10 行商人
「ワーロックのお兄ちゃん、こんにちは。今日は魔車のお店が来てるよ~」
麦畑のあいだの道を村に向かって歩いていると猫獣人の小さな女の子が声をかけてくる。
「こんにちは、そうなんだ。お兄ちゃんもお肉持ってきたよ」
子供が親しげに声をかけてくれる程度に村に馴染んできている。
「食べたいけどうちにはもうお金ないんだ…」
少女は残念そうな顔をするがしょうがない。肉は意外に高く、農民はあまり裕福ではないのだから。
「そっか。じゃあ、お手伝いがんばらないとね。また持ってくるから」
「うんっ、がんばる。じゃあね、バイバイ」
もう村に来るのは5回目なのだから住民達とも打ち解けてきていた。パンが無くなると村長の奥さんから購入するために2・3日に一度来ていたのだ。生肉も干し肉も大量にあるが一度に持ってこれる量は限りがある。子供に肉ぐらいあげてもいいがこの子を不幸にするだろう。良かれと思ってした事が相手を不幸に振ることもある。この世界の命が軽いことは数回来ただけで知ったのだから。
村には回復魔術が使える人がいないので訓練も兼ねて住民達を治療し始めてからとても良くしてくれるようになった。小さな怪我や病気で命を落とすことがよく有るそうだ。この国の村の中では裕福な村だそうが老人も子供も少ない。治療を受けることはあまり出来ないそうだ。子供は身売りされているようだが住民の口は重かった。
今は森で採取した薬草も持ってきている。村長さんに薬が足りないので見かけたら採ってきて欲しいと3回目に来たときにお願いされたからだ。エルフが薬草から薬を作れるそうだが漢方薬のような生薬だ。ポーションのような便利なものはないそうで、聞いたときには笑われた。
その時に回復魔術を使える事を話したらビックリしていたが治療をお願いされたのだ。回復魔術での治療は町の教会でしかしかできないからしい。治療を受けるには高額な寄付も必要でこの村ではほとんど利用することは無いそうだ。
レベルが低いからたいした治療は出来ないが、現代の応急処置と合わせてやっていたらとても感謝されたのだ。村人に死なれても困るし友好関係を築くために訓練なのでと無料にしたのだが、色々な物やお金を渡されたが利益よりも信頼が得られた。
村長を通してそれなりの物資を売買も出来た。ただ、2・3日で一人が狩れるであろう量にとどめる必要があった。この世界のモンスターにスケルトンはいないそうだ。存在しないはずのモンスターを引き連れていることを知られたらどうなるか分からない。現状では秘密にしてある。
たくさんの素材をかかえて持ってきていたので村長から使わなくなった背負子を貰った。
住民の造った手持ちのバスケットを肉と交換したりして入手して、最初に来た時の2倍以上の素材持ち運べるようになった。ちょうど良い量でを会計スキル持ちが計算して用意してくれる。
持ってくる物は薬草やナイフフィッシュの干物が増えたくらいで最初とそれほど変わっていない。しいて言えば魔石の量は少なめにしてその他の物資と帳尻を合わせていることぐらいか。
村の住民の不要品を買い取ったり、肉や毛皮などと物々交換をしたので多くの物が入手できた。ほとんどの住民が貧しく、さほどお金を持っていなかったからだ。おかげでこちらは多くの物資を入手することに成功した。
武器は手に入らなかったが斧が2本にナイフが3本。
野菜から布まで雑多な日用品を入手して拠点はたったの10日程で設備が充実して快適に過ごせるようになっていた。もちろん大量のスケルトンを24時間労働させた結果だが、俺も日中は休み少なく働いた。
特に快適にしてくれたのはエルフに製作してもらった魔道具のおかげかもしれない。
魔道具は全部で3つある。光るランプの魔石、炎の出るコンロの魔石、冷気を放つ冷却の魔石。
魔道具を製作する作業を見学させてもらったが簡単なものだった。
エルフが魔術を唱えながら15個位の魔石を手の中でこねていくと魔石が混ざり合い一つになった。大きくなった魔石を手の中で転がしながら、暫くそのまま詠唱しながら綺麗に整形するだけだった。
魔石を合成練成して、練成魔石に魔術を込めているのだそうだ。村にいるエルフではこの3種類しか作れないそうだ。
「若いころ魔道具の工房で修行をしていたのだけれど才能がなくてね。基本の3つしか習得できなくて首になったんだよ。50年ぐらい修行したんだけど魔術は努力じゃどうにもならなくてね。薬師に転職して薬草を求めてこの村に来てそのまま住民だよ。君もここで暮らしたらどうだい?この国の中ではとても暮らしやすい村だよ」
「そうなんですね。検討してみます」
と笑顔で返しておいた。
定住するつもりはないが、エルフとは親しくなった。村のこと以外にも、外部の情報を持っているからだ。エルフなので見た目は20代だが実年来は280才ぐらいとのことだ。気まずそうに長い耳を触りながら
「成人の儀式がある50才まではちゃんと数えていたけど、大人になってから10年刻みぐらいでしか憶えてなくて。エルフの多くはそんなものなんだよ」
と話していて時間感覚に驚いたのは3日前だ。この村で出来ることはそろそろ限界に来ていた。当初は人里に移動して生活拠点を早く見つけたかったがこの村では見送ることを決めていた。自分の強さやスキルに資金力をこの村で測ればあまりに勿体無いからだ。この村で暮らせば依存され、感謝は嫉妬に変わり、軋轢から争いになるだろう。
村に入り広場を目指す。もう門番とは顔パスでフードもかぶる必要も無い。
「すいません。ペルセと言いますがモンスターの素材や薬草を買取してもらえませんか?」
軽自動車サイズの大きな6本足の亀が荷台を引いている魔車の前で行商人は商売をしていた。荷台は幌が張ってあり中にはいろいろなものが積んである。行商人を手伝っている2人のビーストは武器を持っているので護衛なのだろう。
「あなたがワーロックのペルセさんですか。村長から聞いています。私はこの領内を拠点に行商をしている商人のベルサル・アルヒと申します。噂をお聞きましたがまさかお会いできるとは幸運です。女神に感謝をしなければいけませんね。詳しい商談は村長の家でしましょう。」
ベルサルさんはエルフであるが、いかにも商人といった感じでとても愛想がいい。エルフは無表情で無愛想という偏見を持っていたが実際のエルフはそんなことは決してなかった。ベルサルさんは荷台にいた子供のエルフに後を任せて二人で歩き村長の家まで向う。村長に村で必要なものを売ってからの商談になるようだが、今日の本当の目的は単純な商談ではない。
村長の家で商談を済ませ、魔車まで戻ってくる。
「有益な取引をありがとうございました。ぜひとも私の商品の見ていってください。勉強させていただきますので遠慮なくおっしゃってください」
必要なものを買い込み多めに代金を手渡した。
「おつりは結構ですが少し相談に乗っていただけませんか?」
「相談ですか。どういったご相談でしょうか?私でお力になれることでしたら、ぜひとも協力させていただきますよ。」
と本題を切り出した。ベルサル・アルヒという商人は長年誠実な商売をしておりこの村で続けており、エルフが中心の中堅規模の商人ギルドに所属していることは住人に確認してある。
いきなり条件にあう商人に会えたのは幸運だ。
「実は商人に興味がありまして、私も商売を始めたいと思うのですが取引をする当てがないので、ご紹介いただきたいのです。ベルサスさんとお取引させていただくのが一番良いかもしれませが、失礼ながらもう少し規模の大きな取引をしたいのです。」
「いえいえ遠慮は要りませんよ。大きな規模といわれますとどれぐらいの量を想定しているのでしょうか?それと商品はどういったものでしょう?私も定期的にメキロ村に来ますし、私以外も来ると思いますが。失礼ながらアドバイスさせていただければハンターをしながら商人をできるほど商売は甘くありませんよ」
ハンターとはモンスター狩りを生業にし、モンスターの素材や魔石を売却して生活をしている者の総称だそうだ。俺の職業はハンターということになるらしい。
「それは重々承知しておりますし、それなりに考えておりますので。当初予定している商品はハンターですので当然モンスターの素材と魔石、薬草に森の食材になります。量に関しては日々変わりますが、ベルサスさんの魔車2台分は最低でも毎日供給可能です。現在ある在庫に関して言えば家2軒分は有ります。今後はより多くの素材が手に入る予定です。」
ベルサスは口をあけて絶句するが無視して続ける
「どなたかにお願いも出来ますが私の拠点は森の中にあり、私以外では輸送面で難しいでしょう。当然、森の中になるので魔車はつかえませんので徒歩になります。また私の拠点を人にお教えすることが出来ないためです。」
「それだけの量をあなたはどうやって手に入れているのですか?」
怒気混じり聞かれるが答えるられるわけがない
「企業秘密です。それとこのお話はご内密にお願いしますね。」
と殺気を放ちながら笑顔で答える。
「なるほど私などでには荷が重すぎる話ですな。その規模の取引をするのであれば大商会がよろしいでしょう。私の所属するギルドに領都を拠点にしている商会がございます。リーゼッヒ商会といいまして、このアレスト領では一番の規模であり、国中に商圏が有りますのでそちらがよろしいかと思います。この村から近いハロルゼの町にも支店がありますので、まずはそちらに行かれるのがよいでしょう。紹介状をすぐにしたためさせていただきます。」
といってベルサスは紹介状を書き、封をせずに渡してきた。中身を見て確認しても良いという事であろう。
中身は大丈夫であろうから、あとで不利にならないように
「封を忘れていらしゃるようですね」
「これは失礼しました。あわてましてお恥ずかしい」
「ご紹介いただきありがとうございます。これからも商人の先輩としてご指導いただければ幸いです。今後ともよろしくお願いします。」
と封筒をうけとったのである。予想以上の大物が釣れたことに期待が膨らむ。




