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51 緊急輸出

「王子、ヘンリル領はいかがですか?不自由なくお過ごしいただけておりますか?」


結婚式が終わり10日後の朝


「はい、美味しい食事と自然豊かで穏やかな環境で帰れなくなってしまいそうです。それに素晴らしいメイド達で至れりつくせりです。」


「それは良かった。早速に仕事の話になるのですがよろしいでしょか?折り入ってのお願いというのはカント王国との関税についてです。現在、カントでは小麦を中心に穀物不足になっており価格も高騰しているようです。戦争により一般市民が苦しむのは他国といえど無視する事はできませんな。これからは協力して帝国の脅威に立ち向かうパートナーになるのです。穀物の関税を一時的に引き下げてもらえないでしょうか?」


「そういうことですか。カント王国では確かに値上がりしていると聞いております。失礼ですが供給する小麦はあるのでしょうか。カント側に提供した結果、わが国が不足するようでは困りますので。」


「それは問題ありません。ヘンリル領が増産しておりますし、備蓄も十分にあります。国内の供給には影響はありません。それと、当初の約定通り賠償の小麦もアース商会で半分引き受けさせてもらいたい。」


「それはもちろんです。褒美を国防の為にと辞退していただいたので必ずお約束は果たします。間も無く引き渡されますので規定の通り売却させて頂きます。関税に関してもすぐに変更いたしましょう。他はよろしいですか?」


「先ほども申しましたように帝国が気になりますので早急に軍拡をしてカントに派遣してください。」


「分かりました。それでは私は本日で王都に戻ります。ご多忙だとは思いますが王都へお越しの際はお寄りください。私の妻や子供達も紹介させていただきたいので。」


「是非ともお邪魔させていただきます。では王子、よろしくお願いします。」


こうして王子に関税の引き下げを依頼した。握手を交わし王子を見送るとライラとクローニが執務室に来た。


「いよいよ商戦の開始ですか?」


「いや、既にもう始まっているよ。うちのダミー商会が既に小麦の買占めを終えている。いくつもあるから競うように買いあさらせた。十分に小麦も集まった。そろそろ売却のタイミングだ。」


「そのような数を集められたのですか?関税が引き下がる前に売却をされるのですか?」


「クローニ、集めた数など売却する時には関係ないんだよ。誰にいくらでいくつ売るかが問題なんだ。」


「すみませんペルセ様、私にはさっぱり分からないのですが。」


「ライラ、簡単に説明すると売却に小麦は必要ないんだよ。正確には現物は使わないという事だ。カント王国では500万袋の小麦を買い付けた。これは全て現物だ。代金の支払いは全てうちの銀行を経由している。殆どが引き出される事は無く、うちの商品の買付け代金に使われたりしているが残りは預金になっている。その資金でを融資してまた小麦を買う。実際には無い資金で大量の小麦を手に入れた。帳簿上は多額の貸し出しになっているけど。そして次は信用売りを仕掛ける。」


「そのような事が出来るのですか?信用売りとはどういうことですか?」


「…そういうことですか。小麦を使って儲けるだけではないという事ですか。」


「クローニは分かったか。そうだ、買い付けをした穀物専門の商会と高騰で目を着けた商会にもアース商会が現物を引き渡さず関税を引き下げる前に売る権利を今の価格より少し安く売却するのだ。ほとんどが飛びつくだろう。なんせ生産力が減ったのに大量の他国の兵がもうすぐ押し寄せるのだからな。どうしても値上がりするだろう普通ならな。その時間差をつかう。買占めにかかった費用などアース商会が相殺してしまえばいい僅かな金額だ。売却するのは何百倍もの量なのだから。」


「関税が引き下げられ輸出が始まったら暴落しますよね。」


「そう。だから信用売りだ。価格が引き下がろうがもう売値は決めてしまうのだから。国民からは食料を供給してくれた恩人になり、すべて商会はつぶれる。そしてアース商会、もしくはダミー商会に吸収させる。ダミーの商会は経営権を奪ったカント王国内では名の知れた商会の名前を使わせれば表に出れる。」


冷めてしまった紅茶を飲みながらせわしなく働く部下達を眺める。


「ちなみにこれは商会だけでは無い。いくつかの貴族にも同じように仕掛ける。既に契約をすすめている。少し前まで金貨一枚で100袋だったものが今は40袋だそうだ。それを金貨1枚50袋の値段で売却してやるのだ。みんな欲しくなるだろう?転がすだけで儲かるんだ、喜んで契約しているそうだよ。複数年契約も取れているそうだ。」


「ペルセ様、いつの間にそのような事を。私は知りませんよ。」


「ライラの知るアース商会が全てではないということだ。これで莫大な資産を人員ごと手に入れる。貴族はこれから税金を徴収しても支払いで何も残らない羽目になるのだ。商会の持つ債権もあわせてきっちりと取り立ててやるさ。」


「悪魔のような作戦ですね。講和会議の時から既に計画されていたのですね?」


「言いたくはないが貧乏王国が褒美を出してくれないから自力でもらう事にしただけだ。たいしたことじゃないさ。大量の契約がすぐに取れるだろう。踏み倒したくても相手は敵国の極悪大貴族だから逃げる事もできないだろうな。また綺麗な女が手に入るかな?」


「許しませんよ、ペルセ様。」


「冗談ですよライラ様。本気で怒らないで恐いから。」


少し本気の冗談なのに恐いな…目がマジなんだよ。


「それで金山は借金の代わりとして取り上げるのですね。それで終わりなのですかペルセ様?」


「そりゃ、まだいろいろやるけどそれはまだ先だね。とりあえず契約の完了はもうすぐだ。今が一番高値になっているから時間との勝負だ。部下達の働きに期待しよう。」


しばらくして大量の契約書が交わされた頃になると、両国間の穀物の関税がほぼ無い状態まで引き下がった。


契約して回ったのは新ヘンリル領のギャング達だ。裏の世界で詐欺、脅し、強請をしのぎにしていた連中を捕まえて奴隷にして会計スケルトンを監督・監視につけて派遣していたのだ。


儲け話は真っ当な筋より胡散臭いぐらいの方が信憑性が高い。怪しいと思いつつも目の前の利益に飛びついてしまうのだ。


そして、ヘンリル領から大量の魔車を使い各地に小麦を輸出開始した。


しかし、ここで誤算が発生した。


魔車による輸出では想定を下回る量でしか輸出が進まないのだ。

当然、アース商会や領主として動かせる輸送力では足りないのでヘンリル領内の全ての商会に輸送の依頼を出していた。ハンターにも整備に取り掛かっているハンターギルドを通して多くの輸送任務を依頼をいた。


カント王国内の領主が通行税を要求してきたり、その交渉をしたりなど時間がとにかくかかった事が原因だ。

まずは契約している貴族に小麦を契約の通り売却して転売で利益を出させ、運送ルートの確保をさせた。


「領主様、関税の引き下げと優先通行権を頂けましたらさらに多くの小麦を融通させてもらいますよ。ご協力いただけませんか?」


「もちろん協力しよう。前回買った小麦でかなり利益が出ているから次は倍頼む。」


「承知しました。」


こうして再契約などをしながら各地に輸出を継続した。最大契約量は手持ちの小麦の350%の契約まで膨らんだ。全ての契約に時間的猶予があるし需要と供給で言えば確実に供給が多くなる量を用意しているので心配していないが価格が下がらなければ破産なのだから少々肝を冷やした。


輸送ルートの確保と同時にドウガーイ王国内の商会への輸送の支援を要請した。


そして、情報操作も行う事にした。

俺はスペクターによる高速伝書通信でタイムリーに全体状況を把握していた。

貴族に小麦価格が上昇するから売るなと伝えたり、供給が増えて値下がりするから売却しろなど様々情報を提供したのだ。商人は独自の情報網がある上に本業なのだから扱いにくいのであえて無視した。


本当か嘘かなど関係はない。


情報を信じるも信じないも本人次第なのだから。ネットの情報が正しいとは限らないのと同じだ。

緊急輸出を開始してカント王国の全体に供給網が確立されたころ小麦相場は一気に下落した。


それはもう上昇しないと気が付いた商人達が何とか下落前に売却しなければと動いた瞬間からだった。

上昇時の数倍の速度で下落していった。なんせ買い手がいないのだ。小麦を買っていなかった商会は下落するものなど当然買わない。


そして、ヘンリル領の関連商会も散々買っていたのに一切買わない。商人も貴族も売却できない小麦がだぶつき一般に売却をするが焼け石に水。

一般市民も小麦の供給が開始され値下げが行われていれば当座の必要分しか買わないのだから。


もちろん無知な住民がそういった事をするのは誰かが噂を流したからだ。


「戦争をしていたヘンリル辺境伯が小麦の不足で住民を苦しめてはいけないと小麦をどんどんと運んでくれているらしい。敵だったのにありがたい限りだ。もう少しすれば戦争前の値段に戻るらしいよ。今回は商人と貴族が儲けるために買い占めたらしい。本当に俺達の事なんか何にも考えてないんだよ。自分さえ儲かればいいんだあいつらは。」


「そうだったのか?俺は知らなかった。これで生活も楽になるな。小麦が値下がりするなら今晩はもう一杯いくか。」


と、あちこちの町の酒場で噂になる。翌朝にはご婦人方の立ち話は小麦の話題になり数日で町の全員が知る事に成る。噂の発生源の人物はその時にはもう別の町に行ってしまっている。


こうして住民の買い控えと買い手不在の小麦を俺が金貨1枚で120袋から150袋で買い上げる事になった。


ヘンリル領から持ってきた小麦は50袋で金貨一枚で売却する。

金貨一枚で小麦を120袋買い付ける。

そして50袋で金貨1枚で売却する。


こうして緊急輸出を開始して4ヶ月、次の収穫期が来るころには全ての売買契約が完了して莫大な資金を手に入れることになった。


手に入れたといっても全員が支払い能力など有りはしないのだから大量の不渡りだ。

ここからは債務処理をする事になる。


支払い能力のある者は損失を出しただけで済んだが全体の30%程度で残りの70%は破産だ。

これからがある意味本番だ。


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