ以外にも遠隔地を攻撃する手段と遠隔地と同時に通信する技術、敵の動きを正確に察知される事なく広範囲に探知する技術。高速で大量の輸送をする手段。空を高速で飛行及び輸送できる乗り物。知覚出来ない程の速さで鉄の玉を飛ばす技術などだ。」
現代で言えば爆弾、ミサイル、大砲、無線、レイダー、自動車や鉄道、飛行機、銃火器が開発できれば戦力は格段に上がり、選択できる戦略・戦術の幅は多いに増える。
「そんな事は不可能です。確かにそんな事が出来れば戦争は有利になるでしょうが全く想像もできません。まるでそのような手段を知っているように話されますが閣下はどのようにお考えになられたのですか?」
「すべてが今は無き国で現実にあった物だからだ。それに一部は俺もする事ができる。例えば俺の能力の1つで魔力を全方位に放出して対象となる魔力の反応を察知する事が出来る。範囲はこの廃村ぐらいは出来るがその数十倍の範囲で同じような事が出来るようにしたい。それと俺は空を飛ぶ事が出来るが輸送は困難だ。一度に数百人規模で輸送をしたい。」
「そのような国が本当にあったのですか?信じられませんが、否定しきれぬ現実味がありますな…。われわれで可能でしょうか?」
「お前達は全員、今の話を実現出来ないか考えただろう?数人に話したがそいつらは御伽噺と笑ったよ。お前らなら出来るはずだ。何か今の話で思いつくものがあれば話してくれ。まずは頭の中で可能性を生み出していこう。いくつかは特定の技術があれば仕組みは分かっているから実現可能だから説明する。不足している部分を探して欲しい。」
「例えばどのような技術でしょうか?」
「そうだな…爆発という現象をわかるものはいるか?焚き火をしていると時折木がパチンと爆ぜるような現象を大きくしたものだ。」
「閣下、それなら私の知る魔術に2つほど同じようなものがあります。現在は知る者は僅かになった邪法の禁術ですが。」
魔術師のエルフの男が答えた。それ以外は当てはなさそうで興味深げに話を聞いている。
この研究チームのリーダーは魔道具職人の年長者のエルフだが彼にも当てはなさそうだ。
「その魔術を教えてくれ。」
「正確な術式はわかりませんがエクスプロージョンと自爆の二つです。エクスプロージョンは最高位の魔術で見た目はファイヤーボールのような火球を撃ち放ち任意の位置で一瞬で爆発的な炎を放出する魔術であったようです。現実的に扱える術者がいない事と威力が高すぎる事から禁術に指定されております。自爆は中位の魔術ですが術者を媒体にエクスプロージョン同等の魔術を行使するものです。当然ですが術者は使えば確実に死にます。過去には奴隷に使わせたなどと文献にはありましたが、現在は禁忌の魔術に指定されて知る者はいないでしょう。」
「流石は禁術の専門家だな。両方行使は可能か?もしくは魔道具化は出来るか?」
そう、この魔術師は禁術を研究して犯罪者として指名手配をされているのをわざわざ捕まえたのだ。
「エクスプロージョンはほぼ不可能です。しかし、自爆は可能です。使えば死にますが、魔石に術式を組み込み発動する事は可能だと思います。しかし、魔石で発動となれば格段に威力が下がりますし、中級モンスター相当の魔石を使い捨てにする事になります。」
「そうか。中級の魔石に組み込み発動するのに別の魔石でも可能か?直接魔力を込めなければならないのか?」
「試した事がないので分かりませんが魔石で発動可能だと思います。そうなれば一発で中級の魔石が2つ必要になります。莫大な費用がかかる割りに発動しても1万なんて遠く及ばず、密集した中心で発動して十数人巻き込んで殺せるかどうかの威力なのではないでしょうか?こちらも試してみないと正確には分かりませんが文献から推測するにそれぐらいの威力ではないかと思います。」
「十分だ。中級のモンスターを2000匹殺して、1000個作成できれば1万が一瞬で殺せる。」
「しかし、上級のベテランハンターがチームを組んでやっと討伐できるレベルですよ。一体の討伐でいくらかかることか。それにモンスターといいますが魔石に関してなのですが適正をみる必要があります。」
話に割ってきたのはモンスターの研究者のドワーフの男だ。彼は一流の魔獣調教師だったがモンスターを全て知り尽くしたいと解剖したり、新たなモンスターの従魔化を実験して町中で暴走させ多くの死傷者を出して犯罪者となり奴隷となっていたのを魔獣牧場で買い取ったのだ。
「そうか。では最適なものを研究してくれ。近いうちに俺の兵を大森林の中級モンスターの領域に開拓に向かわせる予定だ。そうすれば魔石などいくらでも手には入る。自爆の魔道具が開発できれば実用的な兵器の開発に移る。」
「それはどのような兵器だ?」
今まで沈黙していた鍛冶屋のドワーフが口を開いた。超一流の鍛冶師だが、殺すための武器しか造らないと依頼してきた貴族の子供と口論になり喧嘩の末にハンマーで頭を潰して殺害して親の貴族に投獄されていたのを連れ出したのだ。
「気になるか?お前は今まで見たことがないものだぞ。端的に言えば筒だ。」
「あんたも俺を馬鹿にしてるのか?」
怖い目つきで睨みつけてくる。
「話を最後まで聞け。筒と言っても二種類だ。まずは筒の中心に仕掛けるものだ。爆発の威力を使い筒の内部に一緒に入れた鋭利な金属片をぶちまけるように発動させる。密封した状態で発動させて殺傷能力を高める。容器となる筒も適度な強度と全方位に弾け飛びやすいものが必要だ。」
「…そりゃとんでもねー悪質なもんだな。その筒は最適なものを造ってやる。もう一つは?」
「筒の片側だけ開いた強靭な筒を造る。その中で爆発させで穴から一緒にこめた弾を打ちだす。弾にさっきの仕組みを組み込めば更に威力があがる。遠距離を瞬時に攻撃出来る。」
紙に図を書きながら大砲、ミサイル、銃火器の説明をした。全員が食い入るように図面を見ながら真剣に説明を聞き、実現する為の疑問をぶつけてくる。
ライフルリングや砲弾の形状など細かな事まで説明をした。すぐに専門分野ごとに研究を開始するとのことだ。手伝いの奴隷や材料の確保、工房の整備などの準備から始めるそうだ。
「まだ案があるか?」
輸送の魔獣と飛行の方法について可能性が有るということなので翌日にする事にした。
気が付けはもう夜になっていたからだ。
この兵器研究は誰にも話していない本当の極秘研究だったので、数日なら泊まりこみで議論を交わしたいがそう言う訳にもいかず戻る事にした。
兵器研究所には5名の研究者に、それぞれが好みの全てのお世話をしてくれる女奴隷の5名に助手としてスケルトンウォーリアを要望にあわせカスタマイズして50体ほど置いてあるのみだ。
それぞれが助手や仲間の研究者を推薦というか、要求されたのでその手配も行うため戻る必要があった。
翌日、兵器研究所に向うと既に会議が始まっていた。
提案内容としては新種のモンスターの従魔化で輸送能力を上げるというものと、大森林の奥地にある浮遊島と言われる空中に浮かぶ島のような岩の塊を使うという案だった。
俺からは魔力を使った通信手段について提案してみた。
「モンスターを従魔化すると本来のモンスターとは一見同じですが全く別の生き物になると私は考えています。簡単に言うと野生動物と飼育動物のようなものですが魔力の性質が違うのでもっと違ってきます。性能で言えば野生の方が強いでしょうが制御できません。閣下が魔獣を孵化させているのを拝見しましたがあれは野生に近い強さと並の従魔よりも高い従順さを見せていました。中級のモンスターや低級でもより強力なモンスターの卵を使い従魔化できれば確実に輸送力が上がると思います。戦闘でも使役が可能で騎兵にすれば格段に戦力も増します。」
「魔術師として補足するならこの世界に満ちている魔力と私達が使用している魔力は別物では無いかと考えられます。われわれは魔力を使用できるが生産はできません。この世界に存在する魔力を取り込み変換して使用しているのだと考えられています。諸説あるので正しいとは断言できませんが。個人の魔力差はこの吸収量や備蓄量、放出量の差ではないかと思います。われわれと閣下では魔力の変換が違うのではないかと推察できます。」
「おれは元に近い魔力を使っているという事か。使役できるかどうかは別として新たな従魔の実験は試す価値があるな。ハンターギルドに低級の卵の収集を各地に依頼して、中級はおれ自身で探すとしよう。有益そうなモンスターをピックアップしておいてくれ。」
「分かりました。ちなみにこの研究は帝国が大きく先を行っています。どこかの公爵領で従魔兵を生産しているとの噂を耳にした事がありますので、この先帝国と一戦交える事があれば留意したほうがいいでしょうな。」
それは初耳だが従魔を兵に出来れば確かに有効だろう。
俺も使役したわけではないがモンスターをトレインして敵にぶつけた事もあるからな。
「分かった、軍に対モンスター戦闘の訓練も組み込もう。それと浮遊島はどこにある?正確な場所を教えてくれ。単純に見てみたいし、サンプルを回収して研究すれば空中輸送手段となりえるからな。空中を移動するための推進装置の研究も必要だな。」
「承知しました。魔力の濃いところでは珍しくないものですが一番近い場所をお教えします。それで閣下の考える通信手段とは?」
「可能性の段階なのだがミスリルの剣を持つと握っている部分だけでなく魔力を通せば先端まで魔力が通じるだろ?それを応用してミスリルの線を使い、魔力を流したり止めたりを繰り返す装置を作る。その流したり止めたりするパターンで通信ができないかと思ってな。パターンは短くと長くを流すのを組み合わせるんだ。どうだろうか?」
地球で開発されたモールス信号を電気ではなく魔力で再現できないかと考えたのだ。
「なるほど、面白い発想ですな。ただミスリルといえどどれほどの距離を伝わるのか、流した魔力以外の干渉は無いか、そもそもそれだけのミスリルや魔鉱石をどうやって確保するかなどの問題がありますが試す価値は有りそうですな。」
「ここにミスリルは用意した。これで実験をしてくれ。干渉といったがミスリルの線の周りを魔力を通さない金属なんかでコーティングしてはどうかと思う。」
「分かりました。こちらで試作してみます。」
「成果を出せといったが必ず失敗はおこる。むしろ失敗の山を作った先に成功がほんの一粒有るだけだろう。全てのデータを集積してその小さな粒を探してくれ。よろしく、頼むぞ。俺も可能な限り参加させてもらう。」
全員が頷き各自の研究に取り掛かっていった。
この研究が完成すれば軍事力は格段に上がるだろう。




