36 ヘンリル領戦役3
一万対五千
倍の敵を相手にどう戦うか。
選択肢はたくさんある。
・スケルトンの質に任せて全軍突撃の力押し
・ゴーストを使い夜間空襲
・俺ひとりで突撃
どうやっても勝てるが最小被害で最大戦果をだしたい。かつ短時間でこなす必要がある。
事態は少々変化している。公爵領出た辺りで偵察していたゴーストから最新情報が入ってきたのだ。
辺境伯の軍が三万を超えており、二つに別れて行軍を開始したのだ。推測だが一万が3領主合同軍に向かい、残りは単独でヘンリル領を目指しているようなのだ。
単独軍がヘンリル領に到達するのはおよそ15日後。時間を稼ぐためにゴーストを500体遅延攻撃用に向かわせた。おそらく精鋭だろうからどれぐらい時間を稼げるかは不明だ。
あれこれ考えたが正攻法でぶっ潰す。スケルトンは通常の軍などよりも強い。
スケルトンウォーリアなが複数に囲まれでもしない限りやられることはないし、スケルトンでもよほど強いやつと一対一で無ければ負けなのだか。ただ正面きって殴りこんでやるほど親切でもないのだ。
夜明けも近い真夜中に野営地を撤収して行軍を開始する。
もうすぐ夜明けを迎えるため地平線から漏れる光で空が白んでいる。
「全軍突撃だ。奴隷隊の騎獣兵は敵を回り込んで後方から突撃しろ。それ以外は支援部隊を護衛しつつ先頭の後処理の準備をしておけ。極力音は抑えろ。」
指示を出しゆっくりとスケルトン達が動き出す。全面にスケルトンウォーリア1000体が展開してその後方にスケルトンの弓部隊が続く。右翼と左翼には混成部隊が500ずつ展開している。中央の俺の後方にはスケルトンウォーリアが500体控える。
奴隷の騎兵は時計回りに迂回しながら敵後方に向って走り去っていった。
早足で進んでいくとすぐに敵の哨戒に見つかる。
「おい、敵が攻めてきたぞすぐに警報を出せ。早く指揮所に伝えろ。全員準備をしろー、敵だ。」
鐘をならして大声で叫で警戒していた見張りが兵たちを起こそうとしている。しかし、一番眠い時間に寝起きですぐに準備して戦うことができるやつがどれほどいるか…殆どいない。
見つかってからも一定の速度で進んでいく。
もう少し進めば弓の射程範囲に入る。
「弓部隊進みながら射撃開始。」
一斉に1000本の矢が放たれる。敵の陣地に弓が降り注ぐ。敵の陣までまだ距離があるから十射は十分に出来るだろう。
「正面にもう3射放て」
どんどんと近寄っていくにつれて敵の混乱が分かる。柵はあるが頑丈な壁は無いからこのまま突っ込めるだろう。
「右方向敵陣に2射放て」
進行方向より右側の陣地に矢が降り注ぐ。
「次は左方向に2射だ。」
逆方向に2射放たれる。狙いなどつけていないが範囲を指定して面攻撃すれば被害は大きい。もう少しで敵の柵に到達する。敵からの反撃は今のところ殆ど無い。準備ができていないのだろう。ぱらぱらと飛んでくる見張りの弓矢など影響は無い。さすがにエルフの放つ矢はスケルトン達に当たるが防具にあたり、倒されるどころか隊列さえ乱れない。
「弓部隊は停止。ここから援護射撃を開始しろ。後方部隊は護衛と接近してくる敵の排除をしろ。敵の状況を見て動いていけ。ゴースト部隊敵陣に突入しろー」
今回は火の魔術を使うゴーストではなく土の魔術を使うゴーストだ。200体のゴーストがどこからとも無く現れて敵陣に飛んで行く。火の魔術のゴーストの方が数も多くいるのだが火が邪魔になるから今回は待機させてある。ただ逃亡兵の処分をする任務を与えているので周囲に潜んでいるであろう。
戦闘のスケルトンが柵を体当たりで壊して敵陣に突っ込んでいく。
どんどんと敵陣を進んでいくスケルトンたちは何の躊躇いも無く敵を切りつけていく。斧や剣で頭を割り、手足を砕き倒れたやつを踏み潰し手進んでいく。何度見ても凄まじくグロい。
「混成部隊は左右に展開して行け。動けないやつは無視してどんどん進め。」
あちこちにクレイランスで串刺しにされた兵士が死んでいる。かろうじて即死を免れた兵も体を痙攣させながら血を吐いている。素直に殺されておけば辛い思いをせずに済んだものを。
混乱していた敵も抵抗を見せるがスケルトンの勢いと、やまない矢に抵抗もむなしく死体を増産していく。
既に半数以上を倒したころになると矢の攻撃がやんだ。一体に30本持たせたが尽きてしまったようだ。
一体のスケルトンに向って叫ぶ。
「おいお前、弓部隊に撤退と後方部隊に進撃の命令を伝えて来い」
頷きすぐに後方に走っていった。
戦闘をスケルトンに任せて生きてるやつにとどめを刺しながらゴーストを召喚していると遠くで叫び声が聞こえる。
「うぉー。全員突撃だ。」
後方から奴隷兵の騎獣部隊が突っ込んでいる。すでに形勢が決まりつつあり、敵が右往左往している中に突っ込んでいる。タイミングはなかなか良いし突っ込む場所も的確だ。しかし、元は同じ国の仲間なのにためらいがない。
「同じ国でも領地が違うと仲間意識は薄いのかな?別にあいつらの突撃は必要って程でもないけど…満足はしたかな?騎獣部隊って言ったらみんな喜んでいたし。騎兵隊は軍の花形ってやつと一緒かね。っとほれ死んどけ。」
足元にいた獣人の胸を刀で刺して水の魔術のゴーストを作る。
一時間もすると戦場は静かになっていた。
不利が分かると降伏するやつが現れ敵兵の3000名が生き残った。
スケルトン達は今は降伏した兵を殺さないが、当初は降伏しても関係なく殺していたからとめて回るのに苦労した。
「で、指揮官は漏れなく降伏か…お前らみたいな奴隷は要らん。死んでいった兵とともに逝け。」
奴隷兵が剣で突き刺し指揮官たちを殺していく。
「戦闘の後処理はお前たちに任せていいか?俺はこれから辺境伯軍を迎え撃ちに行く。直接2万の兵がヘンリル領に向ってきている。ここにも1万が向ってきているから迅速に処理して捕虜を連れて退却しろ。こっちに向ってる部隊もヘンリル領に進軍してくる可能性もあるから国境の警備は厚くしておくようにするからそこに加われ。」
「辺境伯の軍がですか。我らもご一緒いたします。」
「それは出来ない。領内に侵入してくるまでに12~14日しかない。ここから領外で迎え撃つには俺とスケルトンでも6日はかかるからな。本当であればここで1万を迎え撃ちたいがそれをすると2万の兵にヘンリル領は蹂躙されて終わりだ。」
「そうですか…せめてここで別働隊を向う討つことだけでもやらせてもらえませんか?」
「500対1万では無駄死にだぞ。今回だけでも30名が死んだだろうが、許可はできん。捕虜もいるから撤退だ。」
「捕虜を説得して味方にすれば3500対1万です。やりようによっては対抗できます。俺たちにやらせてもらえませんか?」
「なぜそこまでする?そんな必要はなかろうが。」
どうしてこの奴隷兵たちはこんなに協力的なんだ?やる気があるのは大歓迎だが、もともとの領主を殺し生まれ育った土地を奪った敵国の貴族の俺にそこまでするか理解できない。
「閣下は領民にも奴隷にもお優しい。以前のヘンリル領に住民たちは満足な食事も食べられることもなく、貧困から抜け出せる希望もありませんでした。無理やり兵士にされ敵国を攻めさせられました。兵士は殆どが農民です。働き手の無くなった村は収穫は減るのに税だけが増えます。女や子供が奴隷に売られることも当たり前でした。閣下の統治を少しだけ見ていましたが将来に期待が持てたのです。それに、奴隷と同じ場所で寝起きをして、同じ飯を一緒に食べる貴族なんていません。行軍中に食べた飯がこれまでの人生で一番美味しかったです。もう思い残すことはありません…どうかヘンリル領の未来のために戦わせて下さい。死ぬ覚悟は皆出来ております。」
周りの兵たちはエルフもビーストもドワーフも確かな意志をもち頷いている。
「そうか…ではお前たちに任すから好きにしろ。ただし、無駄に死ぬな。ヘンリル領はお前たちみたいなやつがこれから必要なことを憶えておけ。ゴースト部隊を1000体残すから上手く使え。」
「ありがとうございます。最後の一兵まで戦い抜きます。」
「任せた」
無駄に死んで欲しくはないが、覚悟を持った男に余計なことを言うのは野暮だろう。
彼ら以外の支援部隊もここに残るそうだ。物資もあるし期待してみよう。
◆
ヘンリル領から魔車で3日ほど進むと広大な平原に出た。
進軍してきた辺境伯軍は領内に進軍せずにここにとどまり野戦陣を構築していた。
足止めに出したゴーストは2日で殲滅された。そしてゴーストの攻撃で警戒した敵は戦いやすい場所までこちらを引きずり込んだのだ。侯爵軍を倒し急行したが想定以上に敵まで遠かったために6日も費やしてしまった。
そのまま突撃はせずに見える位置にこちらも陣を敷いた。といっても俺と鬼兵旅団以外は数人の御者とメイドしかいないので魔車を使った簡易なものだ。
最後の天王山を前に敵の使者がこちらに来たのはその日の夕刻前だった。




