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1 異世界転生を決意

掲げた右手の先に見える夜空に浮かぶ星は月よりも大きく鮮やかな朱色をしていた。

立っている大地が地球ではないことを改めて実感する。

なぜ地球ではない大地に俺は立っているのか「花田博はなだ ひろし」は今日の出来事を思い出しながらしばらくの間呆然と立ち尽くしていた。

しかし真夜中の森でいつまでも立ち尽くしていることも出来ず自然と流れていた涙をぬぐい不安感に駆り立てられるように周囲を見渡し現状の確認をすることにした。


視線の先には湖があり湖畔にはまばらに木が生えているのみで草も長くはない。

月明かりではないが歩くのに困らない程度の照度のある森を歩き湖のそばまで行く。

「ここでとりあえずテントを設営して今日は寝るか。いろいろあり過ぎてもう疲れた」


背負っていた古臭いの背嚢を地面に下ろし丸められた毛布をはずす。中からテントと思われる布の塊を取り出した。ビニール製ではなく布製のテントははじめて使うがあっと言う間に設置できた。

なんせ一枚の大きめの単なる布を木の枝にかけて両側を重石で固定するだけなのだから…テントかこれ?


「まぁ雨かぜは多少は凌げるか」


テントの中に毛布を敷き包まる。寝心地は良くはないがどうしようもないので目を閉じるがなかなか眠れない。目を閉じればどうしても自分が死んだ瞬間がまぶたの裏にフラッシュバックしてくるからだ。



そう、花田博は今日一度死んでいるのだ。それも女神によって殺されて。




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厳しい暑さが毎日続くとある土曜の夜、俺は隣の県にあるスキー場に来ていた。

駐車場の片隅で俺はコーヒーを啜りながら天体望遠鏡を覗きこむ。

ここ数年は良くなったのか実感できない景気のおかげでボーナスが増えていた。その増えたボーナスで昨年は一眼レフを今年は天体望遠鏡を購入していた。


「夏と言ってもやっぱり山の上は涼しいな。今年のペルセウス座流星群はたくさん降るらしいから楽しみだな。おっとタイムラプスをセッティングするかな」


とつぶやきながら一眼レフをいじっていた。俺は30歳を過ぎて金銭的に余裕もあり趣味を謳歌している独身貴族である。


仕事は営業だが向いていたのか個人的には気を病むほどきつくはなく、同世代と比較すれば年収も確実に多いだろ。趣味の海外旅行や国内旅行は毎年に数回出かけて、高級店で数万円の食事をすることもたまにはできた。


今晩は興味はあったがこれまでなかなか出来なかった念願の天体観測にきていたのだ。買ったばかりの天体望遠鏡を使っての初観測にワクワクしていた。漆黒の夜空に時たま流れる流星群を眺めながら数時間、「綺麗だな・・・」とぼんやりと夜空を眺めていた時だった。


一際大きな流星がきらめいた。その輝きは徐々に大きくなりつつ近づいてくる。まさかここに落ちることは無いと思って見ていたが・・・まさかが現実になった。愛車に直撃した隕石の衝突で驚くほどにあっさりと俺の人生は終わった。まばたきをする時間よりも短い一瞬で。



  しかし


死んだはずだが何故は俺には意識があった。目を開きまわりを見るとそこは宇宙空間であった。モニターの中でしか見たことのない綺麗な地球を見下ろしながら状況が理解できずに呆けていると、突然女の声がして振り向いた先には彫刻芸術のようないかにも女神と言わんばかりの女性と金髪で立派な髭をなでている初老の男性が立っていた。


「申し訳ございません。わたくしのミスであなたを死なせてしまいました。心よりお詫び申し上げます。私は異世界より地球の視察に来ていた女神でキュリエリスと申します。私の不注意により地球に干渉してしまい隕石の落下と言う事態を引き起こしあなたを死なせてしまいました。本件につきましては主神様にご報告を申し上げ、お詫びと補償をすべく参りました」


と女性が丁寧に腰を折り頭を下げた。


「おいっ、どういうことだ!俺が死んだのはお前のせいなのか。どうしてくれるんだ!神様なら生き返らせてくれるんだろうな!」


理解がまったく出来ないが怒鳴りつけていた。女神の言った俺の死亡理由のせいで一瞬で頭の中で怒りが沸騰した。はっきり言って何を言われたのか、自分が何を言っているのか、何を言ったらいいのか脳の処理が追いつかずまったく分からなかった。


「申し訳ございません。」


謝罪を繰り返す女神に怒りをぶちまけながら掴みかかろうとしたところで体がないことに気がついた。そして絶句し、無言になったことで死を実感し不意に冷静になれた。

しばしの沈黙の後


「すみません。取り乱してしまいまして。補償と言われましたがどうしていただけるのでしょうか?」


と冷静になり質問をしてみた。


「その件についてはわしから説明しよう。まずはわしの部下の失態でおぬしの生命を奪ってしまったことをわしからも謝罪しよう。おぬしを元の場所に生き返らせてやることが一番なのだか生憎とわしはこの世界の神ではないので生き返らせてやることは出来ぬ。しかし、わしの世界でなら生き返らせてやることはできる。キュリエリスの管理する地でということになるがいかがであろう。そこであれば人間はおらぬが似たものたちが暮らしておるからの。」


初老の男性は神様なのか。神様の説明では生き返らせてくれるが人間はいない?地球ではない?違うっていったいどんな世界なんだ?と疑問が頭の中で浮かんでくるがあまりにも理解しがたい情報が多すぎて言葉が出ない。


「混乱しているようだから簡単に説明するが、キュリエリスの管理する地は地球とは根本的に性質が違い物理ではなく魔力により構成されておる世界じゃ。生きている生物も植物も当然違うが似てはおる。地球は人間が支配的生物じゃが、あちらはエルフ・ドワーフ・獣人ビーストなどがおり人間に近いものが暮らしておる世界じゃ。もっとも魔力によって生み出されるモンスターがおり支配的とはいいにくいのが現状ではあるがな。地球とはまったく異なる世界ではあるが文明も発達しておるから原始的な暮らしではない。また不便の少ないように補償もしようと思うておる。」


これは今までの話を聞く限り魔法のファンタジー世界じゃないだろうか。よくアニメなんかで観る世界だが、正直興味はあるな。異世界での生き返りは結構いいんじゃないか?補償が何かは分からないがいいものが引き出せたら所謂チートを持っての異世界転生じゃないか。どうせ地球で生き返れないのなら転生も悪くないな。後は条件をいかに有利にするかが問題だな。それとほかの選択しというか拒否した場合の確認はしよう。ここは営業マンの腕の見せ所だな。


「補償はいったいどのようなものでしょうか?今までお話をお伺いしたところではそちらの世界でも生き返らせていただくことも検討できますが、条件はいかがなものなのでしょうか。それともしお断りしたらどうなるのでしょうか。」


とまずは様子をみながらの質問と拒否した場合の確認だ。


「断った場合は当然死んでおるのだからこのまま消滅するだけだな。出来ればさせたくはないがこればかりはどうしようもないの。神でも出来ること出来ないことがある故な」


これで転生するしか選択肢はないな、消滅したくはないし。となるといかに有利な条件で転生するかだなと考えていると


「補償についてなのだがこれはキュリエリスへの罰も兼ねて行おうと思うておる。キュリエリスの神格を半分剥奪しておぬしのを生き返らせるための核としよう。」


「なっ」


と女神キュリエリスから悲鳴にも似た声が漏れるが神は一瞥して


「良いなキュリエリス。神格の剥奪はそやつの判断にかかわらず決定じゃ」

「承知いたしました」


とキュリエリスは頭を下げた。


「キュリエリスの神格をどのように使い生き返るかはおぬしが決めるがよい。わしの世界は魔力で構成されておると話したがキュリエリスの管理する地では徐々に魔力が過多になってきておる故、神格を有効に活用してどんどん魔力を使ってくれると幸いじゃ。かの地は徐々にバランスが不安定になってきており混乱も生じておるゆえの特別な補償じゃぞ。さて説明はここまでじゃ、このまま安寧な死を選ぶか、異なる世界ではあるが生き返るかを選んでくれたまえ。」


選択肢はない。転生しかないが補償は結局具体的な話はなく不明なままだが致し方ない。神の話しぶりや女神の反応からすると大きな補償であることは想像できる。腹をくくるしかないな。


「まだ死にたくはないので生き返らせてください」


「承った。そえではキュリエリスの神格を剥奪しおぬしを生き返らせることとしよう。神格をいかにするかはキュリエリスと相談し行うが良い。以後の事はあなたに任せますよ、キュリエリス。ではおぬしとはこれでさらばじゃ、わが世界に歓迎する。」


と神は慈愛に満ちた笑顔をのままふっと消えていった。



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