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40 辺境伯領侵攻作戦

街道は広くはない。

先頭を進むアルファー大隊に続いて総勢10000の兵が行軍する。当然だが大行列になってしまう。


大量の魔車を導入しているが食事を必要とする兵が半分以上いるので食糧の運搬だけでも大変なのだ。乗車させている兵もいるが少数だ。騎兵も多くは無い。


行軍をしながら行進の訓練や野営地で戦闘訓練もしているので移動距離は短くなってしまっている。


移動距離が短いのには他にも理由がある。野営を進軍している途中の村や小さな町で分散して行い、支配下においているためだ。


冬の間にすでにかなりの数の村が恭順の意を示していた。そのおかげで特にトラブルもなく支配地域を広げることができた。

敗走する辺境伯軍を追撃していたスケルトン達の残虐性による恐怖と、交渉にあたらせたダミーの商会から聞いた豊かな暮らしへの希望が無駄な抵抗を無くしたのだろう。


無駄な抵抗よりも少しでも心象を良くして今後の実利を選択したようだ。


今回の侵攻作戦で主な目標となるのは領都と主要な5つの都市だろう。


進軍を開始して10日。辺境伯軍を返り討ちにした平野を抜けた先に見える町。


城壁で守られた円形の都市。

大きな石造りの神殿が中央にそびえ立っているのが町の外からも見える。


教会が統治している都市


聖都市キュリエ


この世界の多くの者が信仰する女神キュリエリスを唯一神とする宗教だ。

この世界には他にも小規模な宗教が存在するらしいが、地域的なものや異端の類だそうだ。

あとは根本に大地信仰もあるようだ。日本で言う太陽信仰のようなものだ。


個人的には宗教は信仰しない。現に日本に暮らしている時も正月に神社に行き、お盆には寺に行き、クリスマスも楽しんでいた。こちらに来てもそれは変らないが…キュリエリスには縁がある。


それに宗教を敵に回すことは出来ない。穏便に済ませなければならないのだ。

信長のように延暦寺を焼き討ちにするなど恐くてできない、いくら正当な理由があっても。

ある意味では今回の侵攻作戦で一番厄介な町だ。教会と町のトップである司教にあって説得しなければならない。


「面会の手はずはどうなっている?」


「ダメです。かたくなに拒否されています。どうされますか?」


「しばらく待機だ。周辺の村も同じようなものだろ?」


聖都市キュリエの影響下にある村は素直に恭順してこない。やはりトップを落とさなければならない。

密偵に司教の居場所は聞いているので今晩は単独行動決定だ。



町の正面と左右に軍を展開して野営しているので町の後ろ側は比較的監視は緩くなっている。

この町には辺境伯軍以外にも教会の持つ軍がある。


深夜にもかかわらず多数の兵が警戒している。

上空から静かに一軒の小さな住居に着地した。教会の施しで表面上スラムはないが、貧困層の住む小さな家が密集する地域の一角だ。


目印の明かりを頼りに辿り着いた家の窓から中に入る。そこには数人の密偵が待っていた。


「閣下、お待ちしておりました。早速ご案内します。」


兎獣人に誘導されて教会の神殿近くまできた。監視の目をうまく抜けてきたので、バレる事はなかった。


「この建物の更に奥の建物内に司教の部屋は有ります。二階の右端の部屋です。それでは私はこれで。」


「あぁ、ご苦労だった」


壁を這うように飛行で上昇して、道沿いの建物を越えて奥の司教がいる建物の屋上まで移動した。

建物内や庭には警備がいるため窓から侵入する事にした。屋根からそっと降下して、窓の鍵を両開きの間に刀を差し込み壊した。


静かに扉を開けて中に入る。

盗賊行為を繰り返したおかげで手慣れた。


眠る司祭のベッドに近寄る。手を伸ばし肩を叩く。

そして目を覚ましかけた司祭に


「女神キュリエリスの遣いです。静かに話をお聞き下さい。」


と話しかけた。飛び起きた司祭が声をあげようとしたので口を塞ぎ更に話しかける。


「どうかお静かに。女神の遣いのペルセ・アースと申します。話を聞いてもらえませんか?」


なかなかに抵抗してくる。司祭と言っても老人ではないのだ。


暫く強制的に話を聞いて貰った。

ある程度、女神の心配などを説明すると抵抗が無くなった。全ては話さないが要点だけ話した。


「お主がこの辺りに来たのは女神の采配だと?信じられんが確かにお主が言うように大森林はドンドンと浸食してきている。しかし、どこでそんな話を!」


「女神様からです。私の能力も女神から授かったものです。本来であれば大森林の開拓に使うべきものなのです。戦争を好んでしているのでは無いので、無用な被害がでないようにどうかご協力下さい」


「話は聞く。しかし、すぐに判断は出来かねる。」


女神と会って話をしたなど信じる方が普通はおかしい。しかし説得しなければ、武力行使せざるをえない。


「女神様の祝福を受けた証は有るのですか?それと仮に降伏した場合はどうなる?」


「証と言われても無いです。しいて言えばこの刀でしょう。刀身を見てください。この世界で作製可能な素材ですが、あなたは作れますか?それと、この町が降伏すれば今まで通りです。多少は要望をさせては貰いますがその分、支援もさせて貰います。」


「武器には詳しくありませんが、これはドラゴンの素材ですか?確かに神器クラスの剣ですね。教会でも造れないでしょう。もし、降伏しても辺境伯軍の指揮権はありませんので…完全降伏とはなりません。」


「辺境伯軍には降伏か撤退を促してもらえれば結構です。それでも抵抗するようであれば戦うしかありません。戦闘になった場合でも民間人には危害は加える意志はありません。極力危険な場所から避難してください」


「分かりました。検討した後お返事させていただきます。」


「お返事お待ちしております。3日のうちにお願いいたします。こちらはあまり時間をかけるわけにはいきませんのでお返事がなければ武力行使をさせていただきます。では失礼します。」


交渉の結果は2日後に使者によりもたらされた。

辺境伯軍は撤退して、教会の私兵は投降することとなった。

撤退して行く辺境伯軍をそのまま見送り、教会に自治権を与える条約を結んだ。


教会の私兵は都市の警備のために武装解除はしていない。

特にトラブルもなく1週間後には聖都市キュリエを発つ事が出来た。


次に目指す都市は大森林に一番近い大都市である。

モンスターを狩る者達が集まって発展した町のようだ。日々、モンスターと闘い鍛えられたハンターが多数いる。ハンターは戦争に加担するよりも安全を優先すると聞いている。

ハンター保護の政策を採れば受け入れられるのではないかと密偵より報告を受けたのでいくつかの政策を用意していた。後は上手くこちらも交渉するのみである。



街道をすすむこと二日


「隻腕来たか。行軍はどうだ?」


「閣下、順調であります。次の町までは5日もすれば到着するかと思います。それと本当に私のようなまともに戦えないものが副官でいいのですか?私は貧乏農家の4男で騎士なんて務まりませんよ…このミスリルの剣もお飾りにしておくのは勿体無いですし。」


「いいんだよ。お前にはその資格も資質もある。死んだ隊長の分も頑張ってくれ。それで隊長の家族はどうしてる?」


「隊長の奥様はヘンリル領に新しく出来た紡績工場で働いております。息子はいずれ軍に入隊したいといってました。閣下から贈られた短剣は家宝にするそうです。他のものも多くの褒美をいただき感謝しております。あの時共に戦った者は殆どが今回も参戦しております。」


「それは良かった。今後もよろしく頼む。激戦を生き抜いた経験で新兵を鍛えてやってくれ。それにしても上手く行き過ぎている気がして…気持ち悪い。警戒は厳にしてくれ。」


「分かりました。私も周辺の村の対応がどうも気になります。一部を変装させて探らせますか?」


「調べてくれ。何もなければいいがな。」


しかし、悪い予感というのは良く当たるものだ。撤退させた辺境伯軍が次の町で兵員を増やし戻ってきている。

示し合わせたかのように聖都市キュリエからも教会の私兵が出撃したようだ。


総数では勝るが狭い街道で前後から挟み撃ちとは、嵌められた!

逃げる場所はなく袋のネズミとはまさに今のヘンリル軍だ。


挟撃されるのはこのまま進めば2日後。

敵の動きをみる限り何かしらの連絡手段を持っているのだろう。


知らないふりして進んでやろう。教会にはそれなりの報いを与える。

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