46 講和会議
「王子!この内容は一体何なのですか?まるで我が国が敗北したような条件では無いですか。賠償金の支払い。捕虜のカント側のみ無条件解放、国境線の回復、侵略地の返還。極めつけは私の引き渡しと処刑。ふざけるにも程がある。カント王国は本気で言ってきているのですか?」
「ヘンリル辺境伯がお怒りになられるのもご無理ありませんが、この条件は正式なものです。ただカントも事情があるのです。まずカント王国の交渉役は王弟の公爵が全権大使になっております。国王と公爵は不仲であり公爵は王位を狙っております。今回の戦争の被害の責任を国王にとらせ、公爵は交渉で成果をだし国王に退位を迫りたいのではないかと思います。」
「それでこの内容か。もう、既に休戦になっているのですか?」
「いえ、まだ正式にはなっておりません。この国境周辺のみ交渉の場所として両国が戦闘を控えている状況です。」
大使として交渉が行われている国境の町に来たが、いきなり驚いた!相手のあまりにふざけた講和条件に。
こちらからの要求した条件は賠償金に捕虜の交換、ヘンリル辺境伯領に関して認めることなど少し控えめなぐらいの真っ当な要求だったのに。
それにしても俺に死ねとは…公爵許すまじ。
公爵を潰す事を心に決めて自国の講和条件を変更する。
両国の国境線に建てられたら大きな陣幕の中で交渉が始まった。なんともせこくて意地の悪そうな顔をしたのが王弟の公爵で全権大使だ。
「始めまして、本日より大使として交渉に参加いたしますペルセ・アース・ヘンリル辺境伯と申します。以後お見知り置きを。」
まずは王子と公爵がお約束のようなやり取りをして休戦に向けた話をはじめた。
「ヘンリル辺境伯から我が国の新たな要求をさせていただきます。では辺境伯お願いします。」
打ち合わせの通り重要な話を王子はまったくせずにバトンを渡してくれた。王子にもどう流れで交渉をするかは説明していない。任せてくれるそうだ。
「まずは休戦につきましては当方も講和会議の間は10日間区切りで異存ありません。しかし、講和会議を始めるにあたり一点要望させていただきます。」
「それはどんな事ですか?」
「まずは確認させていただきたいのですが、講和条件を決められたのは全権大使の公爵閣下でお間違いないでしょうか?」
「いかにも。私の考えた条件でありカント王国の総意である。協議の必要のない完璧な案であったろう。即時停戦でもかまわんぞ。」
やっぱりこいつは最悪だ。完全に上から目線でものを言いやがって。ぶっ殺す。
「そうですか。要望ですが全権大使の変更をお願いします。講和条件を拝見しましたがあまりに状況を把握されていない的外れな内容で交渉になりません。公爵閣下、失礼ですが頭のご病気をお持ちですか?」
交渉の場が一気にざわつく。敵国の公爵に成り上がりの新米貴族が馬鹿は帰れと言ったのだから無理もない。
「貴様!私を侮辱するつもりか!乞食風情が誰にものを言っているのか分かっているのか。貴様の首などここでいつでも切り捨てれるのだぞ。」
あらあら、すぐに怒っちゃって。
あまりに馬鹿過ぎて笑えてくる。
「失礼、あまりに滑稽で。感情の制御も出来ない、状況も把握できない。カント王国とはゴブリンの国だったかな?」
「なんだと貴様。」
真っ赤な顔で怒っちゃった!
「馬鹿公爵一つ言っておくぞ。まだ休戦すらしていない戦時中だ。頭が胴体から離れないように気をつけな。別に俺は停戦しなくても一向に構わない。むしろ儲かるからありがたいくらいだ。時間をかけてカント王国を滅ぼしても良いのだぞ。新たな全権大使になるまで交渉は中断だ。こちらの希望する講和条件は新たな全権大使にお渡しする。ではこれで失礼する。王子行きましょう。」
ドスを効かせてガンを飛ばしてやったらなにも言えずに震えだした公爵を一瞥し、交渉会場から町に戻る。
「ヘンリル卿、一体どうされるのです!全権大使の変更など前代未聞ですぞ。あれはまずいですぞ。まるで宣戦布告しているようなものです。」
「公爵が心を入れ替えれば別だが…今晩中に処分する。既に監視は付けたから何を考えているかすぐに分かる。その内容次第だ。どちらにしてもあれがいて我が国に益は一切ない。」
「…」
王子は無言で微動だにしない。
「王子、私のやり方にはご不満ですか?認めてくれとは言いませんが、こうする他に早期に停戦する事は出来ませんよ。王国の為、民の為です。」
「…ヘンリル卿に全てお任せして良いでしょうか。初めて我が国が戦争をしているのだと実感しました。これほどに命が軽いとは。私には…」
「公爵でも乞食でも、そして王子であろうと戦場では等しく命の大安売りです。早く止めなければ苦しむのは一般市民なのです。」
俺のやり方で進めさせてもらう。
翌日の朝になると公爵はベッドに就寝した体勢で首が切られており、頭部が胸の前に置かれて両手で抱えた状態で発見された。
公爵が自国の町に戻り話した記録を確認したが最悪の内容だった。
翌朝
「公爵はどうされましたか?」
「堂々とよくもそのようなことが言えますな。辺境伯が一番よく知っていらしゃるでしょうが!」
大使の1人が睨みつけてくる。公爵の腰巾着のひとりだ。
「何の話か分かりかねますな。それで新たな全権大使はいつおみえですか?」
「そんなもの知るか!調子にのりおって!」
「うるさい小物だ。お前じゃ話にならんな。すぐに王に使いを出し、後任をよこさせろ。貴様も今晩は頭を抱いて寝たいのか?戦地は危険だから気をつけろよ。」
その一言で終わりだった。公爵の死亡が伝えられ、後任の全権大使としてカント王国の王子がやって来ることになった。王子が来るまでに公爵の取り巻きはほとんどが暗殺された。
勿論やったのは俺だ。ついでに資産も奪い、奪えない物資は焼却処分しておいた。
税として大量の小麦粉が集められていたからだ。
王子が着任後すぐに休戦となり、こちらの要望がほぼかなった形で決着した。講和が結ばれるのに会議が始まって十日もかからなかった。
「講和の条件を相互に確認して署名をお願いしたします。」
講和の条件は
・ヘンリル辺境伯領を両国が認める
・ヘンリル辺境伯領以外の国境にあるカント王国の砦を全てドウガーイ王国に譲渡して譲渡した砦を基準に新たな国境とする
・カント王国は賠償金として白金貨10万枚をドウガーイ王国に支払う(協議により分割を認める)
・カント王国は賠償品として小麦10万袋をドウガーイ王国に支払う
・両国間の関税はドウガーイ王国の許可で決定する
・相互安全協定を結び、カント王国内にドウガーイ軍を駐留させる。ドウガーイ軍はカント王国に必要が生じた際にはカント王国に軍事協力をする。駐留に必要な土地・施設など費用はカント王国が負担する。また、カント王国の要請があればドウガーイ王国は軍事的協力をする
…
…
…
・カント王国第13王女アイリーン・カルセー・フリデリア・カントをペルセ・アース・ヘンリル辺境伯の妻とする。
互いの王子が署名した条文を交換してさらに署名をして調印は終わった。
この瞬間に戦争は終戦を迎えたのだ。
「ペルセ様のお陰で我が国に圧倒的に有利な条件で講和できました。ありがとうございました。」
毎日顔をおあわせているうちに王子とも打ち解ける事ができた。
最初は俺のやり方にビビッていたが、今ではとてもうまくやれるようになっていた。
「それにしても王女を押し付けられるとはやられたな。あれだけは絶対に譲らなかったからな。まったく勝手に嫁を増やされても困るんだけどな。」
「カント国王も国王陛下と同じでペルセ様を重要視されている証拠ですよ。それにしてもあんな斬新な条件をよく考えましたね。我が軍の駐留など通ると思いませんでしたよ。てっきり他の無理難題と同じで除外されると思っていました。」
「あれは絶対に必要な最重要の条件です。無理難題をいれるのは交渉の単なるテクニックなのは説明しましたよね?でも軍の駐留はそうじゃない。」
「と、言いますと?さすがにそろそろ狙いを教えて頂いてもいいのではないですか?」
「自分で考える事が必要ですが分からないのであれば説明します。まず、短期的には雇用の増加と軍の強化の為です。カント王国の費用で職業軍人を増やせば職がないものに職が供給できます。職業軍人であれば戦闘技術・身体能力・士気など全ての面でこれまでの軍と比べ物にならない強力な軍が出来ます。カント王国も単純に金で軍隊を買える。資金を必要としますが国内で消費されるので、消費が増えれば経済がよくなるでしょう。そして、強大な帝国への対抗策になるのです。長期的に見ればわが国に害を及ぼす公爵のような国王が現れた際に傀儡の王を仕立てて国王を排除するとかも可能です。」
「そこまで考えていたのですね。戦争では将来のことや経済の事も考えなければいけないとは勉強になります。平和を維持するにはどうしたらよいのでしょうか?」
「そんな事は私にも分からないですよ。ただ平和とは戦争の準備期間だと書物で読みました。欲望がある限り戦争はなくなりはしないのでしょう。戦争が起こりにくくする事はできるかもしれませんけどね。」
「それはどのように?」
「他国には真似できない技術を持つことです。経済的にドウガーイ王国でなければ生産できない必需品を作るとか。圧倒的な力を持つ兵器や魔術を開発するとか。要は攻めたくない、戦争したら困ると思われる国になれば仕掛けない限り戦争にはなりません。ただ、武力や経済力を持つと他も欲しくなり歯止めが利かなくなるのが欲望です。戦争とはなくならないのでしょう。必ず起こるなら勝つ側回るように努力するのみです。」
「確かにそうですね…勉強になります。」
「それにしても王女はどんな人物なんだろ?これ王国に認められるのか?」
「両国ともに益があるように思いますよ。妻は多い方が良いですよ。一度お会いした事があったと思いますが今のライラよりも幼かったような…たしか100年程前だったと思います。詳しいことは存じませんが婚姻には適齢期のはずです。」
「はぁ…そうですか。」
また勝手に妻が増えてしまった。目障りな公爵派を一掃して貸しを作ってやったから酷いことにはならないと信じたい。仕事も終わったし、お家に帰ろう。しばらく休暇にしてエルやアリーシャに癒して貰おう。




