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45 褒美とは

王都の中央に堂々とそびえ立つ王城の一室を訪問していた。王城に一般市民は入ることは許されない。貴族であっても位階の低いものは事前の許可が必要だが伯爵の俺はフリーパスだ。


ライラに会いに訪れたのは以前と同じ部屋だった。

ライラの私室はふわりと花の香りのする可愛らしい部屋だった。

通された部屋に入り数歩の所で立ち止まる。


「?」


回れ右で一旦部屋の外にでる。


「ここ、ライラの部屋?」


メイドに確認をするが


「はい、ライラ王女がお待ちになられておりますよ。」


「本当に?」


笑顔で頷くメイドを見ながらまた部屋の中へ戻る。部屋にはいると花の香りではなく、インクの臭いが充満していた。

以前は部屋の中に遮る物など無かったのに、机や棚がいくつも置かれており書類や本が山積みになっている。


ソファーのあった場所に向かうとライラが書類をテーブルに何枚も広げて、ペンを片手にらめっこしている。


「やぁライラ、なにをしてるんだい?これは一体全体どういう状況なのかな?」


「ペルセ様、お久しぶりです。少し散らかってまして申し訳有りません。」


「いや、まぁ、気にしないけど…何を見てるんだい?」


「アース商会の決算資料の確認と次の投資先の選定や事業の見直しをしておりました。利益をどう次に活かすか検討しています。」


「ちょっとやり過ぎでは?大丈夫か?」


「はい、毎日楽しくてしょうがありません。ペルセ様こちらへどうぞ。」


ライラの横に腰を下ろす。なぜかと問われれば、そこしか空いていない。向かいのソファーは書類の束が山積みなのだ。


どうしてこうなった?


アース商会の本当オーナーは俺ではなくライラになったようだ。

どんな事を質問してもきっちりした答えがすぐに返ってくる。まるでコンピューターの様な頭脳をお持ちなようです。


もうアース商会を譲って結婚は白紙にしても良いのではないかと思ったが、ライラは結婚を楽しみにしているらしい。


夫を支えるのが妻の役目だと力説していたが、これは支えるの範囲を逸脱しているぞ。


あれこれ説明してくれるがもうチンプンカンプンです。

現在の戦争の状況やヘンリル領の政策、占領地の復興計画案なども把握している。しかし、関与はしてないようだ。


戦争の状況は我が国が有利ではあるが小康状態で、敵国側から休戦に向けた提案があり協議に入っているそうだ。休戦できれば停戦に向けた講和会議が開かれるようだ。


二国間の国力差ではこちらは不利だが、俺の占領地分だけ戦況としてはこちらが有利であるそうだ。

俺が更に進軍の意向を示せば国王は断らないだろうが、国費や国境の貴族の負担は大きいので早期の停戦が望ましいようだ。


講和の条件次第では賠償金や補償で国力の回復は出来るだろうが厳しいとライラは予想しているようだ。交渉は第三王子が適任との事で全権大使に任命され、既に協議が始められているようだ。


俺の褒美は爵位を侯爵に引き上げて占領地を与えられる他は名誉勲章をいくつかもらうのではないかとのことだ。褒美の一つにライラも含まれるらしい。


この秋の婚姻を考えていたが戦争終結がみえてきたので、戦勝の祝賀と併せて大々的に行いたいとの国からの意向を受けている。


「ライラ、他の夫人はどうなる?一緒にか?」


「同時に執り行うと思います。一度顔合わせをしなければいけませんね。もうお二人とも領都の屋敷に移られてますから何時でも宜しいですよ。」


基本はライラに任せて式典の日まで過ごすことにした。顔合わせは式典の翌日に行われる王族派の夜会でする事になった。

ライラにシキが死亡して、ナツが妊娠した事を伝えると顔を見たことも無いシキの為に涙を流してくれた。ナツの子の育児に関して張り切ろうとしていたが全てナツに任せることを告げる。一族の風習で子供も暗殺者にしたいと希望したからだ。そして、いずれ産まれてくる正妻の子供たちの影として働かせて欲しいと頼まれたのだ。


俺としては普通に育てたいが母親の意見を尊重することにした。子供には名前も無い。いつ死んでもおかしくない裏社会を生業にしているから、死んでも残されたものが尾を引かないようにと掟になったらしい。主人に仕えた際にコードネームをもらい、本名は無いそうだ。主人も本来は選ぶことは出来ない。命を懸けるだけの主人に仕えるようにしてやれるだけで幸福なのだそうだ。


お互いにいろいろ報告をして屋敷に戻ることにした。上級貴族は1人で出歩くなど論外であると簡単に町に行くこともできずに式典まで屋敷に引きこもり、今後の政策や計画を考えながら酒を飲んで過ごすことになった。



式典には大勢が呼ばれていた。俺が知っている顔も多いがアイコンタクトだけで挨拶をする。娼館の大事な顧客であるのでポライバシーの保護は絶対だ。


国王から戦争に貢献した将軍や騎士そして貴族が表彰や叙勲された。そして最後に俺が呼ばれた。


全部で5つの勲章を授与され、占領地がヘンリル領へ併合される事が正式に認められた。

そして爵位はドウガーイ王国で初の辺境伯となった。

そして、謁見の際の帯刀を認められた。これは公爵・侯爵のみに許された権利であり侯爵相当の待遇であることを示していた。


「ヘンリル辺境伯には早速で申し訳ないが王国の大使になってもらいたい。我が息子がカント王国との終戦の協議を行っているが難航している。休戦だけでなく講和して終戦を希望する。国民のために知恵を貸してくれ。条約の内容は辺境伯に任せる。」


「承知いたしました。身命を賭して大使の務めを拝命いたします。」


また面倒を押し付けられた。王子じゃなめられて交渉にならないから脅して有利に進めて王国に貢献しろよと言うことかな?何とか面倒ごとに見合うだけの見返りが欲しいものだ…でもこれが貴族の務めと諦めるか。ゆっくりと領地運営をする間も無く次の仕事かとげんなりしてるうちに式典は終わった。


翌日の夕刻、王国派の夜会に参加していた。

レスサス伯とリンドガルド伯がいたので早速挨拶に向った。


「レスサス伯にリンドガルド伯、お久しぶりです。」


「ヘンリル辺境伯!戦争では大活躍ですな。武勇伝は国中に広まっていますぞ。上位の家に娘を嫁がせる事ができるとは…ライラ王女に感謝せねば。」


「リンドガルド伯、大げさじゃないですか?それとお二入のご息女を妻に迎えられることは大変光栄なことです。大切にさせていただきます。」


「こちらこそよろしく頼む。至らん事も多いだろうが良くしてやってくれ。お主との約束が果たせておらんから早めに孫の顔を見せてくれるとうれしいの。」


「単に孫が見たいだけではないのですか?それでご息女方はこちらに?」


「ああ、まだ控え室にいるので後で紹介させてもらう。これでリンドガルド家も安泰だな。横に婿殿のヘンリル領があるからな。ヘンリル領のお陰でリンドガルド領も好景気だしな。王国の中でも武力も資金力も領地の規模もトップクラスだしな。大使なんて面倒も押し付けられて大変だと思うが頑張ってくれ。陛下も期待されているからな。」


「そうだな。ライラ王女だけでなく王子とも親交を持ってもらいたいという陛下の意向が大使の任命にもあるかも知れんな。それと、ヘンリル辺境伯がいるだけで交渉は有利になるだろうな。なんせカント王国正規軍を1人で壊滅させたんだからな。もう一回暴れてやるぞといわれたら譲歩するしかなかろう?敵にならなくて心底良かったと思うよ。そういえばこの夜会に急遽第一王子も参加すること事になったらし。狙いはお主だろうな。」


また王子か…王族出てき過ぎだろうよ。


「そうですか。疲れるんでもう帰ろうかな。」


「相変わらずだな…気楽な派閥の夜会だ楽しんでいけ。それにしてもいい服を着ているな。」


「これはスーツと言いまして正装として使ってます。良ければ仕立てますよ?」


「そうか、是非お願いする。代金はどれぐらいだ?」


「金貨7枚ぐらいと聞きましたけど…部下任せで良く分からないです。それに代金は要りませんよ。」


「…とんでもなく高いな。甘えついでに例の紹介状も頼む。回りの噂でな、まあぁ、いろいろだな、あちこちから耳に入るんだよ。」


二人して目を輝かせて頷いてんじゃねーよ。


「構いませんよ。紹介状は妻たちに持たせますので。」


「おいっ」×2


リアル貴族の漫才だな。


片手に持ったグラスを傾けながら談笑していると王子と派閥のトップである侯爵が入室してきた。

王子の挨拶と乾杯で夜会が始まり、様々な料理が運ばれてくる。貴族の家族も参加してあちこちで話が盛り上がってくる。


俺も挨拶しに行こうか迷っていると1人のエルフから声をかけられたら。


「ペルセ辺境伯このたびの遠征ご苦労様でした。見事な勝利でしたね。是非とも戦地でのお話を聞かせてはもらえませんか?」


誰も話しかけて来なかったのは王子待ちだったからか。しかし、戦争の話など楽しいものではない。


「ありがとう御座います。王国の貴族であれば当然の責務ですので。色々な事がありましたが…楽しい話はあまりありません。私はあまりに多くを殺しました。直接的にも間接的にも、敵も味方も、兵士も一般市民も、大人も子供も。全ての者達の亡骸を集めると王城よりも大きな山となるでしょう。王子には是非とも戦争が起こらないような治世を目指していただきたいですな。」


「そうですね。肝に銘じさせていただきます。しかし、辺境伯が力を貸して頂けなければその数倍の我が国民が犠牲になっていたでしょう。辺境伯は護国の英雄です。」


「お気遣いありがとうございます。早期の終戦の為に交渉にも微力なれど尽力させていただきます。」


「弟を宜しくお願いします。それに妹も頼みます。最近は毎日活き活きとしていると聞いております。少し変わったことを言う子ですが素直な可愛い妹ですので。」


「ライラ様はとても賢くお優しい、私にはもったいない妻です。大切にします。」


その後、多くの貴族から質問責めを受けた。息子に仕官を、娘を嫁になんてのもたくさんあった。


「前向きに検討させて頂きます。」


と、何度言ったことだろう。やっぱり疲れるわ。


夜会も終わりかけた頃、別室で休憩しているとレスサス伯爵とリンドガルド伯爵が娘を連れてきた。

成人して間もない年頃の娘だ。ライラと比べてはおかしいが成人していても彼女達は俺から見ればまだ子供だ。まだあどけなさが残り高校生ぐらいに見える。

しかし、エルフではもう成人扱いの歳なのだ。


「お主は大人気だったな。ははは、相当に疲れておるな。人気者の宿命じゃな。遅くなったが娘を紹介しよう。」


2人の少女はそれぞれの父親に紹介され挨拶をする。


「レスサス伯爵の4女のノーエルと申します。宜しくお願いいたします。」


「はじめまして、リンドガルド伯爵の次女イルミタージュと申します。これから宜しくお願いします。」


「はじめまして。2人とも宜しく。気軽にペルセと呼んでくれ。これから苦労をかけるかもしれないが支えてくれるとうれしい。何でも遠慮なく言ってくれ。」


妻となる二人を交えてしばらく話をしてから屋敷へ戻る。明日には交渉に赴かねばならない。

王国が魔車や随行を用意してくれるとの事であったが何人かの部下を既に現地に向わせた。

俺は飛行で一足先に向う予定でいる。


別れ際に伯爵たちにはこっそりと紹介状を渡しておいた。

しっかりと楽しんできてくれ。





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