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49 炬燵は

冬になるとヘンリル領も日本並に寒くなる。

地域により差はあるが強風が吹き、雪が舞う。


城の内部は発熱の魔道具を使い暖められておりとても快適に過ごせる。

でも、何かが物足りない。


休日も有り、執務にも慣れて余裕が出てくると物欲が出てくる。

今は権力も武力も資金も手に入れた。花田博として死亡して二年近くが経ち、日本が恋しくなってきた。


少しでも日本の生活に近づけるように開発をする事にした。計画に協力してくれるのはスケルトンと狐獣人の姉妹にコックと鍛冶屋のドワーフのおっさんだ。

このドワーフのおっさんは日本刀が素晴らしいと意気投合して、新たな技術開発の担当にさせたのだ。

狐獣人の姉妹は好奇心旺盛で、面白い事ならどんどん協力してくれるのだ。


「今回の新たな道具や食事の開発は極秘任務だ。ライラに見つかれば必ず潰される。細心の注意を払ってくれ。」


全員が静かに頷く。


「ペルセ様~、それで何を作るのですか?」


狐獣人の姉妹はフサフサの尻尾を振っている。


「今回は寒い冬を楽しむ為の物だ。」


「どんなものだ?また面白いものだな?」


鍛冶屋のおっさんもワクワク状態だ。


「まずは炬燵が造りたい。それから鍋料理の開発だ。」


炬燵の構造や効果を説明した。

鍋はすき焼きが食べたいがしょうゆが無いので難しいから、寄せ鍋を説明した。


全員が話を聞いてあらかたを理解してスケッチを作成したり、資材のリストを作ったりした。役割分担をして次回の休みに試作品を持ち寄る事になった。


スケルトンが木工のスキルで炬燵の枠組みを作る。狐獣人の姉妹がこたつ布団や専用の絨毯の調達。コックは鍋の材料調達とタレの開発。材料は俺が希望を話してそれに近い素材をコックが選ぶ。すぐに集まるそうだ。タレの開発が今回の最重要任務になるはずなのでコックへの役目は重大だ。

鍛冶屋のおっさんは炬燵の発熱体になる魔道具の調達と鉄鍋の作成。

そして俺は資金を渡し、一部屋を秘密裏に確保するのが役目となった。


物置にしていた小さな部屋を城の中で見つけて、架空の使用内容で確保する。

メイドに清掃と整備を命じて秘密部屋を手に入れた。なかなかに居住性は良い。


6日後の休みの日になると試作品を持ち、メンバーが集まった。スケルトンに造らせた炬燵机におっさんが魔道具を仕込んでいく。絨毯の上に炬燵を設置してコタツ布団をかける。サイズと手触りはピッタリだ。


天板は特製の裏返すと雀卓になる仕様にした。

試運転してみると見た目は良かったけど温度が高すぎた。

温度調節は出来ないので次回に威力の弱い物を試す事にした。構造が具体的に分かったのでいくつか試作を用意するそうだ。


コックが持ってきたのは肉と魚介の2種類の鍋だった。少々奇抜な具材であるがなかなかにいけた。海の無い内陸地ではあるが空中を泳ぐ水生系モンスターが生息しており、モンスター素材で海鮮鍋を作ったのだ。タレはポン酢風、ゴマダレ風、辛みそ風などスパイシーで独特なものを10種も用意していた。半分はボツだが半分を全員で改良案を出しながら試食した。

おっさんに新たに鍋を過熱するコンロを用意するようにお願いした。


各自が更なる改良をしたり役立つものを用意することで今回は解散となった。次回が楽しみで仕方がない。


「ペルセ様。なんだか今日はとても楽しそうですね。何か良いことでもありましたか?」


「なんでもない。そんなに顔に出るかな俺は?」


「すぐに分かりますよ。アイリーンはペルセ様の妻ですから。貴方の全てを見ていますから。」


「そうか、アイリーンなら仲間に入れてあげても良いけど、他のやつらが緊張するのが問題だな。完成したら二人で楽しむ方がいいな。よし、そうしよう。アイリーン、楽しみにしていると良いぞ。研究作品を披露してあげるからな。でも秘密だから誰にも話すなよ。」


「分かりました。楽しみにしてますね。」


ああ、美人は笑うだけで癒される。完璧超人だが俺だけが知っている、天然ちゃん。二人でおこたでのんびりいちゃいちゃなんて最高だろうな。明日の休みが楽しみでたまらない。


「ついに完成したな、炬燵。みんな入ってくれ。コック、鍋の用意を。」


「かしこまりました。」


暖房を切った少し寒い部屋の中で炬燵に入って鍋をつつく。冬の至極の楽しみだ。


「この鍋はうまいな。タレもめちゃくちゃあうぞ。コックでかした。勲章ものの働きだがまだまだここから先がある。これからも頼むぞ。」


「ありがとうございます。閣下の持ってこられたこのお酒も鍋に大変合いますな。」


全員でわいわいと鍋を楽しんだ。シメの麺も忘れずに。

デザートにプリンを食べながら次の開発計画で盛り上がっていると鍵のかけてある扉が不意に開いた。


開いた扉の先にはライラが立っていた。


お約束だが、ばれました。


「ペルセ様、ずいぶんと楽しそうですね。そんなに楽しいことなら私も混ぜていただけませんか?」


「…」


「それはなんですか?どうして貴族が床に座り、部下と同じ机や同じ食器で食事をされているのですか?」


「これは炬燵という暖をとるための道具です。この食事は寄せ鍋という故郷の冬の定番料理です。よければここに入ってください、暖かいですよ。」


「そうですか、では失礼します。」


何故に俺の膝の上に乗る?


「休みなので何をしても良いですよ。でも、妻に秘密というのはいかがなのでしょうね?私は新しい物の開発は大切だと思います。なにかやましいことでも?」


「そうではないけど、密かにやる方が面白いからさ。それにこんなもんの開発じゃ許してくれないかと思って。」


「はぁ、どこまでも貴族らしくないですね。そこが好きなんですけど…」

と小声が聞こえる。


「これは商品化しましょう、とても良いです。それと秘密にしていた罰としてこの試作品は私が押収します。ペルセ様の私室に移して妻専用にします。いいですね?秘密にしていた罰としてすぐに量産化の準備をして下さい。はい、ペルセ様がリーダーですよ。行って、行って。」


何とかお許しをもらえたが休みが半日無くなってしまった。

ライラは炬燵が気に入ったようで冬の間はいつも入っていた。

ただし、入る時はいつも俺の膝の上だった。

こんないちゃいちゃも良いものだ。


ちなみに他の妻達も気に入ってくれたが、アイリーンだけは椅子に座り足の先しか入れなかった。

床に座るのははしたないそうだ。残念で少しだけだが涙が出てしまった。

しかし、炬燵とは本当に心地よい。量産したら飛ぶように売れたそうでライラはご機嫌だった。



「ペルセ様、お客様がおみえになられました。」


「すぐに通してくれ。」


冬になっても訪問してくる客は絶えないがアポイントのリストに懐かしい名前を見つけてすぐに許可を出した。


「失礼します。ヘンリル辺境伯閣下、ご無沙汰しております。本日は貴重なお時間を頂きましたありがとうございます。こちらは戦勝とご婚儀のお祝いの品でございます。お納めください。」


見事な挨拶と丁寧に放送された祝いの品を頂いた。


「ありがとうございます。遠慮なく頂戴します。それにしてもお久しぶりですねクローニさん。いつこちらに?それと以前と同じようにペルセでよいですよ。堅苦しいのが嫌いなのは一番知っているでしょう?閣下とか呼ばれても誰の事なのか分かんないぐらいで。」


「大貴族に成られたのに相変わらずですね。こちらには3日ほど前に到着しました。冬だというのに活気のあるいい町ですね。物が溢れていますが少し物価が高いですね。これも政策ですか?」


「どうだろうな。部下達がしっかり働くからそれに見合った給料を払っているだけなんだけどね。こんな時期に来たのは商売の関係で?」


「いえ、今回は勉強のために来ました。少し内密な話になるので人払いいただいても良いですか?」


「構わないがその前に妻たちを紹介しよう。話は私の部屋でしよう。」


俺の執務室は数十人の直轄の部下が働いており通常の貴族の屋敷のものとは違った。日本のオフィスのような執務室なのだ。来客用の応接室もあるがクローニなら商売関係の要件だし遠慮も必要ないと思いこちらに呼んだのだ。


私室に妻たちを呼び紹介をしていく。


「第一婦人のライラに第二婦人のノーエル、第三婦人イルミタージュに第四婦人のアイリーンだ。彼は俺がアース商会を設立する時など色々とお世話になったリーゼッヒ商会のクローニさんだ。ライラやノーエルは知っているよな?」


「はい、リーゼッヒ商会は大切な取引相手でその担当をしてもらってますからね。でもお会いするのは初めてです。ライラと申します、今後ともよろしくお願いします。」


「こちらこそよろしくお願いします。ライラ様とは良い商売ができます。ノーエル様もお変わりなさそうでなによりです。」

 

「クローニも変わり無いですか?あまり欲張りすぎてライラ様にご迷惑をお掛けしないで下さいね。アレスト領の恥になりますから。」


「承知しております。それにしてもアイリーン様のお噂は聞いておりましたが…噂の数段上ですね。」


「俺も同じさ。そこまで堂々としてるだけ俺よりましだわ。流石だよ。春には領内で結婚式を行うのだが出席してもらえるとうれしいよ。いつまで滞在する予定で?」


「今回は長期で滞在する予定ですので喜んで参加させていただきます。それで肝心の滞在の目的ですが奥様方の前でさせて頂いてもよろしいのでしょうか?」


「それは構わない、隠し事をすると怒られるからね。それと長期に滞在するなら屋敷に滞在するといい。小さな城でも一部屋ぐらいは有るから。宿代も馬鹿にならないからな。ノーエル、任せても良いね?」


「はい、かしこまりましたペルセ様。」


「お気遣いありがとうございます。それに近くで滞在出来るのは大変にありがたいです。近くで勉強することが出来ますから。なにか大きな事を仕掛けるのですよね?」


「なんの事だ?」


「小麦です。」


クローニはどこかで情報を掴んできたのだな。信頼できる人物だがどうしたものか。


「勉強のためという事はリーゼッヒ商会は参戦しないという事か?」


「はい、危ない橋は渡れません。しかし、要請があれば協力は惜しみませんよ。父からも全面協力を言われておりますから。大きなヤマなのですね、戦争規模の?」


「そうか、気付いていたか。分かった今回の商戦に招待しよう。それで小麦の狙いはどこにあると思う?」


「カント王国との講和条約にある小麦の支払いに関係しているのではないですか?小麦の支払いは金額としてはたいした事がありませんが、ペルセ様がトウガーイの労働力不足で国民が飢えてはいけないと王子を説得したとか。カント王国内では公爵派の貴族が暗殺で一掃され、その際に年貢の小麦などが大量に焼失した事で食糧不足が深刻化しているとか。ヘンリル領は小麦の大増産が出来ているのに国内市場に流しているのは価格の維持程度で溜め込んでいますし。一部の商会は気がついて買い占めているようですが価格はあまり上がっていません。春になればカント王国から入ってきますが、アース商会が価格を調整しているように思います。狙いはカント王国で高値で売りさばくためですね?」


「ライラはどう考える?」


「私も同じように考えています。クローニ様はご存じ無いかも知れませんがカント王国内には既にヘンリル領の作った複数の商会が根を拡げており小麦の買占めもしています。春になれば関税も操作してカント王国救済として大量の小麦を高値で売却するのではないですか?利益と同時に食糧危機の救済という名声も一緒に狙っているものだと思っていました。」


「そのような事まで。関税まで操作するのですか?」


「それは当然だ。俺が協定に組み込んだのだから。商売で一つの障害が税金だ。働いてもいないバカ貴族に領内を通るだけでいちいち税金を払うのはあほらしい。食糧危機の救済に税金をかけて妨害したと主張したら領民だけでなくその先の領民もどう思う?いったん不信感が芽生えれば領地経営はままならないぞ。関税も同じだ。国民あっての国だからな。アイリーン、すまないなお前の国の国民を苦しめて。」


「気になさらないで下さい。私はペルセ様の妻でありヘンリル領が我が家ですので。しかし、罪無き者達が亡くなる様な事は避けていただければと思います。この思いに国は関係ありません。」


「俺も無駄な犠牲は出さない。今回は商戦だ。死人が出るような事はないさ。二人ともいい線を行っている。間違ってないがあくまでも二人が考えている事は作戦の始まりに過ぎない。小麦で少々の金を稼ぐ程度でいちいちこんな面倒なことはしないさ。」


「少々の金額って…莫大な資金が動きますよ?まだなにかあると?」


ライラもクローニも考えるが思いつかない様子だ。


「…まさか金山ですか?」


「さすがライラだね、会議の話を思い出したか?」


「はい、近いうちに手に入れると。確かに広大なヘンリル領ですが金山と白金山は有りません。もし手に入れる事が出来れば国として成り立ちます。必要なものが全て自領で生産できてしまいます。」


「正解でもあり不正解でもある。金山は正解だが建国は不正解。正確に言えば金山は狙いの一つという事だ。」


「建国は困りますよ、ペルセ様。でも3万の強力な軍とペルセ様の骸骨軍があれば成立してしまいます。」


「そうかもね。ライラが希望するなら建国して良い。だが、嫌ならしないよ。もともとその気もないし、やらなくても国みたいなものだろうもう?ちなみに言っておくと俺の骸骨軍はあと1年で戦力は最低で5倍ぐらいになる。総数は2倍だが個別に兵の強化をするからな。」


「…」

「…」


二人とも固まってしまった。いや、二人だけでは無い、俺以外の全員が固まっている。あのアイリーンでさえ顔が引きつっている。


「まだ全ては計画段階だ。全貌は俺の頭の中だけにしかない。計画なんてのは計画通りに行かないものだ。不測の事態にその都度対応していかなければならない。二人とも側で見たいかい?」


「拝見させていただきます。」

「是非ともお願いします。」


「全ては春になってからだ。結婚式が終わったら経済戦争の開戦だ。」


こうして残り少ない冬を商戦の準備と結婚式の準備に費やした。多くの部下のお陰で領地運営も計画を大幅に上回る成果を出していた。


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